《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

本編のヒロインの友人 VS. 読切短編のヒロイン、少女漫画で優遇されるのは どっち!?

PとJK(8) (別冊フレンドコミックス)
三次 マキ(みよし まき)
PとJK(ピーとジェイケー)
第08巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

ポリス&女子高生ラブ。功太とカコが夫婦として新ステージへ! 三門&ジロー編もクライマックスへ! マジで神ってる感動ストーリーです☆

簡潔完結感想文

  • 40㎞の道程の中で、それぞれの生き様が描かれ、三角関係が完結する完歩大会。
  • 仲間内で1人だけ完歩大会をリタイアしたカコにも自分の生き方の決断の時が迫る。
  • カコの誕生日に初キスならば、功太の誕生日には もちろんアレが待っている!?

んなが それぞれ次の一歩に踏み出す 8巻。

『8巻』は各人がNew Stageに段階を進めているから読んでいて気持ちが良い。
切ない中にも、やり切ったという満足感があるのは自分の気持ちから逃げずに、目標に向かって歩き続けたからであろう。これまで一緒に歩いてきた人と別れてでも、自分の選んだ道を進む、そういう意味で、地味だと思われた学校行事・完歩大会は、その道程こそが人生に重なる。
幼なじみの三門(みかど)とジロウが途中まで一緒に歩くが、ある地点を境に別々の道を行くというのは その象徴であろう。そして一人になってしまった三門をカコが迎えに行くのも、三門にとってカコが大事な人であることの表現に思われ、心が温かくなる。

三門はジロウを巡り、本書よりも前に発表された読切短編(『2巻』収録)のヒロイン・楓子(ふうこ)と三角関係になったが、その特殊な背景が結末の興味へと繋がった。幼なじみ属性のある三門に対し、楓子は読切短編とはいえ一度はヒロインを務めたキャラ。本編的には三門の方が登場回数が断然 多く有利だが、楓子はヒロインが不幸になる結末は可能性が低いという負けない属性がある。
結論としては、三門とジロウは恋愛的には別の道を進む。やはり少女漫画的には読切短編であってもヒロインは絶対ということか。以前も書いたが、三門は大神(おおかみ)と同じく、恋を自覚するのが遅すぎた。始まった時には もう終わっている。


さて、この完歩大会を人生とするならば、カコは まだまだ功太に先を行かれ、共に歩んでいないということになるのだろうか。『8巻』後半で一層 夫婦らしくなるが、人として肩を並べて人生を歩むためには、カコは これから自分の人生を選ばなくてはならないのだろう。現在は高校2年生の秋。功太が人生の岐路に立った高校2年生の冬は目前で、そろそろカコも4年後の自分という、想像がつかないが、果てしなく遠い訳ではない将来について考える時期となる。
功太と同じ悲劇は要らないが、功太と同じぐらい目標に向かって前に進んだ、と いつか思える日のために、カコも努力をするべきなのだろう。それが まだまだ長い人生を功太と並んで歩くために必要な条件な気がする。


歩大会でカコが早々にリタイアしたため三門はジロウと歩くことに。

ジロウはまだ楓子にアプローチ出来ずにいた。そんな彼の足踏みに三門は苛立ってしまう。なぜならジロウの恋に結論が出ないと、いつまでも自分は中途半端な気持ちを持ち続けなければならないから。
誰に相談しても何も行動を起こせないジロウに、この状況を終わらせるために三門は選択を迫るが、彼の恋が成就することは自分の失恋が確定することでもあり、三門は泣いてしまう。

その様子を見たジロウは自分の恋よりも三門の傍にいることを選びそうになるが三門が それを拒絶。しかしジロウは三門を放っておくことは出来ない。なぜなら泣いている人がいれば その人に手を差し伸べる、それが みんなのヒーローたるジロウが持つ彼の美点だからである。

自分の想いよりも まず相手を気遣うジロウ。そんな所も三門は好きになったのだろう。

そんなジロウの姿を見て、三門は つい告白してしまう。言わなければ何も始まらないのはジロウだけじゃないのだ。三門は一度は冗談めかしてみるが もう遅い。その人が今、どういう気持ちなのか その人を見れば分かってしまうのが幼なじみ同士の超能力で、厄介な部分。ジロウの中にあった微かな違和感が繋がり、三門の想いがジロウにも伝わる。
ここで三門は虚勢を張る。それが虚勢だとジロウにも分かっているが、三門がどうして虚勢を張ったかも分かっているからジロウも三門の意向に従う。言うつもりのなかったであろう三門の真正面からの告白を最後の勇気にして、ジロウは楓子に会いに、一人で歩き出す。


ロウは一直線に楓子に向かって、情けない自分も卑怯な自分も認めて彼女に告白する。巻数的には長く感じられたジロウと楓子の恋も、ここに幸せな結末を迎える。
そして三門がフラれたことでカコに三門を抱きしめるという役割が生まれた。カコが体力を温存(バテていたが…)したのは、三門を迎えに行く体力を残しておくためだったのかもしれない。

一方、その日、大神はジロウと意地の張り合いから生まれた男同士の約束を真に受けて、引っ越し後、初めてカコに電話をする。よくよく考えれば大神はジロウとではなく、三門と同じ立ち位置なのである。そんな2人が この完歩大会の日に、一歩 前へ歩き出したと言えよう。

功太は学校行事に参加する理由を作ったものの、本番当日は真面目に走っており いないも一緒。まぁ、彼も自衛隊員に勝つという目標があって、前に進んだのは間違いがない。
こうして、それぞれの完歩大会は完遂された。唯一、カコだけが完歩大会の中で成長しなかったと言えよう。彼女が将来を考えるのは次の機会へと回される。


の後、すぐに三門とジロウはこれまで通りの男女の幼なじみに戻る。
ここからは功太の誕生日、そして修学旅行目前とイベント尽くし。カコは功太への誕生日のプレゼント資金を確保するためにバイトを始めようと計画する。だが功太はカコのバイトの話を聞き、カコが自分の誕生日のために動いていることを察する。自分のために無理をしようとするカコにプレゼントは要らないという辞退を告げる功太。その代わりに、カコに将来を考えるように願う。

カコが、そろそろ進路に悩む高校2年生の秋からバイトを始めようとしたのは、彼女が進学しないと言い切るほど「功太の お嫁さん」に進路を限定しているからだった。功太は そうやってカコの将来を自分との結婚で限定することに気が引ける。いつまでも手のひらの上で大事にしていたいが、それでは彼女の人生を狭くする。これはJKと交際する社会人が悩むことの第1位ですね。かなり強い独占欲はあるが、彼女に自分の道も見つけて欲しいのが年上彼氏の葛藤である。

功太の意見を尊重し、カコはバイトをせず、高校生の自分が出来る範囲でのお祝いを計画し、準備と練習を重ねて当日を迎える。当日はカコの手料理を2人で食べて温かい空気に包まれるが、そこへ功太の唯一の肉親の姉が事故に遭ったとの連絡が入ってしまう…。


故の一報を聞き、すぐに姉のもとに参じようとする功太に、カコは同行を願い出る。彼女を自分の事情に巻き込むことに躊躇する功太だったが、カコは強い意志をもって功太に寄り添う。彼を一人にしてはいけない、そういうカコの直感は間違っていなかったことが後に明らかになる。そんなファインプレーへの報酬も あるしね☆

本書では数少ない(?)カコが「ヒロイン力」を発揮する場面。功太のピンチはカコが輝くチャンス。

病院に着くまではカコが絶対的な心の支えになる訳ではない。カコから見ても功太は動揺しているし、再び家族を亡くす恐怖と戦っている。その彼の心に無理に入り込まず、黙って横にいる。彼が自分を必要とする時が来れば、カコは そのサインを見逃さない。カコの異変を功太が見抜くように、カコも功太の異変を見抜けるぐらいの超能力は身につけているはず。

カコが気を利かせて病室で姉弟だけにした途端、功太は夫から弟へと変わる。姉の無事を心から安堵する功太だったが、姉は例え自分が悲劇に見舞われても、カコと一緒なら功太は大丈夫だという。まさか これ死亡フラグじゃないでしょうね!?と思わずにはいられないが…。姉の言葉の意味が分かるのは、姉の無事を確認して緊張が解け、今日の心の動きを夢の中で整理した後であった…。


太は、明日以降 自宅で安静を要する姉の世話をするため地元に残るという。だがカコは今日中に帰る手段を失い、この日は功太の実家に泊まることになる(2回目)。だが今回は、前回はいた姉が不在で完全に2人きり。夏休みの2泊3日の旅行は1泊目が実家(姉込み)、2泊目は別の場所で夜を過ごしたので、今回が初の2人きりのお泊り回となる。

夏休み中の自分の誕生日では初キスをしたカコ。ならば功太の誕生日である この日は いよいよ…⁉と、急な展開に緊張するカコだったが、功太は飽くまでも健全。ただ、寝汗でびっしょりとなって夜中にシャワーを浴びる功太を見てカコは、彼の精神的な不安定さを察する。だから その功太をカコは優しく抱きしめる。これは それは次の展開を期待してではなく、夫婦、家族として傷ついた者を優しく包み込むための動作。動かなければならない時には身体が自然に動く。それが妻というものである。

改めてカコの存在のありがたさを実感した功太は「一緒に寝たい」とカコに告げる。これもまた自分の心を落ち着けるセラピーみたいなことを目的とした発言であろう。この際にカコが大きなリアクションをしたために功太は発言を撤回したが、カコはその後、自分が初めて功太から頼られたことに気づく。

だから功太の寝床に行き、一緒に寝ることを選択する。これは功太の心の平穏のため、そして自分が頼られた喜びによる行動だろう。よろめきそうな時、カコが自分を支えてくれることを実感し、功太たちは また一歩 夫婦となっていく。
『8巻』は徹頭徹尾、前進している感覚があって清々しい。