《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

主役カップルが お互いの親友に人気を奪われ、添え物状態。成就した恋愛は誰も興味なし!?

世界でいちばん大嫌い完全版 6 (花とゆめCOMICSスペシャル)
日高 万里(ひだか ばんり)
世界でいちばん大嫌い(せかいでいちばんだいきらい)
第06巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

ショーが無事終了♥ 準備に追われるハードな日々から解放されて、脱力気味の万葉(かずは)たち。そんな中、真紀(まき)の父親からかかってきた一本の電話が波乱を呼び…⁉ 一方、相変わらずの扇子(せんこ)と徹(とおる)。本心を言わない徹に扇子は大混乱! 二人の恋に進展はあるのか? 目が離せない第6巻♥

簡潔完結感想文

  • 両想いとなったトラウマ編が終わって、意思疎通が再び困難になる万葉たち…(嘆息)。
  • 3か月限定の遠距離恋愛はドラマ性と今後の準備のために必要。だけど既視感たっぷり。
  • 多忙を理由に音信不通の真紀より、多少 強引でも彼女のために動く徹が圧勝なのは必定。

定した恋愛模様に女性読者は興味がなく、最新恋愛だけが注目される 6巻。

『5巻』でヒーロー・真紀(まき)のトラウマ編が終わり、ここからヒロイン・万葉(かずは)との幸福な交際が見られるのかと思ったら、むしろ交際前のような互いに連絡を取れない日々が始まる。
というのも、ただでさえ車で1時間の距離に住んでいて会うことも難しい2人が、今回から遠距離恋愛になったから。これにはガッカリした。1つは幸福な交際編が少しも見られなかったこと。『5巻』が終わったと思ったら、過去の回想と、そして真紀が遠距離恋愛の可能性を黙って、その様子を万葉が 訝しむという不安な描写がすぐ始まってしまった。これでは両想い前の描写と何も変わらず、互いに相手が何を思っているのか探り合いが続いているだけである。

何の具体性も無い、思わせぶりな台詞。なら言わなきゃいいのに、と思う私は性格が悪い。

この遠距離恋愛には意味があるのは分かる。真紀が以前 働いていた店に戻ることで、この2年強における真紀の変化を分かりやすく表現するのと、真紀が密かに計画していることの準備期間なのだろう。皆が幸福になるための すれ違いなのは分かるのだが、幸福な余韻に浸る間もなく、全てをリセットしたような元通りのディスコミュニケーションには辟易した。感情移入すれば この恋愛は いつもハラハラできるのだろうが、私には成長のない2人に見えてしまう。トラウマが無くなっても、交際しても真紀には、10代の万葉を最優先にするという部分が見えない。真紀が親友・徹(とおる)に その人気を奪われるのも当然のように思う。強引であっても、徹はいつも扇子(せんこ)のことを考え、彼女のために実際に行動し、彼女の傍にいてくれる。これは遠距離恋愛を否定しているのではなく、心の持ち様の問題だ。真紀は仕事と かこつけて、余裕が無さすぎる。この辺が真紀が何も成長していないように思えてしまう。


長の無さといえば万葉も酷いような気がする。何と言っても彼女の問題は就職問題を棚上げし続けていることだろう。結論から言うと、これは彼女の密かな願望を真紀が叶える、というサプライズ的な展開にするための意図的な先延ばしなのだが、そうであっても万葉の無計画は目に余る。最初に就職しようと思ったのは現在のアルバイト先である徹の実家。だが店長である徹の母から真紀に その話をするようにと言われるが、しないまま。これもサプライズのためだろう。

だが、ここまで彼女が真剣に自分の人生を考えないことは万葉への好感度を下げるばかりとなる。美容師は大変だなどと口では言うものの、その一歩目を踏み出せないままなのに、万葉は放置。しっかり者の長女で、大局的な視点を持っているのかと思いきや、流されるまま、というか何も具体的な行動に出ないまま周囲の助けで生きている。美容師を、仕事を なめているのではないかと思ってしまうモラトリアムである。

万葉に精神的な成長や、自分の足で人生を切り拓く心構えがないから、いくらハッピーエンドになっても それを手放しで喜べなくなってしまう。外見からの偏見かもしれないが、万葉が男性に寄り掛かって依存して生きていくのは何か違和感がある。真紀が頑張っているから自分も頑張ろう、とは思ってくれない。

この辺は20世紀の女性の価値観といったところだろうか。少女漫画の強引な部分として結婚させておけば文句はないだろうという力技が見える。でも このままでは万葉は幼いまま結婚することになってしまう。最終巻を前にして、恋愛が安定している時に万葉の成長を描いておくべきだったのではないか。

もはや この頃になると初期に出てきた万葉の家庭内の事情や、弟妹の存在は無いにも等しい。すぐ下の弟・千鶴(ちづる)のことは出てくるが、彼の人生の行く末は本書では分からないからストレスになる。初期には よく登場していた友人・麻子(あさこ)も出番は激減するし、多すぎる登場人物を作品世界で動かせていない。新キャラ追加で登場人物が増えることはよくある白泉社漫画だが、あれだけいた人物が減り続け、スッキリした世界になっていく。人口密度の高さが面白かったのに過疎化して寂しさが出てしまっている。当初の世界観の維持が出来なかったのだろうか。


紀のトラウマを解消という大きなイベントが終わるが、真紀の参加したショーを見た彼の父親・紀一(きいち)は、真紀に かつての仕事先に戻らないか、と提案する。

だが2人は直接、その話をしない。この人たちが抱える問題を即座に共有したことは あっただろうか。いつも人づて(主に徹)で互いの問題を聞いて、ようやく解決に動くというのがパターンになっている。人気の面でも人格の面でも徹が真紀の上位存在となるのは当たり前か。真紀は25歳にもなって、10代の子に向き合うのが怖いらしい。

真紀に遠距離恋愛になることを聞かされた万葉は、彼に自分の気持ちを表明しないことが、自分も彼も後悔がないと思っていた。だが改めて美容師という仕事を考えた時、常に流行を追い続け、自分の中で向上心を持たなければいけない仕事だと思い返す。今回の遠距離恋愛も真紀にとっては大事な成長の時期と万葉は考え、真紀の背中を押す。

今以上に別れて暮らすことになるが、真紀は何か計画していることがあるらしい。ただ それは今は まだ言えない。いつか話すから その時まで あたしのこと 信じて待っててくれる?という非常に抽象的で、かえって相手を不安にさせる言葉を使う。真紀に大人の余裕を一切感じない。仕事以外ダメ人間というのは父と同じではないか。


して あっという間に東京に行く真紀。父の店には3か月だけの在籍だという。確かに長いが これまでも連絡せずにウジウジと暮らしていた2人だから、あまり絶望感がないように思える。

この店では、偉大な父の息子というだけで色眼鏡に見られるうえ、周囲と同調しないような真紀には反発も大きい。

ここでの「大嫌い」は、2年前の真紀の在籍時から彼のことを嫌っている神谷(かみや)という男性との関係にある。水と油のように合わない人たちが、2年前とは違う関係を築くことによって真紀の変化が描かれるのであろう。これは万葉における森高(もりたか)に近い。しかし私は父・紀一が とにかく不快で、何を発言しても、お前が言うな状態だし、沙紀(さき)編以上に楽しくない。

万葉とは離れるが、真紀に余裕が生まれることで、真紀の人生にとって万葉が どんなに大事な人なのかという神格化がされていく。トラウマを見事 解消した功績のあるヒロインは作品で最強の存在になるのだ。


が真紀は遠距離になってから万葉に連絡を入れない。忙しい、または自分に不都合な場合は連絡を入れないのが真紀。気軽に連絡が取れない時代の話なんだろうけど、同じことを繰り返す真紀には幻滅だ。

ちなみに真紀は実家に住んでおり、両親と同居している。真紀は父親を嫌っている訳ではないので、家に戻るのも当然なのかもしれないが、近くにいて欲しくない。他の異母兄たちからすれば、真紀だけが本当の母親が健在で、両親と同居するなど、20歳を超えて またこじらせてしまいそうな境遇だ。なんだか真紀が ただ恵まれた「ぼんぼん」に見えてくる。本当に不幸なのは2人の兄なんだし。うーん。

ラストに真紀は、万葉を冬休みに こちらに呼ぶ口実を作る。そして その計画を知らせるため、万葉に会いに行く。その内容は、万葉にモデル役を頼み、真紀がヘアメイク、カメラマンである母・カレンが写真撮影するという。真紀の作品に参加することを嬉しく思う万葉。この春からの進路が白紙だけど、高校3年生の冬休みは彼氏と遊んじゃうんだッ☆


『6巻』後半は かなりの割合で、扇子と徹の話がメイン。万葉たちの恋愛は比較的安定しているし、遠距離恋愛で動きがないから、彼らで作品を展開させる。

脇役のはずの徹だが、トラウマはないしオネエ口調じゃないし、真紀よりも洗練された男性に見える。

でも基本的な構造の欠陥は万葉&真紀と同じで、17~8歳の女子高生を前に、格好つけて相手を翻弄する24~5歳というのが、格好がつかない。時代が違うのだろうけど、いつでもどこでもタバコ吸ってるのも嫌だなぁ。扇子も基本ツンデレで、万葉の初期の再放送という感じが否めない。まぁ 前述の通り、真紀より徹の方が良い男だから、本書で一番 正統派の恋愛のようにも見えるが。

彼の強引な性格に振り回されたい、という少女の願望が実現するためにあるような徹の性格。想定されている若い読者なら その状況だけで酔えるのだろうけれど。しかしなぜ この世界の20代半ばの男性たちは女子高生に手を出すことに何の罪悪感もないのだろうか。そこも時代が違うゆえの違和感になっている。