《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインの結婚までは全速力で最短距離を走ったのに、第三者への お節介は超スローペース。

PとJK(10) (別冊フレンドコミックス)
三次 マキ(みよし まき)
PとJK(ピーとジェイケー)
第10巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★★(6点)
 

酔っぱらいの功太とドキドキ! そして、謎のJK・唯とカコの女の戦いがますますヒートアップ! 第41回講談社漫画賞<少女部門>を受賞した大ヒット連載『PとJK』の最新10巻です☆

簡潔完結感想文

  • 寝不足から倒れるように眠ったヒロインだが、内容なさすぎで眠くなるのは読者の方だよ。
  • 『1巻』で夫婦となった主役カップルには友人を頼るぐらいしか世界を拡大する余地がない。
  • 「ヒロイン力」を発揮するはずが、ただの お節介ババアになるのはネタ切れ少女漫画の特徴。

校生で結婚という設定の影に隠れて目立たなかった地味なヒロインが出しゃばる 10巻。

読んでいて何の感想も浮かんでこない。ただ起きること、いや何も起きないままページが進んでいく事を呆然と眺めているだけであった。

『9巻』の感想でも書いたが、ヒロイン・カコに魅力が無さすぎる。そして そんな彼女をどうにか事件の関係者にするために新キャラ・唯(ゆい)との縁を作るのに苦心をするのが この『10巻』である。
カコが本来、関わらなくていい事象に関わるのは そこに自分の売り込まないと、本書の存続が危ういからである。だから多少(かなり)無理矢理でもカコと唯に縁を作ろうとするのだが、そのためだけに この巻を消費しているのが『10巻』の褒められない所である。もうちょっと作品内の密度を高める工夫があっても良かったのではないか。

作者が「カコ編」を設定するように、苦手な唯という存在と仲良くなることがカコがヒロインに返り咲く手法なのだろう。だが、カコが唯に関わるのはヒロインだからではなく、お節介ババアにしか見えない。
作者自身も弱いと思っているであろうカコが唯に関わる根拠を、作中で唯から全否定されていることも良くない。唯に拒絶の態度が見られるのは当然だが、余りにも唯の言葉に説得力があり過ぎて、カコの方が お節介で人の気持ちを踏みにじっているようにしか見えないから、読者もカコに肩入れできない。

簡単に論破されてしまうぐらいの ふわっとした動機で他者に関わろうとする お節介ヒロイン。

意地悪なことを言えば、結局、唯という存在はカコのためでなく、作者から愛される大神(おおかみ)を もう一度ひのき舞台に立たせるための道具のように思えてならない。平凡なカコや、既にトラウマを全て出した功太(こうた)では無理だが、大神ならばまだ過去を後付けできると考えて彼の周辺の問題を膨らませた。結果的に唯の登場で話が「カコ編」になるどころか、本書全体の2/3ほどを大神に持っていかれる始末である。

『9巻』で実写映画化もされ、更には講談社漫画賞まで受賞して、押しも押されぬ人気作になったのだろうが、唯編は話を引き延ばすためだけに用意された話に思えてならない。唯という存在は嫌いではないが、この話を飛ばして、功太のトラウマの最終決着編にした方が良かったと思う。それぐらい唯編の序盤は中身がなく、作品の価値を落とすような質だと思う。

そして唯の顔に違和感がある。つり目を強調しようとして目だけが悪目立ちしているからか、顔に一体感がない。


頭から唯に言われたことに落ち込んで、功太に慰めてもらうだけで1話丸々使う。カコの中だけでなく、作品内の功太不足を補う意味もあったんだろうけど、中身がないんじゃしょうがない。

そしてカコが証明したいカコと功太が交際していることを漏らした犯人捜しだが、唯が誰かから聞いたという確証すらないため、雲をつかむような話になっていて、居ない可能性もある犯人を必死に探しているだけのように見える。更には、必死になること自体が動揺する事実がある事を認めている気がしてならない。カコが唯に関わる動機にしたいのだろうが、それが弱いまま。もうちょっと強い動機付けを用意できなかったか。

ヒロイン周辺の話題を広げるために、ヒロインが ただの お節介ババアになることは少女漫画で よくあるが、本書はまさにそれ。カコは功太の助力を借りずに独力で唯と向き合う。それは功太や大神、男性たちの言うことをきかずに唯との正しい距離感を保てないということでもある。この時点で唯が本当に危険なのかは判断が出来ないとはいえ、自分のヒロインとしての能力を過信して猪突猛進する様子は危なっかしい。ここまで少しずつ夫婦としての感覚を作品は描いてきたのに、こういう感覚のリセットは冷める。

カコが唯と関わることで物語の唯を中心に置きたいのだろうが、カコは唯の頭の回転と踏んできた場数に勝てないのでカコ自体にイライラしてしまう。そして唯と大神の「ミッシングリンク」をメインの謎にしているけど、そんなに知りたくならない。演出や物語の運び次第では もっと面白くなるような気がするが、物語はやや直線的に、それでいて何も起きないまま進んでいく。

唯一の読み所は寝不足で唯と対面したカコが、その会話中に倒れ、その状況に慌てふためく唯の表情ではないか。これだけで彼女が悪い子ではないのが読み取れる。それは唯に助けられたカコも感じたはずで、この行動を根拠に、大神に続いて唯も「悪い人じゃない」と認定して、彼女を救おうとするのだろう。

本書で一番 強固なのは功太と大神の絆なのではないか。功太が動く動機はカコの100倍理解できる。

して巻末で明かされる唯と大神との関係。

大神は功太を頼り、唯の抱える問題を少しでも軽くしようとしていた。功太は自分が希望する刑事課への転属の話を前に、何かと理由をつけて唯を手元に置こうと、危ない橋を渡る。彼もまたカコと同じく放っておけない人なのだろう。そこが長所でもあるのだが。

そして大神が頼りたくない功太を頼るのは、唯が大神にとって「妹」だからであった…。