《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

今更 4年前のトラウマを爆発させる悲劇のヒロイン。でも お前も同じことしたよね…??

恋降るカラフル~ぜんぶキミとはじめて~(6) (フラワーコミックス)
水瀬 藍(みなせ あい)
恋降るカラフル(こいふるからふる)
第06巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

全巻重版中の大人気初恋ラブ!!初恋は両想いになってからが、1番甘くてでも1番難しい・・・?初デートでまさかの青人邸にお泊まり・・・ってどーなっちゃうの!?初めての両想いのキュンキュンとドキドキがつまった第6巻!

簡潔完結感想文

  • 初デートからの初お泊り回。無垢なヒロインの演出と、甘ったるいポエムに胃もたれ
  • 前作では「運命の人」扱いだった幼なじみの襲来。分かり切った未来が一番 退屈だ。
  • 不安になんてならない と言い切ったヒロインなのに、トラウマが再発して不安になる。

ロクでもない ヒロインだと再認識させられた 6巻。

『6巻』は当て馬とトラウマがヒロインを襲う。しかし どちらも両想い後に持ち出す話題ではない。島育ちのヒロイン・麻白(ましろ)の幼なじみ・橙太(とうた)が登場し、彼氏である青人(はると)と麻白を巡る三角関係になる。夏休み中、麻白は青人たち東京の高校生たちを長期間 帰省していたのだから、そこで橙太を出していれば、まだ彼は当て馬としての活躍を期待できたが、両想い後、しかも初デートの翌日に登場してきても何も起きる訳がない。ヒロインが彼との交際直後に別の男性に気持ちが傾くなんてビッチな描写、ヒロイン大好き・自分の作品世界が大好きな作者がする訳もなく、橙太の末路は火を見るよりも明らかである。青人との恋が「運命の恋」と言い切ってしまっている本書には交際後に何の期待も出来ないのは作者も分かっているだろうに。さっさと終わらせておけば作品の評価を下げることも無かったのに…。

そして当て馬よりも問題なのがトラウマである。交際から1か月も経っていないのに、麻白にはトラウマがあることが判明する。それが4年前の青人との約束が守られなかったこと。4年前、麻白の地元の島で運命的に出会った2人は、出会って2日目でキスをし、3日目の再会を約束する。だが翌日、雨に濡れたこともあり青人がカゼを引き、彼は麻白に会えないまま そのまま東京へと帰って行ってしまった。

どうやら そのことが麻白の心に大きな傷を負わせたらしい。4年前、青人と会えなかった時、麻白は「運命が消えて声が枯れるまで泣いた」という。日常を魔法のようにカラフルにしてくれた青人との恋、そして東京での再会、そこからの波乱の連続。物語は読者に息つく暇を与えない。

「運命の恋」と交際後のゴタゴタは相性 最悪。作者には交際編を割愛する勇気が必要だったのでは。

…が、今更 持ち出された麻白のトラウマを考えると、1つ納得がいかない麻白の行動がある。それが『3巻』で麻白が個人的な理由から、文化祭で待ち合わせをした青人を何も言わずに放置したこと。麻白は自分ばかりが被害者かのように振る舞い、今回 不安で押しつぶされそうになっているが、文化祭では自分が加害者になり、青人を傷つけたことを謝ってもいない。そこに気づいてしまってから、一気に麻白と、そのバランスの悪さをスルーする本書が気持ち悪くなってしまった。

思い返せば、このような作品の薄っぺらさに気づく場面は何回もあった。運命的な再会を演出するための麻白の転校も理由はないままだし、再会後に麻白を傷つける目的があって、作者は青人に嘘をつかせたのも気になる。仲良しの男女グループは、グループ内で恋愛問題が起きても あっという間に元通りだし、フラれた相手に恋愛相談をする厚顔無恥な麻白の姿も見た。1巻につき1つ、釈然としない場面があるような気がする。
それに加えて、ヒロインばかりが可哀想というトラウマの再発で、作者が作品全体を見通せていないことが発覚した。両想い後にトラウマ問題を出すことが決まっているなら、文化祭回で麻白は逃げない方が良い。逃げたのなら、トラウマを出して被害者面をするのを止めなくてはならない。だけど作者はヒロインを世界一 健気な女の子にするために、彼女の事しか考えていない。この辺が10年間の作家生活で作者が何も成長していないのではないかという部分である。


『6巻』の ほとんどは、初デートの喜び、彼カノでLINEをやり取りする楽しさなどが、甘いポエム風にして語られる。

初デートは青人が麻白のために選んだコース。愛されている実感に包まれ「まるで恋の宝箱を開けたみたい」。充実した1日を過ごし帰路についた2人だが、麻白の利用する電車が大雨で運転を見合わせているという。青人の路線は大丈夫らしく2人で青人の家に向かう。

麻白は青人の父親と姉と その子供に会う。早くもそれぞれが両家に挨拶し、ますます結婚の準備は万端です。出来れば青人の亡き母の仏前でも手を合わせて欲しかったが、麻白に そんな気が回る訳はない。子供のいる青人の姉だが旦那はいない様子。離婚なのか死別なのか、作者の中では裏設定があるのでしょう。でも きっと作者の事だから、作者の作品にはペット(人語を話す)が必須なように、小さい子供がいると可愛いとか思って出しているだけの気もする。


人の部屋に入った麻白はm4年前に交換したシーグラスを発見し、感涙する。その話で気分の盛り上がった2人はキスを交わす。両想い後の初キスですね。

電車はなおも動かず、麻白は青人の家に泊まることになった。初キスに続いて、交際後の初お泊り回。怒涛の展開である。しかも何と2人は同じ部屋で寝るという。青人の姉の策略でもあるが、麻白は相手方の家に来たのだから、何としても青人と別の部屋で寝るべきなのに、青人の姉にキスを見られた恥ずかしさから「いっしょじゃ だめ?」と青人と同じ部屋を望む。
そんな麻白に青人は「どーゆうことか わかってる?」と聞くが、麻白は わかっていない。ヒロインに こういう かまとと ぶらせるところが作者の苦手な所。ヒロインは純情で純白で ただ愛されていればいいという姿勢を感じる。

寝る前に再びキスをして2人の長いデートの1日は終わる。


日、麻白を家に送り届ける青人が見たのは、麻白に会いに上京してきた島の幼なじみ・島崎橙太(しまざき とうた)。橙太には橙(だいだい)の色が入っている。麻白・青人に続く、カラフル族の一員か。本当に麻白の事が好きな人は名前に色が入っているのかな。麻「白」を俺色に染めたい、という男性たち。ということは麻白にキスをした自由(みゆ・名字不明)は本気ではなかったということか。

麻白を好きな期間だけは負けない橙太。けど麻白が「運命の恋」の相手を青人に設定した時点で負け。

橙太は自称・麻白の婚約者。幼なじみの男性は、作者の前作『ハチミツにはつこい』だったらヒーローになれた人材。橙太と青人は、いきなり男性同士で互いにライバル宣言をする。ここでも麻白は蚊帳の外。橙太が麻白を自宅ドアに閉じ込め、男同士の会話は麻白には聞こえない。またヒロインが無自覚に愛される、という状況である。自由に続いて その恋を無自覚にスルーして幸せになるのか、それとも今回は自分で相手を拒絶する痛みを味わうのか、どちらになるだろうか。

青人は、橙太の前では自然体でいる麻白が気になる。だから また青人の嫉妬深さが発動する。逆に橙太は麻白の中にいつも青人がいることを思い知らされる。何をやっても愛されるヒロイン。実は橙太は4年前に麻白を傷つけた男を恨んでいた。その人物は もちろん青人なのだが…。

橙太がそれを知るのは、青人の部活の試合を見に行った際、姫乃(ひめの)と自由から4年前の麻白の初恋の相手が青人だと知る。自由は、『4巻』で姫乃に麻白の好きな人を伝えてしまったことに続いて、情報漏洩しまくり。もうちょっとスマートな人間だと思うが、作品に便利に使われすぎである。


際 数週間で「運命の恋」である青人との恋が崩れる訳がないので、当て馬は当て馬としか思えない。だが、ここで作者は麻白にトラウマを持ち出す。以前は青人の中学時代のトラウマで両想いを阻害していたが、今回は麻白側のトラウマで交際に波乱を起こす。
そのトラウマが、4年前、青人と会えなかった日は「運命が消えて声が枯れるまで泣いた日」になり、麻白に消えない傷を残したというもの。だから麻白は青人との幸福の中にも一抹の恐怖を感じるという。2回会っただけの人をあっという間に好きになり、キスをし、それを「運命」と言い切る麻白の方が恐怖の対象にも思えるが…。しかも両想い以後、「キミとの恋に不安なんてならない」と あれだけドキン、ドキンと胸を高鳴らせていたのに、急に不安になって情緒が安定しない。


LINEのIDの数字で翌日が青人の誕生日を知った麻白は誕生日デートをする約束をした。だが待ち合わせの時間になっても青人は現れず、4年前とは違い、連絡手段があるにもかかわらず、麻白の応答に返事はなかった…。

やがて雨が降り出し、麻白はトラウマが再発する。悲しみに動けなくなる麻白に、見守っていた橙太がバックハグをして麻白が好きだという。分かりやすい当て馬の、分かりやすい展開が続く。

橙太が彼氏になる訳がないので、私の注目は、この告白が、麻白にしっかりと伝わるかどうか。自由の時は、彼がキスをしたにも かかわらずチャラ男の自由のイタズラとして片づけられた。そうやって逃げないかどうかが注目。最初の告白以後、麻白がなにもしてませんよ、作者さん!