《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

間違えないヒロインなんて少女漫画に必要ないから、コンサル神を排除して世界を壊す。

マイルノビッチ 5 (マーガレットコミックスDIGITAL)
佐藤 ざくり(さとう ざくり)
マイルノビッチ
第05巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

どブスなまいるがキレイ・デビューするサクセス(?)物語第5巻。奇跡的に彼カノになったまいると成。まいるの誕生日デートの資金をためるため、バイトをはじめた成。まいるも成を応援すべく、なるべく会わない! 「成くん断ち」をはじめます。会えない時間が増えたけれど、それもデートの日までの我慢だ!!…でも、その我慢が地獄の入り口で!?

簡潔完結感想文

  • 最高の誕生日のために会えない日々を我慢する。だが置き過ぎた距離が仇となる。
  • カタストロフは突然 起こり、まいる の世界は崩壊する。荒廃した世界に神が再臨。
  • 奇跡みたいな一日の舞台となった陸橋も崩壊(精神的に)。もう2人の架け橋はない。

判の日を前に、物語に神が再臨する、の 5巻。

1つの恋愛が終わる。その原因は主にヒロイン・まいる の恋の相手・成太朗(なるたろう)にあるが、まいる に非があるとすれば、それは彼女が恋愛のために、自分の神様・天佑(てんゆう)と完全に断絶してしまったことだろう。神を信じる者は救われるが、信じなかった者は救われない。自分たちの恋愛を純化させていくために、まいる の変化を見続け 助言をしてきたコンサルタントの天佑を切って、自分の力で精一杯の恋愛をした。それ自体は間違いではないし、まいる の一つの成長の証だと思う。でもコンサルタントなしで本当に自分が恋愛を出来るのかを分かっていなかったのは まいる の大きな失敗だ。こうして一度は信仰を捨てたのに、不幸な結果に行き当たる。本当に天佑が宗教の教祖であったら、まいる はこの悲しみを二度と味わわないように 一層の お布施に励むのではないか。まいる の場合、それが神に捧げる お弁当のクオリティぐらいだからいいが、現実では ここから宗教依存が始まってしまうのだろう。

ヒロインのピンチに駆け付ける天佑。自分を排除すると 愚か者がどうなるか、神は見通していた。

そう、1つの恋愛を終わらせるために必要だったのが天佑を物語から排除することだったのだ。神の如き正しい彼が まいる の傍にいてしまうと恋が永遠に終わらない。だから成太朗の嫉妬という理由を持ち出して、まいる と天佑のコンタクトを断つ。その上、その間に天佑は引越しをして本当に物語から消失する。まいる が天佑との再交流を望んでも、まいる は彼を見つけることが出来ない。そうして まいる は間違えたまま未知なる道を進むしかなかった。

この結末に至るには、天佑がいてはいけない。ずっと天佑からの ご宣託があっては誤選択は生まれないのだ。

今回、天佑は物語に再臨するのだが、そのタイミングが まいる の絶望に苦悩している時、というのも震える。彼女にとって世界が崩壊する最中に、神が目の前に現れ、彼女の苦しみを少しずつ軽減していく。ただし天佑の神通力をもってしても破綻した恋愛が復活する訳ではないのが辛いところ。天佑の役割は、まいる を終わってしまった恋愛に向き合う力を与えるだけである。

絶対的なヒーローがいる物語で ヒーロ―と彼氏が同一人物の場合、いつも彼氏と一緒にいるとヒロインが失敗しなくなってしまうからという理由で、ヒーロー=彼氏が追放され、彼の出番が極端に減る作品をこれまでいくつか目にした。しかし本書の場合、天佑はヒーローであるが、彼氏ではないので、まいる が天佑を物語から追放する理由をちゃんと作れているのが上手い。

次巻から再び神のいる世界を生きることになる まいる はどう生きるのか。破壊の後の再生が今から楽しみだ。


分の誕生日の特別なデートのために まいる が成太朗を断っているが、成太朗は隙間風を感じていた。その心の寒さが原因なのか、成太朗は体調を崩す。成太朗からの電話で、彼の体調が悪そうなことを察した まいる は、彼の会いたいという誘いを断ってしまう。
それがまた成太朗には寂しい。その成太朗の心の寂しさをバイト仲間の女性だけが分かってくれる。恋愛に対する姿勢が同じ、それが2人の心が近づく第一歩だったのではないか。
まいる は成太朗の為だけに生き、努力をしているのに、なぜか すれ違っていく。

いよいよ誕生日を翌日に控え、成太朗のバイトも終了。そして まいる も研究を重ねた手作りチョコケーキも最高傑作を生みだす。ケーキが大きいので当日は荷物になると考え、まいる はサプライズでバイト先に届けることに。

だが、そこで まいる が見たのは、バイト仲間の女性とキスをしている成太朗の姿だった…!


いる に目撃されたことを知った成太朗の顔は青ざめるが、まいる の方が「すい…ません…」と言い残し、その場を立ち去る。成太朗も追いつくが、声を掛けても静かに立ち去る まいる を再度 追ったりはしない。

帰宅後、自分の置かれた状況に頭が混乱し、身体が現実の拒絶反応を示し、吐き気が込み上げるが吐けない。その後、成太朗が自宅に来るかもしれない、と彼に会いたくない一心で裸足のまま自宅を出て当てもなく街をさまよう まいる。

心身ともに疲弊した彼女のピンチを救うのは天佑だった。『4巻』で遠方のキャンプ場に現れた成太朗と同じく、これはヒーロー特有の偶然ではないという伏線がある。ヒロインの場所を まるでGPSで追跡していると疑うような都合の良い少女漫画ヒーローの能力ではない。
実は まいる との電話で彼女のピンチを察した綾乃(あやの)が天佑に連絡をしていたのだ。ここ、自分では まいる を助けないのが綾乃らしいし、実は天佑と音信不通というのも嘘なのも綾乃らしい。そして その前に ちゃんと綾乃が天佑の連絡先を知っているという伏線がある。こういう作者の作品をコントロールしている感じが本当に好きだ。メインの物語のスピード感を失わず、ちゃんと伏線を張っている点が上手い。

宅し、天佑に足の手当てをしてもらいながら、まいる は彼の近況を知る。昼間にメイクアップアーティストの事務所で働きながら、夜間の高校に通っているという。

天佑に何があったか聞かれ、まいる は また吐き気を催す。今度はしっかり吐いているのは、天佑を前にして全てを吐き出せる安堵感もあったからだろうか。そして この嘔吐が成太朗の交際での失敗や自己否定をリセットするために必要なのだろう。

そして天佑は まいる のために、見習いの身ながら休みを申請する。最初から天佑は まいる のために結構 身を切っているのは再読時に よく目につく点である。今回は天佑が まいる に対して責任を取りたいと思っている。自分が素材も悪くなく、性格も面白い「変わってほしい」と思ったことで、まいる を今回の悲しみに激突させてしまった、と天佑は考えている。


いるを慰めるために、同じベッドに入り彼女に寄り添う。翌朝も、まいるの家事を肩代わりする天佑。
一夜明けて まいる は昨夜の出来事を話せるようになっていた。そして この日は、恋人たちの日、バレンタインデーで、そして まいるの誕生日。まいるが世界で一番幸せになるはずだった日である。

そこに成太朗が自宅にやって来る。応対するのは、ドア越しに妹の身に何が起きたかを聞いていた兄・あいる。開口一番ならぬ開扉一番、成太朗を殴る あいる。ここで成太朗に並々ならぬ憎しみを抱くということは、やはり兄は兄なりに妹が可愛いのだろう。一部始終を見ていた年上の隣人・ふわり が「不器用アホ男」と評するように、あいるは不器用にしか人に接することが出来ないみたいだけど。

成太朗は鉄拳制裁を甘んじて受け入れ、まいる に会うことを願う。その選択権は、まいる に委ねられる。だが まいる は成太朗と向き合うことから避ける。少し自分を認められてきた まいる の自己肯定感は再び どん底になり、負の連鎖に陥っていた。

自分を変えようと奮闘した結果、辛い現実が待っていた。恋愛の失敗が まいる を内向きにさせる。

いる の作ったチョコレートケーキは兄・あいる によって成太朗に渡され、成太朗は大事に抱えて帰って行った。その話を天佑から聞かされた まいる は、自分が見てきた成太朗の本質を思い出し、彼と話をすることを望む。こういう話を冷静にしてくれる天佑がいるから、まいる は成太朗と向き合う勇気を引き出せたのだろう。まいる の人生は天佑がいてくれれば万事OKなのだ。

まいる は天佑に、泣きはらし、体調の悪さが出ている顔にメイクを所望する。
2人が会う時間と場所は まいる が指定する。成太朗の学校が終わった放課後、思い出の陸橋で、まいる は成太朗と対面する。階段を上る一歩一歩が恐怖で竦む中、まいるは自分を鼓舞し、やがて成太朗の姿が見える。

成太朗は変わらない優しさで まいる の好きそうな飲み物を用意し、そして本来なら過ごすはずのプランを まいる に伝える。それなのに最悪の一日にしてしまったことを彼は詫びる。
キスについて問われると風邪で弱っていたこと、そして まいる との間に距離を感じていたことで寂しさがあったからという。これはやっぱり浮気だろう。それに これは、まいるが自発的に取った距離で彼女の過失でもある。

最初はキスを拒絶していたはずの成太朗の気持ちの動きは読者にもさっぱり分かりませんが、これは読者をまいると同じ気持ちにするためかもしれない。まぁ成太朗が好きになったのも一瞬だから、破局も一瞬で起きても文句はない。本書は恋愛遍歴こそメインで、1つ1つの恋愛そのものの質はそれほど重要じゃない。


イトも辞め、キスをした女性とも会わないから許して、と願う成太朗。だが成太朗に触れるたび、まいる はキスの場面がフラッシュバックする。裏切られた苦しみは消えない。

これにより もう以前の2人には戻れないことを痛感した成太朗は「別れよう」とまいるに告げる。まいるは別れたくない。だが生理的嫌悪で触れられたくもないのなら、他に道はない。成太朗はそう思わざるを得ない。成太朗は賢い人間である。それに成太朗もまた、まいる に拒絶されるたびに傷ついていく。それは もちろん、まいるへの怒りではなく自己嫌悪で。自分の小ささ、自分の愚かさを誰よりも許せないのは成太朗自身であろう。

実は まいる はこの想いでの陸橋で会えば、あのキスをした日のような関係に戻れるのではないかと期待していた。だが別れたくない泣き崩れるまいるに、成太朗は手を差し伸べない。きっと自分がまた傷つくことを知っているから。自分の罪の重さを知っているから。

プレゼントに渡すはずだったネックレスを置いて、彼は立ち去る。少女漫画において、アクセサリは愛の結晶。それが手渡されることなく、地面において、まいるの手に渡る時点で、この恋は終わった。

代わりにまいるに触れるのは天佑。座り込むまいるを後ろから抱き締め、忘れられる日が来ると彼女に伝える。
こうして成太朗との恋は本当に終わる。今回こそゲームオーバー画面が出てしまったので、本当に復活はないだろう。