《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

作中に より最悪な人を配置することでヒロインの愚行は お咎めなし。こうして彼女は成長しない…。

Oh! my ダーリン (2) (講談社漫画文庫)
上田 美和(うえだ みわ)
Oh!myダーリン
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

16歳のケッコンなんて、本気じゃないと思いますか? ――学校にだけは絶対ヒミツ! 教師と教え子の関係ながら、ひかるとシンちゃんは新婚カップル。二人の恋は順風満帆、のはずだったのに、「実は婚姻届が出ていなかった」ことを知ってしまったひかるは、駆け落ちを決意する……。吹雪の北海道を舞台に、愛を懸けた逃避行が激動していく、第2巻。

簡潔完結感想文

  • 男を精神的支柱にするが自分に都合が悪くなると逃亡するメンヘラヒロイン in 北海道。
  • ドラマチックすぎる展開の末、ヒロインは悟りを開き、なぜだか全ての人の女神になる。
  • 自分でも成長しないことを自覚するヒロインの第二部。全てがリセットされメンヘラ再発。

ての元凶が、まるで「善なる者」として語られ 歴史が修正される 2巻。

少女漫画あるある として よく言われるのが、ヒロイン逃亡しがち、だろう。
本書のヒロイン・ひかる は その究極形ではないか。自分の見たくないもの、信じたくないものから逃げ続けるだけの展開が続く。
ただ この性質、少女漫画には都合がいい。そうやって嫌なことから逃げ続けた人は成長しないからだ。この『2巻』で第1部が終わり第2部が始まるのだが、あの怒涛の第1部を経験し、更に4か月が経過しても ひかる は全く成長していない。相変わらず人の話を聞かないし、人との対話もしようとしないから、それが物事の解決を先延ばしにする。連載漫画にとっては逃げるヒロインは都合がいいのだ。だから多用される手法なのだろうが、これでは作品の人気が続く限り、ヒロインは成長しないままとなってしまう。特に本書では相手のことを考える前に身体が勝手に反応して、逃げることしかせず、更に行動は どんどん極端になっていくばかりだから主人公はメンヘラにしかみえなくなってしまう。

この『2巻』で良く出来たシステムだな、と感心したのは、このように幼稚であること義務付けられたヒロインの宿命を覆す方法。
その方法とは作中に ひかる を傷つけるような人間を用意することである。こうすることで作中の「人間性最下位争い」から ひかるをブービーにすることが出来る。読者の非難や批判の的も その最悪な人間に集中し、その人が最後に罪を告白することで、ひかる の これまでの罪がまるでなかったかのようになるのだ。しかも その人物の悪意が ひかる に向けられているため、ひかる が その人を許すことで、まるで彼女がとても人間が出来た、寛容な人のようにも見えるというトリックまで使っている。完読すると、第1部だけではなく第2部も、その話の主要な人物に嘘をつかせることで、その最低の嘘に非難が集まるようにしていることが分かる。こうすることで ひかる は被害者であるという図式が成立し、名実ともに悲劇のヒロインになれるという方策なのである。
また第1部では、ひかる の逃亡劇の中で、まるで彼女が幸福をもたらしたかのようなエピソードを用意することで、ひかる の行動が肯定されていくのも見逃してはいけない。これによって上記の通り、ひかるが寛容になっただけでなく、まるで幸福の使者のような「善なる者」への転化が行われている。だが読者は この人騒がせな騒動の元凶は ひかる であることを忘れてはならない。1つ良いことをしたからといって、100の愚行と被害は帳消しにはならない(作品は少女漫画として帳消ししようとするが)。


ういう点に感心する一方、最後まで納得がいかなかったのは ひかる の結婚への こだわりへの理由が全くないこと。
『2巻』に入って、結婚が ひかる にとって どんな意味を持つのかや、そこまで結婚に執着する背景が明かされるかと思ったら、「愛してる」の一言で片づけられてしまった。両親を早くに亡くしたことなど家族への幻想が ひかる にはあると考えられるが、作中で もう少し ひかる にとって結婚とは何なのか、という問題についての思索を深めて欲しかった。それがないまま結局、ひかる が何かを考えることもなく、男を渡り歩き、嫌な事から逃げ続けているばかりで辟易した。ストーリテラーとしての手腕は素晴らしいが、いつまでも自分も相手も不幸になるような道しか選ばず、不幸のインフレが止まらない本書は大味な魅力しか感じない。


ずっと想い続けてきた晋平(しんぺい)と駆け落ちするはずが、彼が待ち合わせに現れず、なぜかクラスメイトの小土居(こどい)と北海道まで来た ひかる。

北海道で夜を迎えたが、どの宿泊施設にも入れず彼らは飲酒して体を温める。泥酔した ひかる を抱えて小土居が入ったのはラブホテル。目を覚ました ひかる の横には裸の小土居がいて、昨夜は ひかる の了解を経て契りを交わしたというが…。
晋平よりも先に、他の男と肉体関係を結ぶという衝撃の展開である。ひかる は大変ショックを受けるが、他の男と駆け落ちをしてる時点で、もう どんな言い訳も通用しないだろう。晋平を裏切ったと思うのなら、その前の段階からそうであって、自分の甘さを棚に上げて泣き喚いても遅い。
翌朝、昨夜の事情と情事を小土居から聞かされ、そしてこの時にキスをされて ひかる は逃亡する。都合が悪くなると男性から逃げるのは彼女の性質。自分が寂しかったから利用した男だというのに。
「―――神サマ お願い… いますぐ これを夢にして 起きたら必ず さめる夢に―――」こういう他力本願なところは いつまで経っても変わらない。

小土居から逃げた ひかる は、北海道に晋平の痕跡を発見する。だが晋平に「会う資格」がない彼女は再度 逃げる。この会う資格がない=貞操を小土居に奪われたことこそ、今回の ひかる の逃亡理由となる。しかし心の底では見つけて欲しい、構って欲しいメンヘラ気質だから、木の枝で作った「サヨナラ」の文字に全てを託す。これは愛の逃避行、または犬も食わぬ夫婦の追いかけっこなのである。

そうして晋平が語った北海道の別の土地へと足を運ぶ。雪が降り始め、死ぬことも考える ひかる だったが…。
彼女は地元の人に助けられる。その家は旅館で、ひかる は旅館に置かれた宿泊者用の書き込みノートの中に、晋平の字を見つけ号泣する。そこには大学の卒業を間近に控え、社会に出る直前の晋平が ひかる への想いを綴っていた(晋平も自分に酔っているなぁ…)。

それでも旅館の子供の助言で何とか祖父母には連絡することを決める。そこで祖父から、ひかるが駆け落ちを考えるキッカケとなった晋平の転勤騒動が、結婚を守るために引き受けたことを知らされる。これで この駆け落ち劇が狂言どころか空回りであることが判明する。全ては晋平と話し合いを持たずに、極端なワガママを暴走させた ひかる の落ち度であった。
だが晋平に追いつかれそうになった ひかる は また逃げる…。


び札幌に戻った ひかる は再び雪の中で眠る。そんな彼女を救ったのは、看護師のマキさん。肺炎を起こしかけて2日間も意識のなかった ひかる を介抱してくれた。
その部屋で、ひかる は「愛する夫に似人度会えなくなってしまった妻の泣き叫ぶ声が聞こえる」という女笛岬(めぶえみさき)の話を聞く。こうして悲劇のヒロインの彼女は お話と自分と重ね合わせる…。

もう一つ、マキさんから聞くのは哲学者の言葉。「もし きみが人に愛されようと思うなら まず きみが人を愛さなければならない」。これぞ ひかる に欠落した部分だろう。何においても自分、自分、自分なんだもの。「愛されることばかり相手に求めるのはエゴイズム」、「大切なのは まず自分から愛すること」「それが好きな人から愛される資格を得るための条件」。ひかる には どれも耳が痛い言葉なのではないか。

ことあるごとに、今後も この言葉を心の中で繰り返せば、ひかる の逃亡癖も治るはずなのだが…。

女笛岬に立ちながら、本書で初めて ひかる は反省する。マキさんが話した言葉の中に、ひかる の成長のヒントがたくさんあるのだが、続く第2部には全部 持ち越されない。だからこそ徒労感を覚える。まぁ、こういう自省的な態度が長続きしないから、本書は面白くあり続けるんだろうが…。

マキさんと、彼女が想う高校の同級生・黒岩(くろいわ)、そして当時の黒岩の彼女であった篤子(あつこ)との三角関係の顛末を知った ひかる は、自分たちが生きていて、やり直せる可能性があることを知る。亡き ひかる の両親から始まり、本書では登場人物たちの周囲に死が色濃い。人の死がドラマチックだという思い込みからの演出であろう。ここから完結するまで生きるだの死ぬだのと話は大仰になるばかり。


平は1週間 北海道で ひかる を捜しまわる。学校がテスト休みだから仕事を放棄できるみたいだが、教師の仕事は山ほどあるだろうに…。
捜索開始から1週間、小土居が発見される。彼も北海道をふらついていたみたいだ。駆け落ちを予定していた ひかる は ともかく、ただ彼女を駅で見かけただけの小土居に所持金があるのかが謎である。まぁ 小土居のことだから現地で上手くやっていけるような気もするが。
晋平が小土居と合流した際、ひかる の荷物から学生証を見つけたマキが学校または ひかる の実家に連絡を入れ、ようやく彼女の居場所が特定される。

ひかる発見の連絡を聞き、小土居が先に動いてマキのマンションを見つけることからドラマが生まれる。小土居からも逃げ出そうとする ひかる は、あのホテルの夜、自分がOKした事実は消せない、という小土居との会話を、後から到着した晋平に聞かれてしまう。こういう話の作り方は本当に巧いなぁと感心してしまう。
小土居が全てを洗いざらい話すことで、ひかる は泣き叫び、そして晋平は小土居を殴打する。男たちの争いの中、「やめて…! あたしがわるかったの」と悲劇のヒロインは泣き叫ぶ。男性たちを制御できないと悟った彼女の取る行動はただ一つ。逃亡である。
これまでの1週間の疲労に殴られたことも加わり晋平はすぐに動けないため、ひかる をすぐには捕獲できなかった。
そうして ひかるが逃げ込んだのは女笛岬。晋平が後ろから追ってくることを確認した ひかる は柵を乗り越え「それ以上きたら ここから飛び降りるから!!」。ひかる は北海道最初の日の夜の出来事を認め、泣き崩れる。話し合おうと歩み寄る晋平の言葉も聞かず「愛される資格ない」「終わりの言葉きかされるぐらいなら ここから飛び降りて死んだほうがいい…っ!!」。黒岩から、生きている限りやり直せると聞かされたばかりなのに、命を軽く扱う女である…。
その軽率な言葉を晋平は一喝する。晋平にとって「ひかる を失うことは すべてを失うこと」。それでも躊躇し、後ずさりする ひかる は、やがて崖の端に到達する。
そこで晋平は、彼が ひかる に話せなかったことを話す。同じ学校にいて教師と夫の両方を使い分ける自信がもてなかったから、ひかるとの結婚生活に距離を置こうとしたし、卒業するまでまとうとした。だから、ひかる に少しも手を出せなかった。そして だからこそ今まで「愛してる」の一言が言えなかったのだ。


ずっと聞きたかった晋平からの「愛してる」の言葉。ひかる が その言葉に反応しようとした時、ひかる は雪に足を滑らす。晋平は ひかる を救うため彼女と身体を入れ替えるようにして崖下に落ちていった…。まさに急転直下の展開である。
晋平は意識不明の昏睡状態。更には合併症で心機能も低下し危険な状態が続く。冬の海に落ちた晋平を助けに行ったのは小土居だった。いつまでも目を覚まさない晋平に向かって小土居は怒りをぶつける。誰が ひかる をまもるのか、そして そのまま あの夜に ひかる とは何もなかったことを怒りながら自白する。こうして妻の純潔が守られたことに安心したのか、晋平の意識が戻りはじめる。

上述の通り、物語は 小土居を最大の悪人とすることで、ひかる の罪は帳消しになるどころか、上から目線で小土居を寛容に許す慈悲深さを演出する始末である。どうして悟りを開いたように これまでの経緯を俯瞰して語れるのか。これには辟易とするばかり。
小土居は罪を許され、物語から退場する。「もし浮気なんかしよったら こんどこそ ひかるちゃん モノにしてまうぞ」という予言を残して。彼の再登場は、読者が思っている以上に早い。いつまでも小土居が当て馬になるのは、今後も波乱が続くからである。
更に この騒動の良い影響として、数年間 両片想いであったマキと黒岩が結ばれる気配を見せる。こうやって迷惑極まりない子供の駄々を美談に変えていくのであろう。ヒロインの行いは常に善でなければならないと物語は書き換えられていく。まるで独裁者の自伝みたいである。


だ入院中の晋平を残して、一足早く ひかる は祖父母と帰宅する予定を立てていた。
帰ろうとする ひかる を晋平が追いかけ、駅のホームで対面するのは、果たせなかった駆け落ちの日の やり直しを意味するのか。
ひかる の捜索を継続するために辞表を出していた晋平だが、理事長である祖母が破き、転勤話も他の人を補填することで2人は これまで通りの環境で過ごすことが示唆されて第一部は終わる。


れから4か月は、ひかる の精神状態も安定し穏やかな日々が続く。

晋平に愛されている実感が彼女の精神に良い影響を与えている。ただ、街中で「チグハグなカップル」と言われれば精神が濁り、子供っぽい自分に嫌気が差す。だから彼女はヒールの高い靴が欲しくなる。それを履けば大人になれると信じて。

だが同じ日に ひかる は、自分たちの前に真っ赤なパンプスを履いた大人の女性が現れることで不安が生じる。その人は晋平の元カノ・アヤコだった…。(ちなみに文庫版『1巻』から晋平の大学の同級生で現同僚の大伴(おおとも)の口からアヤコの名前は出ている)。
大学の先輩で同じサークルだったという晋平の説明を聞き、最初は ひかる も「アヤコ」に寛大なところを見せる。だが、そのアヤコこと新庄亜矢子が この学校に教師として赴任してきてからは全てがアヤコのペースになる。
晋平はアヤコが元カノだということを隠していた。彼の口から半年間の交際の事実が語られ、ひかる は傷つく。「泣き虫で甘えん坊で金魚のフン(アヤコ談)」の ひかる の気質は第2部でもそのまま。アヤコには晋平の結婚相手が ひかる ということも すぐにバレて、それが彼女の晋平への脅迫材料となってしまう。どうやら晋平の「愛してる」という言葉を信じられる期間は終わったらしい。少女漫画は そうやってリセット機能を便利に使う。

ひかる が不安で落ち込んでいるから、小土居が復活する。ひかる もまた便利に小土居を相談相手として利用する。

アヤコが ひかる に聞こえるように晋平と会うことを大伴に話せば、ひかる は泣き叫んで会わないでと訴えるが、この行動は さすがに ひかる も「ちっとも成長してない」と自覚し、また寛容な所を見せる。しかし結局 三つ子の魂百まで、それをすぐ撤回するようなことになって躁鬱は繰り返されるばかりで、メンヘラ気質は治らない。


かしアヤコは晋平が彼女と距離を置こうとすると近づいてくる。そして彼女には切り札があった。それがアヤコの4歳の男児・ゆう太。そして その子は晋平の子供だという…。
その話を聞き晋平は反論する。アヤコには子供の父親だと思い当たる男性が2人いるだろう、と。自分と、そして当時、彼女が二股をかけていたもう一人の男性。その男性が原因で晋平は半年間の交際を終わらせていた。だが子供と血液型が一致するのは晋平しかいない。

平然と二股の告白などをしてアヤコは最初から善ではない。こうして自然と ひかる を応援できる仕組み。

アヤコにとって これは復讐でもあるようだ。5年以上前、22歳のアヤコは 当時小学生だった「ひかる」という存在に対抗意識を燃やしていた。だけど女のプライドにかけて それを晋平には漏らせないから、妊娠していた時も晋平ではなく もう一人の男性を頼った。だが、結婚前に海外転勤になった その男はアヤコを呼び寄せるはずが音信不通になってしまったという。

だから晋平の前に現れ、そして子の認知を要求する。アヤコは ひかる に復讐しながら、周到に晋平の退路を断つ。もうずっとアヤコのターンである。この辺は少女漫画あるある ですが、悪役の方ばかりに都合の良い展開が続いてくのです。

晋平は その子・ゆう太の存在(ひかる はアヤコ初対面時に会っているので、正確には ゆう太との関係か)だけは隠そうとする。
だが、隠し事はバレるのが お約束。4歳の ゆう太が学校に現れ、交流して ゆう太の「くせ」が、彼の言う「パパ」と同じことを知る。更にはアヤコの手引きによって、晋平とアヤコの当時の交際が真剣だったこと、そして ゆう太が彼らの間に生まれた子だということを知ってしまう。その話を聞かされた ひかる は、動揺し、晋平に平手打ちを浴びせて、また どこかへ逃げる。第2部も同じような展開が続いていく…。