《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

失恋覚悟で告白する勇気ある者たちに比べ、600ページほど何もしないヒロインに幻滅。

世界でいちばん大嫌い完全版 3 (花とゆめCOMICSスペシャル)
日高 万里(ひだか ばんり)
世界でいちばん大嫌い(せかいでいちばんだいきらい)
第03巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

未来の夢を「美容師」と決めた万葉!一方、扇子は真紀へ抱えていた想いを告げる…。クリスマス、バレンタイン、そして感激の結婚式☆ 真紀から万葉への初めてのプレゼントは…!? 万葉、真紀、本庄新、そして新の同級生・美遥(みはる)…皆の恋する気持ちが交錯するドキドキの第3巻☆
大ヒット★LOVEロマンス、雑誌掲載時のカラー扉絵を全点収録した完全版!「日高万里の日常天国。」、4コマ「せかキラ迷作劇場」、雑誌掲載時の空きスペースなど描き下ろしも充実★ 2012年3月刊。

簡潔完結感想文

  • 自分たちの恋愛感情で傷ついている人がいるけど、それはそれで、なぜか告白しない。
  • 捨てる神あれば拾う神ありで、失恋をしても次の相手がすぐに目の前にいる優しい世界。
  • ヒーローは今巻の20%も登場していない。サブキャラの恋愛譚に作品が乗っ取られ気味。

の前のことだけでタスクオーバーというヒロインの処理能力の低さが露呈する 3巻。

凄い。『2巻』に引き続き、『3巻』も読まなくても主役カップルの恋愛的には何も問題がない…。ヒロインの万葉(かずは)もヒーローの真紀(まき)も一体 何を優先しているのかが全く分からない。真紀に関しては謎の多忙さで、交際していない内から まるで交際後の遠距離恋愛のような試練が始まっている。登場シーンも少なく、印象に残るような言動もしない。恋愛の決着をつけさせまいとする作者によって、真紀は左遷状態になってしまう。
せめて告白はしなくてもいいから、2人の距離が縮まっているという確実な変化が欲しかった。それもなく ずっと2人の心の距離が変わらないまま何も起きない描写を見続けるのは辛い。

動かない主役カップルの代わりに動くのが周囲の人物。この完全版『3巻』の7割ほどは彼らの働きによってカバーされている。そして例え望みがなくても告白する彼らの態度は潔かった。それは反対に望みがあるのに告白しない愚鈍な万葉を目立たせる結果となるのが皮肉である。本当に この主役カップルは どこを好きになればいいのか分からない。

『3巻』の後半は新(あらた)という万葉より1学年上の男性キャラによって占められる。万葉の親友・扇子(せんこ)ならともかく、作中で番外編が200ページほど占拠する状態を私は正常だと思わない。自分のキャラには幸せになってもらいたいという、若き作者の親心なのかもしれないが、サブキャラの幸せよりも本筋を進めてもらいたい。これは物語後半の扇子の恋にも言える。本書は単行本にして全13冊の長編ではあるが、実際は単行本にして1冊は新の話だし、扇子編も2冊ぐらいあるだろう。巻数は立派な長編だが、その内容が充実しているかといえば別。脇道を拡張するよりも、本道をしっかり整備して骨のある物語にして欲しい。でないと熱心なファン以外ついてこなくなってしまう。

キャラと乗りだけで話を進めている気がする。そして これ以降は白泉社お得意の、ヒーローのトラウマ・家族問題へと移行していく。せめてトラウマと恋愛解禁が連動してくれることを祈るばかりだ。

扇子も失恋し、新の告白も断り、両想いへの障害は もう何もないように思われるが、2人は動かない…。

子はキッパリと真紀に失恋する。その扇子の前に現れるのは徹(とおる)。大人の男性は失恋した彼女を慰めることで、彼女の心の天秤を自分に傾ける、これは真紀も使っていた手ですね。20代男性の狡猾さが私は気になるなぁ(特に最初から恋愛感情があった真紀は悪質に思える)。失恋した人には必ず受け皿があるのが本書の優しい所である。

この後は扇子の心の動きも追うことで、動きの少ない万葉&真紀をフォローする形で作品を盛り上げる。
扇子と徹も、万葉と真紀同様に、ちょっと強引な20代男性の手法に、10代の少女が振り回されていく形式になる。こういうのが読者少女たちの願望で、作者も好きな恋愛のカタチなのだろうか。その人に惹かれていく経緯が親友2人で同じなのは良いとして、真紀の上位互換のような立ち位置に徹がいるので、真紀の存在感が完全に消える。ヒーローよりも人気のある男性キャラなんて作るべきではないだろう。

扇子は自分がフラれたことを万葉には話さない。この心の動きが分からないなぁ。不利な状況でも正々堂々戦ったのだから、親友である万葉に伝えてもいいと思うのだが。本書では多感すぎる10代の女性の心が理解できない部分が多い。

ただ色々な気持ちを解放した扇子が、真紀への想いから万葉への友情に重きを置き、扇子は真紀をからかい、イジメていく様子には笑った。


子をフッた真紀もセンチメンタルな気持ちになり、無理をして万葉に会う時間を捻出する。そこで真紀は万葉にクリスマスプレゼントを渡す。それは赤い石のピアス。万葉がピアスをしていないのを承知で真紀は渡した。少女漫画におけるアクセサリは愛の象徴。これが万葉の耳に付けられる日は いつなのだろうか。

その後、万葉は真紀から扇子との間であったことを聞く。これで万葉の心理的な障害も一切なくなり、告白しても両想いになっても問題ないのだが、それをしない。両想いにならない理由もないのに引き延ばした この時点から、両想いになるまで本書は虚無の期間が続く。読者は何をモチベーションにすればいいのでしょうか。熱心なファンなら この作品世界が継続するのが嬉しいのだろうが、作品として無駄の多さは、冷静な読者から見れば作品の欠点にしかならない。


人の日(1999年発表の本書では1月15日に固定されている)万葉と扇子は、サプライズで保育士・水嶋(みずしま)先生の結婚式に参列する。万葉は憧れの人の結婚を見送り、これで完全に真紀との恋に専念できるのだが、全く動かない。
ここでは徹の母と扇子との出会いが見物か。少女漫画において女性と、彼の親との対面は結婚を意味する。この結婚式で2人の運命は決定づけられたのかも。

イベントやサブキャラの失恋と新しい恋で話を延長するが、読者が読みたいのはサブストーリーではない。

結婚式の次は、季節イベント・バレンタインデー。ここでは万葉に想いを寄せる徹の弟・新の失恋と、受け皿が語られる。別の人が話を引っ張ってくれている間は、万葉と真紀は何もしなくてもいい時期なので、会うことすら ままならない。
高校生と社会人の恋だから時間の確保が難しいのは分かるが、じゃあ序盤は どうして あんなにも会えていたのかという矛盾が生まれる。序盤でストーカーのように周囲にいたのに、実は距離が遠いとか忙しいとか言われても説得力がない。もう少し序盤の真紀の努力を詳細に描いても良かったかもしれない。
万葉と同じように読者も目の前で起きていることに夢中になってくれるから それで許されているが、全体を俯瞰した時に、このメインの2人の何も起こらなさは異常である。当時の読者は これを退屈だとは思わなかったのだろうか。私は眠気を覚えてしまった。


葉のバイト帰りにいつも彼女を送っていた新が遂に万葉に告白する。それに対し困惑の表情を浮かべる万葉を見て、新は告白をしたことを詫びる。表情一つで断ることもしないで良いなんて、万葉に優しい世界だ。
そして告白して後悔が募る新は、自分の周囲にいつも1人の女性の声があったことに気づく…。失恋は新しい恋の始まり、は本書のルールだろうか。

万葉も初めて気持ちに応えられない告白をして反省する。こうして いつものように万葉が落ち込む。いつも何かに頭を抱え、それを真紀との恋が進展しない言い訳にしている。その一方で、扇子に続き、新も傷つけていることを自覚しながら、真紀との関係もハッキリさせない意味が分からない。

久々の真紀との交流で万葉は新に向かい合う勇気を貰って、彼の告白の返事をする(そういう流れ自体が新を傷つける気もするが)。どうやら女性が「世界でいちばん大嫌い」と思った人は、いずれ大好きな人になるが、男性の場合は、想いは成就しないらしい。万葉は新を、男友達の中で一番気の合う奴と位置付けて、新に納得してもらう。

こうして当て馬としての役目を終えた新は、高校3年生で、学校を卒業。そして同時に物語から退出していく。就職のために この町を出るためだが、これは器用じゃない万葉のためなのか。一番の男友達であっても、新がいると真紀との関係に罪悪感を持つ。だから新は追放されるのだろうか…?


うして主役たちの周囲の恋が終わっていく。
万葉は新年度が始まる前に真紀に これまでの感謝を込めてプレゼントを贈ることにする。弟の千鶴(ちづる)と一緒に買い物に出かけ、彼がピアスを見ていたことから、真紀へのプレゼントも それに決める。

この買い物では後に登場する新キャラが2人出てくる。1人は千鶴関連で彼の友人になる同級生。そして もう1人は万葉、いや それ以上に真紀に関係する人物だった。

そして万葉は高校3年生になる。学校で年度が替わるのは新キャラが登場する絶好の機会である。今回は、講師として万葉の学校に 杉本 沙紀(すぎもと さき)が登場する。真紀と同じ杉本姓で、同じ漢字の入る この男性の正体は、と深読みする万葉だったが、真紀と沙紀の誕生日は1か月違いで、兄弟説は見送られる。

ここから長く暗い割に実りが少ない、白泉社名物トラウマ編が始まる。れ、恋愛は…⁉