《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

弟がいれば兄もいるものです、わ。姉弟・兄妹疑惑の禁断愛に必要なのは不純な異性交遊をした親。


渡瀬 悠宇(わたせ ゆう)
思春期未満お断り(ししゅんきみまんおことわり)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

飛鳥(あすか)、真斗(マナト)、和沙(かずさ)が通う清領学園。ケンカ上等の総番・速水(はやみ)やピーキーなお嬢様・神谷(かみや)、体操部に入った飛鳥の才能に惚れ込んだ能天気な体育教師・矢城(やしろ)らが入り乱れる学園生活はなかなかシビアだ。そんなハチャメチャな日々のなか、飛鳥と真斗の間に恋心が! 異母姉弟の禁断の愛に、超ブラコンの和沙が立ちはだかる。そしてついに姿を現した3人の父は、思いもよらない男だった!!

簡潔完結感想文

  • 文庫版1.5巻分で本編完結。以降は交際編だが やっぱり本編に比べて蛇足感が否めない。
  • 本編最終話で一気に語られる家族の真実。死別や病気 そして不貞。親世代の不幸が多い。
  • 80年代後半~の名作少年漫画の内容を絶妙にパクアレンジしているように思える…。

んなハチャメチャな設定も、強引に着地が決めて大団円になる、の 2巻(文庫版)。

早くも本編終了。文庫版『2巻』の半分弱までが本編、そして半分からが連載を変えて連載復活した『続・思春期未満お断り』の内容となる。飛鳥(あすか)と真斗(まなと)の2人からすると、前半が両想いまで、そして後半からは交際編となる。
本書は様々な側面を持っていて、まずは血の繋がった姉弟かもしれないという禁断の恋愛模様、そして3人の中学生(のち高校生)が子供だけで同じ家に暮らす同居モノであり読者の興味を惹きつける。そして飛鳥が顔も知らない実の父親を捜す物語という側面もある。また学園ラブコメとしても優秀で、魅力的なキャラを出し続ければ まだまだ連載は続いたはず。
ただ嵐のように連載が1年弱で終わったのは悪いことではなかった気がする。考察すると色々と穴が多そうな設定だが、読者を煙に巻くように力技で終わらせることで、読者を納得せざるを得ない気持にさせている。長編化して読者に考える間や、物語から距離を置くような時間を与えるよりも、思春期未満の読者たちと同じ時代を駆け抜けた共有感を持つような太く短い連載の方が本書の持つ熱量には会っている気がする。
単行本3巻分(文庫版1.5冊分)で物語は終わり、語られなかったことは ほとんどない。復活したのは完結後にも読者からの反応が良かったからか。また復活した1992年は『ふしぎ遊戯』の連載も始まり、作者の人気と多忙は極まっている。

ただ気になるのは、復活後にはネタの使い回しや同じような構造の話があることと、やはり連載されていた1990年前後の名作少年漫画の要素を使っているのではないか、と思われる点の多さである。もしかしたら どの作品も90年前後の空気感が漫画に込められているから そこに共通性を見出すのかもしれないが、ネットが普及し、SNSで個人が発信する2022年ならば、正義感の強い「警察」の皆さんの手によって類似性を指摘されるのではないか。
それもまた本書の側面の一つで、画力や構成は間違いなく作者自身の手によるものなのだけれど。


校でも体操の大会に出ることになった飛鳥。大会には父である謎の理事長も来るらしいので張り切る。
その一方、以前とは逆で真斗が飛鳥を異性として意識し始めて、彼らはこれまでと同じ距離感で話すことが出来なくなった。荒れる真斗に理由を聞こうとした飛鳥だが、その返事は突然のキスだった。男性側からの強引なキスは少女漫画ではよく見られるが、彼らの場合は両片想い状態で、禁断愛でなければ何も問題がない時点でのキスなので暴行ではない。

一つ屋根の下で暮らす2人の変化を敏感に悟るのが妹である和沙(かずさ)。小さい頃から真斗と離れずに生きてきた彼女は真斗と これまでの関係性を失う恐怖と戦っていた。

そんな和沙が真斗に血が繋がっていないことを公表しようと歩きだしたところ、階段から落ちそうになり、飛鳥は彼女を庇い怪我をしてしまう。アキレス腱が切れるほどの怪我で次の大会どころか、足はもと通りに動かないという。

更に、和沙の悲しみを知った飛鳥は、真斗と姉弟の予防線を張り、その関係を進めないように努めた。だが遂に病院内での真斗と和沙の会話から飛鳥は自分の足のことを知ってしまう。飛鳥は混乱もあって病院から抜け出し、自己の存在を消すかのように消息を絶つ。本編の最終回へのカウントダウンが始まったからか、これまでギャグ路線だったのに急に作風はシリアスになり、そして飛鳥が がっつりヒロイン思考になることに違和感が拭えない。この変化は少年漫画から少女漫画へのシフトと言えよう。

急に内省的になる飛鳥。嫌な事から全力で逃げ出すのが少女漫画ヒロインの仕事ではあるけど…。

捜索に出る前に和沙は真斗に、飛鳥のことが好きか尋ねる。真斗の答えは、例え腹違いの姉弟であっても彼女を愛している、というものだった。
飛鳥の側は、禁断の愛になる直前に血の繋がりがないことを知って問題は無くなっている。一方で真斗の方は血の繋がりの事を知らないまま、どんな形であっても飛鳥という一人の人間を好きになったという強い気持ちを表している。全てを知る読者からすれば、何の障害もない恋愛で、しかも男性側が情熱的な気持ちを持っているという満たされるばかりの展開である。
和沙に比べ、飛鳥は真斗と過ごした時間は短く、それが飛鳥の一家での疎外感になっていたが、真斗に精神的に「妹」としか見られない和沙に比べて、年頃の異性として現れた飛鳥のアドバンテージは大きかった、と言える。


院を抜け出し、無意識に これまで3人で暮らした須藤の家に戻る飛鳥を真斗は発見する。だが飛鳥は まだ地元の北海道に戻ろうとしていた。それを力づくで、身体で押さえつけて行かせない真斗は、飛鳥が諦めても自分が父親を見つけると宣言する。
こうして自分を心配してくれる人たちがいることを改めて知った飛鳥は、この家で暮らすために真斗と姉弟であることを前提に生きる。

そこから2人は お互いに気持ちを隠しながら姉弟を演じる。怪我よりも痛いのは飛鳥の心かもしれない。だが、この お陰で若い2人が自分たちの気持ちを優先させるだけでなく、和沙を含めた3人で生きようとする若い連帯感が見られる。あっという間に両想いになってしまったら和沙が、この家で疎外感を覚えるだろう。本書は若き3人が手を取り合って生きる家族漫画でもある。


して飛鳥が出るはずだった体操大会の当日。飛鳥は病院から外出の許可を貰い、松葉杖で大会と父の捜索をする。しかし そこで体操部で食中毒が出て、出場選手が足らず、棄権を選択せざるを得なくなっていることを知り、当然のように出場をする飛鳥。彼女が演技を始める直前、父が名乗り出る…。

その男性が父だと名乗った途端、全ての真実が一気呵成に明かされる。そして父が今まで疎遠になっていた理由も、その前から伏線として張られていたことが判明する。
飛鳥は無事に演技を終えたが、倒れてしまう(足を強く痛めるような描写もないし、彼女は健康だったはずなので謎の演出である。強いて言えば全ての重責から解放された安心感で気が緩んだ、ということか)。


場のベッドで眠る飛鳥を囲んで真実が語られる。ネタバレになりますが、飛鳥、そして和沙の父親は矢城(やしろ)だった。矢城は18年前、飛鳥の母と交際をしていたが、和沙の母という婚約者もいた。その存在を知った飛鳥の母は姿を消し、やがて妊娠が発覚(怪我を知った飛鳥の行動は遺伝的な思考によるものかもしれない)。矢城と和沙の母の結婚生活も長くは続かなかった。離婚した時には和沙は誕生しており、妻が引き取ったらしいが、その妻が亡くなったことで和沙を引き取ろうとした。

同時に世話になった先輩の息子・真斗も引き取り、父と娘、そして真斗の3人の生活が始まるはずだったが、矢城が急性白血病で倒れたことで、長い闘病生活が始まってしまった。発病から7年以上が経過した今も未だ完治できずに病院から学校に通っているという。

矢城が少しずつ回復し、歩けるようになった頃に飛鳥は学校に現れ、別れた恋人に子供がいることを初めて知った。真斗の父親の名前を借り、教師として飛鳥や子供たちのことを見てきた。矢城が講師として飛鳥や真斗に厳しい練習や稽古をつけるのは親の愛の代わりだったのだろう。

飛鳥が目を覚まし、父娘の初対面が果たされ、4人は初めて家族となる。こうして全ての問題は解決し、2人は遠慮することなく心を通じ合わせるのであった…。ここまでが本編。


く、「続・~」では、本編では読めなかった同居ラブや、家族4人の生活などが見られて痒い所に手が届いている内容となっている。

ただ真斗的には同居していても、父が発布した「不純異性交遊禁止令」のせいで飛鳥とは男女として触れ合うことを一切禁止されている。迫る修学旅行で真斗は進展を望むが、色々な想いが交錯して…。
いわゆる交際編ですが、いきなり性行為をするか しないかという話が議題に上がるのは小学館だからか作者だからか。

北海道に来たことで飛鳥は母の墓前に行こうと考え、宿泊するホテルを抜け出し雪の中を一人で向かう(タクシーだが)。そこにいたのは父。そして遅れて駆け付ける真斗は、飛鳥の母の墓前に挨拶をする。
墓前というのは嘘のつけない場所。その言葉には嘘はなく誠実さだけがある(そして墓前で性欲を表に出す人はいない)。この時、父娘2人がお墓の裏で話を聞いているのは高橋留美子さん『めぞん一刻』っぽい(それ以前に似た名作があるのかもしれないが)。

ただ「続~」になってからの飛鳥たちの話は、ちょっとした すれ違い → 仲直り → 完遂されない性行為、というのがセットになっているだけで代わり映えがしない。

少女漫画あるある。仏の前には煩悩は消し飛び、本心だけが語られ、そして その言葉は現実になる。

こからは脇役キャラの話が続く。
和沙の恋は、兄・真斗と同じ顔をした人と恋に落ちるのかという命題が出され、彼女が本当の恋を見つける過程を描く。和沙に好意を抱いた後輩の お別れの仕方が格好良かった。和沙の恋の相手は、混乱をきたすから真斗のそっくりさんじゃないことは明白で、少女漫画的には その人だよね、という感じの人に落ちつく。

続いては神谷さんの恋の話。こちらも回り道をして本当の恋の相手を見つけるというのが和沙の回と同じ過程である。ただ その相手が矢城で、婚約者がいながら交際相手を妊娠させた前科のある父なら結婚しかねない、と思ってしまうところが怖い。お嬢様の押しかけラブや、神谷を見守るボディーガードの変貌ぶりも楽しい。ただ、振られる側の反応もまた和沙の時と似たような感じなのが惜しい。


海道への修学旅行の次は沖縄へのバカンス。また する しない が議題となる。というか、それぐらいしか話の余地がないのだろう。
真斗が飛鳥の話を聞かず押し倒した修学旅行とは逆で今度は妹・和沙に先を越されまいと飛鳥が奮起し、真斗が その気になるように仕向ける。だが、今度は真斗が拒否し、不安になる飛鳥だったが、それが彼の誠実な心と反省から来ているものと知って安心する。少女漫画では一度は未遂に終わっといた方が愛は深まるし、話も引き延ばせる。

それにしても真斗のような性欲を隠さない(隠せない)男性キャラは、21世紀の作品では大分 減った。2010年前後のヒーローは女性経験は多いものの、ヒロインには なかなか手を出さないという、スカした男性像が多いように思う。体育会系のキャラも減ったし、汗一つかかないようなクールさが好まれたのか。


ストは、飛鳥たちの住む須藤(すどう)家に もう一人の子供が現れる話。飛鳥には弟と妹がいるが、今度は「兄」の登場である。婚約者がいながら他の女性との間に子供をなすような父親なら全国どこに子供がいても おかしくはない。兄弟をコンプリートするには後は姉が必要か。

またも真斗と上手くいっていない飛鳥はその兄・昇馬(しょうま)を家に受け入れる。交際後ではあるが真斗の当て馬誕生である。真斗とは違いワイルドで大人っぽい昇馬を好きな読者もいるだろう。裸を見たり見られたり、初期の真斗とのような出来事があったり、ちょっと強引に迫られたり、魅力的な男性が自分を巡って争ったりと読者の満足するような展開が続く。

飛鳥たちの1話限りのすれ違いが終わったら昇馬も役目を終えたかのように あっという間に退散していく。「オレオレ詐欺」のように、矢城の子供たちが何人も現れるという話も読んでみたいかも。