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少女漫画と小説の感想ブログです

三兄弟の女性問題を解決したかと思ったら、今度は自分に問題が降りかかるヒロイン。

SO BAD (2) (小学館文庫)
相原 実貴(あいはら みき)
SO BAD!
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

晴れて環と両思いになった今日子。ところが、義母・結麻が連城・父に離婚届を送ったまま行方不明になってしまう。そして結麻の残したフロッピーの中には、今日子の母と連城・父の婚姻届が収められていた。結麻との関係にけじめをつけようと、結麻を捜すため、環は今日子の母とヨーロッパに旅立つ。(単行本3巻あらすじ)

簡潔完結感想文

  • 圧倒的優位な長男を追放することで、次男と三男にも見せ場を作る秀逸な構成。
  • 三兄弟が それぞれに女性関係をリセットすることで逆ハーレムが ここに完成。
  • だらしない大人たちの事情によって物語は更に混迷を深める。母が早く話せー!

2つ以上のモノを比べて、より綺麗なモノに惹かれていく 文庫版2巻。

本書は比較対象で語られることが多い。
例えば、ダメな親たちと その被害者である子供たち。
または三兄弟にまつわる女性たちと ヒロイン。
そこにあるのは快楽と純情。
また三兄弟たちもヒロイン・今日子(きょうこ)から見れば比較対象であろう。
仮想敵だったはずが いつしか恋愛対象になった長男・環(たまき)。
似た者同士だからこそ反発してしまうが、不器用な優しさが垣間見える次男・美人(みと)。
そして思わぬ過去が明らかになり、一番 積極的な言動を見せる三男・湛(しずか)。

様々な比較要素の中から、今日子は本当に輝くものを見つけていく…。


まないまま連城(れんじょう)家の家政婦になった今日子だったが、彼女が この家の問題、特に母の愛を知らないが故に、少し曲がった恋愛観を持ってしまった三兄弟の女性問題を正すというのは、まさに「家政婦が見た!」の構成だろう。

三兄弟それぞれの女性問題や性格を知っていき、その問題点を解決していくのが本書における今日子の役割。
それはまるで探偵のようである。
時に お節介に、時に お尻を叩いて彼らを問題解決へと導く。
この家に欠落した母親の役目を果たしていく今日子だが、彼女は若く美しいため三兄弟たちは彼女に惹かれてしまう。

結局、少女漫画界における単純な逆ハーレムが完成していくのだが、そこまでの過程やエピソードがしっかりしているから、その展開への ご都合主義感はまるでない。
私は目的が逆ハーレムであっても、それを達成を急ぎ過ぎない所に好感を持った。
単行本にして1巻分以上を使って、彼らの問題を描いているし、今日子が彼らの内情を知るまでの流れも自然だ。

最初に連城環という仮想敵を用意し、その彼に反発し、また助けられることで今日子は連城家に慣れ親しんでいく。
今日子が環に惹かれる模様、そして男性たちが今日子に惹かれることに しっかりと説得力があるから逆ハーレム状態になっても納得がいく。

恋愛だけじゃなく、癖のある大人たちに囲まれてしまって子供たちだけで生きてきたような連城家の三兄弟が、それぞれに微妙な力学が働いている点もしっかり描かれているのが凄い。
イケメン三兄弟との同居に、恋愛を持ち込むと不都合なことも多い。
キスしていたら誰かに見られ、その人を知らずに傷つけてしまう。
兄弟であり、ライバルだから当てこすりがあったり、ギスギスした雰囲気になる。
連帯感もあるが、兄弟で暮らすことへの責任感やコンプレックスがあり、それが性格形成にも強く影響している。
そういう連城家の歴史や背景がしっかり描かれ、三兄弟の思考も それを基にしっかりと描かれている点が本書の優れている所だろう。

少女漫画界には似たような設定はあるだろうが、やっぱり話の作り方一つで面白さは格段に違う。


だ残念なのは今日子の母親の存在。
どうやら連城家の当主である三兄弟の父親と深い因縁があるらしいのだが、今日子の母は その話を一切 拒む。
こういう大人の卑怯さがあるからこそ、子供たちの純粋性が高まるのは分かるが、海外にいて物語に滅多に出てこない連城父と違って、今日子(=読者)が知りたいことを ずっと話さずに逃げ回る今日子の母には幻滅するばかり。

母親も、作品自体も話さない理由を何かと用意するが、メタ的に見れば結局は、話せば すぐに話が終わってしまうことを避けているだけにしか見えない。
本書の人の心の動きの中で最も分からないのが今日子の母の動きだろう。

真実を知る者がいるにもかかわらず、口を割ろうとしないのでヒロインたちが探偵になっていく様子に既視感があると思ったら、少し前に読んだ、兄妹間恋愛を描いた和泉かねよし さん『そんなんじゃねえよ』でした。
この家族の母親も全ての真実を知りながら、自分から話そうとしなかった。
そして この2作品、なぜ真実を話さなかったか という納得できる理由を用意できなかったのも同じである。


て『2巻』は『1巻』ラストで、今日子が好きになった環が結麻(ゆま)ではなく、自分を選んだというハッピーエンドから始まる。

だが、どうしても環の中には結麻の影が見え隠れする。
これは厄介な元カノ問題と同じだろう。
通常なら、もう別れた人なのだから会う理由はないが、結麻のいう女性は今、環たちの義母であり、連城家の父親に振り回されている人。
女性が不幸になるのを見ていられなくて環は彼女を父の手から奪おうとした。
だから再び彼女が不幸になりそうなら、救いたくなってしまう。
そして結麻もまた、環を愛しているからこそ別れを選んだ。
環は「はっきりしない気持ち」を「はっきりさせ」るために、結麻のいるイタリアへ飛ぶ。

こうして現時点で一番ヒーローに近しい環が不在となって、残る2人が台頭するという構成が面白く、上手いと唸る。


の巻で、メインの4人が何かを自主的に選んでいることが分かる。
ヒロイン・今日子は、母の命令で嫌々はじめた連城家の家政婦業の終了を告げられるが、自分の意志で継続することを選ぶ。
そして環は、結麻よりも今日子を、次男・美人は環のものだとあきらめそうになった今日子への気持ちを、そして湛は、色欲よりも別の選択をする…。

今日子と美人の共通点は環に負かされてきた2人。だが その環へのアプローチは正反対。そこに美人は惹かれる?

今日子は湛の悩みに介入する。
これもまた この連城家で欠落した母親代わりをしたとも言える。

なんと湛は自分の副担任の女性教師と中1の時から関係を持っていた。
教師の方から迫られ、湛も断ることなく、その関係に溺れていった。
そこに恋心は全く無かったが、それがかえって湛に罪悪感を植えつけていった。

驚きの展開である。
そして この時点で、ハッキリと、この三兄弟には性経験があることが判明する。
これも比較対象かな。
彼らの目の前には、欲望を満たしてくれる女性がそれぞれにいる。
だが、彼らが本当に欲するのは、自分を優しく抱きしめてくれるだけの女性だった。
本書(そして少女漫画)においては身持ちが固い方が価値があるのだろう。
刹那的な関係よりもヒロインとの関係は純粋なものなのだ。

今日子は湛に襲われそうになっても彼に説教をし、彼のために母親業を完遂しようとする。これが彼女の強さの証明か。
相手の女性に誓約書を書かせて、彼女の接近を禁止させる(どこにどう効力を発揮するのか全く分からないが…)。

この一連の騒動で、湛は今日子に対しての想いを募らせる。


がいないことで、今日子の中の環の呪縛が消えていく。
圧倒的な存在感だった環がいないことで、他の2人との接触が増え、この家の他の男性たちにもドキドキするようになる。まぁ とっても浮気っぽい女性に見えるばかりですが…。

しかし環、続いて美人にドキドキしても彼らの背後には別の女性がいるという苦しい恋になるのが今日子の運命。
環に惹かれれば結麻がいたし、美人に惹かれても彼には彼女がいる。
ただし美人の彼女は、割とアッサリとした性格で美人の性格も熟知していた。
美人が今日子を好きと分かれば、追いすがることなく関係を解消する。

環も結麻と別れて戻ってくる予定だし、美人はフリーに、湛からは告白され、いよいよ連城家で逆ハーレムが完成する。


んな中、8月18日の今日子の誕生日が迫る。
今日子は これまで母からも誰からも誕生日を祝ってもらったことがないというのが話の伏線となる。

この話では、美人の2つの嘘がある。

1つは彼女にフラれたという彼の話。
これは美人の性格や恋心を見抜いた彼女の方から身を引いたという面があり正しくない。
彼女の分析によると、美人は女性に対して常に優しく、来る者を拒まない。その上、決して自分は夢中にならないから長続きしないというのが彼の傾向。
これは少女漫画の経験豊富なヒーローが、大体 母親の愛情を浴びれなかったのと同じことだろう。

もしかしたら同じ境遇の湛にとって、美人は未来の姿だったのかもしれない。
湛は男子校だったから、女性との接点が少なく、教師がその役を担っていたけど、もしかして湛が成長したら、美人のようにさびしさで女性のあたたかさを求めるような人になっていたのかもしれない。
今日子は湛の美人化を未然に防いだとも言える。


そして2つ目の嘘が今日子へのプレゼント。
環に頼まれたと嘘をついて今日子へピンキーリングを用意していた。
少女漫画におけるアクセサリは愛の象徴。これは間接的な告白であり、美人がハッキリと態度を示したということでもある。

だが、そんな態度を今日子にまで見せるに至らない美人は、嘘がバレても本当のことを言わない。
それが今日子を傷つけてしまい、そして彼女の自分に向けられた怒りに美人も傷つく。


との恋愛では、今日子にとって最も厄介だと思われた、環の結麻への想いは初登場の連城父によって否定される。
百戦錬磨の彼からすれば環は「私への反発と結麻への同情を一緒にして それを愛情と思いこんだだけ」らしい。だから「ほんとは お前だって結麻に惚れてなんかいない 子供なんだよ まだまだ」という。
こうして兄弟3人の全員が関係してきた女性への気持ちはリセットされていく…。


いての今日子の探偵業は、環の母親の死の真相。
話を聞きに行ったのは連城父の2番目の妻で、美人と湛の母親。
そこで明かされるのは今日子が生まれた その日に、環の母が自殺したということ。
今日子は自分には本当の母親がいて、その人が環の母と同一人物であると考えていたが、それは否定される。
しかし連城父が今日子の父親である可能性が残されてしまう。

だから今日子は連城家と距離を置く。
それは、自分が彼らと血が繋がっている可能性を考えてのこと。
これ以上、この家の誰かを好きになる前に、自分が傷つく前に離れることが自分を守ることになると思ったのだろう。

また、この家での恋愛イベントは全てを終わったということか。
この2か月余りで、今日子は三兄弟からの好意を得たのだから。
三兄弟がそれぞれにアプローチして、そして互いにライバルであるという認識を持つ(美人は中途半端だが)。
こうして今日子の選択によって、物語の結末が変わる事となる。

今日子を商品にして悪いが、環というディフェンディングチャンピオンに立ち向かう弟たちという構図。

政婦でなくなった今日子は三兄弟との接点がなくなる。
唯一、湛だけが学校前で待ち伏せして会いに来てくれた。本書で最も積極的にアプローチしたのは彼ではないか。

美人は何かと理由をつけて、今日子の前に立つ(このためにサッカー部のマネージャー・宇佐美と今日子に接点があるのか。なかなか機能的に考えられていることに感心してしまう)

帰国した環が しばらく距離を置いたのは、今日子の心境を考えてのことだった。
まだ考えることのある彼女をそっとしておこうというのが彼の考えだったらしい。
1か月は距離を置こうとしたが、11日で我慢の限界となった。
環が相手のことを思い遣れる理性があること、またその理性に限界がくるほど今日子を好きだということが分かる。

もう、自分では今日子が好きだという気持ちを認めている美人が積極的に環から今日子を奪えないのは過去の経験があるから。
どうしても勝てない環、それによる嫌な思い出もある。だから及び腰になってしまう。
だから今日子に対しても本気にならないことで自分を守る。

そんな彼が、自分に打ち克つことが両想いの道になるのか。
今日子、美人それぞれに恐怖に負けない心が必要となる。

『2巻』のラスト付近では、あからさまに今日子は誰を想い、本書において誰がヒーローなのかが明らかになってきた。
この「両片想い」状態に どう決着がつくのかが楽しみである。