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少女漫画と小説の感想ブログです

お酒で酔わないと本音を吐き出せない私だけど、貴方は その優しさで私を 酔わせてくれる。

SO BAD (3) (小学館文庫 あH 3)
相原 実貴(あいはら みき)
SO BAD!
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

ある日、美人が今日子をかばい交通事故にあってしまう。そんな美人を見て、折りしも最優秀生徒に選ばれた今日子だったが、最優秀生徒を辞退し、すべてを捨てて美人の胸へ飛び込んだ。すれ違いだった2人の気持ちがいま、ひとつになり…!?(単行本5巻あらすじ)

簡潔完結感想文

  • 火事に交通事故、2つの不幸の中で炙り出される自分の本心。どう別れ、どう結ばれる⁉
  • 繰り返される比較と選択。自分が誰と暮らすことが幸せなのか、子供たちは自分で選ぶ。
  • 本書の中で一番 悪い人は誰か。連城父ではなく、3人に劣等感を植えさせた贔屓する女性。

愛で誰を選ぶのかだけでなく、自分の居場所も自分で選ぶ、最終3巻(文庫版)。

奔放な大人たちに振り回された子供たちが自分たちで未来を掴む結末が好印象。
そしてイケメン三兄弟との同居という典型的な内容にとどまらない、心理描写や人の配置が見事だった。
作者が登場人物たちの心情を的確に理解していて、それぞれの人の動きに不自然さがない。
また、脇役までしっかりと各個に役割が与えられていることに感心するばかり。どのキャラも1回きりの登場ではなく、少なくとも2回登場していて、彼らの存在が物語にちゃんと影響を与えていることが作者の能力の高さを示している。
実は作者の代表作である『ホットギミック』を早々に挫折していて、作者に対して苦手意識があったのだが、これだけ話が上手な人だと分かったら人気が高いのも納得した。未読の作品は多いので今後 読むのが楽しみになりました。

作者が最初から結末を考えて話を組み立てている点にも好感を持つ。
描きたい内容を描き続けられるだけの人気を維持し、そして描き切ったように見える。
ちゃんと描いたからこそイケメン三兄弟に翻弄され、どうしてもフラフラしているように見えてしまうヒロインに説得力を持たせられている。だから結末を受け入れることが出来る。
またイケメン三兄弟もただの記号ではなく、彼らの孤独、素顔、そしてどうしてヒロインに惹かれるかという流れがちゃんと描かれているから、ヒロインに都合の良い物語だとは思わない。
同じような設定でも、面白い作品と そうではないものがあるのは、やはり作品の奥行きの違いだと思う。

恋愛ばかりではなく本書が舞台となる「連城(れんじょう)家」再生の物語であることも見逃せない。
大人たちの被害者である子供たちが、その家を守る、ひいては自分たちの未来を自分で選び取るという物語が並行して描かれているから、物語のカタルシスは二倍以上になる。
あまり仲の良くなかった三兄弟の上に、恋愛的には勝者と敗者が生まれる状況でも、彼らは互いを認め、自分たちで兄弟になっていった。傷ついた心を自己回復させていく過程に美しさがある。

ヒロインが勝気なだけの1話を読んだ時は、どうなる事かと思ったが、読んで良かったと素直に思える作品だった。


み終わって気になるのは、ヒロイン・今日子(きょうこ)の母親の生き方。
間接的とはいえ人を不幸にした罪を償うように生きてきたのは分かるが、彼女の罪滅ぼしによって新たに傷つく人が続出しているのが気になる。
生真面目で融通が利かない、初期の今日子のまま大人になってしまったのが今日子の母なのだろうか。

家政婦として一生、連城家に関わると決めたのなら、連城家まるごとを幸福にするような仕事をしなければならなかった。
その意味でも、今日子は母とは違う生き方を獲得したと言えるのか。今日子は独自のアプローチで連城家の男性たちに関わり、母が植え付けたことで険悪になった兄弟間の関係やコンプレックスを解消していった。今日子の働きで連城家は回復し、ハッピーエンドとなった。
家事(主に料理)が出来ない家政婦として連城家にやってきた今日子だが、結果的に彼女は人としては母を越えることが出来たということか。
彼らにとって身近な大人たちは反面教師なのである。

母に関して良かったのは、彼女が決して自分から口を割らないという態度を貫いたところ。
そして母の気持ちを ちょっとした行動で表現したり、第三者の代弁によって明らかにしていくのが作者の確かな手腕を感じた。
今日子たち母娘の和解は、もっと分かりやすい場面も用意できただろう。だが、そうしてしまうと母の決意は揺らぎ、物語が安くなる。
もっと未熟な作家なら、感動の場面を用意してしまうところだが、作者は最後まで一歩引いて物語を構築していると、この一連の母の件で感じられた。母の件が最も不満な点でもあるので、一長一短だが。


終巻(文庫版)では大騒動が起きる。
いかにもクライマックス的な展開の中、本当に大事なものを炙り出すためだろうか。

今日子の大切な人は次男・美人(みと)ということが明白になっていく。
長男・環(たまき)の失敗は、父の4番目の妻であった結麻(ゆま)のことが終わっていることをハッキリと今日子に証明できないことだろうか。
その点、美人は前の彼女と別れたことが当の彼女の口から明らかになっているので、今日子にとっての心の障害にはならない。
今日子の心情を深く理解してくれて、欲しい言葉を掛けてくれるのは ずっと美人だった。
環は八方美人的なところがあるから、波風を立てない穏当な言葉しかくれない。それが今日子を不安にさせるのだ。

三男・湛(しずか)も関係のあった女性としっかりと別れているが、作者のコメントにある通り、母子家庭で育った今日子は父性に惹かれるため、その年齢や存在感がネックになったのか。
三兄弟は欠落した母性を、今日子は父性を求めており、彼らの育ちが恋愛にも影響していることが分かる。
そして最終的に湛には新しい恋人候補が現れる(環には現れない)。ネタバレになるが彼女は今日子の異母妹である。そして この姉妹は性格がよく似ている。今は冷たく あしらうばかりの湛が彼女に惹かれる可能性は低くはないだろう。


騒動の1つ目は火事騒動。
緊急事態の中、美人と抱き合うことで今日子は自分の心の変化を分かってしまうという流れ。
現場は今日子の自宅マンションなのだが、その時、今日子は美人と一緒にいて、火事場から逃げ出す際に環にバッティングしてしまう。これではまるで浮気のようだ(実際そういう面もあるが)

緊急事態もまた飲酒と同様、いつもの強がりや偽ろうとする自分の心を剥ぎ取る効果がある。

この火事騒動で今日子は再度、連城家に居候することになる。

その頃、今日子は自分の実の父親の手掛かりを知る。
以前、知り合った日下部(くさかべ)さえら という中1の女性からの手紙の中に自分と両親(と思われる人)が写る写真が入っていた。
どうやら さえら の父親は今の妻との前に結婚した過去があり、それが今日子の母親らしい。
父親と思われる男性に会いに行こうとするが、その人が目の前に現れると あの今日子であっても逃げ出してしまった。

一人で悩む今日子の前に現れるのは美人。
落ち込んでいる時に現れるのがヒーローで、心情的にも一番近しく理解してくれる男性となる。
『1巻』でも酔った今日子は環との距離を急接近(キス)していたが、今回も酔っていて美人のために お礼をする意味でキスをする。
語弊があるが、酔わせて、彼女に共感をする振りをすれば今日子は簡単に落ちるのかもしれない…。
今日子は酔うことで弱い自分をさらけ出させるのだろうか。お酒は今日子の武装した心の鎧を脱がせる道具らしい。

このキスを契機として、彼らは自分の本音を少しずつ相手に漏らす。
だが、今日子は環と交際しているという認識が2人にある。だから上手く近づけない。


んな膠着状態を打破するのが、2つ目の大騒動である交通事故。
今日子をかばって、美人が大ケガをした。
彼の所属するサッカー部が順調に予選を勝ち上がっている最中に事故が起きてしまう…。

これは心変わりをした、いや、心変わりを認めない今日子への罰なのだろうか。

そして、連城家の人々の不幸は今日子の母が一番 恐れていることだった。
自分(や娘)が連城家の者と関わると彼らを不幸にしてしまうと母は思いこんでいる。
だから「それ」が起きる前に、今日子を連城家の人々から(特に環から)離そうとしたのが今日子の母の行動の理由だった。

そんな時、今日子が環と共に「最優秀生徒」に選ばれたという報せが届く…。
これは今日子の当初の目的である。この称号の獲得が自身の存在証明で、母の愛を取り戻すための道具だったのだが、彼女はもう愛を知っているため、環を執拗に追う理由もなく、今日子には母よりも認めてほしい人がいる。

…というのは分かるのだが、最優秀生徒の設定が、もはや作品にとって どうでもよくなっているのが残念だ。ここしばらくは選考段階にはいっており、今日子自身が最優秀生徒のために動くことはなかった。しかも彼女の成績は低下したり、懸案事項となっていた課外活動も『1巻』の文化祭実行委員だけだったりと、選考の理由が弱いのが気になるところ。

もう他の大勢に自分を認めてもらう必要のない今日子は最優秀生徒を辞退する。
それに副賞の留学を利用してしまっては、美人と一緒にいられない。

事故と最優秀生徒によって、今日子は自分の心の現在地を強く意識する事となった…。

この前から読者に予感させるために車が ひっきりなしに登場。まるで当たり屋のように一直線に暴走。

うして今日子は環の気持ちを断らなければいけない自分勝手な浮気と向き合う必要が出てきた。

間接的に その手助けをしたのが彼女の異母妹である さえら。
さえら は湛に恋をしており、湛のためなら親の叱責から逃げないという覚悟を示した。
こうやって ちゃんと さえら に複数の役割を与えている所に好感を持つ。
そして さえら の性格は さすが今日子の異母妹といったところか…。異母姉妹で似ているということは、父親もかなり頑固な性格なのだろうか。

ここで大事なのは今日子が勇気を持ったこと。例え その勇気を発揮しなくてもいいのだろう。
彼女は環に自分から謝罪する必要は無くなった。なぜなら聡明な環は今日子の心変わりを見抜いていたから。
だいぶ前から、環が彼氏というよりも兄のような頼られる立場を目指していたことからも その慧眼は全てを見通していた。
今日子との出会い以降、三兄弟が取った行動の違いから、相応しいのが誰かと語る場面は秀逸ですね。どうして美人が選ばれたのかが分かりやすいし、それが環の罪悪感・不利な点になるのも分かる。
環側が自分から身を引く展開は ちょっと今日子にとって都合が良すぎるように思うが…。彼女にしっかりと自分の欠点を見つめて欲しかった。


の父である日下部、そして今日子の母が、そして娘たちが集うことで真実が明らかになる。
離婚の経緯、そして今日子が成人した際には父母どちらを選ぶかという権利を持つということ。

この父母の選択は初めて出る話で、読者にとってピンとこない問題。
だが、これは本書の中で繰り返し行われてきた比較対象の最後の問題なのだろう。
父か母か。
愛されたいと願っていた母を、自分から求めるのか、という分かりやすい答えになるのだろう。
そして、この問題にも環は見守ることしか考えないが、美人は今日子の心境を慮って、傍にいようとするのが2人の明確な違いとなる。
今日子にとって美人は、お酒なしでも心のガードを解ける存在なのだろう。

だが、当の美人も連城家から出る選択肢を提示させられる。
美人と湛の母親が、息子たちを自分の手元に置こうとしたからだ。
これは、それぞれの家の形が変わる事を意味する。
主な舞台となった連城家に関わる者たちは家族の形態を変えようとしている。

その選択に対しての回答は子供たちに与えられている。
大人に振り回された彼らがキチンと答えを出すことがカタルシスになる。
そして ここで生まれた一体感が、恋愛の後始末における気まずさを帳消しにしてくれる効果もある。
本書に今日子への不満などがあまり生まれないのは、こういう構成の妙があるからではないか。


んな重大局面に現れるのは連城の当主である彼らの父親。
今日子は その人物と初対面となる。

連城父が子供たち(湛以外)を連れ出したのは、環の母が亡くなった事故現場。
そこで連城から語られるのは、これまで語られることの無かった今日子の母の心情。
上述した通り、ここは第三者の口を借りることで、冷静な語り口、客観的な事実になるのが良いですね。

今日子たち母娘が直接会話してしまうと、どうしても感情的になり、許せないという気持ちが出てきてしまう。
連城父が語ることで、母はちゃんと徹頭徹尾、自分の本心を封じ続ける、娘を優先しないという約束を守ったことにもなるし。

母は、自分の存在が、間接的に環から母親を奪ってしまったことを気に病んでいた。
だから娘よりも、環のことを最優先に生きようとした。
連城家に自らが出向いて家政婦をしたのも、環に尽くして生きるためだったのだろう。

…が、環を最優先にする余り、娘はもとより、連城家の他の息子にコンプレックスを植えつけるような接し方をしたのは いただけない。あまりにも視野が狭く独善的な生き方ではないか。

そして こうなると気になるのが今日子と美人が同級生だということ。
なぜ環母は、他の女性との現在進行形とも言える浮気を許容しながら、今日子の母だけを恨んだのか。
それだけ連城父にとって今日子の母が特別だと思ったからなのか。


日子は母を選び、彼女の中の わだかまり も完全とは言えないまでも少し消えた。
こうして残るのは連城家の存続問題となる。

最後に美人が、この家を守ってきたのは環だ、という場面はグッときますね。
完璧な兄に対してコンプレックスがあっても、ちゃんと その役割を認めている美人の大人な部分に感動する。

いがみ合っていた兄弟が、自分たちで兄弟であることを続ける、という展開がいい(その いがみ合い に かなり深く関与していたのは今日子の母親であることが とても気になるが…)

一足早く、連城家に戻った美人と今日子は、今日子の誕生日で突き返された美人からのピンキーリングを渡す。
この指輪も、最後にこんな意味があったのかと驚くばかり。
最後まで登場した人や物事の配置に二重の意味があることに感嘆するばかり。

彼らがこれから作っていくのは子供の王国。
大人たちの因縁や干渉を振り切って、彼らだけの きれいな世界が作られていく。
そんな明るい未来を予感させて物語は終わる。