《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

彼氏に不安があるのに、第三者から彼氏を悪く言われると逆上する情緒の不安定さ。

恋降るカラフル~ぜんぶキミとはじめて~(8) (フラワーコミックス)
水瀬 藍(みなせ あい)
恋降るカラフル(こいふるからふる)
第08巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★★(4点)
 

「ドキドキしてる心臓の音しか聞こえない。まるで、世界にあたしと青人くんしかいないみたい」。青人(はると)くんと麻白(ましろ)にとって初めての旅行。楽しい想い出でいっぱいになるはずが、吹雪の中、麻白が行方不明に!? 助けに向かった青人と麻白は、2人きりの山小屋でついに――!  お互いのキモチが絡み合い、高まる…うれしはずかし第8巻♪

簡潔完結感想文

  • 仲直りするためだけに雪山で遭難しかける、体を張って務めるヒロインという お仕事。
  • 経済学部の学生が3学期に教育実習生として襲来。4年生か3年生が気になって仕方ない。
  • 成仏できない当て馬がゾンビとして復活。えっ!? 君、次の巻で あぁなるんだよね…??

想い後の展開はノープランとしか思えない酷い出来、の 8巻。

晩節を汚す、という言葉が消えない。両想いまでの障害はたくさん考えてあり、それが面白かったのに、本書の終盤は疑問ばかりである。特に最終『9巻』の展開を読むと、ある人物の『8巻』の行動が頭がおかしい。悪いのは当該の人物・自由(みゆ)ではなく、その人を動かす作者である。もし『9巻』の展開を考えているのなら、その直前の『8巻』の行動は絶対にしない方が良い。これまでも自由の言動は色々とおかしいのに、少女漫画的なイケメン無罪が適応され無罪放免となるから自由は何度でも当て馬として復活する。その復活を阻止するために『9巻』で釘を刺したのかもしれないが、それにしても展開が酷い。

この作品が作者にとって初の長期連載ならば上手くいかないのも大目に見られる。だが作者は本書で作家生活10周年を迎えた人である。それなのに私が読んだ3作品の中で本書が1番 終盤の展開が酷いのは どういうことなのか。両想い後に こんな短期的な問題を繰り返し起こされても読者は嬉しくない。そして「運命」という大仰な言葉を使う割に、自分の小さな不安や すれ違いを自力で解消できないヒロインにも愛想が尽きた。また『8巻』ではヒロイン・麻白(ましろ)の欠点を帳消しにするような大きな事件を起こして、読者の冷静な思考を奪うような手法が何度も取られていた。ヒロインの大ピンチにヒーロー・青人(はると)が駆けつければ、そこで2人の問題は即 終了。雪山で命が消えるピンチ、他の男にキスされるピンチを乗り越えて、2人の愛は再び輝き出す。

ちょっとしたことからの すれ違い、嫉妬や独占欲、性行為に至るまで2人で合わせる歩調など、波乱を通して描きたいことは分かるが、その波乱を起こすための人の描写が納得できない。もはや夫婦同然の2人の喧嘩など犬も食わないのだ。果たして作者は どんな勝算があって、「運命の恋」の その後を描こうと思ったのか…。

そしてラストの展開も疑問。仕事をしている(そこそこ)高齢の母親に、自分と自分の娘の世話を義務付ける麻白の母親の行動が謎すぎる。いや、さすが麻白の母というべきか。自分さえよければ、他人なんてどうでもいいのだ。本書には視野の広い女性は登場しないのかもしれない。設定がガバガバでも作者が気持ち良い物語が作れればそれでいい、という作者の姿勢が見られる気がした。本書が子供だましなのは、その恋愛観だけではない。作者がこの世界を まともに維持するような倫理観や想像力を持ち合わせていないからである。


れにしても青人のことで不安になって落ち込んだり泣いたりするのに、その一部始終を知る第三者から意見されると逆ギレする麻白は精神的に不安定過ぎないか? 青人が悪くなければ自分が悪い。そういう反省が描ければ読みごたえも出てくるのに、本書において麻白は絶対正義なのである。

今回も、中学時代の青人の先輩・槙(まき)と青人を巡る意見の相違から、恋愛相談は物別れに終わる。問題はそこが雪山だったということ。麻白は1人でゲレンデの上級者コースに消えていき、槙はそれを制止しなかった。お腹がデブっていることを気にして、彼氏と気まずくなって、冬山で遭難死直前の大ピンチ。不幸版わらしべ長者である。

(完) 先生の次回作にご期待ください。…とはならず、吹雪でも青人は一直線に麻白を見つける。

ヒロインのピンチに動くのはヒーロー。青人は麻白と合流し、避難小屋に2人で暖を取る。こうして強制的に2人になれば、2人はそれぞれに胸に秘めていたことを話せて、即 仲直り。トラウマ爆発の次は、臨死体験で「運命の恋」を盛り上げる過剰演出がバランスが悪い。身体の関係についても読者の期待を裏切りスローペース。余計な装飾を片付けると、両想い後は何も起きていないも同然。
ここで性急に性行為をしないのは青人が麻白のことを大切に思っているから。青人の欲望よりも彼女を優先することで誠実さが出ている。それに青人は人生という長いスパンで麻白との関係を考えている。その証拠にクリスマス直前の青人からの麻白へのプレゼントは婚約指輪と言えるものだった。それを左手の薬指にはめてもらい、麻白は「自分が宝物になったみたい」と感じる。これまで青人命の麻白の盲目さが怖いと思っていたが、青人もまた結婚以外考えていないことが分かる。麻白が疑問もなく受け入れているから良いが、青人の行動は中々に暴走している。

麻白が無事生還すると、槙の態度が急変。槙は今回、青人が恋をするとどうなるのかを知り、中学時代の、青人が槙の恋人を奪略した騒動が自分の誤解によるものだと理解する。これにて青人のトラウマは完全に解消された。この解決編で槙は情に厚い良い人に転生する。本書では当て馬もトラウマも1つのターンが終わると消滅させられるらしい。こうして綺麗な世界が構築されていく。


が問題が解決した直後に、次の波乱を用意するから、付き合っていられない。

麻白たちのクラスに、なぜか3学期に教育実習生・芹澤 美久(せりざわ みく)が登場。調べてみると大学4年生が5~6月にかけて実習することが多いらしいが、芹澤は何年生なんだろうか。
芹澤は子供っぽいヒロインが敵わない大人の女性として描かれる。今回のテーマは麻白の嫉妬。だが作中で分かりやすく説明するのは どうなんだろう。

一難去った後の麻白は無敵。問題は その無敵状態が長続きしないこと。これを一生 繰り返すの?

芹澤は『7巻』で青人が交通事故で助けた人物だった。誰かに嫉妬をしないという麻白だったが芹澤の登場初日から胸がモヤモヤする。

一介の大学生・芹澤だが、作中では万能な人間として描かれている。そして青人は芹澤が学ぶ経済学に興味があるらしく、経済学部の学生らしい芹澤と専門的な会話を繰り広げる。そんな青人を芹澤はゼミの見学に誘う(何の権利があるんだよ)。

不自然な時期の教育実習生の登場ですが、この教育実習生という時点で期間限定ライバルだと公表しているようで、芹澤の退却は目に見えている。芹澤を教師にしないのは、高校生に手を出す教師だとモラル的に厳しいからだろうか。


れまでの慣例通り、麻白が不安になると顔を出すのがイケメン男性である。自由・橙太(とうた)・槙ときて、今度は またしても自由である。この後の展開を考えると一層、自由じゃない方が良いと思うのだけど、終盤で今更 新キャラも出せないから、自由を便利に使ったのだろうか。
つい先日、麻白は青人に言いたいことを言えなかったばかりだし、自由が別の男に恋する麻白に近づいていく葛藤は以前にも描写があったので再放送を見させられている気分。

自由に誘われるがまま享楽的に時間を過ごし、不安を胸に閉じ込める麻白。ってか、いくら「友人」設定だからといって、男性と2人で出かけ、遊ぶことに罪悪感を覚えない交際のマナーを知らない麻白が憎たらしい。唯一、この日の最後に乗った観覧車で麻白に罪悪感が芽生え始める。少女漫画において観覧車はカップルの乗り物。ようやく自分が浮気をしている自覚が出た麻白だが、自由の「友達」という言葉で その罪は帳消しになる。浮気だよ、ビッチ!

この時点で自由は「ごめん 今は1人の女の子しか見てないから」と麻白に本気。これが麻白じゃなく、あの人であれば次巻の展開も許せるが、この時点では麻白に「ドキン」としており、麻白説が濃厚。

芹澤を見て本来の自分から背伸びをしようとする麻白を、自由は そのままでいいと言う。その勢いで今度こそ告白寸前になるが、青人からの電話で未遂に終わる。


が、その電話で青人が芹澤の自宅に上がろうとしていることを知り、麻白は落涙する(芹澤の声を電話が拾う流れが不自然すぎる)。
その涙を見て自由が覚醒。自由は、観覧車が1周するまでに青人が来なければ、麻白へのキスを宣言。これは橙太の勝負と似てますね。自分に踏ん切りをつけるための賭け。だが麻白のピンチに青人のヒーローの本能も覚醒する。こうして またも麻白はピンチを脱し青人との仲は秒で元に戻る。結局、お互い相手しか見ていない恋愛の ちょっとしたすれ違いに面白さはない。告白もキスも未遂で終わってしまうと、またしても自由は恋愛ゾンビとして生きることになるのではないか。今回は自由の気持ちは冗談にならないまま騒動は終了する。

青人が現れ、2人は本音で話し、青人は麻白の中の嫉妬を確認し、嬉しく思うという結末。こうして麻白は自分の欠点や浮気を不問とされ またまた成長しないまま。「一生をかけて守るって誓った恋」ならば、麻白は自分の都合の悪いことから逃げないで欲しい。その変化がずっと描かれないから波乱が徒労に終わる。

その後、麻白は芹澤とも腹を割って話し、彼女に恋人がいることを知る。芹澤は青人がどれだけ麻白に実直なのかを麻白に教える。青人が経済学に興味があるのも麻白の実家や祖母の店のためだという。ということは、青人は再会した春か、交際した夏休みから勉強しているのかな。青人は実質的に婿入りみたいな感じを考えているのだろうか。
芹澤も最後にライバルから恋愛の先輩になって良い人に転生する。


ストは少女漫画のクライマックス、遠距離恋愛の危機となる。

そのキッカケは麻白の母親の妊娠。祖母が母のサポートをするために麻白の地元の島に行くため、麻白も東京に残るわけにはいかないという事態になる。…ってか、ここで再度 疑問なのが、麻白はなぜ東京に来たのか、ということ。この麻白の家の背景が全く見えないから、訳が分からない。作者は島での出会いと、4年後の東京での再会を描ければいいから、設定なんて考えていないのだろう。その背景の薄っぺらさが、作品の底の浅さに直結している。

麻白の母は娘を東京で自分の母(麻白の祖母)に世話をさせている状況。それなのに祖母に生活の基盤を移させて自分の世話をさせようとしている。しかも祖母は東京で仕事も持っている。自分が祖母のお世話になるならともかく、祖母を呼び寄せる意味が分からない。これもまた遠距離恋愛の危機を演出するためだけの設定。

読者の成長や気持ちの変化によって読む度に新しい発見のある作品と違い、本書は あっという間に幼稚に感じる作品である。その原因は恋愛の描き方ではない。作品世界に奥行きが無いからである。本当に腹立たしいぐらい人の描写が薄っぺらい作品である。