水瀬 藍(みなせ あい)
恋降るカラフル(こいふるからふる)
第04巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★(4点)
「『好き』なんかじゃ足りない この気持ちを なんて伝えたらいいだろう」
夏休み、麻白の育った島に遊びに来たみんな。麻白と青人の距離はぐっと近づき、青人は「麻白はオレの初恋です」と言ってくれて…。麻白はついに、夏祭りで青人に今の「好き」の気持ちを伝える決心をする。初恋がカラフルに染まる、夏祭りの夜。大輪の花火の下、麻白はついに告白を・・・!?
10代女子共感度NO.1!「ハチミツにはつこい」「なみだうさぎ」の水瀬藍が贈るこんな恋してみたい!ピュア恋連載第4巻です。
簡潔完結感想文
- 4年前、初めて君と出会った地で男女5人の お泊り回。この地で恋愛成就するのは必定。
- 友情も恋愛も崩壊しかけるヒロインだが、ヒロインが「大好き」と言えば問題は即 解決。
- 恋愛成就の前に、ずっと男女5人グループを継続させるための地ならしが必要で話進まず。
今回の内容で感動できる人はピュア、できない人は少女漫画の読み過ぎ、の 4巻。
これまで作者の長編を3作品 読んできた私がハッキリ言えるのは、作者の作品は両想いまでが面白いということ。そして その後の交際編はビックリするほど物語が陳腐だということ。
…ということで、本書においては この『4巻』までが面白い部分である。というか両想いの お膳立てが整った『4巻』の中盤から話の進みが目に見えて遅くなり、本来なら『4巻』の中で終わる話を無理に伸ばして巻が跨ぐように設計されている点から辟易した。今回は1巻丸々使って、両想い後に問題が起きないように丁寧な地ならしが行われている。
作者の中で大切なのは、両想いよりも、友情が壊れないこと、そしてヒロインが悪役に見えないようにすることなのではないか、と疑ってしまうほど、石橋を叩いて渡るような慎重さが見えた。
だが前者を大事にすればするほど、私は白けた。同じ人を好きになっても壊れない女性同士の友情は作者が描きたかったことの一つだろうが、その友情を感じられる場面が少なすぎて感情移入する根拠が不足していた。
作者の中では色々設定があって、転校生で都会に馴染めないヒロインの麻白(ましろ)と、訳あって保健室登校をしていた姫乃(ひめの)の孤独な魂が共振したのかもしれないが、読者、少なくとも私には、大したエピソードもなく2人は「友達」という言葉を使っているように見えた。恋の相談をしたから友達かもしれないが、互いに誰が好きかも言わない。お昼ご飯を一緒に食べたから友達かもしれないが、姫乃が留年していた話をしらなかった。
それは男女の友情に関しても同じ。今回、主人公たち仲良し設定の男女5人は1週間以上、主人公の実家に宿泊するのだが、その中には『3巻』でヒロインに強引にキスをした男・自由(みゆ)も含まれている。自由は麻白に好意を持っていたからキスをしたのだが、麻白が その行為と好意をスルーすることで、何事もなかったかのように お泊り回に参加している。本来は恋愛問題を抱えて脆いはずの男女の関係だが、ヒロインが繋ぎとめることによって5人は いつまでも仲良しグループでいられる。それが作者が大好きな理想の世界なのだろう。
それは上述した作者が大切にするものの2つ目に繋がる。恋愛問題でヒロインを悪役にしないため、ヒロインは「友達」を拒絶しないようになっている。例えば姫乃の場合、同じ人を好きになって、麻白が恋愛の勝者になることを麻白は姫乃に直接 告げない。直接 告げると彼女を意識的に傷つけることになり友情にヒビが入るから。だから友人を通して、やんわりと間接的に姫乃が敗者であることを悟らせる。これでも麻白は姫乃を傷つけたと自責の念を感じるが、それは麻白の無自覚のところで起こった「事故」のようなもので、麻白は悪くない。ただ好きな人に好きになってもらったのが姫乃ではなく自分だったというだけだ。
これは自由のキス問題に関しても同じ。麻白は自由の想いを受け入れられないことを拒絶しない。なぜなら自由の好意自体を無かったこととするから。
こうやって麻白は誰も傷つけず、かつ間接的に自分の恋愛のパワーを見せつけ、周囲の人を恋愛から撤退させる。無自覚に、そして平和に、私(麻白と作者)が大好きな みんなとの世界は守られる。その綺麗すぎる世界を前にして、私は感動するよりも、自分の心の汚さを見せつけられた。麻白は作中の人物を傷つけていないが、私の心をズタズタにしていく…(苦笑)
『4巻』は ずっと麻白が育った島での夏休み お泊り回。
水着姿の麻白にヒーロー・青人(はると)が何も言わないから麻白は不安になるが、実は照れていて、他の男にも見せたくないぐらい。そしてナンパしてきた男たちを麻白を囲むイケメン男子たちがビジュアルで圧倒し退散させる。どちらも少女漫画の定番ですが、中堅作家になった作者は こういう描写を使うことを恥ずかしく思わないのか。自分の過去作でも使ってなかったか、この場面。しかも本書では都会の女性は冷たいとしているのに、男性は地元の人の方がダサいとしているのが腹立たしい。
海で遊んでいた麻白と青人は突然の雨に降られ、2人は4年前に雨宿りをした場所に入る。そこで2人は互いに相手を「運命の人」だと思っていたことを知る。んー、なら青人はなぜ高校生での再会時に嘘をついたのか、やっぱり納得がいかない。最初の青人は恋愛禁止モードだったとはいえ、麻白を傷つけた訳だし。一気に恋愛モードになった青人は、過去の自分を全て水に流す、弁明モードでもある気がしてならない。綺麗な言葉で恋愛を演出している。それでも青人の言葉は麻白には刺さったようで、島滞在の最終日の夏祭りでの待ち合わせと自分の気持ちを伝えることを約束する。それまでに姫乃問題に決着をつけることが麻白の使命となるはずだったが…。
一方、姫乃は、噂で流れたのとは違い自由と麻白が後夜祭に一緒にいなかったこと、そして麻白が好きなのは青人だと聞かされる。青人が好きなのは麻白だと察知していたが、麻白の好きな人が青人だと この時 初めて知る。自由は もう少し賢い人で、人の好意を勝手に話さないようなデリカシーを持ち合わせていると思ったが、麻白に姫乃を傷つけさせないために、そんな役回りを作者から任されたっぽい。自由は全体的に行動がチグハグで可哀想。
その話を聞き、姫乃は雨の中、家を出ていく。それを自由は止めようとして、今度は姫乃の好きな人を知り、呆然となる。自由が呆然としたのは、何でも知っていると思った幼なじみの姫乃の恋を知ったからだろうか。だが納得できないのは ここで自由が姫乃を放置したこと。最終盤で姫乃に加えられた設定を考えると、自由は姫乃を力づくでも雨から守るのが当然だろう。それをしないのは、やっぱり姫乃の設定は後付けで、この時点では自由の気持ちも決まっていないからではないか。中盤と終盤の整合性の無さを感じる。
更に姫乃は、雨宿りをする麻白と青人の会話を盗み聞きし、2人が両想い間近なことを知ってしまう。これもまた麻白が直接 話さなくても姫乃に伝わるために必要なのだろう。麻白への過保護もいい加減にして欲しい。
麻白は自宅に戻り、姫乃が行方不明なことを知る。捜索しても出てこない姫乃。そして麻白は、姫乃が自分たちの気持ちを既に知っていることを知らされる。姫乃に自責の念を感じて、麻白は全力で捜索する。
良かったのは麻白が姫乃との話を進める順番。まず姫乃との関係を最優先にすることで、姫乃を惨めにさせていない。まぁ意地悪な見方をすれば、姫乃に大好きの先制パンチを食らわせることで、姫乃に麻白を悪く言えなくしたとも考えられるが。こうして麻白の「大好き」で全てが水に流されていく。一度、恋愛解禁前の青人に拒絶されたとはいえ、麻白の人を好きな気持ちは必ず届く。恋も友情も全てが上手くいく初恋ワールドの完成である。
ここから、私たちはズッ友だよ!と姫乃がどれだけ大切か、ということが語られるが、『3巻』同様、言葉上・作品上の友達としか感じられない。あっという間に仲良くなった男女5人グループだが、その仲を深めるエピソードとして今回のような旅行が必要だったのではないか。序盤は姫乃を保健室登校にしてしまったため、学校イベント(遠足や文化祭)で関係性を深めるエピソードが作れないのが足枷にもなっている。
恋愛が原因で友情が壊れかける危機だが、それよりも友情が上回り、2人の間に遺恨は残らないという流れにしたいのだろう。作者が描きたかったのは この場面で、作者は ここを感涙必至の場面と思っていそうで怖い。作品の人気が出なければ構成など話の作り方を改善するのだろうが、人気作家になってしまったため成長が見込めない。
こうして姫乃問題は解決し、あとは両想いを待つだけとなった。だが主に商業的な理由があって『4巻』中で両想いにさせないで足踏みをさせる。
4年前の青人から貰ったシーグラスで作ったブレスレットは壊れたが、今回、新たに青人からシーグラスを貰い、麻白の初恋は再生する。
夏祭り当日も最初はすれ違ってばかり。
そして青人は まず姫乃と2人で話をした。青人は自分の気持ちを正直に姫乃に話し、そして姫乃を「友達」認定する。姫乃にしてみれば傷口に塩を塗るような行為だが、こうしないと作者が設定する仲良し5人グループに しこりが残るからだろう。ここでも友情を堅持したいのは作者自身という気がして辟易する。
しかも姫乃も恋愛の敗者にせず、次の恋愛のフラグを早々に立てる。このまま このフラグを成立させれば良かったのだが、何だか変な回り道をするのは後半の話。
こうしてヒロインが悪者にならないように十全の注意を払うことで、ようやく麻白の恋が解禁される。麻白は高校生になって初めて、青人に好きだと言えた!!