《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

思春期未満な日々を過ごしたヒロインも、この生年月日だと2022年現在 48歳になってるのか…。


渡瀬 悠宇(わたせ ゆう)
思春期未満お断り(ししゅんきみまんおことわり)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

天涯孤独の16歳・樋口飛鳥(ひぐちあすか)が上京したのは、まだ見ぬ父に娘と名乗りをあげるためだった。亡き母に導かれるように出会った真斗(マナト)と和沙(かずさ)は、なんと飛鳥の異母弟妹。むりやり2人の家に居候を決めた飛鳥だったが、肝心の父は真斗と和沙にもいまだ姿を見せない謎のロクデナシであることが明らかに。ひとつ屋根の下で暮らす3姉弟妹の前途に、思春期男女のあぶない予感が!?

簡潔完結感想文

  • 30年の時間が経過しても読める少女漫画はギャグ描写が秀逸なものが多い。
  • 異母姉弟ではないと分かった途端に恋に落ちるヒロイン。家族は異性になる。
  • ノーヘル無免許バイク、飲酒、他校との喧嘩。コンプラなんて概念がない時代。

の後、少年誌でも連載を持つ作者の少年漫画っぽい少女漫画、の 1巻(文庫版)。

本書は1990年に『少女コミック』で連載された作品。これまで私が読んだ作品の中で一番古いかもしれない。作者が1989年にデビューしてから それほど時間が経っていないが、美しい絵と ギャグを挟みながらグイグイ読ませる構成力が備わっている作品。これだけのものを描いていたのなら驚異の新人と言われたことだろう。『ふしぎ遊戯』が最大のヒットだろうが、その他の少女漫画作品も ちゃんと面白いことに改めて感心してしまった。

この連載の中で急速に絵が進化したとかでもなく、最初から作者の絵が完成している。そして単純に面白いので、30年以上前の作品ということを それほど時代を感じずに読めた。気になる点は、まだ若い作者のセルフツッコミ(そして手書きの文字は読みづらい)と、元ネタが分からない その時代ならではのギャグぐらいか。

そして最も気になったのは登場人物たちのプロフィールである。ヒロインの樋口 飛鳥(ひぐち あすか)は作中で16歳という設定なのだが、彼女の生年月日は しっかり設定されていて、1974年07月28日とある。これは2022年11月の現在だと、彼女は48歳。完全に現在の少女漫画のキャラや読者の親世代である。そう考えると本書は比喩ではなく本当に親子二代で読むような作品になるのか。現在の作品なら20XX年などと明確な生年月日は書かないだろう。それだけ少女漫画は雑誌や新刊で読んでいる人だけでなく、後年の読者を意識するようになったということか。しかし20XX年には約100年の違いがある。19XX年の100年間の歴史の動き、時代や科学の進歩を考えると、とんでもなく大雑把な設定に思えてくる。

ママの誕生日と一緒だ~、と驚く21世紀の読者もいるかも。飛鳥は体育教師をしてるのかなぁ?

本書は基本的にギャグ路線で、特に この1巻収録分は恋愛要素が少なく、少女漫画というよりも少年誌の終わりのないラブコメ漫画のようである。私は特に高橋留美子さんのテイストを少女漫画誌に持ってきたなぁと感じる。少女漫画誌で受け、そして30年経っても読めるのはコメディ要素が秀逸であるところが大きい気がする。
少し前に読んだ1993年連載開始の仲村佳樹さん『MVPは譲れない!』も『らんま1/2』テイストを感じたが、本書はキャラの作り方に そう感じる点が多い。体操部のライバル・神谷(かみや)は、まんま黒薔薇の小太刀に見えるし、真斗(マナト)の師匠も八宝斎をモデルにしたとしか思えない(しかも『らんま』は連載中)。この時代は少年漫画と少女漫画を並行して読む人は少なかったのかもしれないし、ネットもないので指摘する人の声は届かないから、糾弾もされなかったのだろうか。
そして男女の裸や下ネタに遠慮がないので、そこを期待する人も多いだろう。作者が容赦のない下ネタを挿むのは、少年誌や青年誌を読んで育ったからなのか、それとも兄弟関係なのか、はたまた自身がモテてきたので男性という生き物を間近で見て観察した結果なのかが気になるところ。

「黒薔薇の小太刀」や「八宝斎」で検索して酷似に驚いてほしい。同じ小学館だから許されるのか。

ロインの飛鳥は初登場からノーヘルメットでバイクを飛ばし、人を撥ね、3人乗りをして警察から逃走する(しかも無免許運転であることが後に判明)。この辺は21世紀には出来ない芸当である。ただ初登場のインパクトが飛鳥の性格を理解しやすくして、読者にとって忘れられない人となる。

基本的にギャグ要素が強いので、多少の設定の強引さも力技でねじ伏せる。飛鳥は母子家庭で育ち、その母が病死してしまったため、とある学校の理事長をしているという父親と対面するために北海道から東京に出てきたという設定。

そして東京にバイクで出て来て、撥ねた人たちが、父親の家族であった(強引 or 運命)。だが その家に住むのは須藤 真斗(すどう まなと)と和沙(かずさ)の兄妹のみ。彼らは飛鳥の異母兄弟ということになる。だが彼らも父親に会った事はなく、振り込まれるお金と用意されたかなり大きめの家に2人で住んでいる。そこに飛鳥が転がり込み、姉弟3人での同居が始まる。この時点では彼らは異母姉弟なので恋愛の要素はなく、お風呂場で遭遇するなどドタバタ同居コメディとしての物語である。

父が理事長なことは、飛鳥と作品にとって好都合。本来なら高校1年生である1つ年上の飛鳥だが、驚くことに中学3年生の真斗と和沙と同じクラスで机を並べる。腹違いとはいえ姉弟が同じクラスになるなど きっとありえないが、この辺は深く考えては ならない。

彼らは異母姉弟であり同級生で三角関係。若き日の父親の行動を考えると嫌いになりそうだが…。

鳥は自分の存在をまだ見ぬ父に知らしめるために体操競技での好成績を目標とする。同時にそれは亡き母との約束となった体育教師、体育大学への推薦入学へも繋がる一石二鳥の考えであった。

前半は飛鳥の前向きさや、喧嘩が強い・運動神経が良いなどの彼女の設定の話が続き、恋愛の始まる気配はない(この時点では「姉弟」だし)。序盤は飛鳥が自分から この世界に馴染み、父を見つけるためにする彼女の努力が描かれる。これは真斗と一緒に読者も飛鳥という人を知る手掛かりになり、いきなり恋愛要素を全面に出すよりも、恋に落ちる過程や飛鳥という人への理解度・共感が高くなるように思える。

飛鳥が体操競技で活躍する他に理事長に会える機会は卒業式。飛鳥は その直前に今は優等生で空手をしている真斗も昔は不良だったことを知る。その理由は卒業式中に語られる。真斗は意図的に不良になり、自分の私生活に波があれば、父親が会いに来てくれるのではないかと思っていたのだった。2人(和沙を含め3人か)とも どこか欠落した思いがあり、彼らが家族になっていく様子は それだけで読ませる力がある。


が文庫版の中盤(単行本なら『1巻』の終わりだろうか)で、真斗とは異母姉弟ではなく、血の繋がらない姉弟という可能性が明かされる。同居から2か月、ここから恋愛開始の合図ということか。これまで2人の人生を振り返る機会があり、彼らに思い入れが出来てから いよいよ少女漫画の開始となる。この構成は作品自体が恋愛一色にならないので、他の少女漫画でも真似して欲しいぐらいだ。ただし作品に読ませる力がないと恋愛開始前に読者から飽きられてしまう危険性があるが…。

血の繋がりがないと知り、弟だと思っていた真斗が、異性であることを意識してしまう飛鳥。その途端に真斗が好き、という飛鳥の気持ちの急展開には笑ってしまうが。ただ、真斗がどれだけ真っ直ぐで どれだけ良い人間なのかは ここまでの展開で読者に伝わっている。開始早々の1話でいきなり好き!と思う少女漫画よりは よっぽど説得力がある。


3人中高一貫校の高校に進学しても同じクラス。そして進学・進級は新キャラの登場タイミング。だが生徒に目新しいキャラはおらず、学校の運動系コースの主任・矢城(やしろ)先生が新キャラ担当となる。

矢城は熱血教師で、飛鳥を執拗に自分の作った強化クラブにスカウトする。その彼との攻防に数話費やし、それは矢城の人となりを知る期間でもあった。矢城が余りに熱心なので飛鳥は彼とデキていると噂になり、その話は真斗にも届いてしまい、真斗に目を逸らされてしまう。
飛鳥は高校入学後も体操部で活躍するはずが、真斗への恋慕と矢城の登場で、部に居場所がなくなる。苦難が続くことで単調さを排除しているのだろうか。

そして矢城が実質的な恋のライバルになることで真斗の気持ちも固まり始める。風邪回やダイエット回など、21世紀にも よく見られる定番の展開があるが、それをギャグテイストや同居三角関係の複雑さを話に組み込むことで、本書ならではの話が成立している。ただでさえ読者受けの良い男女の同居に加えて、作画の美しさ、家族構成の妙、そしてギャグと見たことのない少女漫画が始まったと人気を獲得していくのも納得の内容である。