《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ずっと順番を間違う渋谷だから上手くいかないだけ。求婚の前に まず求愛しないと!

お迎え渋谷くん 2 (マーガレットコミックス)
蜜野 まこと(みつの まこと)
お迎え渋谷くん(おむかえしぶやくん)
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

イケメン若手俳優なのに、こじらせ片想い中。中味残念渋谷くん 今日もお迎えです!
若手俳優・渋谷大海(21)は、保育士の青田愛花(28)を好きになってしまい…。ほぼ初恋の渋谷は愛花へのアプローチの仕方がわからず残念なかんじに…。ライバル俳優・神田やマネージャー品川も巻きこんで渋谷の片想いはどうなっていく…!?

簡潔完結感想文

  • 誤情報で勝手に落ち込み、顔が近づけば無断でキス。壊れ気味の渋谷くんに翻弄される日々。
  • 危ういメンタルの渋谷くんが「素人童貞」なのは、渋谷を さかのぼり嫉妬から解放するためか。
  • 周囲の誘いがあって初めて同じ空間に いられる2人。偶然に頼っていられるのも時間の問題。

スから何かが始まったり、何も始まらなかったりする 2巻。

今回のタイトル通り、21歳の俳優・渋谷(しぶや)くんは順番が おかしい。「半寝状態で生きて」るからなのか、人生(交際)経験がないからなのか、自分の胸に湧き出た気持ちそのままに行動してしまう。その意味では渋谷はヒロイン・愛花(あいか)の仕事・保育士が成長を見るような幼児たちと変わらない。
もしかしたら渋谷が愛花に惹かれたのは、自分でも もてあますような突発的な行動をしてしまう自分にも嫌な顔一つせずに対処してくれることを本能的に見抜いたからかもしれない。愛花の大きい胸には母性が詰まってそうですもんね。子供よりも自分を優先して生きているように見える渋谷の若い母(39歳)よりも、自分より相手を優先する愛花は男性が甘えたくなるような女性なのではないか。

そして愛花の保育士という職業が この恋愛の停滞を演出している。愛花の倫理観では保育士と保護者が交際することは絶対にダメらしい。よくよく考えれば、愛花の考える保護者とは園児の親であり、既婚者という想定だろう。保護者というより ただの兄である渋谷との交際を強く咎めるような人間は、園関係者の中にも いないのではないか。

渋谷が愛花と幸せになる未来のためには、彼が物事の手順を ちゃんと踏まなくてはならなかった。しかし やや性格が壊れている渋谷には そういう順序立てや一般常識は学んでこなかった部分であろう。脚本があり、話の流れを把握しているのなら その人になりきれる憑依型の演技力を見せる俳優の渋谷だが、白紙の自分の現在や未来について感がるのは苦手分野なのだろう。

愛花が本気で障害を取り除く気概もなく、そして渋谷は間違った順番で愛花を翻弄する。だから恋愛が上手くいかない。本当はもう、お互いに胸を撃ち抜かれているのに それが伝わらないところがコミカルな場面となり、そして読者の応援要素の一つとなる。

冷めた視線で作品を見る私には 所々 読者を喜ばす場面ばかりが続くのは浅はかに映る。例えば今回、愛花は もう一人の俳優・神田(かんだ)にメモを渡され、そのメモの住所の場所に向かうと 神田とバッタリと遭遇。その住所を芸能事務所だと思い込んでいる愛花は神田の家に のこのこと入り、なぜか神田は すぐに高熱を出し、その彼の看病をするという展開となる。神田には病弱設定があるとはいえ、不自然な話の流れだ。28歳で都内で生きてきた愛花がタワーマンションとオフィスの見分けがつかないというのも どうかと思う。
本書は、愛花から何も行動せずに彼女が周囲から愛されるような構造になっており、それゆえに愛花は自分から動くような意思や思考力を持たない。夢を見たい現実に疲れた読者からすれば、トントン拍子に物語が進むのは読んでいて楽しいのだろうが、物語に深みが出ない。特に本書は世界観自体がしっかりしていないので、読み返すと あれっと思う場面が多く、キャラたちの行動について理解できる部分が少ない。呼んでも読んでも愛花には自発的な行動がないし、不思議という設定の渋谷は不思議なままなのである。

面白そうな雰囲気と展開を予感させながら、面白くならない。それはまるでテレビに出ていても人間性に惹かれない、顔と若さだけが売りの若手俳優のようなのである。

(右)から5分後には(左)である。一緒に過ごす時間を長くするためだろうが急展開すぎる。

回、読者を驚愕させたのは渋谷の「素人童貞」という設定ではないか。素人童貞、それはプロの女性とは性的行為をしたが、恋人など一般の人とは未経験の男性のことである。これは10代向けの少女漫画では まず出てこない設定ですね。同年代の高校生は風俗店に行けないですもんね…。

『1巻』で彼女がいたことがないという話が出ていた渋谷だから、普通に童貞で良いじゃない、と思うが、彼に一応の経験があるのは、この後の愛花の過去との釣り合いを取らせる意味もあるのだろう。すなわち、渋谷も愛花も「初めて」ではないことで2人が おあいこ になる。渋谷が童貞だと、まるで愛花の過去が「傷」や「罪」みたいになってしまう。だから互いに過去は過去として気にしない、という宣言なのではないか。

もし、渋谷が何もかも始めてだったら、彼の性格からいって愛花の過去が気になって仕方がないはずだ。「先生は したことありますか?」「俺は何人目なんですか?」とストレートに聞きそうな渋谷に、そういう詮索をさせないためにも必要だろう。

素人童貞という設定は、渋谷に愛花を傷つけさせないために必要で、風俗店に行ったのも仕事の一環に近い。何度もしている演技上のキスと同じように、渋谷に主体性のない経験の一つなのである。渋谷が本当に感情を昂らせるのは愛花だけ。そういうヒロインの特別性はしっかりと守られている。

愛花に出会うまでは渋谷は半寝状態。強く反対する気力もないから流されるままなのだろう。

2人はまだ、保育士と保護者という立場か、偶然の出会い以外で会ってはいない。まだ連絡先も知らない。何か理由があったり、周囲に助けられないと話すこともままならない。少女漫画としては年下イケメン俳優に少しでも迫ると肉食感が出てしまうのかもしれないが、渋谷の困った性格を見抜き始めたのなら愛花にも自分から動いて欲しいところ。
愛花は職場の人間関係に悩んでいるが解決しようとする努力も能力も見せないし、渋谷に関しても待ちの姿勢オンリー。少女漫画ヒロインじゃなかったら、かまとと ぶってんじゃねぇよ、と同年代の同性から蛇蝎の如く嫌われるタイプであろう。

ヒロインが ボーっとしてると恋愛も物語も勝手に進んでいく。それが物語の後半の、壊れていく展開を止められなかった原因の一つなんじゃないか。ご都合主義の展開は読者に受けるだろうが、それを優先するばかりに愛花に共感をする手掛かりに乏しい。