《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

白泉社作品の男性は、成績トップが存在価値の、地位で判断される修羅の世界を生きる。

執事様のお気に入り 13 (花とゆめコミックス)
伊沢 玲 + ストーリー構成・津山 冬(いざわ れい・つやま ふゆ)
執事様のお気に入り(しつじさまのおきにいり)
第13巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

卒業を間近に控えた庵と隼斗。そんな中、ロード&レディクラス生の菱川に隼斗がスカウトされる。当然断る隼斗だが、庵に「悪い話じゃない」と言われて激怒、大ゲンカに!! 最悪ムードのまま、卒業式当日を迎えた2人は…⁉

簡潔完結感想文

  • なぜ家柄や将来が安泰な彼らが努力を続けられるのか、を丸々1巻つかって描く。
  • 戦友にして親友。同じ寮で暮らした3年間は、彼らに間違いなく絆を育んでいく。
  • 執事学校のイベントは誰かの妨害が入って、いつも つつがなく進んでくれない。

紙の通り、男たちの世界を描いた 13巻。

『12巻』の感想文で おそらく新年度までが平穏な時間と書いたが、『13巻』は2月~3月の話で年度が終わるまでが描かれている。
新年度からは嫌でも良と伯王の話がメインになることもあって、『13巻』は1話だけ良(りょう)と伯王(はくおう)のメインカップルの話があるが、4話中3話は、しばらくは描けそうにない執事たちの話を描いている。そして その話の共通点は彼らが毎日 努力を重ねて生きていることであった。

今回の執事クラスの話では、恋愛関係にある良たちと違って、表立って好意を示すことこそしないが、間違いなく通じ合う男たちの関係が描かれていた。伯王と仙堂(せんどう)、庵(いおり)と隼斗(はやと)、各学年のトップ2組4人の言葉にはしない同士・同志としての連帯感によって、恋愛描写とは違う種類のニヤニヤが抑えられない。
彼らの共通点は自分を高めたい、ということ。その共通点があり、そして身近で見ていて少しも手を抜かない人が傍にいるから、その刺激が自分の活力になる、という好循環が生まれる。ライバルは倒さなければならないようなイメージがあるが、真に倒さなければならないのは弱気になりそうな自分であろう。そんな自分を奮い立たせるのが、隣で自分に負荷をかけ続ける人。
今回のタイトルで成績トップこそ存在意義、みたいなことを書いたが、それは飽くまで努力の結果。彼らは それを目標にして生きている訳ではない。だからこそ その姿は清々しく映る。

努力の成果か、「作者様のお気に入り」になったからか、仙堂が伯王と並び成績トップになっていく。

男性たちが専門性を高め、1日の大半を自己研鑽に費やしている反面、女性たちは かなり穏やかな、ゆったりとした時間を生きている。今回の良は出番が少なめということもあり、バレンタインデーのチョコを作って、渡そうかどうかを死ぬほど悩むぐらいしか活躍の場面がない。伯王が放課後に跡継ぎとしての知見を広めに関連会社を回っているのとは対照的だ。仙堂が努力を重ねる動機となる真琴(まこと)お嬢様も お花を活けているぐらいである。
この男女の非対称性は少し気になるところ。今後、良は否が応でも自分の生き方を模索し、周囲に対して胸を張れる生き方をしなければならないのだろうが、基本的に女性は将来的な目標を持っていないし、自分が社会に出て責任を果たすような思考も持っていないのが気になる。
伯王の姉・碧織衣(あおい)も第一子の彼女が跡継ぎになる可能性は最初から排除されていて、享楽的に生きているような描写しかない。男性側を優秀にして、そんな人に愛されるヒロインの姿と自分を重ねる読者を陶然させる目的かもしれないが、何だか男女の格差が広がる一方な気がしてならない。社会で大きな役割を果たすのも、それを支えるのも男性だ、と言っているようである。女性も活躍して欲しいが、庶民ヒロインよりも優秀で社会的地位のある女性が出たら、物語がブレてしまうのだろう。食いしん坊で勉強も苦手、ドジで転びやすい、だけど お菓子作りは得意なんだ☆、という数十年前から存在するようなヒロイン像が通用する少女漫画界の将来が心配である。


49話。水と油で反りの合わない伯王と仙堂だが、根幹は同じで、自分に厳しくしても叶えたい目標がある。そんな2人の連帯感を示した話。
…が、上述の通り、男性を格好良く描けば描くほど、女性の呑気さが際立つような気がしてならない。少なくとも序盤の良は、勉強を伯王に見てもらうことを良しとしない女性だったはずなのだが、執事様を目立たせるために堕落していった感じが否めない。


50話。2年目にして初のバレンタイン回。去年は食べることをメインにしていたらしい良だが、今回は伯王と交際して初ということもあり、気合いを入れてチョコを用意する。
良はバレンタインのチョコ作りに悩み、また、女生徒間での伯王の人気が高いことにも頭を悩ます。そして自分と彼女たちの経済格差を見せつけられて気後れしてしまう、というのも白泉社作品ならではの展開(別の作品でも見た)。答えは一番最初に伯王が言っているのに、余計な考えが頭に浮かんで悩んでしまう良の空回りが始まる。まぁ良の気合いや空回りこそ伯王を誰よりも好きなんだ、という証明なんだろうけど。


51話。総代(トップ)として卒業を間近に控えた隼斗に執事として働かないかという、他家からの勧誘がある。それを断り続け疲弊する隼斗だったが、庵が受諾するよう水を向けたことから2人の関係にヒビが入り…。

卒業後、庵たちは専門的に学ぶらしいが、それが どんな場所なのか学校なのかも不明。変に専門的な高校を用意したから卒業後の進路も限られて、普通の大学には進めなくなってしまった。作品の方も具体的な進路は考えてないだろうから、変にボヤかした進路で想像がつかない。

伯王の両腕として執事が2人いる意味が語られる。もうちょっと隼斗の有用性を描いて欲しかったが…。

52話。険悪な関係のまま卒業式当日を迎える庵と隼斗。総代として卒業式の答辞など挨拶をするはずの隼斗が、隼斗を執事したいと要望していた家の者に監禁されてしまう…。

自分の思い通りに物事が進まないと、相手を拉致監禁するのは『8巻』の真琴登場の話と同じ展開。そして本書のイベントにはトラブルが付き物。自分たちの陣営を勝たせたくて嫌がらせをするのも本書での一種のパターンである。本当に本書のアイデアの幅は狭い。悪役を用意して主人公たちサイドの人間を格好良く見せようという手法も飽きた。

犯人像だけは少し面白く、隼斗を狙った理由は彼にとって苦いものであった。今回も真琴の時と同じく、割と重めの罪だが不問に処して対応する。これも主人と執事の一つの関係ということか。イメージとしては今後、伯王の進路を邪魔する者を庵が こういった犯罪すれすれの行為で排除していきそうな気がする。その時に性格的に悪いことは出来ない隼斗が庵の心のバランスを保持しそうである。

庵と隼斗、2人の関係は良と伯王に似ている。お互いが刺激になり、お互いが支えにもなる。相手の努力や生き方が自分へも影響していく。実は主人1人に、同じくらい優秀な執事2人が就くことは切磋琢磨しあえる良いシステムなのかもしれない。3人寄れば文殊の知恵だし、三角形は安定しているし。

彼らが卒業することで、卒業前から単独行動をしていた伯王は本当に独力で何事も解決することになる。そして年度が変わって、学校へ入学してくるのが『12巻』から本格始動した紗英(さえ)である。