《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

本書の特徴は長い過去の回想と過去からの復讐。だから過去のないカコは出番がない。

PとJK(11) (別冊フレンドコミックス)
三次 マキ(みよし まき)
PとJK(ピーとジェイケー)
第11巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

ついに明らかになった唯の生い立ちや、大神との関係。暴力的な父を持ち、現在も危険な状況にいる唯を守るため、カコが立ち上がった! まずはカコの家で一緒に暮らすことに。相変わらずケンカばかりな2人だけど、徐々に距離を縮めていき…。そして、唯の目を盗んで功太とラブラブをしていたら、まさかの展開に!?

簡潔完結感想文

  • ヒロインがお節介をすることを決めるまでの この2巻。それでも介入する動機が弱い。
  • 功太の過去の事件、恋にならなかった高校時代、大神兄妹の回想と過去編は長すぎる!
  • 最初の過ちを取り返すのが本書の男性陣。功太に続いて大神の汚名返上の生き様を見よ。

変わらず 現代パートの激弱が続く 11巻。

結局、カコが唯に関わり続けるのは お節介以外なにものでもないことが判明する。
以前も書いたが、本書は連載化、そして連載長期化にあたって、特定の人物たちに過去を用意することで世界の広さと奥行きを出そうとした。『PとJK』の半分は過去で出来ている。誰も彼もカコと知り合う前に過去があって、当然そこにカコは登場しない。法に触れる行為の被害者たちを描くことで功太(こうた)には過去に介入する理由が出来るが、カコには ないままである。
もし唯(ゆい)編を どうしても描きたいのであれば、唯の問題を過去に起因させず、現代パートのまま理由のない万引きを繰り返すとか、青少年の衝動的な悪事を描けばよかったのに(そうすると 唯の話が終わった後に彼女は少年院などの更生施設への退場となってしまうが)。
過去に原因を作り、しかも大神(おおかみ)を兄として絡ませることで全体の半分は大神に持って行かれた気がしてならない。過去パート、大神の比率など、全体のバランスが惜しい作品である。

結婚というゴールから始まった関係で、それが読者に受けたのだから、どうにか作者は過去に逃げずに、現代で戦い続けて欲しかった。もはや現代が おまけで、カコと功太が一緒にいるシーンがレアになるとは思わなかった。

ヒロインが第三者の事情に介入する過程を克明に描いたら、介入する意義がないことが分かった。

神と唯の出会いは、大神の母の内縁の夫の連れ子として紹介されたのが最初であった。この前に付き合っていたのが、大神母子に暴力を振るっていた男で、高校生になった大神を苦しめていた男である(『4巻』)。

以前の失敗を無かったかのように浮かれる母を見下し、内縁の夫にも距離を取る大神。だが唯は新しい家族に気遣いを見せる。それが唯が10年ほどの人生で学んだ処世術なのだろう。ちなみに唯の父親は 漫画版『逃げ恥』の平匡さんに見えてならない。

唯の本心ではない態度を快く思わない大神だったが、彼女のために料理を2人分作ったり、体調の悪化に対処したりと何も出来ない「妹」の代わりに「兄」としての役割を果たす。
初対面の唯が平均的な成長よりも小さかったのは、彼女が十分に栄養を取れていなかったのと、大きくなることへの心理的な抑制があったか。

唯が自分をお兄ちゃんと呼ぶことに抵抗がある大神は「平ちゃん」と呼ばせる。兄ではないことへの線引きと、そして同病相憐れむ 2人の親近感の上に成り立つ呼び名である。そして最初から2人が兄妹でい続けられないという別れの予感でもあったのかもしれない…。


長期と大神の手料理のお陰もあって2人は大きくなる。だが身体は大人に近づいても、彼らは子供のままだという現実が待っていた。

平助は唯が父親を嫌っていること、そして その父親に何かを懇願され、それを唯が拒絶する場面に出くわす。唯に暴力も辞さない彼を逆に大神が暴力で圧倒する。だが父は第三者を使い大神に暴力を振るわせ、自分への反抗が手酷いしっぺ返しを受けることを思い知らせる。

唯はそれが父親の執念であることを見抜き、そして大神の母親が泣くばかりで現実を見ようとしないことを軽蔑する。いつぞや唯が大神にカコのことを嫌いなのは、この母親に似ているからといっていたが、自分のことしか考えられない視野の狭さが似ているのだろうか。事態を見通す唯は大神に謝り、そして大神は唯と この現実からの逃避行を提案する。亡き祖母の経営していたスナックを目的地に2人は移動を続ける。だが金が尽き八方塞がりになり、唯を守り切れない絶望が大神を襲う頃、彼の母が迎えに来る。

その安堵から大神は唯の手を離してしまう。それは唯にとって、大神も含めて誰一人 信頼できる人のいない世界に彼女を戻すということであった。自分が絶望から逃げるために、守るべき存在を絶望させてしまう。そんな負の連鎖が起きてしまった。このことがあるから大神がカコから優しいと言われるたびに複雑な顔をする。彼は唯を救い切れなかったから。

母は唯の父親と別れ、息子と共に暮らすことを決める(母が同居人の異常性を感じたのかどうかは定かではない)。
だが それは唯との別れを意味していた。実の子でない唯を母が連れて行けば罪に問われる。唯が自分のことをママと呼んだことを あれほど喜んだが、大神の母にそこまでする覚悟はなく、例え唯が不幸になっても、自分たちの平穏を最優先する。16歳から1人で息子を育て、そして男を渡り歩いてきた彼女の嗅覚がそうさせるのだろうか。

唯の予言通り、大神は母のことが好きだから母と絶縁は出来ない。母と一緒にいるためなら唯を見捨てる、そんな大神を唯は卑怯者と断じる。これが大神のトラウマで、自分勝手や未熟さの象徴なのだ。

唯が続柄で相手を呼ぶ時は かえって相手を信用していない証拠。平ちゃんから お兄ちゃん は格下げである。

一通りの話をジロウから聞いたカコ。
大神が話すのを躊躇うのを無視してまで根掘り葉掘り聞き出そうとするカコの態度はジロウに たしなめられる。この時のジロウの態度は以前の唯と通じるものがある。中途半端な自分の興味から首を突っ込んだことだが、その話の重みに対して適切な対応が出来ないのなら聞くべきじゃない。自己満足な お節介ヒロインを一刀両断する言葉である。
だがカコは意地になって唯を守り抜くことを宣言する。苦手な人と分かり合う事がカコの当面の目標だからである。

ジロウが大神に代わって話したのは、唯のことを話したことで起こる問題や責任を皆で背負うため。何でも一人で背負おうとしてしまう不器用な大神の肩代わりをしようというジロウの心遣いであった。さすが誰かのピンチを察することの出来る超能力ヒーロー。声にならない声を確かに拾い上げてくれるジロウは大神の良きパートナーとなる。


の後から修学旅行を一緒に回った3人の同級生+大神は唯を捕獲し、カコの家で保護することを狙う。だが女性陣の誘いは完全無視。男性陣には心理攻撃を仕掛け、唯は包囲網を突破してしまう。

そこから諦めずに何とか唯をカコの家に誘導する4人。カコや大神単体では言い負かされて終わっていたところでしょう。ここはチームプレイで彼女の反論を封じる。4人だから唯にも負けないという連帯感が好き。

唯は以前、寝不足で倒れたカコを助けたことからカコの母親には歓迎される。唯がカコの家に来たところで、功太も登場。功太は唯にカコとの夫婦関係もバラし、カコのやろうとすることも、危険を回避することを条件に認める。の時、功太が素というよりも、もっと意地悪いような対応をするのは、こうすることによって「警察感」を意図的に薄めているのだろうか。公僕としてではなく、限りなく私人として唯に接し、唯の本音を引き出そうとする彼の計算か。

結局、この兄妹は似ている。1人で背負い込もうとしてしまう所とか、他人をギリギリまで頼れない、自分から声を上げられない所とか。だから功太も大神と同じような態度で唯に接するのだろう。そして唯が排他的になるのも、自分のせいで誰かが悲しむのを見たくないからだろう。やっぱり優しいのだ、この兄妹は。

こうして唯を守るシフトが組まれたところで いよいよ直接対決が暗示される。当初はラブコメだったはずなのにストーカーに狙われるスリラーが始まろうとしている…。