相原 実貴(あいはら みき)
SO BAD!
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★☆(7点)
雪野今日子は名門私立白蘭学院に通う高校2年生。今年度最優秀生徒を狙い、勉強一筋の毎日。ところが、交通事故に遭った母親の代わりに家政婦の仕事をするハメに。しかも、その相手先とは今年度最優秀生徒候補・連城環(たまき)の家であった!高3の環、高2の美人(みと)、中2の湛(しずか)の3兄弟に囲まれて始まった家政婦生活は…!?
簡潔完結感想文
- 負けたくないライバルの家で家政婦をすることになり、当然のように恋に落ちるが…。
- 鼻っ柱の強いヒロインは誘導しやすい。学校も私生活も自分から問題に巻き込まれていく。
- 次々に明かされる連城家の男性たちの乱れた関係。この中から選ばなきゃならないの…?
作者のストーリーテラーとしての魅力が存分に味わえる 1巻。
本書の登場人物たちは癖のある人たちばかりで、どの人にも一長一短があるが、その一長一短を愛おしく思える。
2022年現在からすれば、25年以上前の1996年の作品で、ちょっとばかし画力に疑問符が付く部分もあるが、そんなこと気にならないぐらいに気が付くとページをめくっている。
それだけ先が気になるストーリーを用意してくれていて、その勢いの中に ちょっと暗く寂しい部分が描かれていて、ハッと立ち止まったりもする。
緩急が自在で、話の作り手としての才覚を感じる。
ここから25年以上、読者から支持され続ける訳だ、と納得がいった。
簡単に言えばヒロインが家政婦としてイケメン三兄弟と同居して、彼らの内から誰を選ぶのかという話。
こういう よくある設定だけに、同じような設定でも退屈だった作品との違いが浮かび上がる。
面白さの1つはヒロインが決して幸せではないことだろう。
たった一人の母親から褒められずに育ち、母親に認めてもらおうと学校内で奮闘する。
上手くいきそうな恋にも予想外の障害があることが判明し、彼女は苦しむ。
強気の中に弱気が、幸福の中に不幸があって、それが作品のアクセントになる。
初読も面白いが、再読も面白い。
イケメン三兄弟の中で誰を選ぶのかは、作者の中で最初から決められていて、決して行き当たりばったりの内容ではない。
結末が分かった上で読んでみると、前半部分から感情の動きがしっかりと描かれていることが見えてくる。
少々キーキーうるさいヒロインではあるが、その喧騒の中に伏線を忍ばせているから、やはり作者は只者ではない。
『SO BAD!』は英語の口語で意味は「サイコーじゃん!」になるらしい。
てっきり私は少女漫画ヒロインがよく言う「サイテー」の方かと思っていた。
本書はヒロインが、サイコーじゃん!と言えるまでの苦労の絶えない日々の話である。
ヒロインは雪野 今日子(ゆきの きょうこ)、高校2年生。
名門私立に通い、成績も学年トップだが、母は自分がどれだけ良い成績を取っても認めない。
母が認めるのは、自分が家政婦として通う連城 環(れんじょう たまき)だけである。
そんな母に認めてもらうため、環に勝つため、今日子は学校内で1人だけ選ばれる最優秀学生を狙っていた…。
てっきり本書は今日子が最優秀学生を狙うために、学校内で軟化していく話になるかと思ったら、主な舞台は連城家となる。
最後まで学校の評価があまり上がった気がしないのは本書の欠点だろう…。
学校内の動きがありそうでなかったのが残念。
なにかと今日子を擁護するクラスメイト・宇佐美(うさみ)とかと友情を育むとか彼女の変化を描く機会はあったが、連城家の内情など色々と手を出し過ぎて取っ散らかった印象がある。
結局、連城家と3人の男がいれば成立してしまう世界なのだ。
そんな勉学一辺倒だった今日子が母の交通事故により連城家に代打で行くことから物語は始まる。
長男の環(高3)は初対面は、今日子の中の仮想敵のイメージを崩すほどの好青年。
そして次男の美人(みと・高2)は いきなり彼のキスシーンを目撃してしまい、そのチャラさに幻滅する。
三男の湛(しずか・中2)は白皙の美少年だが、性格と健康に問題がある。
ちなみに環と美人は同じ学校、湛だけが別の名門私立に通っているという設定。
今日子と連城家の面々とは全員が初対面で彼ら兄弟を横一線に並べる必要があるので仕方のないことだが、同じ学校に最低2年、下手すりゃ5年以上いるのに宿敵「連城環」の顔も知らないという設定は無理があるなぁ。
今日子は料理も出来ないのに、連城家に1か月の住み込みとなる。
男ばかりの家庭に同居する、というのは少女漫画の夢と言えよう。
通常なら身の危険を感じたりして拒否するところだが今日子は その持ち前の負けん気で同居してしまう。
彼女のこういう所は、作品内の不自然な部分を力技で乗り切るパワーとして使われる。
だが母が、料理が全く出来ない娘を、大切な連城家に派遣するのは無理がある。
家政婦派遣会社を営み、多忙な彼女は自分の娘の料理スキルも把握していないということか。
ただ、母子家庭である今日子が一切 料理をしたことがないというのは、どんなに忙しくても、母は自分の家庭で ちゃんと料理をしていたという証明になるだろう(母が連城家で作ったものを流用している可能性もあるが…)。
ちなみに疑問と言えば、環には「部活の後輩」がいるらしいが、何をやっていたのだろうか。
彼ら三兄弟の父は、海外が本場の舞台演出家で、これまでに4度の結婚をしているという。
環の母は病死して、美人と湛の母は くっついたり別れたりしている状況。
現在の妻・結麻(ゆま)は結婚2年だが、夫と会えない日々が続く。
こうなると4回の結婚のあと一人の相手が誰だか気になるが、多分、作中で言及されなかった。
連城の息子たちは、新しい義母・結麻に決して優しくないという事情が僅かの時間で今日子にも分かってしまう。
以外なのは環の反応だろう。
環を敵視し、家政婦に慣れない今日子に対しても優しいのだから、彼は結麻にも優しくしてしかるべきだと思うが…。
と思ったら、これも伏線で事実は意外なものであった。
今日子はどこまでも良い人の環を見て、自分との器の大きさの違いを感じる。
だが今日子が環を認め始めた矢先、環は新しい母を「結麻」と呼んでいることを知ってしまう…。
更には湛は不登校だという事実も判明する。
その際の会話で、どうやら湛は環ばかりを贔屓する今日子の母が お気に召さないことが分かる。
だが、今日子は湛が母のことを「ババア」ということを許さない。
これは今日子の母への愛情以上に、自分以上に母の愛情を浴びている立場の彼らが母を悪く言う事に腹を立てたからだろう。
ただし湛の言葉には共感できることがある。
母の環中心主義に対する反発が、湛や美人の中に認められ、これが今日子と彼らを結び付けるものとなる。
自由人の連城家の父親も、息子が学校をズル休みしていることに小言を言う。
大きな家に住む三兄弟だが、その家の中は空虚である。
一体 父親は何の権利があって、どの立場から怒っているのかという疑問は今日子が代弁してくれる。
こうして湛は今日子が父の責めから守ってくれたことに心を動かされる。
こういう複雑な環境の漫画の親は大体クズである。
環は最優秀学生に選ばれた際の副賞である留学制度を利用して、そのまま海外で生活するつもりらしい。
それが許されざる恋や、父親の支配下から逃れる術だと考えているのか。
つらい恋の痛みに打ちのめされそうな環に、今日子は自分の痛みを隠して説教をする。
こうやって強気だからこそ自分の本音を語らない/語れない今日子に読者は ついつい肩入れしていくのだろう。
でも何だか、連城家の男性たちは自分を叱ってくれる人に弱い気がするなー。
死別や放任など、触れられなかった母性を、今日子が見せてくれて、その要素に彼らは 参ってしまっている気がする。
親の都合に振り回された子供たちが、新しい関係を構築していくから、舞台となる連城家が温かく感じられるのだろうか。
今日子は最優秀学生になるために、勉強以外の評価を求めていた。
そんな今日子に、美人は自身が所属するサッカー部マネージャーへの口利きをする代わりに、環の秘密を探れという。
だが今日子は環の秘密を知っても、それを利用しなかった。
環の秘密を話せば自分が最優秀学生に近づくとしても、そんな手段は使わない彼女の正直さがある。
もう この時点で、今日子は人の感情というものを理解していると言える。
そんな中、環は日頃の無理が たたって倒れる。
いわゆる風邪回となり、今日子は環に特別な人がいると知り自分の恋を痛感し、美人は環を甲斐甲斐しく看病する今日子の姿に なぜだか胸が痛む。
様々な想いが交錯しているから連城家は楽しい。
初登場の美人と湛の母親が、ややこしい問題を持ってくる。
それが連城父と今日子との血の繋がりがあるという疑惑。
いよいよ、こういう内輪の狭い世界の話になってきましたね。
今日子の母は、ずっと連城父との関係を疑われ続けていた女性らしい。
母が連城家に固執する理由も、連城父との関係があるからなのか。
美人は実の母から、自分以外の兄弟と比較され続けて生きてきた。
それは環と比べられ続けた今日子と同じだろう。
この時点で2人の共通点は多い。
自分の親からの愛情の徹底的な欠乏、そして自分が見ている人が別の誰かを見ているという切ない状況。
そんな中、環はテストの答案を白紙で提出したりと異常事態。
どうやら結麻との関係がダメになったらしい。
あれだけ蹴落としたかった環の不調を、今の今日子は喜べない。
今日子はマネージャーの代わりに課外活動として文化祭実行委員を始めたがトラブルに見舞われる。
唯一の解決策は環なのだが、恋愛に悩む今の彼に頼ることは今日子は許さない。
もちろん、これは これ以上 環に頼り、惹かれていくと自分が傷つくという防御本能でもあろう。
結局は環に助けられるのだが、今日子からは最後まで環を頼らなかったし、恋愛に関しても追いすがらないところが今日子らしい。
今日子は強気なヒロインではあるが、本当に強いヒロインでもある。
それでいて恋に振り回される乙女なヒロインでもあるから、彼女を応援したくなる。
だが美人が今日子の恋心を環の前で暴露してしまう。
何とかその場を立ち去る今日子だが、その後、美人の前では これまで通りに接することが出来ないかもしれない環を想い、泣く。
その後、環と会話を重ねて、自分の想いを吐露した今日子。
環と想いを通じ合わせたかのように見えるが、
どうしても彼の背後に結麻の存在を感じてしまう。
結麻が海外に行く日も、今日子は環の背中を押し、空港へ向かわせる。
だが、環は自分の元に戻って来た。
まるで文庫版『1巻』のラストで早くも物語のハッピーエンドのような展開。
だが 物語は この3倍ある。
今回は環のターンってことなのだろうか。
ということは、美人・湛と、次々と好きな人が変わるの⁉
…なんてことは、まるでない。