《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

早くも日常回。色々含みを持たせた言葉「ファンなら 堪らない内容」が ピッタリかも…。

執事様のお気に入り 2 (花とゆめコミックス)
伊沢 玲 + ストーリー構成・津山 冬(いざわ れい・つやま ふゆ)
執事様のお気に入り(しつじさまのおきにいり)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

超セレブ高校・双星館学園の執事養成コース「B(バトラー)クラス」の神澤伯王(かんざわはくおう)と専属執事の契約を結んだ庶民・氷村良(ひむらりょう)。伯王のつきっきりのお世話で楽しい学園生活を送る良は、ケーキ作りの腕を買われクッキング部の助っ人に…!?

簡潔完結感想文

  • 主人公が学校に慣れるに従い、登場人物がワラワラと増えていく白泉社作品。目と頭を酷使。
  • 親族で話を作るのも特徴。序盤の描写では伯王の家庭には問題がありそうな雰囲気があるが…。
  • 甘い物が好き、その人の外見よりも内面を理解する。それが お互いを大切に想う根拠となる。

泉社作品は恋愛感情に気づくまでの長さが一番の贅沢、の 2巻。

以前、葉鳥ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』の感想文のタイトルにもしたが、白泉社作品で一番 贅沢なのは、作品内の学校施設やイベントの規模ではなくて、主役たちに恋愛感情を抱かせないで話を引っ張る部分ではないかと思う。白泉社作品のように奇抜な設定で勝負を出来ない他社の作品は1話からキスをされたりすることで読者の興味を引かせようとするが、白泉社作品は設定重視なので展開を急がない。設定が受ければ しばらくは人気が安泰なので、ゆっくりゆっくり リアルタイムで年単位の時間を消費してから恋愛問題を扱い、それを中盤のカンフル剤として利用する。
それは全21巻の本書も同じで、ヒロインの良(りょう)、そしてヒーローの伯王(はくおう)は それぞれに相手に特別な感情を抱きつつあるが、それが どんな気持ちなのか まだハッキリさせない。両片想い状態を引き延ばして読者にニヤニヤしてもらうのも作品側のサービスであろう。

長編作品でも読んでいて嫌な気持ちにならないのも白泉社作品の特徴だろうか。他社の長編作品なら2巻ぐらいヒロインを罠にはめるライバルキャラが大暴れすることが よくあるが、白泉社の場合は そういう嫌な目に遭って苦痛が続くことは少ない。上流階級の悩みのない世界に読者を招待するのだから、夢のような、ある意味ファンタジーのような世界に読者を没入させるのが使命なのかもしれない。
本書の場合も、異分子であるヒロインを やっかむ相手は『2巻』では鳴りを潜め、良が この学校に馴染み始める。伯王周辺以外でも彼女の良さを認めてくれる出てきたり、新キャラとの出会いがあったりと、少しずつ世界が広がっていく様子が描かれていく。

白泉社作品が恋愛を議題に上げなくても巻数を稼げるのはキャラ数の多さも その1つの理由だろう。最終的に総勢何十人というキャラで溢れかえるが、そこで1話だけで退場するキャラと、何度も呼ばれる便利なキャラとにふるい分けられるという現実さながらの厳しい椅子取りゲームが行われることになるが…。

つまりは ずっと日常回なんですよね。恋愛が進む訳でもなく、ただただヒロインの騒がしい日常が描かれるだけ。これは作品世界が好きな人には いつまでも浸っていたい世界になるが、特に興味のないキャラや設定だと どこを楽しんでいいか分からない。
特に本書は『1巻』で書いた通り、分業制ゆえに冷静さが常にあって、作者の筆が乗りに乗っているというという部分が見られない。だから良くも悪くも淡々と物事が進んでいく。画面が常に綺麗だったり良い部分もあるのだが、日常回になると もっと突き抜けて欲しいな、という部分が見られるようになった。本書は白泉社作品にしては どんな行事も「常識的」なんですよね。私は全巻読むことを決めているからいいけれど、『2巻』以降で作品世界と合わないと思う人も一定数 出てくるのだろうな、と思った。


5話。良の友人の薫子(かおるこ)が所属するクッキング部が新作お菓子の発表をしあう催しが間近なのだが、このクッキング部には まあともに お菓子を作れる人が誰もいない。そこで お菓子作りが得意な良が力を貸す、という内容。

休日に練習するクッキング部と良に付き添って伯王たち執事3人組も参加。ここで全員の私服が見られるが、伯王たちは私服でも お堅い感じで意外性がない。間違ってもTシャツとか着ないだろう。この回は良が自分と同じLクラス(いわば普通科)の人達と楽しく休日や放課後を過ごす初のイベントになる。少しずつ彼女の輪が広がっていく。

伯王は料理が得意とは言えないので、場は良と、料理が得意な庵(いおり)が仕切る。この話でもメイン級のキャラが有能みたいに描かれてますが、クッキング部が無能なだけという疑惑が拭えない。誰でも思いつくようなことを思いつかないだけだし、そもそも新作お菓子の発表があるのに準備をしないことが無能を象徴している。

当日は伯王たち執事の出番で、最高級のおもてなしをすることで この学校の生徒たちの美点が十全に発揮される。


6話。途中編入なので早くも2年生に進級した良たち。
伯王の授業が終わるまで待っている良が出会ったのは10歳の子供・理皇(りお)。兄を捜しに来て迷子になったにもかかわらず俺様的発言を繰り返す理皇と一緒に行動する良だったが…。

この理皇は顔を見て一瞬で分かる通り、伯王の弟。理皇から「兄」の話を聞くことで、伯王の家庭や性格が垣間見られる仕組みになっている。
どうも伯王が実家に寄り付かない話を聞く限り、彼は家庭を嫌っているように読めるが、結果的に そんな設定はない。後半で実際に登場する伯王の家族は崩壊している訳でもないので、ただ単に言葉通り伯王が実家に帰らないという話であった。また、彼の家族・神澤(かんざわ)家の集合写真は1枚しかないが、これも冷え切った環境かと思いきや、それも本当に家族全員が ただ忙しいだけらしい。この辺は終盤で いくらでも路線変更を出来るように様々な可能性を持たせられるようにしていたのかな。

伯王の身内だとは知らずに交流し、彼の家族に気に入られていく。ヒロインの力は万能です。

良の勘違いでLクラスばかり捜索していたが、理皇の兄・伯王はBクラス(バトラー=執事クラス)。やがて兄弟は対面し、良は伯王の兄としての一面を見る。ちなみに伯王は3姉弟で、彼の上に姉がいるらしい。
だが理皇は良と一緒にいる伯王が専属執事として甲斐甲斐しく彼女の世話をするのが気に入らない。憧れの兄が誰かのものになってしまったような寂しさがあるのだろう。

一方で良は この日、伯王の新たな一面を知ることが多いが、やっぱり理皇の方が伯王のことを何でも知っている。それに対抗するように良も 理皇の10年間の歴史に負けないぐらい伯王のことを知りたいと願う。それは彼女に生まれた密かな独占欲ではないだろうか。


7話。几帳面な庵と大雑把な隼斗(はやと)の諍いが始まる。伯王のもとで働く使命の中、兄弟のように育った2人の たまにあるケンカ。周囲は心配するが、慣れている伯王は落ち着いたもの。だが慣れない良は心配し、勝敗を決めるためにレースを開催する。こうやって何でも大事のイベントにしてしまうのは白泉社作品らしい内容である。

レースの関門は「執事様」らしい内容が設定されている。こういう所が本書の しっかりしている部分だが、同時に突き抜けた面白さがない。日常回なら もっとギャグに振り切って欲しいな、と思うのは『ホスト部』の影響が強いからか。
最終関門で庵と隼斗と伯王の思い出が語られる。2人をダシにして最後に伯王がおいしい所を持っていくのは、良がメインの話と同じか。『1巻』の感想文でも書きましたが庵たちは作品の構成的にも非常に有能な人たちなのです。


8話。寮に入った孫をいつも気遣ってくれる良の祖父母。そんな彼らに お礼の手紙とプレゼントを贈ることを思いついた良は、同行を申し出る伯王と一緒にデパートで買い物をすることになる。
2人に明確な好意はまだ芽生えていないけど、実質デート回です。意外だったのは伯王は電車に乗れること。切符の買い方も路線も分かっている。伯王は それほど浮世離れした生活をしていないのか、それとも執事になるために学習したのか。

学校の外に出ることで伯王が周囲の視線を浴びるほどの容貌をしていることを改めて認識させる。街中で注目浴びる人がいるのは分かるが、「あの人カッコよくない?」と本人に聞こえかねない距離で話す人には未だ遭遇したことがない。ちなみに本書では伯王が自分の外見を褒められても大して意味がないという、これは伯王は内面までイケメンだということを表している。

伯王の価値を読者に再認識させるのは彼のことを知らない学校外デートだから出来ることである。

学校外でも伯王はジェントルに接してくれて、更には男性店員が馴れ馴れしく良に話し掛けると嫉妬する。良自身は無自覚なので、こういう描写を楽しむのは読者の特権である。
デパートの中で伯王が神澤グループの御曹司ということが分かり店員が話しかけ、彼が連れ立っている良にも特別な奉仕をしてくれようとするが、良は それを拒否。これもまた良が伯王の背景や、得られる利権に興味がない ということなのだろう。つまりそれが、電車内で伯王が言ったように、彼の外側(外見や お金)には釣られていないということである。

この8話では2人の甘い物好きという共通点、そして価値観の一致が見られる。この買い物を通じて伯王は良にとって「いつも隣に いてくれる大切な人」となった。さて、この後「大切」がどういう意味なのかが さらに問われていくのだろうか。