《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

作中の人気アンケートと同じように読者アンケート4位に入りそうな絶妙な新キャラ登場。

執事様のお気に入り 3 (花とゆめコミックス)
伊沢 玲 + ストーリー構成・津山 冬(いざわ れい・つやま ふゆ)
執事様のお気に入り(しつじさまのおきにいり)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

とある事件をきっかけに専属執事活動を停止された伯王。代理の専属執事は「執事サイボーグ」の異名を持つ仙堂征貴。停止解除は彼の気持ち次第と知り、なんとか伯王の処分を解いてもらおうと奮闘する良なのだけれど……!?

簡潔完結感想文

  • 実は編入生の良よりも友達がいない疑惑のある伯王。そんな彼の未来のお友達が登場!?
  • 焦ったように恋心を抱かせないよう、ライバルっぽいキャラが何の役目も果たさない。
  • 良が この学校での生活にも慣れた頃、祖父母が初登場し、孫の婿候補を品定めをする。

3巻なのに三角関係が始まる気配すらない 3巻。

私はどちらかといえば1話での唐突なキスとか、ヒロインだけが意味もなくモテまくる急展開が嫌いなのだけど、本書みたいに何も起きないまま巻数を消費していく話も残念に思う。白泉社作品では鈍感 × 鈍感で、恋に気づくまでが長いことはよくあるが、それを補うだけの設定のパワーがあると、その欠乏感も満たされる。キャラに魅力があれば会話だけでも満足できるし、展開が面白ければ あっという間にページは進む。
本書は決して悪い本ではない。ただ不足する恋愛要素を埋めるだけの魅力に乏しい。作品もキャラも展開も 余りにも優等生すぎるのだろうか。そういう意味では『3巻』に登場する新キャラ・仙堂(せんどう)が本書と同じような特徴を持っていると思う。有能だが応用が利かず人情に欠ける彼を周囲は「サイボーグ執事」と呼ぶが、本書にも少しサイボーグ感がある。脚本と作画を別の人物が担当する分業制ゆえに、作品内で熱いパッションが 迸(ほとばし)っている場面が見られず、いつも一定だが、想定内の「面白い」に止まっているように思えてしまう。どこまでも冷静だからこそ作品を破綻なく続けられたとは思うが、どこまでも盛り上がりに欠けるということと同義になってしまった。

また、ここにきて執事設定が繊細な心の動きと相性が悪いのではないかと思うようになった。本書は執事クラスの伯王(はくおう)がヒロイン・良の専属執事になり、ヒロイン≒読者が ずっと伯王と一緒にいる学園生活を楽しめるという内容が売りだろう。だが最初こそ そんなの夢のよう!と心躍った設定でも、この辺りで読者は早くも それに慣れてしまう。あんなに「特別」だった執事が隣にいる生活も やがて「日常」になっていく。
そして伯王がヒロインに甲斐甲斐しく世話をすることが普通や日常となると、一般の少女漫画では胸キュンするような場面でも、まぁ伯王だから、と読者のハードルが上がり切ってしまうのだ。例えば『3巻』でのパーティーのシーン。少女漫画では慣れない靴を履きヒロインが足を痛め、それに彼女に好意を持つから気にかけているヒーローだけが気づき、彼女を気遣い、そのケアに専念するという場面は「あるある」の領域である。そして靴を脱がせたり履かせたり、男性が跪(ひざまず)いて女性の前に恭順な態度を示すことは、まるでシンデレラの一場面となる。
…が、本書では伯王が良の異変に気づいたり、靴のケアをするのは日常茶飯事で既視感のある光景なのである。しかも伯王が良のことに敏感なのは そこに好意がある訳でなく、執事としての当然の務めだからである。もし このパーティーで他の女性に異変があっても伯王は それを目敏く見つけ、そして対処しただろう。それは彼が有能な執事だから出来ることだが、だが その可能性があるが故に自分だけ特別という読者が望むような構図では なくなってしまう。

通常なら胸キュンシーンだが、伯王以外の執事でもヒロインに こうするのが彼らの職務なので特別感を薄める。

こうして普通なら胸キュンする場面でも、本書では慣れがあり、それが執事の責務だから心が ときめかないという設定による相殺が生まれてしまった。それに ただでさえいえ展開が加わり、前半は読者にとって何も起きない「凪」の期間として認識されてしまう。
その一方で まだ好意すら明確になっていないのに、両想い後の試練だけは用意されている長期戦仕様なのがチグハグさを生む。波乱は何度も予感させるが、その嵐が起こす波が到達するまでは雑誌連載で年単位の時間が必要だと思われる。完結後に全巻一気読みした私は、先に待つ巻数の多さが途方もなく思えた。


9話。B(執事)クラス生がBクラス生を監督する組織・自治委員長の仙堂 征貴(せんどう まさき)が登場。自治委員は学業外に関しては ある意味 教師より権限を持ってるという。その中でも融通の利かない仙堂は「執事サイボーグ」と噂される。

仙堂の登場は、伯王との比較対象になる。これまで有能な執事っぷりを見せてきた伯王だが、実は伯王一派である庵・隼斗以外の他のBクラスの描写が全くなかった。ということは、お嬢様すぎて思考がぶっ飛んでいる良の周囲の生徒たちがいるから良が普通の感覚に見えるのと同様に、実は伯王の能力は執事としては一般的なのに周囲が大したことないからBクラストップになっているのではないか、という疑惑を ちょうと持ち始めたところであった。『2巻』で伯王は外見を褒められても嬉しくないと語っていたが、比較対象がないのに実は本書が伯王は凄い、伯王は格好いい と一方的に権威付けばかりして、読者に盲目的に彼を崇拝することを強要していたと言えるかもしれない。だから仙堂が登場したことによって初めてBクラスのレベルや伯王の実力・努力が分かっていく。
伯王は仙堂に良のお転婆咎められ機嫌が悪くなる。どうやら2人は犬猿の仲、水と油で相容れない存在みたいだ。

一方、良が悩むのはBクラス生の人気アンケート。Bクラスから3人選ぶのだが その3人の選定や順位付けで悩む。他の女生徒は誰が良いかという談義で盛り上がるが、良にとっては1位以外は どんぐりの背比べで、彼女には誰も視野に入っていない、という現状が語られる。

良は伯王と密室で密着している所(事故)を仙堂に見られ、伯王が自治委員に呼び出され説明をする羽目になる。だが専属執事の伯王が良に執事の仕事を手伝ってもらったことが問題になり、仙堂は伯王の処分を検討する。伯王はこれもまた主人と執事の「人間関係」だと主張するが、専属執事活動の当面の停止を言い渡されてしまう。
そして その専属執事の代役を果たすのが仙堂であった…。


10話。伯王とは違い世間話も出来ない仙堂との主従関係。良は伯王との接近も禁じられるが、その期間などは自治委員長である仙堂の裁量次第。良は仙堂の機嫌を取ったり どうにか仙堂の距離を縮めようとするが失敗。
八方塞がりの良に伯王はリスクを顧みず会いにくる。この時の2人の構図は まるでロミオとジュリエットである。伯王との会話で元気を復活させ、良は再び仙堂とコミュニケーションを図る。

だが逆に仙堂と一緒に行動することで、良が仙堂の良さを知っていく。専属執事の代役に加えて自治委員長の仕事、そしてクラス上位の成績を収めていて寝る暇もないはずなのだ。だから良は彼の体調を気遣う。だが そんな主人からの配慮は伯王とは違い生まれながらに執事になることを義務付けられてきた仙堂にとっては未知の価値観だった。彼の中では執事は主人を支えるために存在するのだから、主人が執事のことを考える必要などない。
その仙堂の心の鉄壁を乗り越えるのが良だった。彼女の言葉を受け入れたかに見えた仙堂だったが、無理がたたり倒れてしまう。思えば、この3巻の中で、良・伯王・仙堂と3人が風邪や体調不良を起こしている。特に後者の2人は自己管理がなっていないのではないか。

倒れた仙堂を前にして困惑する良を助けるのが、その現場に「たまたま通りかかった」伯王。良にピンチが生まれて2話ぶりにヒーローとなる。
てっきり仙堂も良の独特の考え方に接して、仙良のことを好きになってしまい、当て馬になることで伯王が気持ちを固めるのかと思ったが、「サイボーグ」仙堂の気持ちは1ミリも動かず、伯王が仙堂の登場に焦って行動するようなことはなかった。ゆっくりと恋心を育てていく展開は嫌いではないが、当てが外れ、肩透かしを勝手にくらった気分になった。

伯王に並ぶ実力の仙堂だが、同じ土俵には立たないため 口うるさい「学級委員長」止まり。

11話。良の前に顔を出した猫の飼い主を捜す物語。
この話では仙堂と庵(いおり)の意外な一面が見られる。猫を昔 飼っていた良にとっては猫との交流が今は亡き家族との温かな思い出をよみがえらせることとなった。そして猫に集まってきた生徒たちとの交流によって良の学校内での輪が更に広がる。伯王が一緒になって探してくれたことで、良の猫に関する思い出が また増えていったという お話。


12話。理事長室に呼ばれた良は、そこで祖父母と対面する。このタイミングになったのは良の この学校での生活も地に足がつき始め、祖父母に面会しても もう里心が つかないからだろうか。良の祖父は理事長と同級生で懇意であったから理事長室での対面となったらしい。
良の呼び出しに慌てふためいて駆け付けた伯王も交えての面談となる。常々申しておりますが少女漫画において相手の家族に会うことは婚約にも等しい。祖父母は良にとって一番近い身内であり、彼らと顔合わせをして気に入られることは結婚を意味する(笑)

その面会で良は当夜のパーティーへの参加を求められる。祖父母がダブルブッキングに気づき、急ぎ良に1件の代理を任せたいという。困惑する良をエスコートするように祖父母から無言の圧力を掛けられた伯王と一緒にパーティーに参加する。
もう良のパーティー仕様も何度目かで新鮮味がない。伯王なんて執事制服と どこが違うのかという状態(私の目が悪いだけだが…)。

そのパーティーでナンパ男の良に接近し、伯王がヒーローとして駆け付ける。ただし通常の少女漫画と違ってヒーロー役の伯王が暴力や威圧を使えない立場なので男が退散してくれない。そんな盛りのついた猫のようなナンパ男に冷や水をぶっかけるのは良。こういう後先を考えない行動は庶民の特権と言えよう。
その騒動に場は騒然とするが、そのナンパ男がパーティーの主催者である男性の孫ということが分かり、主催者の雷が孫に落ちて場は収まる。治まらないのは良と伯王の心。その非礼を交互に詫びる。そんな態度が主催者の心を打ち、彼らは寛大に許される。

そして驚くことに このパーティーには祖父母も参加していた。彼らは孫が「大切な人」と手紙に書いた伯王の執事姿を見て、彼という人を知りたかったのだ。
この計画には伯王も出し抜かれた。学校内では完璧な伯王もまだまだ大人たちの手のひらで踊ることもあるということなのだろうか。そして上流階級をよく知る祖父母たちは、伯王の実家・神澤グループの大きさもよく知っている。良の伯王への気持ちも固まらない内から、両想い後の試練だけは予感させていく。この船旅が目的地に着くのは いつなのだろうか…。