南 マキ(みなみ マキ)
声優かっ!(せいゆうかっ!)
第05巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
2回目の収録で、音響監督・矢島から、少し認められた姫(シロ)。瑞希から「四神戦隊ビーストレンジャイ」のロケ見学を進められ現場に来てみると、そこにはやる気はあるが瑞希を意識し過ぎるあまり、空回り気味な藤森徹が!! 他人事に思えないシロは…!? 新展開の第5巻☆
簡潔完結感想文
- ご利益のある石を探す話は『S・A』で読みましたけど…。友達を登場させるノルマ回?
- ウソみたいだろ、ゲストキャラなんだぜ、藤森徹。まるでレギュラーのような長期出演。
- 困ってる人を助ける、厳しい言葉も糧にする、という基本姿勢が繰り返されるだけで飽きる。
作者のバランス感覚は何か変、の 5巻。
無駄に長い特撮編が収録された『5巻』。この巻の主役は藤森 徹(ふじもり とおる)というイケメン俳優。同期にデビューしたアイドル「AQUA」に人気を奪われて活躍が世間に知り渡らないという不遇な役どころ。そんな彼が『5巻』では一躍 主役に躍り出たのだが、これ以降 彼に目立った活躍は無い。どうやら彼は ヒロイン・姫(ひめ)がシロとして仕事をする この特撮編のゲストキャラらしい。これから活躍する主要キャラかと思っていたら、結局 日陰者なのが彼の不憫なところである。
この勘違いは ゲストキャラにしては彼の話が長かったのが原因だろう。『5巻』収録の5話中4話が特撮物の話。実際に作者が特撮番組の取材をしたからなのか、中身のない割りに話が続く。なんだか実質、2話で終わるような話を 何とか4話に引き延ばした印象を受ける。
藤森は憎きAQUAのメンバーの1人である瑞希(みずき)に執着するあまり失敗ばかりしてしまうキャラ。そんな彼に姫が持ち前の、困ってる人を助けるマインドを発動させるが、そこには大きな罠が…、という展開は単純に面白かった。ただ そこから姫のド根性が発動するという展開は既視感たっぷり。私怨により失敗続きの藤森も、居残り組の学校メンバーと役割が被る部分がある。その後の連帯責任など学校でやれば、という話にも感じた。そして繰り返しになるが、シロの初仕事がアニメじゃなくて特撮物という変化球の意味も いまいち分からない。どの部分も、この話が ここに配置されている意味というのが もっと明確にあればいいのだが、いまいち作者の意図が私には汲み取れない。
冒頭の ほぼ2巻以上放置された学校の仲間たちの話も、作品は彼らを見捨てていませんよエクスキューズのようにしか見えなかった。旅行をするなら この特撮物の収録が終わって一段落ついてからで良かったのではないか。特撮編が思いの他 長くなりそうだから、一呼吸置く ブリッジとして使ったのだろうが、話の流れが不自然に感じた。
まず番組が開始してすぐの特撮が すぐに休止するなんて まずないだろう。最初に畳みかけて おもちゃの宣伝をして必死に売らなければならないのに。そして山田(やまだ)Pが姫に面倒見が良すぎるのも良く分からない。バーター出演のシロ=姫の出演料なんて微々たるもんだろう。彼が なぜ交通費や別荘を用意するのかが説得力に欠ける。白泉社には珍しい登場人物だいたい庶民なので、こうでもしないと別荘に出掛けられないのだろう。しかも このエピソードは『5巻』の冒頭に収録されていて、前巻からの繋がりが一切なく、はじめは話の流れが掴めなかった。なぜ この場所に この話を用意したのだろう。作者の意図が分からない。
参加メンバーは久々の登場の学校仲間の居残り組4人+梅(うめ)。彼らは登場したけれど、学校という舞台を放棄して各地を放浪する運命は前作『S・A』を連想させる。
5人は この地で開催されているスタンプラリーを攻略して願いが叶う石を もらうことをイベントとする。これと ほぼ同じ内容『S・A』の『11巻』で読んだなぁ と既視感しかなかった。学校のメンバーは こういうイベントでしか使えないのだろうか。彼らが一歩ずつレベルアップすることで声優志望の若者が本物の声優になる努力と苦難が描けるのに。声優が本業ではないアイドル・瑞希と、声優として地位を固めている千里(せんり)では描けないエピソードが いっぱいあっただろうに、最初に出来た仲間は捨てられる。それはまるでレギュラー化と思いきやゲストだった藤森 徹のようである。
申し訳程度に学校メンバーを出した後は、またシロの特撮物番組の収録風景に戻る。まずシロ=姫は瑞希に誘われて俳優やスーツアクターが撮影する現場に向かう(取材の成果を出したいのだろうか)。
だが実写パートで主演の藤森 徹は、デビューが同期で今回の共演者である瑞希を嫌うあまり、彼より目立とうと、悪目立ちして失敗してしまう。スタッフから自分の活躍が瑞希の陰に隠れてしまう藤森の実情を聞かされた姫は、彼を自分と同一視して同情的になる。だから彼の失敗をフォローするために優しい言葉をかける。だが男装していて外見がヒロインじゃないからか、藤森には姫の優しさが通用しない。彼から反感を買ってしまうが、そこへ瑞希が姫を守るために駆けつける。
そんな時、役の上で藤森が瑞希を好きだと言わなくては いけなくなる。どうやら藤森には死んでも口にしたくない言葉らしい(単純にプロ失格だと思うが)。そこで躓く藤森は、最初のアフレコ時のシロのように別撮りを命じられる。シロは彼が完遂するところまで見届けようとスタジオに残り、藤森と一緒に練習を重ねる。
その中で藤森はシロの仕事に懸ける情熱と前向きさを知り、少なくともシロは認め始める。そうして先週で初めて台詞を通して言えた時、2人は抱き合って喜び合う。だが それが瑞希が目撃してしまい、彼の気持ちに影を落とす。
戦隊物は仲間たちとの絆が増すと、彼らの台詞も親密になる。それが嫌で駄々をこねる藤森に困惑したスタッフから瑞希と藤森の仲介を頼まれたシロ。困ってる人を助けるのは、姫が信じるラブリー♡ブレザー教の教えそのもの。それにシロ自身は苦手を克服し、信頼を勝ち取ると台詞が増えたという実例が出来ていた。
彼の失敗に声を掛けたり、手を繋いで収録したり、友達以上のフォローを見せる。『4巻』の千里とのスキンシップといい、シロになった姫は距離感がバグっているのだろうか。
シロの仲介の後、藤森の前に瑞希が登場する。ここで2人は腹を割って話し、瑞希は彼の事情でシロにも迷惑をかけている藤森に対する嫌悪を隠さない。高熱でもないのに瑞希が ここまで感情を出すのは同期に喝を入れたいからか、それともシロが大事だからか。
その後 再会されたアフレコだがシロは藤森の様子が気になって仕方がない。だが最終的に注意されたのはシロの仕事に対する浮ついた姿勢だった。他人を助けたいという強い思いで自分のことを疎かにしていた恥ずかしさに気づいたシロは失敗を挽回しようと現場を取り仕切る音響監督に頭を下げる。
そして藤森も瑞希も一緒に頭を下げ、監督を納得させる完璧な演技をすることと引き換えに この場は収められる。瑞希が過保護という要因もあるが、シロは かなり頑張っているのに、最後に男性(イケメン限定)にフォローされるという構図になるのが いまいち腑に落ちない。これも現場で生まれる絆の一つなのだろうけど、男装しているからこそ女としての無意識の媚びが浮かび上がっているような気がする。私が ひねくれて考えすぎか…?
ラストで藤森がシロのことを好きになるのも男装する漫画の お約束ではあるが、結局 逆ハーレム漫画なのかな、と白ける部分でもある。ヒロインの心の美しさは外見に関係なく男性に刺さるのだろうが、それはシロが男性になり切れていないという証拠にも見える。つまりは演技力の欠如で、女性性が滲み出てはいまいか。
その後、スポ根モノみたいに、目を輝かせながら千本ノックを受けてシロは成長する。ただ、良い声に対するゾクゾクという表現もそうだが、成長の描き方が同じで、表現に幅がない。姫の この性格だから底辺から成長できる余地が生まれるんだろうけど、試練も克服の方法も毎回 同じことの繰り返しのように見える。