《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

恋愛のために神様への信仰を放棄したヒロインには、神なき世界が待ち受ける。

マイルノビッチ 4 (マーガレットコミックスDIGITAL)
佐藤 ざくり(さとう ざくり)
マイルノビッチ
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

どブスだったまいるが綺麗に変身。彼までできちゃう物語の第4巻! 恋して無敵状態のまいるの前に、肉食系女子リカラ登場! まいるの彼・成と「友達」といいつつなにやら親しげ。綺麗になったとはいえ、中身は超マイナス思考のままのまいるは、リカラのブログを見て…驚愕!? 恋愛の「やってはいけない」を詰め込んだ社会派ドキュメンタリー!? 【収録作品】ふわりのファッションガイド

簡潔完結感想文

  • 恋愛のために世界の全てと断絶した自分と、何も捨てていない彼との格差交際。
  • 小さな奇跡と絶妙な伏線で恋愛の終局を回避。だけど彼の性格に問題を感じる。
  • 信仰心を取り戻しても神は世界に顕現しない。神の啓示がないまま世界を生きる。

女漫画家は少女漫画ばっかり読んでいる場合ではない、の 4巻。

本書の感想文を書くのは楽しい。基本的に読んでいて楽しい部分が多いと感想文も書きやすい。楽しいという気持ちは、内容が充実している、展開が早い、構成や人物像などの作品世界がしっかりしていることから生まれる。

私が今回、感心したのは、作者は複数人を動かすのが上手いな、ということ。これは作者が映画をたくさん見ている事と関係あるのではないか。映画という別ジャンルのエンタメから、優れたプロットや人物の描き方を無意識に学んでいるのかもしれない。だから「胸キュン場面」のために、不自然に話を動かしたりしておらず、演技で言えば自然体の、本当に この人がいるのではないかと思わせてくれる説得力が生まれている。こうした点が本書が多くの人に支持された理由であろう。

私が あまり好きではない少女漫画は、ただでさえ内容が恋愛特化なのに、メインの2人しか動かせなくて、周囲の人間がただの飾りになっている作品である。それなのに作中で「友情」を語ったりしてるのが更に痛い。自分が好きだった少女漫画の「劣化コピー」しか生み出せず、オリジナリティも工夫もないまま、型に はまった言葉と展開が続いていく。

作者が世界観を確立できて、登場人物を複数動かせるのは、映画で情報をインプットしていることに加え、脳の容量と処理速度が優れているからなのだろう。本書と似たような印象を抱いたのは、ろびこ さん『僕と君の大切な話』ですね。あちらも登場人物の一人一人が大好きになる作品だった。

作品は、主人公・まいる が交際する1人1人の内容が短編~中編として面白く、その縦軸に天佑(てんゆう)という神様が存在していた。だが『4巻』にて神様が消失した世界になってしまった。これは まいる が本当に独り歩きするための準備なのか、それとも神の宣託がないから失敗してしまう前振りなのか、ここからも作者は作品を面白くしていく。


いる が天祐という学校生活=世界の全てを投げ打って殉ずる成太朗との恋。だが まいる が成太朗の私生活=彼の学校に来て判明したのは、彼が自分ほど何も犠牲にしていないという不均衡だった。
成太朗の傍には女友達・リカラがいて、『3巻』の遊園地とは逆に今度は まいる が成太朗と リカラの距離感にモヤモヤしてしまう。

リカラが気になる まいる は、彼女がブログを開設しているという情報から検索し、ブログを発見する。そこで、違う学校という まいる の入れない領域での、成太朗と リカラの距離の近さを一方的に見せつけられる。

そんな自分の中の嫉妬を上手に認められない まいる。なぜなら嫉妬などしたことないから。
しかも全てを捧げた成太朗との恋愛だが、彼は彼で自由に動き、週末は学校の友達とキャンプに行くという。リカラと一緒にキャンプに行くのではという疑惑は聞けないまま胸にしまい、だからこそ疑念が大きくなる。そして週明けに成太朗が見たと送付してきた夜空と同じ空を リカラ も見ていたことをブログで知ってしまうのであった…。

これまでならダークサイドに堕ちる前に天佑が止めてくれたが、まいる の世界に天佑はいない。

の距離は広がるが、成太朗が まいる の家=プライベート空間に来る。ちなみに自宅が豪邸で おしゃれなのは まいる の父が建築家だかららしい。

折角の お家デートなのに成太朗の肉体、成太朗の言葉の端々から、リカラの存在を連想してしまい、まいる は楽しめない。やがて まいる の態度を不自然に感じた成太朗に問われるが、嫉妬を口にしたくないから押し黙る。

…そのはずだったが、口を開くのは リカラ への不平不満だらけ。まいる は自分の気持ちを全て話す愚直さしか武器が無いのだ。成太朗は賢いから、そんな まいる の言葉の裏に、自分たちの私生活の不平等を感じとる。そこで2人の間ではタブーとなっていた天佑の名前を出す。まいる も自分の感じた不平等を認めるが、成太朗は リカラ と天佑は違うという。天佑は リカラと違って、まいる の心に鎮座する存在なことが問題だという。

だがそれは自分にとって天佑は神だから、と まいる は応えてしまう。こうして彼女は間違える。


れから数日、成太朗からの連絡は一切なく、まいる は何をしても涙が出てくる精神状態。
そんな状態で成太朗の思い出巡りをする まいる。出会いの場所のカラオケボックスの203号室、告白した公園、そしてキスを交わした陸橋。更には成太朗が先日行ったキャンプ場にまで出向く。そこで まいる は満点の夜空の下、失恋を受け入れる。

ただ まだ本書恒例のゲームオーバー画面が出てないので破局ではない。

まいる のもとに現れたのは成太朗。(なぜか成太朗の連絡先を知っている)まいる の隣人のオネエさん・ふわり から連絡を貰ってやってきた。偶然、彼は同じ県のイトコの家に宿泊中だったから すぐに到着したらしい。
ここで納得したのは成太朗の家に、イトコの大学生が下宿しているのは伏線だった、ということ。きっと成太朗がこの日いたのは そのイトコの実家なのだろう。そして成太朗は日常のモヤモヤを忘れるためにイトコの家に行った。この奇跡といってもいい偶然を、それほど低くない確率にするために成太朗はイトコと同部屋で暮らすことが必要だったのだろう。こういう伏線が本当に素晴らしい。雑な少女漫画だったら、偶然という便利な言葉で出会わせてしまうだろう。

数日間の音信不通を経て出会った2人は、解決策を模索することになる。これは別れ話ばかり恐れていた まいる には意外な展開だった。成太朗には修正力がある。誠実だから、自分と相手の欠点を冷静に見つめ直し、やり直す方法を模索している。悲しみに沈むだけの まいるとは違うのだ。

が、冷静に考えてみれば成太朗は直情型の人間で、すぐにカッとなって、言いたい事だけ言って立ち去るズルい人間とも言える。一度 怒りや嫉妬が沸騰してしまうと、冷却に時間がかかり、その間に まいる は疲弊する。成太朗は自分のペースで立ち直り、寛大さを見せようとするが、まいる は問題が起こる度に消耗していくような気がする。成太朗が自分の欠点に ずっと気づかないだろうところが性質が悪い。

自分の気分を害すような言動に拒絶反応を見せる成太朗。良い人っぽいが そこまで良い人でもない。

実は、この日 まいる の行き先を知っていた幼なじみ・未来(みらい)も動いていた。わざわざタクシーで大枚をはたいて追いかける。もし、ここで まいる と成太朗との交際が終わっていたら、そこからが彼の出番だったのだろう。だが、丸く収まったことで、彼は存在を消し、1人で帰路につく。夜の寒さと孤独感が彼に風邪を引かせた。


うして破局の危機を乗り越えた2人。まいる の一見 不合理な行動は成太朗に信頼をもたらした。だから成太朗は天佑と再度 連絡を取ることを願う。これは まいる が考えて考えて捨てた信仰を無駄にするような勝手な願いだが、それぐらい今の2人は無敵ということでもある。今の2人は嫉妬という感情から解脱し、お互い探りを入れたり、疑心暗鬼になることを止められる。

ここで2人は本心から話している証拠として まいる から敬語が抜けている。対等な関係となり、まいる の自己肯定感も強くなったのではないだろうか。帰路はタクシーで2人で帰り、キスをした陸橋をくぐり、また2人は「世界で二人きり」になる。


が全てを元通りにするには天佑との親交の復活が必要だった。気合いを入れて臨んだ天佑の自宅アパートへの突撃だったが、彼の部屋は もぬけの殻。
綾乃に事情を聞くと、天佑は まいる が信仰を捨てていた時期に学校を辞めたという。自分で神を捨てた頃と違い、神そのものが いなくなってしまった。

まいる の救いとなるのは成太朗との仲が順調なこと。彼は まいる の誕生日であるバレンタインデーデートに向けての資金をコンビニのバイトで稼ぐことにした。ただし、少女漫画においてデート資金のためのバイトという新しい環境は、男女に すれ違いを もたらすが、どうなりますか…。

自分の記念日のために頑張る成太朗のために、まいる はわがままを封印し、デートまでの1ヵ月弱、成太朗を断つことを宣言する。ただでさえ すれ違う時期に、距離を置くってバカですか、と天佑なら言ったかもしれない。でも もう まいる には、神の言葉を聞く手段すらない。

一方で成太朗は、持ち前の育ちの良さと誠実さで、男性が苦手なはずのバイト仲間の18歳の女性と自然と交流し…。