南 マキ(みなみ マキ)
声優かっ!(せいゆうかっ!)
第07巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
夏休みも仕事三昧の姫。臨場感たっぷりのバイノーラルBLCDの後遺症でまともに千里の声が聞けなくなり、アフレコでも千里の幻が現れるという困った事態に…!! そんな中迎えた登校日。集会に遅刻して眠り込んだ姫だったが、目を覚ますと何故か目の前に千里がいて!?
簡潔完結感想文
- 子供に好かれる才能とスキルを持っている姫はラブリー♡ブレザーになる準備が万端。
- 風邪回&密室回という贅沢。だが風邪回がメインで密室回のドキドキが相殺されている。
- 被害妄想爆発のイジメられっ子と自分が言われたことをドヤ顔で言う厚顔無恥ヒロイン。
表紙は内容に一切関係ありません、の 7巻。
『6巻』の表紙を『7巻』にすればいいのに、と思わざるを得ない。そして今更 学校組を表紙にしたところで活躍の機会はないんだから、悲しくなるだけ。どうも作者のやることはチグハグだ。
そんな中、作者が作中で潜ませているのは、声が絶望的に子供向け変身アニメ「ラブリー♡ブレザー」ヒロインには向かない主人公・姫(ひめ)が その精神や才能・スキルはヒロイン役に ぴったりだということ。
以前出てきた 困ってる人を助けるという信念もそうだし、自分の失敗に挫折せず成長の糧にする前向きさもヒロインそのもの。そして『7巻』では番組こそ違えど、小さい お友達向けの番組のショーを手伝うことで、姫が子供たちの心を掴む才能に長けていることが分かる。いつかヒロイン役でラブリー♡ブレザーの顔出しのショーにも しっかり対応できるという布石だろう。
このように姫には声の問題以外はラブリー♡ブレザーへの道が開かれており、未来は明るい。…が、問題は その道が しっかりと描かれないことだ。『ガラスの仮面』の「紅天女」のように目指すべき役柄があるのに、到達する過程や そこへ近づいたという実感が一切 湧かない。まだまだ男装の「シロ」としての修行中なのかもしれないが、時折 姫としての目標を顧みないと、物語がどこに向かっているのか分からなくなる。
作者は前作『S・A』がヒットしたから悠長に考えていたのかもしれないが、限られた連載のペース配分が上手いとは言えない。本書は物語の核心に入る前に力尽きた、というのが実情だろう。姫、学校の仲間、シロ、恋愛事情と色々と詰め込んだが、全部が噛み合わない。姫としての目標も行方不明だし、恋愛も なかなか始まらない。白泉社的なスローペースのために温存しているのだろうが、何も動かない物語は退屈でしかない。
そして久々の学校の描写も、同じことの繰り返しに見えるのが痛い。トラウマを乗り越えて成長するという展開は分かりやすいが、この手のトラウマは梅(うめ)・瑞希(みずき)でやっており、今回の月乃(つきの)で3回目だ。友達だと思っていた人と上手く関係を結べなかった彼らが、今度こそ同じように夢を追う人たちと手を取り合うことで それを克服し、真の友情や恋愛感情に目覚めるというのが狙いなのか。ただ恋愛はともかく、友情関係は それほど輝かしいものには描写されていない。それに学校組の仲間はリストラ状態で作品にも不可欠な存在とは言えないし。ここからの物語後半にも言えるが、トラウマを使い過ぎているし、それによりコメディ作品の雰囲気が暗くなりすぎている。
本来ヒーローである久遠 千里(くどう せんり)との距離感も難しい問題である。今回のタイトルにした通り、久遠千里(と姫も)は性格に難があるので、それをクリアするまでは お互いに まともな会話すら ままならない状態になってしまっている。ツンデレのツンが強すぎると仲良くもなれないのである。なかなか素顔で会話することもままならず恋愛の れ の字すら見えてこない。ここまでヒーローが動かないのに、定石通りなら献身的な瑞希が損をするかと思うと早くも徒労感すら湧いてくる。難攻不落のヒーローでも本書は初期のパラメーター値を間違えているような気がする。
雑にまとめると、全てが脱線に見え、本筋を見失っている迷子状態に感じられる ということだ。
シロに夏休みに色々 仕事を入れた という山田P(やまだプロデューサー)の話だったが、その1つがヒーローショーでの着ぐるみのバイトであった。シロは自分が声を担当した戦隊物のマスコットキャラの中の人になる。まだ番組が始まって3か月余り(推定)だろうに、主役の藤森 徹(ふじもり とおる)や瑞希がヒーローショーに出演している。この頃はまだ連日 テレビ本編の撮影で、ショーに出ている場合ではないと思うが。
シロは この着ぐるみバイトで『6巻』の久遠千里とのダンス試験で身につけた技を披露している。こういう相互リンクは良いですね。それに続いてシロで習得したことを姫でも活かすような場面が1回でもあれば良かったのですが。姫が声優として成長したかが見られないまま終わるのが残念。
だがシロの着ぐるみが人気になり過ぎてショー本番にも悪影響が出る。それはまるでシロに主役を奪われた姫みたいではないか…。シロの悪目立ちのせいで進行が止まったショーを機転を利かせて乗り切るのが瑞希の役目。彼は予定にないシロをショーに呼んで出演させる。
この他にも夏休み中は山田Pが取ってきた仕事が山積み。仕事に歓喜するシロだったが、悩みが一つある。それがBL(ボーイズラブ)CDの録音以降、久遠千里の声に身体が過剰反応してしまう というものだった。彼の声を聞くだけで、幻の千里が現れ、彼が耳元で囁いているような錯覚に陥る。
その幻に悩まされ、時には奇声を上げてしまうシロ。なんだか薬物中毒患者みたいだ。だが全ての現場で千里とは直接 会うことはなく、スタジオで聞こえてくる千里の声にも理性を働かせ、何とか発狂することを免れ、仕事を完遂するシロ。それにしても千里の幻に悩まされるという 他の男が出てくる悩みを瑞希に聞いてもらうという、姫のイケメン頼り姿勢は変わらないなぁ…。
だが夏休み中の登校日、遅刻した姫が資材室で仮眠をとると、その部屋には久遠千里がいて、彼と その部屋に閉じ込められてしまうというミラクルが起きる。
この漫画に細かいツッコミは無駄なのは分かるが、この場面 時間経過がおかしい。その日、姫は、AM9:00からの集会に寝坊で遅刻しAM10:20頃に学校に到着、その後 校内をさまよい、資材室で眠るのはAM11:00前だろう。そして目覚めると日が暮れていた。夏の日没はPM7:00過ぎと考えるのだ妥当だろうか。いくら疲れているからと言って寝坊の後に8時間も、座って睡眠できるものか(暑さやトイレなどの不快感もなしに)。
暗闇の中、閉じ込められてドキドキハプニング連発!とはならないのが この2人。久遠 千里は多忙のためか高熱を出し、密室回は風邪回となる。高熱&密室に閉じ込めるぐらいしないと反発して長時間一緒にいられないのだろう。2人の相性もだが、この性格と少女漫画の相性も悪すぎる。
その状況になり、姫は「朝まで こいつと…?」と2人きりなことを気にしているが、現実的には9時間以上 摂取していない食事・水分、そして排出していないトイレ事情など現実的な悩みの方が大きいだろう。
水分だけは資材室からペットボトルを2本発見し、熱で朦朧とする千里に飲ませる。高熱で弱った千里の前でなら、姫は彼への尊敬や嫌われたくないという本音が漏らせた。これ以降、なかなか素直になれない姫も素直になってくれればいいのだが。
そして千里も朦朧としながら本音を話す。千里が姫と見間違う猫・ゴンザレスが自分が一番 大好きだった猫だということを伝える。それは千里の中での最上級の好意にも思えるが、少女漫画における風邪回はリセットされることが多い。この真意は、通常状態で2人が ゆっくり話せるまでを待とう。
熱で幻を見る千里のためにも、危険を承知で姫は資材室のある2階の窓からの脱出を試みる。なんとか校外に出た姫は、インターフォン越しに警備員に千里のいる場所を伝え、彼の対処をしてもらう。(おそらく自宅で)目が覚めた千里は、自分が姫の髪ゴムを持っていることに気がつく。
小さいとはいえ この夏に仕事を数多く こなしてきたシロは早く実績や評価が欲しい。だが現場や業界内で評判になっている兆しはない。シロのことを認めてくれるのは瑞希だけ。
だが それは山田Pの策略でもあった。彼は特撮物で上がったシロの知名度が有効な間に、小さいながら仕事の数をこなさせることで現場の人間に顔を憶えてもらおうとしていた。そしてシロが天狗にならないように微妙な手綱さばきでシロをコントロールしていたのだ。この辺が彼が有能な部分なのだろう。
それにしても夏祭り回は、無邪気にイケメン男性たちに近づき、2人に賄賂を贈り、顔を憶えてもらい、二股をキープしようという内容なのか?と邪推してしまう。
そして夏休み明けの2学期は久々の学校回。主役は姫のクラスメイトの月乃。この月乃回でも、この学校の生徒は全員トラウマ持ちが入学条件なのか、と思うぐらいトラウマが出てくる。ここは梅や瑞希と同じく、才能(月乃の場合は声の質)によって周囲から疎まれるという内容なので割愛。
そして この回は月乃と梅のトラブル回でもある。ただし月乃が一方的に梅を嫌うという話で展開が強引。書いてきてもらった絵コンテを最後まで読まずに内容を判断することが そもそも間違っている。この失敗が彼女の成長の糧になるのかもしれない。そしてトラウマが被害妄想を炸裂させているのだろうが不自然さは否めない。物語も折り返し地点を過ぎた この頃に月乃が今更 梅が苦手とカミングアウトされても困る。これは もっと早い段階で処理すべき問題だったのではないか(これだと『5巻』の お泊り回が仲良しごっこに見えて残念になる)。
梅が作った内容が嫌だから やらないと月乃は告げ、それに怒った梅は 今回の「お昼の放送」の制作から降りる。そこで月乃が脚本を担当するが、思った以上に難しい。梅はアニメーターだけでなく脚本家の大変さを体現する人なのか。本書の中で一番 有能な人材なのではないだろうか。
自分の脚本の出来の酷さに月乃は姫たちに忌憚のない意見を求めるが、プロ声優として仕事を始めている姫は、内容が嫌だから出来ません と言うのはプロ失格だと彼女に告げる。姫はドヤ顔で言っているが、これは姫が千里に言われたことである。ここで姫が先輩面しているのが恥ずかしく思える。
というか、姫が既に学んだことならば月乃にまた やらせる意味が分からない。月乃と梅の友情の結束が今後の展開に必要とも思えないし。そして最後まで2つの舞台(学校とプロの現場)が結びつかないから、学校側の描写は虚しいだけだ。