《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

話し出すと止まらないし、言ってることもズレてるけど、確かに届く言葉たち。

お迎え渋谷くん 4 (マーガレットコミックス)
蜜野 まこと(みつの まこと)
お迎え渋谷くん(おむかえしぶやくん)
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

想いすぎてる気持ちのせいで愛花と渋谷くんは絶望的にすれ違い中…だけど光が──
保育士の青田愛花(28)のことが大好きなピュアすぎる若手俳優の渋谷大海(21)。様々にアプローチするも、想いが重すぎる故に愛花には伝わってるような伝わってないような…。そこに登場した愛花の元彼・大崎達也(通称:たっちゃん)。たっちゃんとの仲を誤解しすぎた渋谷くんは、落ち込んだまま俳優仲間・神田と京都へ長期ロケへ。悩みすぎた渋谷くんの背中を押してくれたのは─。

簡潔完結感想文

  • 現実から逃避するための長期ロケで遠距離片想い。この辺からタイトル詐欺が酷い。
  • 俳優2人がストレスを抱え限界を迎える中、ヒロインは平和な日々。成長がないなぁ。
  • この頃から作者の渋谷の捉え方に違和感を覚え始める。ストレスは平和の大敵だよ…。

子高生ヒロインの方が100倍努力してるよ、の 4巻。

ヤバい。両想いである。少女漫画を読んでいて一番 嬉しい場面である。だが、本書はヤバい。両想いと同時にヒロインの愛花(あいか)何もしてないまま、年下イケメン俳優・渋谷(しぶや)に好かれるだけの お花畑漫画だということが露呈してしまった。序盤こそ職場の保育園で癖の強い同僚に翻弄され、仕事を抱え ストレスを溜めていたけど、渋谷に会ってからというもの愛花は何の成長も見られない。私は「Cocohana」掲載作品を読むのが初めてなので、えっ、20代以上向けに描かれた作品ってヒロインが何もしなくても幸せになるって内容なの⁉ と思ってしまった(多分 違う)。こんなにもヒロインが何もしないのは高校生ヒロインの作品でも滅多に ないだろう。一応、愛花の恋のライバルポジションにいる人はいることは いるのだが、彼女がそれを認識することなく、いつの間にか4人のイケメンに囲まれた 乙女ゲームのような生活が始まっている。

今回、遠距離片想いのような状態になるのだが、その後に両想いになる展開を用意するなら、この別離の間に愛花・渋谷の双方を成長させるべきだったのではないか。渋谷の方は自分の過失を認め、強くなって愛花に会いにくるが、愛花と言えば妄想の世界にいるだけ。もしかして愛花が元カレ・大崎(おおさき)の甘い誘惑をキッパリと断ち切ることが彼女なりの成長なのかもしれないが、別に彼女は それで心を痛めていない。恋をすることで傷ついている男性たちに比べてヒロインは実家暮らしを満喫しているだけとしか思えない。

遠距離片想い中に描かれるのは四角関係の解消。それぞれに別の人ではなく、その人を選ぶという意志決定が見られた。

だが ここで描くべきだったのは愛花の自分改革だったのではないか。恋の方は読者のためにも受け身でいれば幸せになる お花畑展開でも良いが、渋谷のいない生活の中で彼女は自分を鍛えるべきだった。例えば癖の強い同僚と仕事のやり方を話し合い、保育園や職場をよりよい環境にするなどの彼女自身の成長があったら良かった。ここで嫌な思いをしてでも彼女が自己主張できるような強さが描けていれば、その見返りとして渋谷との両想いがあるとカタルシスが生まれただろう。
だが実際の愛花は、渋谷に会いたい、声が聞きたい、電話が切れた、いつ電話して良いのだろう、と悩むぐらいで、男性たちが大粒の涙を流しているのとは全く釣り合わない平和ボケした悩みを抱えるだけ。

この辺りから、どんどん『お迎え渋谷くん』という書名から離れてしまう。同時に愛花が保育士である必要性もなくなっていく。俳優と知り合うキッカケとして保育士を利用しただけで、愛花が仕事や生き方について模索しようなんて作者は考えていない。保育園に軸を置いて、子供の成長と愛花の成長、そして毎日の渋谷との交流を丁寧に描けば話は もっと心温まる内容になったと思うが、作者は世界観やキャラの性格や思考を どんどんと捨てていく。

幸福なはずの恋愛成就から見えてきたのは、恋愛しか描くことのない本書の薄っぺらさだった気がする。


てそうにない大崎というライバルがいることを知った渋谷は泥酔し、逃避に走る。そして愛花と会わないように3か月以上の長期ロケのある映画の出演をする(特に映画の撮影ならオファーは大分前にあって、渋谷の心理状態で選ぶようなことは出来ないと思うが…)。
そして自分の都合を優先し、妹の保育園の送迎も放棄した。この心理状態も渋谷の極端な性格を表しているのだろうか。妹を溺愛しているから自分で背負った役割なのに、こうやって自分の都合で放棄する。段々 渋谷がヤバい人間になっていると思うが、これが作者の狙いなのだろうか…。
この後の展開もそうだが、結果だけをドンと示して、その過程を一切描かないから読者は とてもモヤモヤする。細部まで神経の行き届いたエピソードの拾い方に読者は胸を打たれるものなのに。


学生だった20歳の神田(かんだ)と30歳の女性・田町(たまち・また山手線の駅名)のエピソードは、容姿や社会的立場が違い過ぎるカップルが上手くいかなかった例示だろうか。愛花と渋谷では絶対に描けないアンハッピーエンドを描き、神田が何事にも本気にならない性格になった経緯を表現する。

そして募るばかりの2つの恋心が、2人の男性に限界を迎えさせる。遠距離になってから渋谷は ろくに寝ていない。撮影は体力と気力でもってるが、精神は限界を迎える。2人は互いの連絡先を知らないから、相手のことを想うしか出来ない。
泥酔事件といい、遠距離といい、渋谷の心にストレスをかけてはいけない、という伏線なのだろうか。ここにきて作者が渋谷を、急にワーッとなっちゃう人として渋谷をとらえ始めた感じがする。

ストレスから逃げるために選んだ道が新たなストレスを生む。渋谷くんは 新しい環境が苦手です。

一方の愛花は、上述の通り、保育園での描写がないので ただプラプラしているように見える。元カレと遊んだり、深夜1時になって家に帰ってきたりと実家住まいの独身生活を満喫しているだけ。男性陣2人の方が真剣に恋をしているので、この際 BLエンドでも良かったぐらい。

そんな時、元カレの大崎から再交際を申し込まれる。結婚を前提とした お付き合いを大崎から提案されるが、愛花は「好きな人がいる」と即座に断る。これは愛花にしては即断即決で、自分の意思をハッキリと示した場面だ。ここで大崎をキープするようなことをしたら本気で嫌いになっただろう。

自分の意思を示した愛花に ご褒美のように渋谷から連絡が入る。渋谷は神田の傷口に塩を塗るように彼に恋愛相談をし、彼から愛花の連絡先を入手していたのだ…。


して神田の心も限界を迎える。自分の心を騙そうとして愛花と渋谷の恋愛成就を後押しするような行動に無理が たたった。
溢れ出す感情と涙を渋谷に見られ、ヒロインのように相手から逃げ出した神田。そして翌日、改めて顔を合わせた2人は神田の恋愛相談が始まる。そこで聞いた神田の好きな人の名前を知って渋谷は泣く。自分がどれだけ彼の心に負荷をかけたかを理解したからだろう。基本的に優しいし、感受性が豊かなのだ渋谷くんは。
号泣する渋谷を神田は呼び寄せ、デコピンを食らわせる。それは神田なりの けり の付け方だろう。

愛花は嬉し泣きしかしないが、男性たちは自分や相手の心が傷ついていることを自覚して泣く。尊い

がエゴイスティックなものだと神田から学んだ渋谷は撮影現場から去る。恋を応援してくれるマネージャーのお陰で休みを確保できた。

渋谷が自分に会いに来ても鈍感を通す愛花。この時、愛花が渋谷の細かい仕草に いちいちショックを受けるのは、この後の幸福のための前振りだろう。感情の落差が大きいほど胸キュンは生まれるのです。

ただし渋谷が直接的に好きと言わないので愛花には伝わらない。
自分の意見をハッキリと言えないのは渋谷の欠点。小学校時代からの回想でも どんどん渋谷が孤独で癖のある人間に描かれていく。作者は ある種の障害を持っている子として渋谷を描いているのかな、と思うほどである。元々 変わっている子ではあったが、変わっている子の描き方が作中で どんどん変わっていっているように思う。

けれども渋谷は秒で進化する。傷つけてしまった神田のためにも、自分の気持ちを表現する。男性たちの交流の方が熱い。
「話し出すと止まらない」渋谷は「好きです」と言った後から言葉が止まらない。中には「言ってることもズレてる」発言もあるのだが、愛花の心には しっかりと届く。

だから愛花も自分の気持ちを しっかりと伝える。こうして色々な人の協力があり、色々な人を傷つけて2人の恋は成就する。実を言うと、私は この後の展開が嫌いである。この『4巻』で完結して欲しかった。この後の感想文を書くのが嫌だなぁ。逃げ出したいぐらいのストレスである。