佐藤 ざくり(さとう ざくり)
マイルノビッチ
第03巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★☆(7点)
どブスだったまいるが綺麗に変身して、初めての恋愛を経験してゆく恋物語第3巻。生まれて初めての彼ができて舞い上がるまいる。彼=成太朗の家族にも紹介してもらったりして、すっかり幸せ真っ只中…なのだけど、気づかないうちに誠実に恋愛してるからこそのすれ違いが起き始めていた!? 恋愛の「あるある!!」が満載! 激動の3巻ですよ! 【収録作品】番外編 好きじゃない人。
簡潔完結感想文
- 彼の実家で家族に良くしてもらい、少女漫画的には結婚確定!? だが気持ちにズレが生じ…。
- 初デートのはずがWデートで彼が不機嫌に。全部を曝け出すしか仲直りの方法を知らないが…。
- 彼への想いを信じてもらうために、世界の全てを投げだす。天佑教から恋愛教への鞍替え。
恋愛のために信奉する神様を捨てなさい、と脱会を勧められる 3巻。
主人公・まいる の最初の交際(正確には2回目だが)は恋愛の存続のために全てを犠牲にすることになった。私は これを宗教問題と捉えて読んだが、実際に恋愛をする度に周囲の人間関係をリセットする人は存在するだろう。その根底は相手のために全てを投げだして尽くすことで愛が純化していくという考えがあるのだろう。また相手が自分のために生きてくれることが自分の悦びにもなる。ここまで極端じゃなくても、多かれ少なかれ この人しかいらない、この恋愛に生きていくんだという気持ちは恋愛中に一度ぐらい思うことがあるのではないか。それぐらい幸せだ、ということでもあるのだが、まいる の場合、0か1かしかの選択肢しか自分の頭に浮かばないことが彼女の未熟さや不器用さの表れである。
そして まいる にとって人間関係とは天佑(てんゆう)しか いなかった事が問題となる。もし交際中の成太朗(なるたろう)が天佑のことを気になったから(正確には天佑を気にする自分への自己嫌悪)、まいる は成太朗のために全てを捨てた。
「毒キノコ」として孤独に生きてきた まいる にとって、天佑は世界との繋がりであり、また唯一神でもあった。だが天佑は神だが人間の男性でもあったから、彼との関係を絶たなければならなかった。いわば「天佑教」の信者であった まいる だが、新しく尽くしたい対象=成太朗が現れたことで、彼との関係を維持するため新たに「恋愛教」に のめり込んでいく。恋愛教は強制する訳ではないが信者は全てを投げだすと、それだけ充実した毎日が約束されていくところが厄介。
成太朗は まいる の天佑教からの脱会を少なからず望んでいたので、彼女の行動に安心した。だが彼女が新たな宗教にのめり込んでいくことには無自覚だったのではないか。こうして まいる は恋愛での精神的安定は得るが、学校生活など日常は色あせていく。だが恋愛教への入信で不幸になったことを認めたくない彼女は、天佑という神との交信手段すらも新しい宗教に捧げてしまう。
果たして全てを捧げた彼女が見る風景とは…? その答えは次巻に続く。いやホント、本書の序盤は最高である。単純に成太朗との恋愛模様も楽しいのに、その上、この まいる の行動は正しいとも間違っているとも言い切れない微妙な線で、その先の本書が出す答えが知りたくなる。プロットがしっかりしているから、話の進め方も盤石で欠点が見えない。作者の作品を読むのは2作目だが、1作目『おバカちゃん、恋語りき』からの画力・構成力の成長に目を瞠るばかり。こうやって成長していく作家さんが人気作家として長く活躍する権利を得るのだろう。狭い少女漫画世界にも、そういう実力主義が働いていると安心する。
初デートはお家デート。成太朗の家族にも良くしてもらい、彼の誠実な性格の背景を見た気がする まいる。まいる的には初デートは満点。だが成太朗はキスを拒絶された形になり、そして天佑という心の支えが彼女の中にいることにモヤモヤしているようで…。この2人の温度差が後に気圧の谷間を生んでいく。
一方、恋のアマゾネス こと 綾乃(あやの)は この学校で一番と評される天佑にロックオン。この綾乃のアタックを通して、天佑が固い男だということが分かる。「オレは人を好きになるって事で嘘は つきたくない 口が腐る」。つまり天佑が好きという人は本気だということか。それを いつか聞けるのだろうか。
そういう天佑に綾乃は一層 興味を惹かれ、まいる を巻き込んで、力技で まいる と成太朗のデートをWデートへと変更させる。綾乃が まいる と成太朗の中を引き裂くライバル役だったら、彼女の行動は腹が立ちますが、飽くまで綾乃は自分の欲望に忠実なだけなのが良い。まいる も自己肯定感を上げるために恋愛をしている節があるが、綾乃の手段もその一環だろう。
Wデートの中で、成太朗は まいる と天佑の距離が予想以上に近い事を知る。実は嫉妬深い彼は気になって仕方がない。綾乃もまた天佑と まいる の距離感・空気感を察知し、自分のプランを考える。その綾乃の発言で成太朗は一層 疑心を深めることになる。
本来なら恋人たちの距離が縮まる お化け屋敷に入った2人だが、まいる は天佑を気にし過ぎて成太朗の不評を買う。他方、綾乃は お化け屋敷の中で本音をぶつけると、綾乃の本性を評価する天佑と打ち解けていく。この対比が良いですね。
成太朗の反応に困った まいる は綾乃を強制的にトイレに連れていく。これは『1巻』の合コン時と逆パターンですね。まいる の天佑への頼み事も日に日にエスカレートしているし、まいる本来の図太さが覚醒しているのでしょうか。もしかしたら まいる の本性は兄・あいる と似た俺様気質なのかもしれない。
綾乃に助言を貰った まいる は それによって自分の無自覚の罪を知る。
まいる は 最初の嘘の時のように、全てを成太朗に話す。この手段しか まいる には取れないから。だが成太朗も2人に恋愛感情がない事は分かっている。それでも止められない嫉妬に彼は自己嫌悪しているのだ。だから まいる が謝罪したことで、かえって成太朗に惨めな気持ちにさせてしまった。
だから まいるは選ぶ。神ではなく、恋人を。
だが天佑との交流を断つことは、まいる が学校で孤立する生活に戻るということでもあった。その一方的な関係の断絶に天佑は異議を申し立てる。だが天佑は まいる の決意が固いと分かったら、彼女の意見を尊重する。
まいる のアドレスを全消去して、関係性も出会う前までリセット。ここで天佑がキレているのは、まいる の意見を尊重するけど、これが「愚か者」の間違った行動だということが分かっているからだろう。それでも まいる の やりたいように自分の行動を合わせる天佑は、まさに神対応。
この まいる のバカな行動を指摘するのは綾乃。辛辣に客観的事実を述べる綾乃は こういう時のために必要だったのだろう。こうして まいる は自分が間違っているかもしれない恐怖に放り出される。
そして自分の行動を一から十まで聞いてくれて、意見してくれる天佑はもういない…。
まいる が今、成太朗に会いたいと思った時、成太朗から電話が掛かってきて2人はお互いに駆け出す。合流したのは陸橋の上。その奇跡に まいるは全てを投げだして、成太朗に捧げることを宣言する。成太朗だって まいる の極端な行動は間違っていると思っている。2人の「世界は どんどん せまくなっていく」。
だけど、全てを投げだしてでも2人でいたい。その究極の想いが一致した2人はキスをする。ここで自宅デートと違い まいる が迷いなくキスをしたのは、彼女の中で交際の覚悟が決まったからだろう。
そう「全身全霊で恋をしていた」。これもまた本当の恋。ここが幸福の絶頂。
こうして天祐なしで生きていく まいる。だから1人で生きる努力をする。メイクを上達させるのも努力、彼を切るのも努力。だが、心の底には天佑に会わないことに一抹の寂しさもある。
その迷いが恋愛教、成太朗への配信だと知っているから まいる の側も彼の連絡先を消去する。こうして神との関係は絶たれた。
「番外編 好きじゃない人。」…
まいる の兄・あいる。学校で一番人気らしい彼を評価しない書道部のミノワ。実は視野や器の小さい あいる に対して、物怖じしないミノワ。あいる が気まぐれに書道をすることで交流し、ミノワは いつの間にか彼に惹かれていく…。
ラストは恋愛に興味のなさそうな あいる が赤面している。後に あいる に恋人が出来た設定が出てくるが、この話が本編の公式設定になるのかな。あいる が彼女に惹かれるのは分かるが、ミノワが好きになるエピソードが弱い。結局、顔や雰囲気なのか?