《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

こっ、この衝撃のラストは次巻でヒロインが聖母として降臨する前振りなんだよね…??

お迎え渋谷くん 6 (マーガレットコミックス)
蜜野 まこと(みつの まこと)
お迎え渋谷くん(おむかえしぶやくん)
第06巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

若手俳優と同棲生活! だけどふたりの邪魔をする居候が…。
保育士の青田愛花は年下若手俳優・渋谷大海と両想いから突然の同棲生活へ! 夜も一緒に過ごすということは当然…。だけど渋谷くんはとんでもない行動に出て…。幸せドキドキ同棲生活に邪魔者が登場して…。

簡潔完結感想文

  • 入院中の23話で私たちの好きだった渋谷くんは天に召されました。渋谷も作品も壊れた。
  • 創造神たる作者が、交際も家族もポンちゃんの恋愛も壊しまくる破壊神になって大暴れ。
  • 渋谷の溺愛は受けるものの、彼に何の影響も与えられない無能ヒロイン。こりゃ ダメだ。

様に愛された「お迎え渋谷くん」は「あたおか渋谷くん」へと改題します、の 6巻。

あたおか = 頭がおかしい。
ヒーローがここまで壊れる作品は滅多にない。少女漫画の最終盤は男性側のトラウマと相場が決まっていますが、ここまで事件性があり、精神的に病んでいる作品は見たことがない。そして以前から書いている通り、ここまでヒロインが何もしない作品も珍しい。交際 即 同棲した2人であるが、この同棲生活で分かったのはヒロイン・愛花(あいか)の無能さではないか。愛花は恋人で俳優の渋谷(しぶや)の変化を心身で感じながらも、彼のために何も動こうとしない。
作者は なぜ ここまで愛花に何もさせないのだろうか。『6巻』でも実家の問題と仕事の忙しさが重なり、様子がおかしい渋谷が風邪を引いたかもしれないと分かっているのに、彼に天ぷらを揚げさせている。家事は女性がやれ などと前時代的なことが言いたいわけではなく、そこに至るまでの経緯や配慮を描いてほしい。この日の食事を用意する場面を用意して、愛花が渋谷に休むように言っても渋谷は頑張ってしまう、という経緯が描写されていれば納得できる。ただ風邪っぽい描写があるのに、天ぷらを揚げた結果だけが描かれているから愛花の姿勢に疑問を感じてしまう。

作者は万事が こんな感じだ。『6巻』で問題になる渋谷の妹・音夢(りずむ)の問題も、同棲という結果だけを描写したからくる歪みで、読者としては何の前置きもないまま、飛ばしたはずの話題に戻されるから戸惑う。一度は切り捨てて、これから2人の恋愛の進展で読者を楽しませると思わせて、作品が渋谷を含めた一家の闇に囚われるから唐突な感じばかり受ける。

ラストの渋谷の行為への伏線は、再読すると何個か拾える部分がある。だが伏線が伏線として読者に意識されるような技量が足りないから、何度か読み返して、読者が自分で考えないと分からない。描きたい事と描いてある事が上手くリンクしていない。読者の意表を突く、読者が悲しむような展開を用意するなら、これまで以上に丁寧に話を進めなければいけないのに、とても乱暴に話が進む。そして ここから物語は心の問題という難しい話題に入っていくが、とても作者に上手に話を進められるとは思えない…。

しかし これまでも ストレスで、わ―――っと なっちゃうのは渋谷の特性は描かれていたが、まさか こんな彼の性格を利用するとは思わなかった。「あたおか」は「あたおか」でも生来の問題ではなく、後天的に「あたまがおかしくなっちゃった」渋谷なのである。愛花の描写もあんまりだが、渋谷もまた作者に不幸にさせられた人間である。


労で倒れた入院中の渋谷を母が見舞う。妹の音夢が元気がないらしい。父は、若い女性と不倫旅行をしているらしく家に帰ってきてない。渋谷が同棲を始めてから一家は壊れてしまったらしい。

渋谷が引っ越す時も、音夢には仕事だと ごまかしたらしい。それが違うと分かり、最愛の兄にも裏切られたことで妹のメンタルは壊れた。そんな娘の様子を見て、母は自分がいけないんだよね?、と言いながら渋谷に甘える。息子に向かって「女」を出していて、父とは違う意味で、いや同類の似た者夫婦なのである。

メンヘラは連鎖する。愛花との同棲は渋谷を解放する 良い機会だったが親の無責任が彼を実家に召喚する。

こうして兄妹3人は同じ家で暮らすことになる。渋谷の弟・太陽(たいよう)が この直前に登場したのは、兄妹3人を集合させるためだったか。だが太陽は無責任の象徴で、問題が渋谷の双肩に重くのしかかる現実のために必要だっただけ。いないなら いないで大丈夫な人なのである。
マネージャーに言われるまま同棲し、今度は請われるまま実家に戻る。渋谷という男は人の提案を拒否できないらしい。そして自分と、自分の周囲のことをコントロールする能力に欠けている。音夢の件については、渋谷もキチンと話さなければならなかった。


こからは渋谷にストレスがかかったことの表現なのか、髪色が黒から薄くなる。彼にとっては、頭が真っ白になる、白髪が一気に出てしまうぐらいの精神状態だったのかもしれない。
性欲も解放し、折しも性欲の制御装置であった手錠もないことで、愛花への求愛行動も激しさを増す。だが、その欲望も中途半端に果たされず、妹の世話をする二重生活が待っていた。21歳の彼は これまでも、そしてこれからもヤングケアラーとして生きているのかもしれない。問題は そのストレスから渋谷が目を背けようとするところだ。冒頭の入院も、自分が限界にある事が分かっていながらも我慢できてしまうから悪化した結果である。
そういう渋谷の特性を愛花は薄々気づきながら、何も行動しない。年長者として、言葉も喋れない子の体調を見抜く能力が必要な保育士としての彼女にはあって、しかもヒロインとしてはヒーローを最終的に救う役目があるはずなのに、愛花は本当に何もしない。渋谷の入院も自分が安眠していた結果であって、彼女はその時も渋谷の状態を認識しなかった自分を反省しなければならなかったのに、成長が見られない。


うして限界を迎えつつある渋谷は自分の誕生日に仕事終わりに立ち寄った事務所で、事務所の仲間に遊びに誘われる。誘いに乗るのは、彼が実家という現実から逃避したかったからであろう。

そして泥酔する。『3巻』の愛花の元カレ問題でストレスを溜めた時と同様に、彼はお酒に逃げる。そして今回は彼を制御してくれるマネージャーも神田(かんだ)も いない。だから渋谷は自分を解放する。そうして我慢しない自分を楽しんでくれる人もいて、そこに生まれた友情に渋谷の出口が見えるような気がする。

だが我慢をしない渋谷は、リミッターを振り切った事件を起こす。
この件に関して、男女の性行為が絡んでいるのは偶然ではないだろう。女性の制止を聞かず、自分の快楽を追求する男への鉄拳制裁、それは本能=下半身の命令のまま動く男性、すなわち彼の父親への嫌悪と重なったのではないか。

素の自分や本能のまま生きると周囲に迷惑がかかる。それが あの家で育った渋谷の経験則だったのではないか。

父の不倫 → 母のメンヘラ → 妹の不調、そうして一家の問題は連鎖していく。その結果が渋谷をヤングケアラーとして引き戻した。だから性欲をコントロールできない男、女性を悲しませるような男は渋谷にとって嫌悪の対象なのである。
渋谷の、結婚まで性交渉禁止という誓いも、自分が父親とは違うということを証明するために立てた誓いなのかもしれない。それでいて父と同じ血を継いでいる自分が、快楽に溺れるかもしれないという恐怖心がある。性欲の制御装置である手錠を失くした渋谷は、そんな自分の内なる衝動と戦っていたのかもしれない(そして愛花は何も役に立たない)。

事件当日のパリピな誕生日パーティーに男性しかいなくて落ち着く、という渋谷の発言も、男女の乱れた性や男を頼るような女性を見なくて済むという彼の安堵から来ているのかもしれない。が、VIPエリアの外では性欲のまま動く男性がいたため、渋谷は泥酔もあって嫌悪感が爆発してしまった。『6巻』は渋谷が わ――――っとなっちゃうまでの物語である。