《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

真剣な交際だったからこそ生じる元カレ問題。2人の男性の間で揺れるなんて贅沢でビッチ。

マイルノビッチ 8 (マーガレットコミックスDIGITAL)
佐藤 ざくり(さとう ざくり)
マイルノビッチ
第08巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

どブス&ネガティブ毒キノコだったまいるが綺麗に変身! 恋愛に挑む物語!! ただ今、まいるは幼馴染・未来に突如告白されて、大混乱中! でも、もしかすると意外に近くにいたのかも…運命の人!! まいるは未来と付き合うことを決意。 せっかくだから!とふわりちゃんに勧められた高校生限定イベントで告うことに。 まいるついに幸せに!?…と思いきや会場であの人に遭遇…!?

簡潔完結感想文

  • 両片想い状態なのに始まらない交際。タイミングさえ合えば幸せになれるのに。
  • 元カレとの再会。スマホを忘れる彼、スマホを変えた彼、スマホに想いを綴る彼。
  • 友人たちを含めて恋が溢れる1冊。段々とイケメン図鑑の様相を呈してきて辟易。

会ったその日に交際するような まいる が動き出さないことが全ての答え、の 8巻。

本書全体で感心するのは、ITと少女漫画を上手く融合させている点である。これまでの恋愛で ブログ・SNSTwitterを上手く活用している。執筆時に そこそこ若かったであろう(失礼)作者だが、若くても新しい技術の組み込み方は難しいはず。狭い学校内の恋愛であれば新技術を採り入れなくても旧態依然とした少女漫画の作り方をすればいいのだし。しかし上手く活用している点に作者の柔軟性を見た。またSNSでの出会いは本来なら出会わないような年上の男性との出会いも自然に見せていたし、また まいる の恋愛の軽薄さ とSNSは良くマッチしていた。

また『8巻』ではTwitter(正確には「っぽいもの」)で元カレ・成太朗(なるたろう)の心情の吐露を知るという場面が良かった。最も感心したのは その前後の流れで、まいる は成太朗のアカウントを彼の同級生・リカラから教えられる。これは交際が破綻した後の成太朗の憔悴っぷりを身近に見てきたリカラの お節介であった。
そのアシストも好きなのだが、ここで気が付くのは他人のブログ・SNSを覗くという行為に対比が生まれている点である。まいる が本人に黙ってSNSを覗くのは2回目。1回目はリカラと成太朗の距離が気になって、リカラのブログを自力で検索し覗き見た『4巻』。この時の まいる はリカラのブログを見て気持ちを真っ黒にしていた。だが今回は そのリカラから成太朗との復縁を暗に進められている点が面白い。そして何より、今回はSNSを勝手に見て まいる の気持ちは白く浄化されていく、という対比が素晴らしい。
そして まいる に向けて発信している訳ではないからこそ、嘘がないのも良い。もしも まいる と対面した際に同じ内容を言ったら、長ったらしく未練がましく思えるが、ポツポツと、自分の気持ちを整理しようという悲壮感に溢れているからこそ まいる も読み通せたのだろう。

そして成太朗との再会があるから、まいる の次の交際は1巻分まるまる保留になるのであった…。

まいる が お笑いに逃避した5か月間、成太朗にもまた苦悩の日々があった。それを知り まいる は…。

う、驚くことに主人公・まいる は、『7巻』で告白された未来(みらい)と交際を保留したまま1巻分を過ごす。これまで会ったその日や出会って2回目で交際を決めてしまうような まいる なのに、幼なじみで悪い所が見当たらない未来への態度を明らかにしない。これには2つの理由がある。1つは未来が部活に多忙で まいる の覚悟を決めた時に会えなかったから。そして もう1つが2回の男性との交際での失敗があるため まいる が慎重になっているためである。
もし2人が最初から素直になっていて お互い最初の交際であれば少女漫画的な「幼なじみの恋」が成立して結婚エンドまで話が進んだだろう。まいる の友達・天佑(てんゆう)も まいるの結婚式を見届けられたかもしれない。
両片想い状態は、少女漫画読書の一番くすぐったい期間で、動けない2人の姿が微笑ましかったり、苛立ったりと読者の感情が忙しい時期。本来なら幸福な時期なのだが、本書は そこで時間を置き過ぎて腐りかける恋愛を描いているように見える。恋愛はタイミング、というのが定説だが、本書は そのタイミングを逃し続けてはいないか、と心配になる。
まいる側も未来が どんなに多忙でも それに割って入るような情熱があれば良かったのだが、愛される喜びはあっても、愛する喜びの描写は少ない。未来とは話が進まないということが一種の結論であり、結末への伏線なのだ。

2人の男性にアプローチされ、いよいよ乙女ゲームの主人公のような まいる。自分の汚い部分≒ビッチを認めつつ彼女はどう動くのか。恋愛的には停滞しているのに、次が気になるような話の運び方は流石である。


来への態度を保留している中、近所で不審者騒ぎがあり、兄が不在の まいる の家に彼女1人きりになってしまう。不安が増した彼女は未来の家に泊まらせてもらう。天然な未来の母のせいで、未来の部屋で一緒に寝ることになった まいる。そこで小さい頃のように手を繋いで眠る2人。眠れなかった まいるは、彼の顔を見ながら高鳴る胸の音を一晩中聞いていた。いよいよ交際の道が開かれた。

だが告白しようとしても未来は多忙で直接顔を合わせられない日々が続く。そこで未来の兄(姉)の ふわり が提案した告白シチュエーションは、クラブイベント。ふわり も未来も こういう場所で告白するタイプには見えないのに…。天佑に相談したら きっと別の場所を提案されただろう。

ちなみに私は、ふわり って恋愛の死神だと思っている。決して上手くいっていない自分の恋愛を基に助言するし、今回のように まいる に合ってない場所を提案したり、彼女の言う事に従うとバッドエンドばかりが待ち受けるような気がする。
そんな ふわり が『8巻』で出会う男性は、まいる が絶対に恋に落ちないタイプの王子様。それは まいる では絶対に出来ない年下男性を養うという描写。いわゆるヒモなのであるが、そんな人間に貢ぐような人間は一定数いる。これはイケメンのバリエーションとしては面白いが、ふわり の恋愛に興味がないので楽しめない。この辺は作品を水増ししている印象を受ける。


のイベントの出演者にリカラががいて、会場にも成太朗の友人たちがいることを確認した まいる は血相を変えて逃げる。だが、その逃亡先で成太朗と会ってしまう。

少し髪が伸びた成太朗は まいる に謝罪する。別れてから半年間、会わないようにしていたが会ってしまった。二度と顔を見たくない自分と会って、ごめん、と。成太朗は基本的には悪い人じゃない。あの交際はお互いの呼吸が合わなかっただけ。そして後半の描写を読むと、成太朗は自分の まいる に会いたかった気持ちを出さないように努めていたことが分かる。その辺も最後まで彼は誠実なのである。

自分から立ち去る成太朗を見て、一歩も動けない まいる。だが、動けないまいるの前には、成太朗のスマホが置き忘れてあって、彼女はそれを自分のポケットに入れてしまう…。
ちなみに この回では未来も天佑も誰もヒーローとして助けに来てくれない。通常ならナイトが助けに来るシーンだが、まいる が成太朗のスマホを確保するために1人でいる必要があったのだろう。

自分の気持ちを抑えて まいる の心情を優先する成太朗。彼の元に戻るのも1つの選択肢だが…。

なみに早くも既存のキャラ大集合となった この会場周辺では、登場人物たちの様々な恋が交錯する。
上述の通り ふわり の恋が始まりそうになったり、まいる の同級生・綾乃(あやの)はついにハッキリと天佑に告白する。綾乃は柄にもなく勝算のないまま告白してしまった。だが敗戦。天佑は付き合えない理由を話す。それは天佑が「この人と結婚したいと思える人と きちんと つき合いたい」と思っているから。そういう信念だから彼は今まで誰ともつき合ったことがない。恋愛コンサルタント・天佑は、まさかの自分の恋愛経験ゼロだということが判明する。そんな天佑を ますます好きになる綾乃。

ちなみに天佑の この考えは まいる の恋愛の指針と似ているのは気のせいではない。


マホを前にまいるは悩む。一応、返却しに成太朗の高校前まで来るが直接会う勇気はない。何もせず帰る間際に、リカラと会う。そこでリカラの浮気論を聞き、成太朗は事故みたいな浮気をしただけで、もう二度としないのではないか、という話を聞く。なぜリカラが そんな話をしたかと言えば、成太朗が始めたSNSで、彼が呟いている内容をリカラは知っているからだった。

リカラ経由でアカウントを知った まいる は、別れた後の彼の心の動きを知る。そんな彼の心情を追う内に、まいるの足は「ある場所」へと自然に動いていた。そこは初めてキスをした陸橋。そこで成太朗は、自分にコーヒー、そして不在だけど まいる のためにミルクティーを買って座っていた。まるで まいる が この世にいない人のような悼み方である。

再び会った成太朗は、キスをしたバイト仲間の女性とは会っていない事、何度かあった連絡も携帯ごと変えて出なかったこと、そして自分の中にある後悔と未練を話す。成太朗は、まいる が最初に失恋を予感した『4巻』と同様に2人の想い出の場所をさまよい歩く日々を送っていた。成太朗の「こんな所にいるわけがないのに」という台詞は山崎まさよし さんの名曲『One more time,One more chance』からだろうか。ちょっと笑ってしまった。

近づいてくる成太朗。だが その時、まいる の携帯が鳴る。それは未来からの連絡だった。この連絡が無ければ2人はどうなってしまったのか。

成太朗のスマホを陸橋の手すりに置いて、自分には公開も未練もないと言い残し、背を向ける。ここ、まいるがスマホを置くのは、成太朗が別れの際にネックレスを置いた位置と同じにして欲しかった。まぁ まいる の中に少しの迷いがあるから、成太朗ほどキッパリとした態度は取れないのだろうけど。


に帰ったまいるは、部屋のクローゼットから実は捨てられなかった愛の象徴・ネックレスを取り出す。スマホを持ち帰ったのも、彼を完全に忘れられない証拠。

成太朗への想い、未来への想い、どちらもある。だからこそ まいる はビッチである。

そこに運命の文化祭が始まる。まいるは交際を申し込む。ズルくても幸せになるために。ただ、まいるの恋愛の指針は「絶対に この人じゃないとダメだって思える人」 だったはずだが…。