《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

いつも読者の予想よりも展開が1テンポ遅いが、これが優雅な お嬢様ライフの時間の流れなのか…。

執事様のお気に入り 15 (花とゆめコミックス)
伊沢 玲 + ストーリー構成・津山 冬(いざわ れい・つやま ふゆ)
執事様のお気に入り(しつじさまのおきにいり)
第15巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

伯王が研修でしばらく良の専属活動ができなくなり、代わりに恕矢(ゆきや)が良のお世話をすることに! 完璧に務める恕矢に、伯王は気が気じゃなくて…!? 大人気!執事学園ラブコメディ第15巻!!

簡潔完結感想文

  • 恋愛に気づくまでも遅かったが、ライバルや当て馬が暴れ回るのも時間がかかる。
  • 伯王が忙しく すれ違い。そこに付け入るのが当て馬。でも良い人すぎて暴れない。
  • 庶民に玉の輿の夢を見させながら、実家で着々と進む政略結婚。まさかの二重婚約!

の巻こそ話が進むのでは!?と思わせるばかりの 15巻。

本書はヒロインの良(りょう)が恋愛感情に気づくまでも遅かったし、告白や交際も1巻ごとに1歩進むだけで、一足飛びという急展開が無かった。それは この中盤のライバル・当て馬編も同じ。紗英(さえ)や恕矢(ゆきや)という役者は揃っているが予想に反して波乱が始まらない。
擁護するなら それだけ丁寧に話を作っているのだろう。本書では一般生徒は底意地が悪い人が突発的に登場するが、固有キャラは嫌な人間に見える人も実は良い人が多い。完読してみると、その良い人が どうしてこういう行動を取ってしまったのか、という その人の心の動きを丁寧に描いていることが分かる。そこに情状酌量の余地を残し、犯行(?)までの道のりが詳細に描かれているから、その人のことを決して嫌いにならないような安全柵が用意されている。
…が、どう擁護しても展開が遅いのは事実。紗英も恕矢も登場した時から どういう役割が与えられているかは読者には予想がついている。だから『15巻』ラストで紗英が納まる所に納まっても意外性が全くない。感情や描写の取りこぼしが無いようにという配慮は分かるが、いつも情よりも理を優先している作風で、頭でっかちな話にも思えてしまう。
同じ展開でも今の1.5倍早く物語を進めるとか、読者の予測が実はミスリーディングだった、みたいな展開が欲しい所。せっかく脚本と作画が分業しているのだから、もっと展開に工夫が出来たはずだ。安定感は本当に素晴らしいが、王道中の王道を進むだけで個性に欠ける。

紗英と恕矢に暴れて欲しいのだが、この『15巻』で距離が縮んだのは、良と紗英、伯王と恕矢であった。やっと次で環境が整い、良と伯王にも影響が出ると思われる。この感じは、次巻こそ関係が進むことを期待する、と思い続けていた序盤と似ている。全体的に準備を入念にし過ぎて、本番の思い出がさしてないのが気になる。主人が望む お茶会を短時間でセッティングした今回の恕矢のように、読者が望むものを待たせることなく用意するプロの手際が見たいところである。

交際を知っても紗英は顔色一つ変えずに事実を受け入れる。悪役令嬢への転生が待たれるが…。

57話。伯王は、まだ周囲が噂する恕矢を気遣い、お昼ご飯を一緒に食べようとする。恕矢が良を好きなことを分かっても、誘う伯王の懐の深さよ。良は自分が2人の男性と一緒に食事することに対して、何か噂が広まるとか考えないんだろうなぁ。絵面的にはハーレムっぽいからか、その場面はカットされてますが。まぁ良に関しては昨年度も女1男3(伯王+庵(いおり)・隼斗(はやと))で食事してたから、今更 悪く言われないんでしょうね。ヒロインの特権です。

上級生と1年生がペアを組むオリエンテーリングが開催され、良は紗英とペアになる。優勝賞品もあって、商品のチョコを食べたそうにしている伯王のために良は奮闘する。…が、良は空回り、その代わり紗英は知識と品格で良を引っ張る。

だが、イベントでいつも足を引っ張るのはLクラスの生徒。この学校は嫉妬と我欲が渦巻く学校なので、こういうイベントの時には悪巧みをする生徒が必ず出てくる。私は こういう話の組み立て方が好きではない。他を下げてヒロインたちを上げる構図が好ましいとは思えない。嫌がらせ前までの展開で、良と紗英の美点を描いているのだから、それでいいだろうに。毎回イベントで嫌な生徒が出てくると、折角のイベントが台無しだ。面白いイベントは、そのまま気持ちの良い思い出にして欲しいものだ。こういう思い出が読者の中に積み重なるから、学校生活全体が楽しくなさそうに見える。

この回で紗英は、伯王に柔らかな変化をもたらしたのが、良という交際相手だということを初めて知る。紗英に少しでも伯王への思慕があれば、紗英が悪役令嬢になるところだが、本当に伯王への気持ちがないので そのままなのが予想外と言えば予想外の展開。いずれは悪役令嬢に転生してもらわないと、話が進まないのだが…。


58話。庵と隼斗が卒業以来の登場。そして庵の双子の妹2人と良が初対面する。予定があり約束の水族館に行けなくなった庵の代わりに良と隼斗が双子ちゃんと同行することになった という話。

人見知りでマイペースな双子に対して奮闘する良。子供が登場すると迷子になるのは お約束。水族館で誰かの妹が迷子ってアサダニッキさん『青春しょんぼりクラブ』でも見たなぁ。発表年月が近いのが気になるところ。

庵たちも途中で合流し、久々に伯王たち幼なじみ男性3人組の姿を見て、良は安心する。だから最後まで庵の妹たちと一緒に行動し、その時間を楽しむ。これは伯王のための気遣いでもあった。
最後に庵と隼斗が一緒に住んでいるという衝撃発言があり、夫婦疑惑を残して幕を閉じる。この後の話で一緒にスーパーに買い物に行ったりしていて本当に夫婦ではないかと思わせる場面も(スーパーの閉店時間が早すぎる気もするが…)。


59話。伯王はBクラスの特別集中プログラムで良と行動を共に出来ない。そこで教師・向坂(さきさか)が提案したのは専属執事の代理に恕矢を立てるというものだった…。

恕矢が1学年下の2年生なのは、学年を別にすると こういう展開が用意できるからか。この提案は、恕矢を飼い慣らせるのは良しかいない、という向坂の意向もあったようだ。不良執事を更生させようと皆が力を合わせている。

恕矢は教師の命令に従う振りをしているが、実は夢にまで見た良の専属執事に浮かれている、はず。

良は一緒にいることで恕矢の執事としての有能さを知る。それは2人のことを陰から心配そうに見守る伯王も認めざるを得ない。恕矢は良ばかりを優先し、彼女の周囲から面倒事を排除しようとして、それが周囲との軋轢になってしまう。
それに一言注意をするのが紗英であった。これが彼らのファーストコンタクトとなる。

恕矢と周囲との壁を取り除くためにお茶会をセッティングする良。恕矢に断りも無しに、自分で勝手に人を呼んで、彼を働かせようとさせるなんて、良も主人としての風格が出てきたのではないか…。恕矢がそれに従うのは、良の頼みだからに他ならない。だが、質の高いサービスに他生徒たちは満足し、一定の効果を見せる。

良に過保護なところが伯王と恕矢の共通点。かつて水と油であった伯王と仙堂に共通点が多いように、伯王と恕矢の共通点も多い。それは仙道と恕矢にも通じるところがあることにもなるのだろうが、外見が被っている2人が一緒になる機会はまだない。


60話。大型連休スタート。ゴールデンウイークと言わないところがNHKみたいな言い回しですね。連休中は伯王は神澤家の仕事の研修、良は祖父母の家へと1日以外は すれ違いになる予定。

この回で、どうやら伯王の父は息子の学校生活の情報を一々把握しているらしい。成績だけじゃなっく息子の学校生活全般を知ろうと点が子煩悩っぽい。期待しているから厳しくなるが、根底には愛情がある。伯王が変にねじ曲がってたり、トラウマを抱えてないのは、父に確かな愛情を見るからではないか。

連休中に紗英は恕矢に専属執事になって欲しいと願い出る。1か月の観察機関で、彼女のお眼鏡に適ったのは恕矢らしい。

良と伯王は唯一、一緒にいられる1日に出掛けるが、どこも混雑していたり天候が急変したりで伯王のプラン通りにはいかない。だが良は伯王と一緒なら どこでも楽しい。
雨宿りに入った場所で伯王は自分が学校から贈られた成績優秀者の指輪を良に渡す。伯王が良に指輪をはめたのは、左手の薬指。そうして2人は2人だけの婚約の約束を結んだと言える。奇しくも雨宿りをしたのが教会であったという展開も良い。

だが、その一方で伯王の父は伯王と紗英の婚約を考えていると伯王の姉・碧織衣(あおい)に知らせる…。以前も書いたが、全ての話(跡継ぎや政略的な結婚)が自分を飛び越えていくことを碧織衣は どう思っているのだろうか。読者の お嬢様願望を叶えるためなのだろうが、女性の社会的進出を無視している本書は、発表年以上に古臭く見える。使い古された定番の展開といい、とても2010年代の漫画だとは思えない箇所が多いのが気になるところ。