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少女漫画と小説の感想ブログです

少女漫画3巻恒例の三角関係が発覚した直後に四角関係になり「恋が複雑に絡まってる」。

恋降るカラフル~ぜんぶキミとはじめて~(3) (フラワーコミックス)
水瀬 藍(みなせ あい)
恋降るカラフル(こいふるからふる)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★(4点)
 

「ハチミツにはつこい」「なみだうさぎ」の水瀬藍最新連載。まっすぐで等身大な初恋が共感を集め、恋する10代の女の子の圧倒的支持を得ています!
「予感がしてるの 恋が形を変える 特別な夜になる予感」青人に文化祭の後夜祭に誘われ、一緒に過ごすことになった麻白。4年越しの恋が動き出す予感に幸せいっぱい!けれど、親友の姫乃が青人に告白しているところを見てしまい・・・!?親友と大好きな人。どっちも大切だから、迷う麻白に青人はまっすぐ想いをぶつけてくる。どんどん麻白は「好き」を隠せなくなって・・・!?
恋が大きく動き出す3巻、初恋のゆくえに注目です♪

簡潔完結感想文

  • 恋と友情の板挟みが苦しいのは分かるが、友情が紙よりも薄っぺらくて いまいち。
  • 自分の都合で嘘をついたヒーローに続いて、自分勝手に相手を放置し続けるヒロイン。
  • 少女漫画恒例いきなりキスする性的暴行男。でもイケメンでイタズラだから無罪判決。

愛成就を阻むためなら お互いに相手を傷つける、の 3巻。

『2巻』で早くもヒーロー・青人(はると)の中学時代のトラウマが解消され、青人は遠ざけていた恋愛を解禁した。ここからは青人がグイグイに責めるターンである。
ただし『1巻』では4年ぶりの再会後、青人は自分勝手に嘘をつき、自分にグイグイきたヒロインの麻白(ましろ)を傷つけた。なので今回は青人が傷つけられるターンでもある。それぞれに事情があって、自分から恋を遠ざける状態になっており、そのタイミングのズレが両想いを果たさせない。

青人が麻白を傷つけたのは主に2つのこと。1つは翌日の再会を約束した場所に時間になっても現れなかったこと。そして もう1つが自分の気持ちを素直に話さず、相手に隠していたこと。なので『3巻』では麻白が青人に同じことをしていく。こう書くと まるで麻白が青人に意地悪をしているようだが、麻白に事情が出来たため結果的に青人を傷つけることになった。
今回の麻白の行動は逃げてばかりで青人に何の説明もしないことが あまり好きになれないが、青人もまた自分が気恥ずかしいという理由で麻白に嘘をついていたのだから、どっちもどっちである。結局、相手よりも自分を優先している節があって自己保身を優先しているように見えてしまうのが残念。本書は、その人の視点で見れば破綻はないものの、よくよく考えると幼稚だったり、配慮の足りない行動が多い。

『2巻』以降、2人の攻守が交代し、それぞれが同じ切なさを味わう、というバランスを意識した構成は面白いが、そのために2人がそれぞれ謎の行動をしているのが引っ掛かる。

特に今回、友情と恋愛の板挟みになった麻白の行動論理は分かるようで分からない。同じ人を好きになったことが判明した友達を傷つけないようにするため、青人の気持ちに応えず、彼を傷つけても友情が破綻しないようにしている。自分は友達が実質的にフラれたことも、青人が自分を好きなことを知って、自分たちの両想いを達成させないように動いている。果たして これが本当に友達のための行動なのか、これもまた自己保身なのではないかと思ってしまう。そして麻白が壊れないように大事にしている友情が それほど大事だと思えないのが大問題。大したエピソードもなく友達になった姫乃(ひめの)が そこまで切実に守らなければならないものだとは思えないのだ。また姫乃の方も自分が留年していた事実を麻白に告げていないことも、彼らの友情が即席であることを再認識させる。

作者の中では男女5~6人のグループは いつでも永遠の輝きを放つものらしく、どの作品でも彼らの友情は永遠に続く。それは恋愛にも等しいらしい。だから恋の成就の最大の障害になるだろう。ただし その作者の価値観が本書単体において伝わっているかと言えば疑問だ。
そして男女間でもライバル同士でも作者が選んだグループの友情は壊れることはない。同じ人を好きになっても、強引にキスされる性的暴行の被害に遭っても、彼らの間には何の遺恨も残らず、「みんなが笑顔って楽しいな」とキャハハ ウフフの世界が継続される。

本書では、愛情も友情も、壊れそうになっても一瞬で元に戻る。そんな世界観だから、何が起きても心配する気になれなくなっていく。

好きと言えない、というのは麻白の主観でしかない。姫乃を優先することで青人を傷つける。

『2巻』で中学時代の青人のトラウマは解消され、青人は一層 麻白に積極的になる。青人は麻白に後夜祭を一緒に出ようと提案する。後夜祭のジンクスを知っても麻白は、トラウマ解消前の青人にフラれているから気持ちが こんがらがる。自信の持てない麻白の背中を押すのは、姫乃だったが…。

待ち合わせの前に作者が仕掛けた伏線が効果を発揮する。1つが姫乃の好きな人。彼女が告白したのは青人だった。麻白は それを目撃してしまう。そして姫乃と青人の会話で、間接的に青人が自分を好きでいてくれることを知る。嬉しいけど悲しい。この恋において自分が勝者で、姫乃は敗者になってしまい、みんなが幸せになる道は閉ざされてしまったから。

恋と友情の板挟みに麻白の心は壊れる。更に泣きながら学校内を疾走する麻白の腕から、本書における愛の象徴、シーグラスで作ったブレスレットが外れ、粉々に砕けてしまう。この時の麻白は自分の心の整理がつかないとはいえ、青人に4年前の自分の絶望感と同じものを味わわせてしまっていることに気づかないのだろう。青人もまた失恋したと勘違いしただろう。青人からすれば、麻白もまた人の気持ちをもてあそび、ハッキリした態度を取らないことで青人を もてあそんでいると考えてしまうかも。これは青人の中学時代のトラウマ再来か? 麻白は この後も最優先で青人に謝罪をしないことから、青人に絶望を与えたと考えてないのかも。この辺は頭が回らない精神年齢の幼い麻白ならではである。

こうして後夜祭も終了し、ジンクスは成立しなかった。両想いの絶好の機会を敬遠してしまった。


挟みになる麻白の気持ちは分かるが、彼女の姫乃への友情が作中でしっかり描かれているとは思えない。トントン拍子で友達になった記号上の友達でしかない。それもそのはず、姫乃は今回、両想いを目前にした麻白を苦しめるためだけに必要だったのだろう。そこに友情の質は問わない。

私は これまで読んだ作者の3作品は、どれも両想いまでの過程は好きである。ちゃんと試練を用意しているし、展開も早い。特に本書は『1巻』で青人は正体を明かすし、『2巻』では青人のトラウマ解禁、『3巻』で恋か友情か、という問題を次々に提示しており、若い読者の体内時計の早さと一致するのだろう。
でも一方で描写の描き込み不足がある。私としては両想いまでの展開を倍の時間かけて良い。姫乃に遠慮するという展開があるのなら、友情を実感できるエピソードを重ね、『5巻』辺りで姫乃とライバル関係になるなら苦しさが伝わるのではないか。麻白が改めて高校生の青人を好きになっていった同じレベルで、麻白が姫乃を好きになっていく具体的な話が欲しい。この状況が切なく、この場面を描きたかったのは分かるが、説得力に欠けるから上手く伝わってこない。


回 発動する2つ目の伏線は当て馬の自由(みゆ)。というか自由は『3巻』だけでなく後半でも便利に使われすぎる存在だった。

青人は、文化祭の日、麻白と自由が一緒にいたという情報を聞く。以前、麻白は姫乃が好きなのは自由だと思っていたし、青人は麻白が好きなのは自由だと思われる。それだけ自由は軽薄なモテ男ということか。

文化祭後、青人を避ける麻白。勇気を出して教室に入った麻白の目に飛び込んだのは保健室登校を止めた姫乃だった。そのことで麻白は精神的に追い詰められ、倒れてしまう。そんな彼女を介助するのは青人。2回目のお姫さまだっこで保健室に行く。相変わらず養護教諭は保健室におらず、麻白は青人と2人きりで会話をせざるを得ない。後夜祭のことを聞き出す。もしかして麻白の逃げ場を無くすために、麻白を倒れさせ、保健室を人払いするために姫乃が教室に登校したのか??

姫乃が教室に入れるようになった理由は特にない。実質的に失恋した姫乃がなぜ、という疑問ばかりが募る。何だか納得がいかない各人の行動は、作者の命令に従っているだけだからと思うと納得が出来る。作者には描きたい場面があって、必要なのは それを成立させる状況だけ。多少の不自然な行動があっても、展開を優先させていく。


由(みゆ)も青人に宣戦布告をし、仲良し男女5人グループは四角関係となる。

そんな時、起こるイベントが勉強回。相変わらず おバカな麻白は成績低迷中。姫乃は麻白が自由が好きだと思っているので、2人を接近させるような お節介をする。青人はそれを阻止する。勉強会の参加者は5人だが、大事なのはイケメン2人に奪い愛されるヒロインという図。読者の承認欲求が満たされます。

その勉強回の途中で麻白は自由からキスをされる。少女漫画特有の不意打ちのキスに目を丸くした一方で、この唐突なキスによって、4年前の青人が唐突にキスをした意味を理解できた。
本書の副題は「~ぜんぶキミとはじめて~」である。つまり、初恋も初キスも青人である必要がある。高校生時の両想いまでキスをお預けにすると、「はじめて」が自由に奪われてしまう。だから出会って2回目でキスをする ませた小学6年生が必要なのだった。


の事態に麻白は逃亡。残された者たちは険悪な雰囲気に。そして男同士の真剣な言い争いの中で見せた青人の表情で、姫乃は彼の気持ちを知る。

絡まった恋に対し麻白は何もせず、周囲が2人の関係を認め手を引くのかな。それは嫌だなぁ…。

麻白は まるで自分が汚されたように思えて、唇を繰り返し拭う。メンタルはボロボロだろう。そんな彼女のピンチを青人が救う。真剣な眼差しで麻白を見つめる青人。見つめ合う2人の顔は接近し続け、そして2人は高校生になって初めてキスをする。これは いわゆる「消毒」ってヤツだろうか。

予想外の展開だが、青人も また両想いを確認する前にキスをしてしまったことが残念。自由は最低の人間の行動だったが、青人も自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを確認する前にキスをしていて、自由と近いレベルまで落ちている。もはや作者は両想いから どれだけ遠ざけるかという所に注力しているように見える。両想いにはさせないけど、実質 両想いなのでキスOKという変な論理が まかり通っているように思う。

この時点でも、麻白は姫乃に対しての義理で青人に好きと言えない。姫乃は もう青人の恋に気づいたので、姫乃が手を引くパターンか。麻白は何もせず、勇気も出さずに幸せになっていくのか…。


来なら作品から追放されるような行動をした自由だが、ヒロインの麻白が彼を許すので、作品に留まる権利を保持する。それは自由の行動は本気ではないと麻白が認識しているからでもある。イケメンチャラ男だから仕方がないという司法判断である。ここで分かるのは、キャラの生殺与奪権を持っているのは麻白だということ、そして4年前の青人のキスが自由を追放から免除したということ。麻白が本当にキスが初めてだったら即刻 追放でしょう。

ここからも、断りもなくキスをしてくる2人の男との交流は続き、そして夏休みには この仲良しグループで旅行に行くらしい。危機感が無いというか、お花畑の中を生きている…。