《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

全ての事象に警察官の功太は介入できるし、大神は ある意味 作品世界の中心。カコだけが部外者。

PとJK(4) (別冊フレンドコミックス)
三次 マキ(みよし まき)
PとJK(ピーとジェイケー)
第04巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★(6点)
 

カコと功太がついに初○○を!? うれし恥ずかし♪浮かれるカコとは裏腹に、大神はひとりで悩みを抱えていた。警察嫌いも、生傷が絶えないのも、じつは深~いワケがありそうで…。愛と友情の大神編、クライマックス!!

簡潔完結感想文

  • 文化祭編後半で友情と愛情と三角関係はMAXになる。…が、崩壊の足音が聞こえる。
  • 予測できない4年後の今の自分は、4年前の自分のような彼を救うことが出来るか…⁉
  • 好きになる過程が しっかり描かれている片想いは共感できる。離婚しないかなぁ(笑)

女漫画では敗者となった恋のライバルは物語の外側へ追放されるはずが…、の 4巻。

大神最強説。
『4巻』でカコへの気持ちを自覚し、そして彼女の背景まで知っても尚、気持ちを伝えた大神(おおかみ)に目を奪われずにはいられない。交際0日婚だったカコと功太(こうた)に比べて、その人を好きになる過程が十分に描かれているのも私的には好ましい。
そして大神は恋のライバル(当て馬)であり絶望的な立場の差があるにもかかわらず、これ以降も大神は絶滅せず、どっこい生きている。それは作者の慈悲なのか、それとも主役たちを食うぐらい野性溢れる人気キャラだからなのかは分からない。
ただ私としては大神のターンは1回で良かった。これ以降は、つかず離れずの存在でいてくれれば良かったのだが、大神は 後半で もう一度 重要人物になる。これは連載を長期化するために仕方のない展開だったのだろうか。2回の大神中心の展開が、カコや功太の存在意義を危ぶませたような気がしてならない。悪い意味でも大神は最強なのである。

そして大神といえば、カコだけじゃなく男性同士の繋がりも見所となり、作品世界を深めて広げてくれている。ジロウと大神の友情関係も良いし、功太と大神の似た者同士で兄弟のような関係も素敵だ。2人のトラウマが反響することによって作品に厚みと読みごたえが出てきた。功太の大人の思い遣りが一番 響いているのはアホの子のカコではなくて大神のような気がしてならない。その意味でもヒロインを食うような、男性ながら気にかけずにはいられない危うげな男なのである。

功太が大神を救おうとする過程は、功太のセラピーのようにも感じられる。功太は大神を救いながら、過去の自分も救っているような気がする。『4巻』のラストで「4年後の自分」という話が出てきたが、大神にとって、今は大人びて(おっさんのように)見える功太だが、大神の4年後は考え方が功太に近くなるのではないかと予想される。そして功太は自分が18歳の時に味わった悔恨を大神に回避させるために尽力しているように見える。その意味でも2人は互いが運命の相手なのである(笑)

彼らは互いに過去の、そして未来の(理想像としての)自分を見ているのではないか。ハッキリ言って、私にとっては結婚設定が吹き飛ぶほど熱く感じられた部分である(もちろんBLとかじゃなく)。どうせなら大神のような過去を持つカコをヒロインにした方が、人生における魂の共振を感じられたような気がしてしまう。

素直になれなくて、本心とは違うことをし続けて悲劇を巻き起こしてしまうのは、自分だけでいい。

書では功太という人物が警察官であることで無理なく作品内で起こる事件に関われている(それによって作品内が警察が関わるような事件ばかりになって暗くなってしまうが)。なので功太が全ての事象に関わるのは自然なことに思える。だが その反面で、扱う事件が事件のため、カコが介入できないことが多い。自分の職務や職責の範囲を熟知し、その制約の中で動こうとする理性的な功太に比べ、カコが直情的で ある意味 無責任に動くことが悪目立ちしているのが気になっていく。
カコの動き自体は通常の「お節介ヒロイン」の範疇だと思うのだが、テーマが重いこともあり カコが関わり解決する、ということは不可能で、力不足が目立ち、そのためカタルシスが少ない。考え方や立場の違いが功太との すれ違いのように見えてしまうこともあり、物語が進むにつれて2人が共に人生の苦楽を分け合っているという夫婦感が薄れてしまう。この辺は物語の設定・構造上の問題で、カコが作品にとって「要らない子」にも思えてしまう部分である。


角関係の準備は整った『3巻』の続き。
文化祭でカコの高校に来たことで、功太の過去の封印がまた一つ解かれる。これは後々 面倒くさいことになりそうな気がするなぁ。『4巻』に突入したのに、本書における「するする詐欺」はキスなのが凄い。

ジロウの妹・一花(イチカ)の迷子騒動で、ジロウと大神の距離が急接近している。自分の大事な人を大事にしてくれた人を好きになるのは当然か。

話はそこから大神の家庭に移行する。繁華街で酔い潰れた女性に声を掛けた功太は、その女性の背中にアザがあることを認める。その女性を迎えに来たのは大神で、彼女は大神の母親だという。

文化祭後から学校を休んでいた大神だが、彼は学校を辞める決意をしていた。あの夜、母を迎えに来た時にはなかった傷をつけて退学届けをもらう大神。担任教師も彼の家庭の内情を理解しているらしい。
大神は、この学校での全てのことを捨て去って行こうとするが、ジロウは友達として彼との縁を大事にする。ここでのジロウの温度感がいいですよね。全力で大神の意向を無視して引き止める訳でもなく(少女漫画ヒロインなら絶対する)、それでいて突き放す訳でもなく、ただ友人として関係の継続を望んでいる。

ジロウから話を聞いた少女漫画ヒロインのカコは大神を追いかける。彼の良い所を列挙することは、大神にとって自分そのものを認めてくれたように感じられただろう。だからカコに感謝し、カコを好きになる。抱擁という形でカコにすがりつく。
だが大神はカコを「巻きこみたくない」から突き放す。彼女が自分の事情に関わってしまえば、きっと素直な感性を持っているカコは泣いてしまう。だから傷だらけの顔で笑って、カコと決別するのだ。男性たちがカコに距離を取る時は、それだけ彼女を大事にしている時でもある。


神は母親の内縁の夫から、長年 母子でDVを受けていた。
6年前、大神が12歳前後の頃に一度、警察へ通報したが内縁の夫の説明を聞いて、大神の話を聞かずに帰ってしまった。警察は「家庭の事情」に手出しできない「民事不介入」のせいで暴力を受けたことが大神の警察官嫌いを引き起こしたらしい。
大神の退学理由は、その男が母に勝手に借金を作ったから。家計のためにも働かなければいけない理由が出来た。

カコは功太を通して大神の事情を知ろうとするが、功太はカコのことを「大事に思うから言えないこともある」のだと思う。だがカコは そういう功太の大局的な視点を理解できない。やはり精神的に幼く、目の前の事情を解決することばかりに頭がいってしまうのだろう。

功太は大神の過去を調べる。再読してみると、あれっ、功太が大神に話している、この「内縁の夫」の件は後半の話なのかな、と思う部分がある。罪状については後半の人物のような気がするけど、大神の母親の周囲には似たような人間が集まるだけか。

大神は警察アレルギーがあるので、功太の質問に答えようとしないが、功太は大神に出来るだけ真摯な態度を取ろうと心掛け、「絶対に助けるから」という真正面から言葉をぶつける。
功太は大神の自己犠牲、我慢の精神を見抜いている。大神は自分が同じ年齢の頃に過ちを犯しているから、同じように本心を認められない、誰かを頼れない大神のことを救いたいのだろう。功太のその気持ちは前のめりになり、押しつけの善意になりかねない。それをコントロールするのは大神の事情をよく知る先輩警官であった。この先輩のようなムードメーカーが実はしっかり者という設定もグッとくるところ。警察官の仕事には制約あり、そして その中で見つける最善だと先輩警官は言う。このテーマは警察小説のような お話になっているなぁ。


に帰った大神は内縁の夫から再び暴力を受ける。郵送で届いた文化祭での写真を見た その男は、カコに(性)暴力を振ることを ほのめかす。カコの危機に対し大神は、男を殺害しても構わない程の敵意を燃やすのだが…。

大神が灰皿を振り上げた時、家の呼び鈴が鳴り、警察が近所からの通報を受け、訪問する。またも家庭の事情を盾に警察の介入を阻止しようとする男だったが、功太の言葉を思い出す大神は、玄関の扉の向こうにいる功太の名を呼ぶ。そして功太が自分を本当に「絶対に助け」ようとすることが分かった大神は、警察官に大声で助けを求める。
この大神の助けを求める声が、現場の警察官に事件性を判断させる材料となり、功太たちは大神の家に突入する。

こうして事件は解決し、大神の退学届を学校側が受理する前だったから一件落着かと思いきや、世間の風当たりを考えてか、大神は転校することになる。男から受けた怪我で入院中の大神はカコが見舞いに来ても寝ている。寝たふりをして彼女をやり過ごす。そして そのまま別れの日が近づくが…。


神は最後に功太に挨拶をしていく。内縁の夫の刑期は3~4年、だがその短く感じる期間に焦る大神に、功太は自分が18歳の時に聞かされた話をする。これは彼らほど重い過去のない私達にも十分適用できる言葉で胸に残った。父を失った功太に姉が道を示してくれたように、今の功太は年長者として大神に助言ができる。
功太は色々な経験をしているから23歳とは思えないほど老成している。本当は功太にもう少し社会人経験を積ませた方が良かった気がするが、高校生と社会人カップルでも、主に年上の男性側にも実質、年齢制限があるように思う。やっぱり30歳が16歳に恋をしたら犯罪臭がしてしまうので、20歳前半が限界なのだろう。23歳が とんでもない未来に思える読者もいれば、容易に想像できる読者もいるということだ。

大神一家はこの町での禍根を消していく。大神の母親は初めてカコを傷つけたことをカコの両親に謝罪をし、そして学校にも挨拶に来る(フラグ)。

この際、カコと大神の2人も別れの挨拶をする。その際に大神はカコに好きだと告白をする。一足飛びだった功太に比べて、大神は ゆっくり着実に距離が縮まっているので見守ってきた、という実感が読者にある。功太との結婚こそが売りなんだけど、同時に本書の瑕疵となっていると感じずにはいられない。

そして この告白の時、大神はカコと功太の全てを知っていることも重要だ。功太が全てを大神に話しているからだ。それでも大神は この関係に けりをつけるためにも、この告白をした。切ないけれど確かな勇気と第一歩を感じる大神の告白であった。

少女漫画の「幼な妻モノ」で結婚の事実がバレるのはバレても問題ない人からである。

さよなら でなく再会を約束して 2人は別れる。そして その言葉通り、大神は この作品において強力な重力を放ち続ける。