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少女漫画と小説の感想ブログです

たった数時間 一緒にいれば初対面の人でも見抜く恋心を、本人たちは数か月 自覚しない。

執事様のお気に入り 4 (花とゆめコミックス)
伊沢 玲 + ストーリー構成・津山 冬(いざわ れい・つやま ふゆ)
執事様のお気に入り(しつじさまのおきにいり)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

ある日、Bクラスの特別講師としてやってきた伝説のスゴ腕OB・向坂遥巳。伯王がBクラスを目指すきっかけを作り、いつか認めてもらいたい憧れの存在。そんな向坂がどんな人なのか気になった良は、特別講義を見に行く事に…。

簡潔完結感想文

  • 伯王が執事を目指す理由は有能さを示すため。増長を招いてないか先輩の点検。
  • 別れの危機で こんなにも大切だったことを実感するのは恋も友情も同じである。
  • 出会いから ほぼ毎日会っている2人の初めての別離。会えない時に気持ちは募る。

愛や友情、そして心の現在地までチェックされる 4巻。

『4巻』は、改めて気づくこと、が多かったように思う。
例えば1話ではヒロインの良(りょう)がバイトの接客を通じて、自分の専属執事・伯王(はくおう)の やっていることの凄さに気づく。また、3話4話では ある人と会えなくなることが良の心にどんな変化をもたらすのか、ということが描かれ、その人が良にとって大切な人であることを知るまでの物語になっていた。

また新しい執事・向坂(さきさか)が登場した2話では、彼が、自分に憧れて同じ執事の道を歩んだ伯王の歩みを点検しに来た。向坂は、財界トップの家柄に生まれた伯王が、家の名前ではなく「自分」の能力を証明したいために執事になりたいことを知っていて、それを追求するあまり執事の本質を忘れてしまっているのではないか、という危惧があったからだと思われる。
だが今回 接してみた伯王は、良の専属執事になっており、彼女との出会いが伯王に道を踏み外させなかったことを向坂は知る。執事との欠点もあるが、人間としてキャパシティーを広げた伯王を見て、向坂は安心して帰って行ったのではないか。
きっと向坂が心配するような伯王の悪い進化は、「サイボーグ執事」と揶揄される仙堂のような状態なのではないか。一級品の実力を持ちながら、執事としての心が抜けているからトラブルばかり招いてしまう。そんな仙堂の現状のような冷酷さを伯王が抱えているのではないか、と向坂は心配したのだろう。

『4巻』収録の4つの話は、どれもラストが印象的で、読者の心に温かさをもたらす結末だったのが印象的。それは どの話も「大切な人」のために動くという共通点があり、「大切な人」が彼らの行動で喜んだり、満たされた表情をしたことが もたらすものだろう。恋愛だけでなく友情や先輩後輩の人間関係の中における気遣いや行動が、読者の幸福感に変わっていく。

風邪の症状に気づかないように、恋心も寂しさも気づきにくい良。心の寒暖に彼女が気づく日は いつか!?

だ気になる点は、1話で完結されすぎていることだろうか。話が綺麗にまとまり過ぎていて、フィクション感が強まってしまっている。ラストの別離の話などは、もう1回分多く連載を使っても良かったかもしれない。描写の不足ということはないが、問題が起こっても すぐ解決してしまい、感情移入する前に話が終わってしまう。ラストの話は やや演出過剰なぐらいの方が盛り上がったのではないか。

そして毎回、伯王のヒーローシーンがワンパターンのように見えた。いつも良のトラブルや不安に駆け付けるのは少女漫画の王道だが、あまりにも毎回 現れるのには辟易することが多くなった。ラストもバリエーションを用意して、ちゃんと良が最後まで自分で解決する回も あってもいいのではないか。伯王登場は「待ってました!」というシーンなのは分かるが、良が最後に伯王に助けられてばかりだと、自立から遠ざかっているように見えてしまう。主人が(やや)無能で、執事が有能というのは執事漫画には必須なのかもしれないが、この『4巻』で連載開始から1年を過ぎたのだから、もうちょっと やっていない展開に挑戦して欲しい。
あと、庵(いおり)と隼斗(はやと)の影が薄すぎて泣ける。仙堂もだが、もう少し頻繁に話に登場して欲しい。白泉社漫画の楽しみはキャラの増加と、それに伴う世界の広がりだと思うから。


13話。伯王への日頃の お礼代わりに、壊れてしまった万年筆を贈ろうとする良。これに自分が伯王を「大切」に思っていることを込めて渡すことにしたのだが、思いのほか高額で、良はアルバイトを始める。いわゆるプレゼント回である。

ちなみに この紳士・淑女の養成のための学校でもアルバイト可能という設定(家業の手伝いをする場合があるから)。良はパイ専門店で普通のアルバイトをする。プレゼント回は通常の少女漫画ならば交際後の誕生日やクリスマスに見られる展開だが、本書では告白する前からプレゼントをする流れ。
お金と言えば、伯王が用意する良のティータイムのお茶やお菓子は どこから お金が出ているのだろうか。良が負担している描写もないし、学校側なのか、伯王の自費なのか。自費だとすると執事クラスの人も それなりの資産がないと厳しいだろうに。

慣れない仕事に四苦八苦する良だが、サプライズを計画しているため伯王には内緒。アルバイト回は すれ違い発生装置でもある。設定こそ奇抜だが、悪い意味で展開に既視感があるのが本書の残念なところ。
ただ、良のバイトはお客様への給仕という点では執事と共通しており、良は間接的に仕事のアドバイスを伯王から貰う。
良が何かしている雰囲気は察する伯王だが、それを深く追及したりしない。そこにあるのは主人のプライベートに干渉しない執事としての自制心か、それとも互いを尊重し合う関係でいたいという理想像か。

ただし伯王の弟・理皇(りお)が良のバイト姿を目撃して兄に報告することで、伯王は現場に やって来る。ちょうど人手不足で困っていたピンチの良を助けることになる。
お給料を手にした良は、伯王にプレゼントを渡す。これには良が考えていた以上に伯王が大切に受け取ってくれた。もはや告白しない方が不自然な状況である。

気になるのは、上述の通り、ヒロインが自立しきらない点。依存状態に見えるぐらいなら、アドバイスを貰うのではなく、良が お茶の知識を知れば知るほど、自分が伯王によって心地の良い日々が送れていることに気づくだけでも良かったのではないか。ちなみに1か月に3人もバイトが辞める職場は相当 ブラックか、それとも店長の人生が容姿重視など偏っているかだろう。そして良もまた目標金額を達成したら すぐにバイトを辞めた様子(それ以降にバイトする描写はない)。


14話。伯王が執事クラスを目指す きっかけになった人物・向坂 遥巳(さきさか はるみ)が登場する。
伝説のOBとして名高い彼。ここ2巻で執事が連続して登場しているが、どうやら本書では仙堂や向坂など伯王と同じレベルの人間の執事でないと登場できないらしい。ちなみに現在 向坂がイギリスで執事をしているという設定が今後の展開の布石となっている。

この話では伯王が家の名前ではなく、個人として世間に認められる道として執事を選んだことが明かされる。どうやら向坂は、伯王が その目的ばかり追求し、執事としての本分を忘れてしまっているのではと危惧して来日したらしい。その不安を払拭させるのは伯王が専属執事として働く良の言葉。それにしても良は初対面の人にグイグイと話しかける。社交界は苦手意識があるみたいだが、本来はコミュ力おばけ なのだろうか。

伯王にとって執事は自立する手段。そのために視野が狭くなっているのでは、と向坂は心配する。

伯王が良への独占欲を見せることを面白がった向坂は、どちらが良のことを知っているかという勝負を挑み、それが一大イベントとなる。
こうして『2巻』の庵と隼斗の対決みたいに、甲乙つけがたい男性たちの戦いが見られる。どちらの話も イベントをしたいのだろうが、やや そうするための流れが不自然か。それでも今回は良がジャッジを下す立場になり、2人の男性が自分のために動くという設定が読者にはたまらない点だろう。

向坂は伯王と良の2人に対して、それぞれに彼らの恋心を刺激するような言葉をつぶやいて帰って行く。第3者から見れば、たった数時間一緒にいただけで バレバレの関係なのである。


15話。執事の情報収集に並々ならぬ熱意を燃やす、1話からの良の友人・薫子(かおるこ)さんのメイン回。薫子にお見合いの話が舞い込み、それが決まれば学校を退学することもあり得ると知った良は…、という話。

この回の薫子の生け花得意設定は、後半は別のキャラに奪われたなぁ…。薫子は良い立ち位置のキャラなのですが、ちょっと待遇が良くないように思う。あんまり脇役を目立たせようとしないのが本書の良い所であり悪い所だと思う。

お見合いが気になって仕方ない良は、薫子のお見合い会場に出向いて情報収集をしようとする。制服姿でうろつき目立ってしまう良だが、伯王が駆けつけ、何とか事なきを得る。猪突猛進が良の性格なのだろうが、かえって周囲(特に伯王)に迷惑をかけているようにも見える。

しかし結局、良が会場の石灯篭を倒し、見つかってしまう。それを罵倒する薫子のお見合い相手に対し、良ではなく薫子が静にキレて、この縁談を破談にしていく。この薫子の言動は後に問題を起こしそうな内容だが、伯王がフォローすることで無事に解決。伯王 万能説。というか、こんなことで丸く収まるか、とは思うが…。

薫子は良が100%善意で自分のために行動してくれたことを知っているから、良の行動を咎めない。良が良い子というよりは、良の周囲が彼女に甘い人だけなんじゃないか、とも思う。こういう疑惑を払拭するためにも良が徹頭徹尾 単独で物事を解決する回が欲しい。


16話。伯王たち執事クラスの4泊に亘る宿泊研修の前に、伯王が知らない「蒸しパン」を渡そうとする良だが、それが叶わず、彼と会えないことがストレスになっていく…。

この回は交際後のプチ遠距離恋愛のような展開で、伯王の不在が どれだけ良の心身に影響するかを描く。
束の間の再会に際して、執事としての務めを果たそうとする伯王に対して良が「――行かないで」「何もしなくて いいから ここにいて」というシーンが非常に印象的。良が一緒にいたいのは執事・伯王ではなく、伯王個人なのだ。迷子になった子供が親を見つけたように、自分にとって なくてはならない存在が伯王だと良も気づいたのではないか。次巻で良の気持ちが どう整理されているのかを見るのが楽しみである。