《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインが複雑な家庭環境なことが多い少女漫画の中で、それ以上に家族に翻弄されるヒーロー。


渡瀬 悠宇(わたせ ゆう)
思春期未満お断り(ししゅんきみまんおことわり)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

血のつながりがないことがわかり、恋の障害が消えた飛鳥(あすか)と真斗(マナト)。だが、父・峻(たかし)が2人に告げたのは無情にも「H禁止令」。やりたい気持ちと秘密の恋を耐え忍ぶ2人だったが、キスシーンを隠し撮りされ、学園新聞に「禁断の恋」とスクープされてしまう。そのうえ、死んだはずの真斗の母まで現れて…!? 恋とHと友情と家族愛にあふれた「思春期未満お断り」、完結編も収録した完全版のフィナーレ!シリーズ完結巻!

簡潔完結感想文

  • 恋のライバル、部活のライバルが続々と登場し「姉弟」の2人の交際は公になっていく。
  • 少女漫画のラストは遠距離恋愛危機が定番。飛鳥が逃げ、真斗が追う展開ばかりが続く。
  • 完結編も すれ違う。物心つく前から思春期の今まで親の事情に振り回され続ける真斗。

年漫画っぽい本書が最終回に選んだのは、少女漫画のド定番、の 最終3巻(文庫版)。

続けて読むと、この飛鳥(あすか)と真斗(まなと)の主人公カップルは かなり面倒臭く見えてしまう。恋愛の成就や、父親の捜索など本編で軸となっていた物語が全くないから、「続~」では新キャラを出して、その人によって2人が すれ違いと和解を繰り返すという内容しか基本的にはないのが残念。その内容の薄さを補うためか、後半は毎回のように飛鳥が真斗、またはそれ以外の人間に愛撫されるようなシーンが挿まれるのが気になる。貞操の危機は分かりやすいヒロインのピンチなのだろうが、学校内最強の女性とも言える飛鳥が陥るようなピンチとは思えないから 白けるばかり。

他にも精神的な飛鳥の弱体化は進む一方で、つまらない意地を張っても謝れなかったり、自分だけが被害者のように立ち振る舞う様子は違和感を覚えた。ラストに向かうに従って、飛鳥が謝罪することはなく、真斗の方が寛大な心を見せるという一定の方向性が見えてしまうのも残念だった。
交際して以降は小気味良かったギャグやテンポが失われ、物語の湿度が高くなったのも惜しい。少年漫画の作風を そのまま持ってきたかのようなカラッとした人間関係が斬新だったのに、やがて少女漫画の文法に物語が呑まれていってしまった。

良かったのは、当初から飛鳥が望んでいた体育教師という夢と、真斗の夢が重ならないという大きな すれ違いの描写。これによって真斗が現在の家の籍から抜けることで、結婚の準備を自然に整えていった。
飛鳥の夢が物語を最初から最後まで貫く縦軸となり、それを守るために真斗の行動が決められるという点が一貫していて説得力があった。
本書が「続~」から「完結編」へと年数を空けて続いたのは、この伏線を十分に活用しなかったからかもしれない。「完結編」の存在によって初めて「続~」のラストに意味が出て、もう思い残すことはない真のハッピーエンドに繋がった。


盤は、それぞれにライバルが登場する展開が続く。『2巻』のラストで真斗の恋のライバルとは逆で、『3巻』は飛鳥のライバル登場で幕を開ける。
しかし真斗に恋をした後輩女性の純粋すぎる気持ちを知って飛鳥は、後輩と真斗との1回限りのデートを許す。だが飛鳥は下半身に正直な真斗を心配し、尾行することにする。真斗に そう仕向けるのなら、飛鳥は この日だけは心を強く持って無関心でなければならない。それなのに追うから誰もかもが傷つく結末になるのだ。

遊園地でのデートも終盤に差し掛かり、後輩は真斗に彼女の有無を聞く。世間的には姉弟となっている秘密の交際ゆえ、真斗はいないと答えるが、それをショックに受け、飛鳥は逃走をする。だが直後に転び、怪我をした所をヒーロー・真斗が本当のことを告白する胸キュンの場面へと繋がる。
ただし、その一連の行動で事情を察した後輩は傷ついてしまう。これは和沙(かずさ)を含めた3人の姉弟妹が恋人とそれ以外に別れた時と同じで、中途半端な自分の行動が人を傷つけたことを飛鳥は反省する。後半は物語に重複が多く、そして飛鳥が学習しないでヒロイン気取りなことに違和感を持つ。交際編を上手に続けるのは難しい。


いては「続~」になってから体操部と水泳部を兼部しているらしい飛鳥(その説明は一切ない)。体操部に入部する際にひと悶着あったように、水泳部でも彼女の居場所が奪われる。その原因は、「姉弟」の2人が不用意に路上でキスをした場面を写真に撮られ、校内に貼り出されてしまったからであった…。
教師たちから事情を聞かれた飛鳥だが、理事長選挙が近い父のためにも迷惑をかけられないので、この家族の秘密を語ることをせず、真斗と血の繋がりがないという真実を胸に秘める。なので2人の関係は許されないものとされ、真斗が罪を被り2週間の停学となる。そして噂が影響し飛鳥も水泳部を退部させられそうになる。

教師と生徒 または 芸能人と一般人の恋愛のように、姉弟の禁断の関係は十分にスキャンダルになる。

飛鳥が部活に励むのは体育教師になる夢のためで、大学への進学への足掛かりだから。だが自分たちの交際で その夢が絶たれそうになっていることを知った真斗は別れを切り出す。
そんな真斗の言動を知って、彼に反省を促すのが和沙。本当に良いコンビネーションの姉弟妹です。飛鳥も真斗も頭に血が上りやすいタイプなので、何か問題が起きたら周囲の家族や友人がしっかりフォローしてくれることで2人の交際は何とか続いている状況。

和沙の助言で頭を冷やした真斗は彼らしくない大胆な行動に出て、朝礼をジャックして学校中に真実を話す。この行動は中学の卒業式の飛鳥みたいだ(『1巻』)こうして全校生徒に知れ渡った騒動を父は理事長として収め、自分の責任を果たす。複雑な家庭環境の全ての原因は父親なのだから ここで見て見ぬふりをすることは許されないのだろう。いい加減な行動も一部あるが、血の繋がらない真斗を育てようとする心意気、そして飛鳥と真斗の出会いは父がいなければ なかったという功労者でもあるんだけど。


び真斗の恋のライバルが登場する話。しかし今度のライバルは男性ではなく女性。男性ならば拳を使った決闘も出来るが、相手が女性で真斗は対処に困るので手を出しあぐね、その隙に2人の女性の仲は急速に進んでしまう。
いわゆるLGBT問題をギャグマンガに利用するのは さすが1990年代といったところか。今なら絶対に こういうネタ的な問題の消費は出来ないだろう。
真斗の最後の行動は確かに格好良いが、話のオチが『2巻』の偽兄騒動と同じ。これで笑いが取れて、話がオチているとするのも前世紀の作品ならではの価値観である。


沙のライバル話を挿んで、「続~」の最終話は2人の将来について語られる。大学の推薦を貰えそうな飛鳥と、将来が決まらない真斗。
その代わり、2人の目標としては春になったらツーリングをすることが決まる。真斗は最近になって免許を取ったが、飛鳥は無免許なことが発覚する。1話の初登場からバイクに乗っていた飛鳥だが、何と免許を持っていないという これも21世紀では許されない描写か。こうして飛鳥は免許取得が一つの直近の目標になる。

そこへ真斗の実の母から、彼らの父・矢城(やしろ)へ連絡が入り、親たちは再会する。その現場を飛鳥は見てしまい、真斗と離れる危機がある事を知る。

確かに真斗の父は死亡が伝えられていたが、母は不明。作品の盲点を突いて、物語が大きく動く。

その考え通り、真斗の母は息子を引き取ろうと考えていた。真斗は親とは両親ともに死別したと思っていたが、実は3歳の時に離婚し、母は海外に在住していた。母は夫が離婚後に すぐに施設に預けて事故に遭ったことを知らずにいたから、これまで放置していた。この辺は、飛鳥の父・矢城と同じで事情があって子供の存在や現状を知らないということらしい。
それにしても真斗の父は どうして息子を施設に預けたのか。育てられないのなら最初から元妻に託すなどすればいいのに。真斗の父で故人だから悪く言いたくはないが、実に勝手な生き方である。

母と再会してから心ここにあらずの真斗を心配し、飛鳥は単独で真斗の母親に会いに行く。そして そこで、真斗と飛鳥が本当は血の繋がっている異母姉弟であることを告げられ…。
これは物語を振り出しに戻す爆弾発言である。もしかして2人が性行為に及ばないのも禁忌を犯さないためなのかもしれない。もし このまま異母姉弟設定だったら本書は大きな話題と、読者からの大きな反感を買っただろう。だが これは真斗の母親が息子を奪還するために ついた嘘だった。

だが、飛鳥はその話を信じ、姉として真斗に接し、そうするしかない現状を真斗に八つ当たりをしてしまう。そこから2人の仲は修復することなく、真斗も飛鳥から姉弟である可能性を聞き、2人は互いを忘れるために別離を選ぶ。
今回の騒動は大きいが、一度すれ違ってしまうと最後の最後まで仲直りを出来ない2人には進歩を感じない。少女漫画としては仕方ないのかもしれないが、将来的にも長期間 家庭がギスギスした雰囲気になりそうだ。

こうして とんとん拍子に話は進み、真斗はアメリカ行きを決意し、出発の日が近づく。別れの悲しみから飛鳥は家出(本編の最終回と同じメンタルと展開である)。飛鳥を捜索する真斗は母の所にも寄り、事情を知った母は自分の嘘を懺悔する。うーん、訳あり一家に必要なのは、しょうもない親なのか…。

飛鳥がいたのはバイクの教習所。騒がせた割に地味な場所での発見だが、飛鳥にとって免許の取得は真斗との約束を果たす、一番近くの目標で、その約束のために動けば離れなくて済むと考えたのかもしれない。

こうして姉弟疑惑を乗り越えた2人は心も体も結ばれる。
驚いたのは真斗が結局アメリカに行ってしまうこと。誤解が解けたのなら行く必要もないように思えるが、真斗が家を出ない限り、2人は戸籍上の姉弟であることは変わらず、将来の約束が出来ない。結婚するために、真斗を他家に出す必要があったのだろう。

最後に2人は結婚を約束し、遠距離恋愛の道に進む。ハッピーエンドだが距離的に離れたまま終わるというのは珍しいパターン。やはり それだと納まりが良くないからなのか、「完結編」は「続~」終了から約6年後に単行本が発売されることになる。


距離恋愛が始まって1年、飛鳥たちが高校を卒業する1週間前から物語は始まる。
卒業間際に真斗が転入生として登場し、学校は騒然。皆で真斗の帰国を祝い、浮かれている所に、金髪美女のシンディが登場し、一波乱ありそうな予感。彼女は真斗の母親の再婚相手、つまりは真斗の義父の連れ子。彼はアメリカでも血の繋がらない女性と同居をしているらしい。
完結編になって飛鳥が本編でアキレス腱を痛めたことに言及するのは、作者が読み返して記憶が戻ったからか(「続~」ではスルーされ続ていたのに)。

真斗は飛鳥に結婚の約束を果たそうとする一方、これからの進路はアメリカの大学で学び、義父の立ち上げた事業を手伝うという。それは日本への帰国をしないということで、1話からの夢だった体育大学に進学する飛鳥とは道が交わらないということでもあった。

その話を聞き飛鳥は またも彼を突き放すような態度を取る(既視感ありあり)。そして気まずいまま卒業式当日を迎えるが、シンディから その日に真斗はアメリカに戻ってしまうと聞かされる。そして本当は真斗は飛鳥をアメリカに一緒に連れて帰るつもりで日本に来た。だが真斗は飛鳥が夢を叶えるためにした努力も知っているために、それを口にすることが出来なかったのだということも。

飛鳥は真斗への態度を後悔しながらも、自分の夢を捨てることは出来ない。その2つの気持ちを抱いたまま卒業式に挑む。

飛鳥は式の後、父親である矢城から、真斗がアメリカでの進路を選んだのは義父に心臓の欠陥が見つかったからだという話を聞かされる。親孝行するために自分の意思を曲げたのであって、飛鳥との将来を考えてない訳ではなかった。…にしても真斗の周辺は不幸ばかりが続くなぁ。親たちの離婚や病気、事故が彼の人生を大きく変えた。

事情を知った飛鳥は真斗に謝罪と自分の気持ちを伝えようとするが、時すでに遅し。だが そこへ真斗自身が学校へ戻ってくる。母や義姉に許可を貰い、自分の大切なものがある日本で暮らすことにした。

そして飛鳥の親である矢城に娘さんを下さいというのであった。

現実的に考えると、真斗は進路がなくなったことになる。優等生の彼だから進学先には困らないだろうが、これまで同級生だった姉、そして妹までもが先輩になってしまうのか。その辺の細かいことは置いておいてハッピーエンド。本書はそういう力技で乗り越えてきた作品である。そして「続~」では遠距離のままであったことが座りが悪かったので、今回は2人が同じ場所にいるというのは定められた結末と言えよう。