《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

夏休みに帰省した地元で、自分が この土地を離れたかった理由を息苦しさと共に再確認する。

あつもりくんのお嫁さん(←未定)(4) (デザートコミックス)
タアモ
あつもりくんのお嫁さん(←未定)(あつもりくんのおよめさん(←みてい))
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

今度はちゃんと頑張るからね。
敦盛を追いかけ東京へやってきた錦は、仮の彼女期間を経て敦盛と本当のカレカノになる。そんななか、地元の許婚・宝くんも上京し、「錦が好きだ」と敦盛に宣戦布告! 宝くんの登場により、”好き”という気持ちがわからなかった敦盛にも変化があり、初めての感情に戸惑いながらも敦盛と錦の距離はどんどん縮まって…! 一方、宝くんへの片想いを頑張ると決めたかのちゃんだったけど、錦を想う宝くんの姿に、かのちゃんの心境は複雑で…!?

簡潔完結感想文

  • お泊り回@敦盛宅。不機嫌な彼の態度で すれ違いからの胸キュンという お手本展開。
  • 夏休みは遠距離恋愛期間。地元に戻ると上京以前の息苦しさが再発。そこにヒーロー!
  • お泊り回@錦実家。敦盛の誠実さが錦の周囲の人々に影響を与えて、未来を切り拓く。

1人では無理なことも、真の恋人となった2人でなら無敵、の 4巻。

いよいよ「好き」という感情を理解し、それを錦(にしき)に伝えた殿様・敦盛(あつもり)。これまでも十分 甘い物語だったが、本当に恋人になったことで一層 甘さが際立っているように思う。ヒロインに都合の良いだけのストレスフリーの少女漫画作品ならば ここからダラダラと甘いシロップ漬けの毎日を描くところだが、本書は最初から結婚という目標が存在する。そして当初は自分たちの境遇から逃避するためのパッケージとして用意されていた結婚というシステムだが、2人は互いを大事に想うようになり、結婚が その人と一緒に幸せになるための手段であることを理解し始める。

そこが丁度 物語の折り返し地点を迎えて変化した点である。真の意味で交際していなかった前半では錦の親友・かの に誤解されてしまったし、仮交際で中身が伴っていなかったから敦盛の家族からの問いに窮してしまった。そして『4巻』では錦1人では言葉が届かなかった彼女の頑固な父親だったが、敦盛が登場し、2人が並ぶと その言葉が少しずつ父親の内面に反響していく。このように本当に想い合う2人の姿は周囲から認められるだけのパワーを秘めている。同じ未来を見つめ、そこを目指し一緒に努力し、歩んで行こうとする2人だから、彼らの周囲の世界を一新していく。ここでは錦1人では失敗して地元の息苦しさを再確認した描写があるから、敦盛登場後との違いが際立つ。そして敦盛が万能だということではなく、敦盛にとっても錦が、錦にとって敦盛がいるからこそ、2人は前に進めるということが再確認されている。
そしてラストでは敦盛側の家族、特に前回の会食(『2巻』)では登場しなった敦盛の父親との対峙が予告される。あの敦盛から希望を奪うような存在である父親との対話は これまで以上に難しいだろう。だが2人は高校生ながら早くも人生の困難に対して2人で成長していく力を持っている。あの敦盛も1人では対峙しようと思わない父親だが、今は錦がいる。彼女と2人ならば これまで出来なかったことが出来そうな気になるのだ。

そして『4巻』でも そうだったが、彼らは若者の欠点である拙速さで判断を誤らないだろうと思われる。そのための結婚という長期的な目標だろう。今すぐ交際を認めて欲しい、結婚がしたい、ではなく、自分たちの生き方を選びたいという切なる願いの先に2人で一緒に人生を歩くという目標がある。結婚は それを実現するシステムである。例え即席では成績が飛躍的に上がらなくても、上がっているという現状を肯定し、長い目で目標を達成する。そういう視点を敦盛が錦に教えてくれているのも印象的だった。

本書にあるのは甘いだけの日々ではない。時には苦汁を舐めることを理解しながらも、目標に向かう2人の弛まぬ努力の物語と言えよう。初めて好きという気持ちを表現できる この恋愛を自己肯定感・存在理由に変換することが2人の原動力となる。1人では出来なかったことだけど、2人なら出来るという実例が『4巻』の錦の実家で描かれていた。そういう地に足の着いた描写があるから充実した内容を感じられるのだろう。ただ甘いだけではないのだ。


京に来て、自分の唯一の存在価値だと思っていた勉強が芳しくないことに落ち込んでいた錦だが、敦盛からの「好き」という言葉が自己肯定感を復活させてくれた。だからと言って恋愛に入り浸って勉強を放棄するのではないのが、本書の良い所。錦はその自信を勉強へのエネルギーに変えている。

敦盛も ずっと錦に魔法にかけられている状態で、彼女の作る お弁当が美味し過ぎて感激する。敦盛が魔法にかかっていることを錦は認識しないが(そこが良い)、敦盛は錦に対して許すことが多くなった。その1つが膝枕。そして錦に自分の家の合鍵も渡す。これは錦と一緒にいる時間を少しでも長くするため(一緒に勉強するためだが…)。錦は ずっと敦盛と一緒にいるため、改めて医学部を目指す。彼の後ろをついていくのではなく、横に並んで一緒に歩く、というのが錦のスタイル。


の日、錦の地元に帰っている祖父が帰れなくなったため、急遽、敦盛の家で お泊り回となる。夕食は敦盛が作り、そして錦もまた敦盛の手作り料理を天上の味だと感じるのが面白い。二重の意味で ご馳走様である。

だが夕食時も距離を取って食事をするし(2023年に読むとソーシャルディスタンス時代を思い出す)、その前後から彼の反応が鈍い。敦盛の過去の飼い犬の名前を聞いても強く拒絶する。
だから錦は2人で公園で花火をしても楽しくない。だが花火も終盤になって敦盛が突然 飼い犬の名前を教える。それが「イタチ」。それは初対面の時から敦盛が錦を読んでいた名前だ。自分に大事な子の名前がついていることを知り錦は感激する。そして敦盛の不機嫌にも見える態度の訳が彼の口から明かされる。緊張、歓喜、楽しさ、そして それとは反対の泣きそうな予感。感情のジェットコースターに敦盛は振り回されていたらしい。そして錦が自分の価値観を人生観を変えたと言ってくれる。


の夜、錦は敦盛のベッド、敦盛はリビングのソファーで寝る。敦盛のベッドで興奮が冷めない錦は眠れない。そこに敦盛が部屋に入ってきて、錦の頬に触れて、そして出ていく。

朝食は2人で向かい合って食べる。高所恐怖症の錦のためにカーテンは閉めたまま。カーテンを開けたら どんな光景が見えるのだろうか。そこから敦盛の家の大体の場所が判明できそうな気がする(粘着質)。
会話の流れが錦は敦盛が部屋に入って来た時、寝ていなかったことを白状するが、敦盛は何回目まで起きてた?と珍しく墓穴を掘る。どうやら何度も錦の存在を確認しに行ったらしい。

序盤から割と赤面していた敦盛だが、目の前で赤面し、動揺するのは2人の距離感の縮まった証拠か。

錦は中間テストよりは良い結果を期末テストで出す。だが敦盛に並ぶような大きな目標には届かない。それで落ち込む錦だったが、敦盛は現実的に励まし、そして彼女の努力を認める。迫る夏休みには、錦は実家に帰省する予定。敦盛も1日は錦に会いに行くと言ってくれるが、受験生である彼を思って錦は遠慮する。会えない前に2人はきつく抱き合って充電する。


家に帰った錦は早速 医学部の夢を伝える。だが父親は その夢を否定し、自分の願望を押しつける。家を出ていく前と変わらない現実が そこにはあった。だが その呪いに対し、錦はしっかりと反論する。親に対して言い過ぎたと反省する錦だが、子供の存在否定は立派な虐待であろう。

そんな錦を励ますのは敦盛からの連絡。彼も彼なりに寂しさを紛らわせているシュールな写真が届き、錦の心は軽くなる。自分の味方が一人でもいてくれることは生きる理由になる。

別日も父親との議論は平行線。その話を相談するのは地元の友達・かの。そして錦の許婚の宝(たから)も帰省しており、3人で花火大会を見に行く。錦の中では「友達」になれた宝だから、自分以外の2人の恋を応援したいのだが、宝、そして かの の中では彼らの三角関係は継続している。

3人で並んで花火を見ている時、宝が 許婚でなくても錦が一番大切だと言う。その言葉をさらりとかわす錦だったが、かの が傷ついたと案じる。実際、かの は帰ると言い出す。錦も同調するが、かの は彼女を残そうとする。『3巻』でも書いた通り、かの には信用の置けない敦盛より、信頼と実績の宝を推すことで安心したいという友情もあるだろう。

結局、錦と2人で花火大会を後にする かの。あのまま あの場にいたら泣いてしまう自分を自覚したから帰ると言ったようだ。かの を気遣う錦の配慮を自覚するから かの は より みじめに なってしまうという悪循環が生じる。恋愛の勝者と敗者がクッキリしており、無意識ではあるものの勝者になった錦は敗者の かの に対する態度が難しい。本来は かの の家で お泊りするはずだったのに、今の2人には そんな気持ちにはなれず、バラバラの家に帰る。こんな状況になるのが嫌だったから錦は上京し、地元や未練・しがらみ を捨てたはずだ。だが現実は どこまでも錦を追って来る。

花火大会は宝も一緒と知った瞬間から敦盛は行動を開始したのだろう。召喚は意外とチョロい(笑)?

元に帰って再び八方塞り、降り出した雨に打たれる錦を待っていたのは、東京から駆け付けた敦盛だった。その動機は、単純に花火が見たかったのかもしれない、錦に会いたかったのかもしれない、宝への対抗意識という暗い感情かもしれない。でも錦には会いに来てくれた状況と、彼が自分を想ってくれた現実が救いとなる。

敦盛は錦の家に お邪魔し、帰る手段のない敦盛は錦の家に宿泊することに。『4巻』では互いの家に泊まっていることになる。2人の距離が一層 近くなったことで生まれるシチュエーションだろう。

ただし錦の父親は不機嫌。錦から父との状況を聞いた敦盛は自分から父親に話をすると言ってくれた。敦盛がいれば錦は無敵になれる。それは本書で繰り返し描かれてきたことだ。
そして両親の前で敦盛と錦は2人の交際を話す。そして錦は敦盛と人生を進むことを考えていることを父親に伝える。それは錦がずっと呑み込んできた自分の希望を父親に伝えるということだった。


が父親は反対する。彼もまた敦盛の家族と同じで、高校時代の恋愛は許すが、親の望む生き方が苦労がないという考えだった。だが敦盛は諦めることは出来ないと、錦を守ることを父に誓う。向かい合う家族こそ違うが、これは『2巻』の会食の再現だろう。今度こそ自分たちの意見と覚悟をちゃんと伝えられたのが彼らの変化と成長に感じられる。父親も覚悟を感じたようだが、一方的に話を切り上げてしまう。

父親の背景としては自分が両親を早く亡くしているから娘に自分の思う幸せを与えたい。そして宝も両親を亡くしているため どうしても自分と重ねてしまうということが、妻である錦の母親から語られる。父親は自分の人生について親と語らうことも出来なかったし、きっと苦労したであろう その人生には選択肢も少なかったのだろう。だから自分の経験を踏まえて最大限 娘に出来ることをしようとする。それが強制になっているのが残念な所だが、娘を大事に思うからこその行動なのは何となく分かる。

敦盛は駆け落ちなど拙速な行動には出ない。長期戦になるのは覚悟しているから自分の想いを伝えるのは第一歩だと考えている。そして敦盛は楽観的なところ、もしくは不遜なところがあるから、わかってもらえる日は来ると信じている。こうやって焦らずに悠然としているのは御曹司ならではだろうか。恋に溺れたり、浮ついたところのない点が、言葉より雄弁に彼の本質を語っていくように思う。

翌朝、家を辞去する際にも、父親に自分の主張をしっかり伝えてから帰る。その態度で父親も一歩 譲歩したような態度になる。


盛を空港まで送るのは宝の役割。かの も同乗し4人でドライブとなる。錦は かの が自分を避けずにいてくれることに感謝する。

宝の提案で寄り道をした際、敦盛は かの と2人での会話を所望する。そこで敦盛は宝の引っ越し作業の際に錦を「好き」かどうかわからないという発言を撤回する。そして自分が確かに錦のことが好きであることを かの に伝える。
かの は錦同様、錦の中に宝への恋心が潜んでいることに気づいていた。だがジレンマに陥った2人は それぞれに その気持ちを封印し続けた。だが敦盛と出会って錦は好きという気持ちを初めて自分に許した。その錦を大切にして欲しいと かの は敦盛に伝える。そうして かの の中の わだかまり が解け、彼女は本当に宝への気持ちを自分に許すだろう。今度こそ彼女の変化が訪れると思う。

その後、2人で話した錦と敦盛。ここでは敦盛側の錦との出会い、変化、彼女がもたらしたものの大きさが語られる。その全部を受け止めて、錦は自分が彼と結婚したい、のではなく、結婚して彼と幸せになりたいと思うようになる。自分の現状から逃げるために利用した敦盛との結婚というパッケージだが、今度は普通に、出会ったことが嬉しくて、一緒に幸せになりたくて結婚を目指す。

敦盛にとっての錦の存在の大きさが しっかりと語られており、それをちゃんと錦に伝えているのが良い。敦盛はツンデレというよりは恋について語るべき言葉や感情を持たなかっただけだと思われるが、錦やクラスメイト・蓮人(れんと)に自分の気持ちをしっかりと表現できている。錦とは違う方向性で敦盛は人間的に多くのことを学び成長していることが分かる。