《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

長い長い道のりはヒロインのレジリエンスと 頼れる警察官を描くために必要だった、んだよね…??

PとJK(12) (別冊フレンドコミックス)
三次 マキ(みよし まき)
PとJK(ピーとジェイケー)
第12巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

唯を守るため、一緒にいることにしたカコ。はじめは喧嘩ばかりの2人だったけど、功太のアドバイスのおかげもあり徐々に距離を縮めていく。みんなで準備した唯の誕生日パーティーでは、ちょっぴり嬉しそうな唯の様子を見れたことがうれしくて…。このまま平穏に過ごしていきたいと思っていた矢先、逮捕歴のある唯の父親が接触してきて!? 唯vsカコ編、涙なしでは読めない運命の決着!!

簡潔完結感想文

  • 血や戸籍が違う者同士が家族になっていく。次の話に繋げるための唯の結末なのか⁉
  • 唯の過去を鮮明にしないのは妥当だが、その過去を餌にして長編化した矛盾を感じる。
  • 殴られたから立件できて彼女を守れるカコ。逆に殴っては彼女を守れなくなる大神。

書のテーマは他人が家族になっていくことなのか、の 12巻。

作品の序盤は交際0日で結婚したカコと功太(こうた)が お互い知らない部分を抱えながらも距離を縮め、真の夫婦になっていくことを描いていた。いつしか過去を描くことが その人の人となりを描くことにシフトしていってしまった本書で、『9巻』前後から物語に顔を出し始めた唯(ゆい)の話も彼女の過去からの復讐がメインに扱われていく。この『12巻』でようやく終わった唯編(カコ編でもあるらしいが)は、親の交際によって一時的に兄妹になった大神(おおかみ)と唯の2人が本当に兄妹になる様子を描いたと言えよう。
考えてみれば夫婦も最初は「血も戸籍も」違う他人同士。それが お互いに共に同じ時間を生きることで信頼感や連帯感を育み、いつしか真の夫婦になっていく。それは大神と唯も同じ。決して長くはない時間を共に過ごした2人だが、彼らは誰よりも互いを尊重し、そして大事に思っている。「それって家族じゃないか」である。血の繋がらない若い男女ではあるが、彼らが恋愛関係にならず、家族になるからこそ意味がある。唯がヒロインの少女漫画なら絶対に恋愛関係になっていたが、彼女が脇役だからこそ このような特殊な関係性を描き切れたと言えよう。
この唯編は、カコと功太を脇に置いてまで、こんなに長くやるような話なのか と疑問に思ったが、そう考えると本書の根幹とテーマを一にする話なのである。どうしても読者は なかなか登場しないカコや功太(この2人が一緒にいる場面なんて本当に希少)にやきもきするが、読み方としては互いに支え合うが一定の距離感を保ち続ける2人が、遠慮をしない距離0になる様子を楽しめばいいのだろう。それは序盤にカコと功太で読者が楽しんできた描写ではないか。

大神の中に功太の過去を見たり、功太の同級生・西倉(にしくら)さんの中にカコが功太と同級生だった「if」の世界を見たりと二重構造が多い本書ですが、唯編は彼女が自分で選んだ人と本当の家族になっていくという点で、カコと重なる部分がある、ような気がする(ちょっと強引か?)。

そういう構造としては面白いが、とにかく長い話であった。そして唯の過去を物語の核としながらも、それをハッキリと描かない奥歯に物が挟まるような感覚が残る。これは唯のためで、描かないことが彼女が自分1人で受け止めてきた大きさを表すのだろうけど、引っ張った割に解決編が あっさりとしているバランスの悪さが気になる。要領よくまとめれば丸々1巻分は削ぎ落すことが出来ただろう。カコと同年代のリアルタイム読者に1年待たせるような話ではない。本書の後半は構成にしろ絵にしろ、これが正解なの?と疑問に思う部分が多い。

デジタル化の影響か、画面の簡素化が気になる。講談社はコマ割りが大きいが、それにしても白い。

て長い時間(2巻分)かけて、ようやく唯を守る少年少女防衛隊が結成された。あとは敵(唯の父親)が出現しても慌てずに対処するだけである。

嫌がらせのように自分に関わってくる優しい人たちを唯が拒絶してしまうのは、人の温かさや未来の約束を予感しても それを裏切られた経験が幾つもあったからだろう。だから不安に負けて自分が彼らに甘えてしまう前に、彼らのもとから姿を消す。彼らが良い人なら良い人ほど、自分のことで巻きこみたくないし、彼らに嫌なものを見せてしまったり、不幸にしたくないのだろう。

こうして全部を一人で抱えようとするのが大神兄妹で、特に唯は、大神が築き上げてきたものに対して それを自分が壊すようなことをしたくないという意識が強い。その配慮、その遠慮の心が唯を雪が降る夜の道を進ませる…。


コの家から夜中に出ていった唯は、夜道で出所した父親と再会する。
父は、かつて自分の妻=唯の母親が男と逃げたことから人生の歯車が狂ったと感じていた。そんな中で娘を育てることで自分には娘を支配する権利があるという幻想に憑りつかれ、娘を道具として商売することで生きてきたらしい。そこには愛情は無く、現に娘を利用しながらも、娘のために十分な食事を用意しないし、彼女にマナーを教えてはいない(『11巻』など)。育児で仕事に影響が出たら育児に責任を押しつけ、不慣れな料理を娘が食べなければ娘に食事を作る義務を放棄する。自分をバカにする全てに復讐して、自分のプライドを保ってきたのだろう。

そうして精神的支配を行ってきた父親に対して、唯は その支配から逃れようと戦っている。その極度のストレスが唯に過呼吸を引き起こす。以前もあったという唯の過呼吸は彼女の苦しみの象徴なのだろう。過呼吸の件など、表面上は強気を通す唯がどれだけ過去によって傷ついているかは読み取ることが出来る。唯の一件を全てボヤかすのは、唯が作品内で「可哀想な子」にならないようにするためだろう。その意図は分かるが、唯の背景の全容を描かないと決めた割に、背景を匂わすことばかりに2巻分浪費していたのが気になる。非効率的なダラダラとした会話ばかりで尺を稼ぎ、かと言って その中に巧妙な伏線や意外な展開がある訳でもなかった。

対決に備え理論武装してきた唯だが、洗脳と恐怖は簡単に拭えない。だが彼女も失敗を経験し強くなるだろう。

が そのトラウマや恐怖から父に再度屈服しそうになった時に駆けつけるのがヒロイン・カコであった。功太や大神男に あれほど自分の身の安全を確保しろと言われたのに、唯を助けに行ってしまう。なぜならヒロインだから。カコが動かなければならないのは分かるが、功太のトラウマや夫婦としての絆、思い遣りを積み重ねてきた本書で、こういうヒロイン的行動は浅慮にしか映らない。かといって彼女が動かなければ本当にカコは作品にとって不要になってしまうのが難しいところ。

しかしヒロインの行動も非力で、カコは返り討ちに遭い怪我をする。

カコの浅はかな行動ではあったものの、この失敗はカコの成長にとって必要なものだった。カコは、唯を守ると宣言しながらも、彼女が犠牲になって自分の無事が確保されたことに安堵した自分の心の動きを知る。そして自分を脅かす悪意というものを身をもって知り、それに立ち向かうために警察=功太の手を借りる。
彼女は転んでもただでは起きない。こういうレジリエンス(強靭性・復元力)こそヒロインの資質なのかもしれない。功太や大神と同じように、一度は間違えることは その後の成長に必要な要素なのである。

カコが怪我をしたことに大神は1人で責任を感じる。その大神の悪い癖の発動を阻止するのがジロウであった。ジロウの彼女・楓子(ふうこ)が読切短編のヒロインだったように、ジロウもまた読切短編のヒーローであって、本編の中で楓子と出会って以降のジロウは目に見えて格好良くなっている。大神が関わる展開の多さや、ジロウの覚醒を見るにつけ、作者は男性キャラの方に ひいき・肩入れしているように見えるなぁ。


コが暴行被害を訴えることで唯の父親を警察が確保する道筋が見える。その際に功太が頼ったのは警察学校の同期で、生活安全課に所属する龍(りゅう)。ここにきて新キャラである。

大神自身も唯を助けるために出来るだけの手段を講じる。それが母の証言を引き出すこと。一時期とはいえ一緒に暮らし、そして自分もまた金を生む道具として使われ、そこから逃げて来た母の言葉は、唯の父親を逮捕するための重要な証言となるのだろう。母がどんな選択をしても黙って従ってきた大神だが、唯を助けるために母の事情を無視して話を聞き出そうと必死になる。大神にとって唯は母と同等に大事な人だということが分かる。

その母から唯の父親が「仕事」として使っていた場所を聞き出し、大神はそこへ走る。「仕事場」で唯の父親に遭遇した大神は彼を殴ってでも唯の居場所を聞き出そうとするが、それを制止するのは大神からの連絡で現場に駆け付けた功太。殴っては彼もまた加害者になり、転校以降 真っ当に生きてきた彼の人生を台無しにしてしまう。
大神が彼を殴ってしまったら、被害者と加害者の構図が出来てしまい、警察の捜査対象が唯の父親から現行犯の大神になってしまう。そして また、何よりもプライドを大事にする父親は一層 唯への復讐心を燃やしてしまうだろう。だから唯の父親は大神には見逃されるが、警察の目からは逃れられない。


を救出するのは功太の役割。一般市民を事件や危険から遠ざけるのも警察の役割となる。通常ならカコも大神も正義のヒーローになるような場面だが、本書では一般市民を守るべき警察官が彼らの上に存在する。

だが唯を直接 助けられなかったことが、大神の悔恨となる部分もあった。今回も中学生の時の家出の過ちを正すことは出来なかった。そんな彼の無念を功太は受け止める。彼もまた過ちを犯したものとしての実体験が大神に適切な助言を与える。大神が無力ではないことを功太が証明してくれた。本書で一番確かな関係性は、カコと功太ではなく、功太と大神だと思うのは私だけではないだろう…。

唯は無事、復活。約束した「遊園地」も少し形を変えて実現する。この約束の実現が、これからの唯の未来が明るいもの、信じられるものになるという予感となることを祈るばかりだ。

そして少女漫画における遊園地のラストは いつだって観覧車。唯は大神と2人で乗り、そこで彼に兄をやめることを勧める。それは大神が持ち続ける罪悪感を放棄させるためであった。この兄妹は いつだって自分以上に相手のことを考えている。
過去の失敗や、そして唯が放った言葉が呪いとなっている大神に自分のために生きることを望んだ。
だが、大神にとって唯は血と戸籍とは無関係に「妹」なのだ。その大神の姿を見て唯は、彼を「お兄ちゃん」と呼ぶ。それは彼女にとって初めての家族を呼ぶ声であろう。信頼しないまま相手に攻撃されないためだけに言うパパやママとは違う、彼女が得た/与えられた本当の家族。
だから唯も自分を縛っている血とか戸籍による呪いを解くことを宣言する。精神的に支配しようとする父親の言葉から今度こそ逃れるための彼女の戦いが始まる。きっと再び父親と対面するような事態が起きてしまっても、彼女はもう恐怖に飲み込まれたりしないだろう。なぜなら彼女にも自分で築いてきたものがあるから。きっと その土台が、彼女の気持ちを もう揺るがせたりしない。

そして大神もまた未来に向かって歩き出す…。