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少女漫画と小説の感想ブログです

名探偵・伯王の どんでん返し ならぬ ちゃぶ台返しが炸裂し、歴史は繰り返されるのか…?

執事様のお気に入り 19 (花とゆめコミックス)
伊沢 玲 + ストーリー構成・津山 冬(いざわ れい・つやま ふゆ)
執事様のお気に入り(しつじさまのおきにいり)
第19巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

伯王のいる世界に近づきたい想いで自分を磨き続ける良。ある日出会った教育実習生・綾野から専属代理を申し込まれて? 一方、学園では紗英の薬指に光る指輪が噂に。ところがその指輪を巡って盗難事件が発生し良にあらぬ疑いが!! 良を窮地から救うため伯王はある決断を…!?

簡潔完結感想文

  • これまで使わなかった悪役に都合の良い展開が目立つ。お金こそ全てがテーマ?
  • 良のためにライバル関係の男性たちが初タッグ。だが伯王は名探偵に成り切れず。
  • 愛の終着駅は破滅なのか。互いを思い遣るからこそ自己犠牲の精神になるが…。

2話以来、70話ぶりにヒロインの敵対勢力が登場する 19巻。

語弊のある言い方だが、ヒロイン・良(りょう)は これまで この学校の良い男から順番に懇意になっていくような人である。新キャライケメンが出てくるたび、彼女だけが その人 仲良くなるような、周囲の生徒から見れば面白くない展開が続いていた。だが『1巻』2話以降、良に対して悪口を言う人は いなかった。それは良が懇意になった良い男が、この学校の権力者でもあったからである。ますます周囲の生徒の怒りを買いそうな状況だが、天下の大財閥・神澤(かんざわ)グループの御曹司・伯王(はくおう)を味方につけた他、学年トップの先輩たち、執事としても教師としても有能な男など、彼女の味方は錚々たる顔ぶれであるためか、良への不満は作品上は まるで無いかのような扱いになる。
全くもって言い方が悪いが、良は男たちの後ろ盾を使って この学校の治外法権を手にしていたのではないか。その証拠に『18巻』から伯王が この学校を休学した途端、良への悪口が再燃する。

御曹司・伯王がいなくなったら、良への陰口も解禁される。まさか これも神澤グループの抑止力なのか⁉

我ながら非常に悪い物の捉え方だとは思うが、ある意味で真実である。良への少なからずの羨望や嫉妬という土壌があったからこそ、今回から教育実習生として登場する綾野(あやの)が軽く煽っただけで、良への不満は炎上していくのだ。良が伯王の実家の凄さを見ないで呑気に過ごしていたように、今回、人々が気づかない振りをしていた良というヒロインへの優遇が一気に見えてきた。

ただしヒロインは常に逆境に強い。良もまた伯王がいない状況でも ふさぎ込むことなく、常に顔を上げて生きていく。読者は そこに彼女の精神的強さが見て、彼女なら逆境を突破するような、人の心を浄化するようなパワーが秘められていると希望を見出す。
だが思った以上に炎上のスピードは速く、良は その炎で身動きが取れなくなってしまう。そこに現れるのはヒーロー・伯王なのだが、彼の能力を持っても炎を完全に鎮火できないようだ。

悪意の炎に囲まれ世界から孤立してしまいそうになる2人が、2人だけで生きるのか、それとも別の道を模索するのか、物語は重要な岐路を迎える。ただし2人だけで生きることには困難が多く、そして それは良の両親の辿った道でもあり、そこには後悔や反省をする人生を大切な人に背負わせてしまうかもしれない。すれ違ってしまった人たちとの「わかり合う時間」の捻出。強硬手段に出るだけでなく、誰もが納得する未来を目指して、良は歩き始める。たとえ その選択が、伯王は喜んでくれなくても…。



73話。教育実習の新キャラ・綾野が登場。物語も最終盤に差し掛かっているのに新キャラとは不自然である。
上述の通り、イケメン新キャラ大体トモダチ、の良は綾野とも すぐに近づく。綾野は良の専属執事が現在 不在だということを知り、自分が この学校の専属執事制度を学ぶために良の専属執事を申し出る(教育実習生は他にやることが山積みだろうに…)。物語上仕方ないが、この場面、周囲の生徒の反感を買うのと同じような理由で、私は良が折角、伯王に頼らずに自分で勉強し始めたのに、綾野とマンツーマンでレッスンするから男性に甘えるような嫌な部分が出ている気がしてならなかった。
それに良が伯王と一緒にいる将来を「万にひとつみたいな可能性」というのが、ちょっと分からない。『18巻』で神澤グループの大きさは分かったつもりだが、それでも やっぱり「万にひとつ」とは思えないのは少女漫画だという前提が捨てきれないからか。最後に このテーマを扱うのなら、急に神澤家の大きさを表現するのではなく、これまでの18巻分で少しずつ読者に伝えるなどの工夫が欲しかったところである。良が今更マナー習得に焦るように、本書も時間とページだけは たっぷりあったのだから、もっと描き込める要素はあったのではないか。

一方、恕矢(ゆきや)は紗英(さえ)の専属執事として、「婚約指輪」を見せびらかすように振る舞う彼女の異変を的確に捉える。不自然さを指摘された紗英だが、それでも彼女は前に進むだけ。

ラストで正体を見せる綾野。彼は紗英の父親が放った刺客で、紗英が見せびらかしている「婚約指輪」の盗難を演出するためだけに存在する。にしても綾野の正体を知ってから前半を読むと、男性が天然の振りをしていて滑稽 極まりない。そして綾野をねじ込むために権力や金銭は使われる。イケメン無罪ならぬ、お金持ち無罪にならないことを祈るばかり。


74話。綾野が良に ますます肩入れすることで、この学校に悪役令嬢候補が続々と誕生する。その土壌が出来た上で、紗英の指輪の盗難騒動が起こり、良は噂の的になる。自作自演の盗難だが、この件は紗英の知らないところで発生する。彼女の父親が学校に潜入させた綾野を駒として動かし仕組んだ事件であった。

良の鞄から指輪が出てきたことで、良は まず3日間の謹慎処分となる。だが学校で自分に関する悪い噂が勝手に流布しても、良は純真無垢な魂を示し続ける。いかにもヒロインらしい振る舞いだが、ここまでくると能天気に見えるが、それも彼女の気丈さで、本当に安心できる人の前では封じ込めていた感情を解放しているシーンが後に見られる。

休学して仕事を学んでいる伯王は順調に成果を示す。だが そうして奮闘する伯王のもとに、学校内での盗難事件、そして良の退学の噂を耳にする。伯王に知らせたのは教師・向坂(さきさか)だが、彼はなぜ伯王に退学という言葉までチラつかせたのか。伯王に阻止して欲しかったのか? いやいや向坂なら伯王が出来ることも出来てしまうだろう。この部分の向坂は、伯王に連絡することの意味を自分の中で問い質さないで、まるで噂好きの生徒と同じようなメンタルで彼に連絡しているのが気になる。向坂の能力なら、もう少し言葉を選んだり、伯王の立場を考えるはずだろう。なんだか残念で雑な展開である。


75話。良は職員会議の場に立ち、そこで自分が退学処分になる可能性を初めて知る。目の前が真っ暗になり、何も考えられない良を支えるのは伯王だった。彼は教師陣に3日間の猶予と、もし潔白を証明できなかったら自分も彼女の専属執事として退学するという。その場から離れて、2人は1巻以上ぶりに顔を合わせる。伯王は仕事の成果があり、1週間の学校での生活を許されたから戻ってきた。
盗難事件では探偵役として動くのは恕矢かと思われたが、恕矢の行動は綾野にバレ、彼は身動きが取れなくなったので、伯王が動くようだ。伯王は紗英にも尋問するが、彼女は状況は全て教師たちに話したと言うばかり。その代わりに口を開くのは婚約を進めるという話。自分が主導権を握っていなくても、彼女は自分の役割を果たすことにしたようだ。

紗英の思惑とは裏腹に 水と油の2人が初タッグ。どうしても仙堂と伯王との類似性を感じる。

しかし伯王は探偵役を務める割に、伯紗英の指輪が自分が贈ったとされる「婚約指輪」だということを知らなかったのには驚き。伯王がそれを知るのは恕矢との会話の中。自分は動けない恕矢は伯王に良の潔白の証明を託す。ここで恕矢が伯王と協力するのは、伯王と同じぐらい良を想っているから。ライバル関係にはあるが、共通の愛する人を通して2人は結託する。まぁ こういう状況が紗英の機嫌を悪くさせるばかりなんだと思うが…。

伯王は恕矢が入手した綾野の履歴書をたどり、彼の人脈を辿る。そこで見えてきたのが紗英の父親との繋がり。だが大人たちは狡猾に逃げ回るばかりで、伯王は確実な証拠を手に入れられない。
それに焦った伯王は直接 自分の父親に話を通そうとするが、良のことを一顧だにしない父親を見て、彼が良のことを最初から受け入れる気がないことを知る。それが父子の決定的な亀裂となり、伯王は自分から家を出ると宣言してしまう。
良のことになると執事という立場を忘れがちになる、と向坂に見透かされたのは彼が初登場した『4巻』だったか。結局、伯王は あんまり成長していないのかもしれない。


76話。どうやっても良のことを認めない父親に反発して、伯王は神澤の家を出るという。これまで伯王が築いてきたものを全て捨てて、良と生きるという。
伯王に本当に能力があるなら、次の手を考えて考えて、事態の打開をして欲しかったが、思った以上に幼稚な伯王は天秤を一気に傾けようとしてしまった。こんなにも直情的な人だとは思わなかった。探偵役として動いた指輪事件も真相を突き止める前に、前提から壊して無かったことにしようとしている。ここも伯王がまだ子供で、大人の狡猾さには敵わないようで残念だ。そして伯王の潔癖さは いつか限界が生じるだろう。人の上に立つ者として、誰かを切ったり、納得できないことを選ぶ日は来てしまう。これまでの物語から考えると、そういう汚れ仕事は庵が内密に処理するのかな、と思われる部分はあるが。だが自覚的にしろ無自覚にしろ庵の手を汚して、自分が綺麗なままでいるのは それはそれで卑怯に思える。伯王の父親に威厳があるのは、現在の伯王が嫌うような道も選んできたからであろう。

伯王が実家を出る話を彼から直接 聞き、良も動く。良は自分から伯王との専属契約を解除し、そして伯王の父親に会い、伯王との関係を清算しようとした。そうして自分が犠牲になることで、伯王と父親、彼の背負っているものを戻そうとしたのであった…。

これは良の勝手な行動ではあるが、彼女は自分よりも伯王のことを考えて行動に移った。それは両親と祖父母が、結婚を巡る没交渉期間があったため、家族として「わかり合う時間」が作れなかった後悔を知っているから。今、全てを放棄するのではなく、これから時間を共有させたい。そのために良は自分の持てるものを全て差し出したのである。