《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

最終巻でも またまた理久が「弟」になる可能性あり。計5人の兄と姉を持つ 究極の末っ子。

ショートケーキケーキ 12 (マーガレットコミックスDIGITAL)
森下 suu(もりした すう)
ショートケーキケーキ
第12巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

お礼にと招待された温泉旅行の夜、理久に別室に呼び出された天はそこで―― 天と理久も、千秋も、鈴も、白岡と蘭も!? それぞれが思い描く道を歩み出す最終巻。登場人物の「それから」を描いた番外編×3も収録!

簡潔完結感想文

  • トラウマもなくなったので恋愛全面解禁。5時間の ご休憩は そういうこと??
  • 墓前に誓う将来。告白も交際も その先も人生というバスは2人を乗せ、走り続ける。
  • 番外編。最後の最後で幸せになる当て馬。これで理久は4人目の兄をゲットだぜ!

盤以降、下宿から遠く離れたけど、なんとか下宿に帰ってきた 最終12巻。

作者が『12巻』の そで で、
「最終巻 読み終わって また一巻から読み直してみようかな
 なんて思ってくれる方がいたら嬉しいです」と言っているように、再読は絶対に楽しいはず。

悪態をついていた鈴(れい)の性格に納得する代わりに、
ヒロイン・天(てん)や千秋(ちあき)の性格の変化に違和感が出そうだけど…。

実際、再読してみると、この人は この時 どういう心境だったのだろうかと考える場面が多くて、
初読だけの時よりも物語に奥行きを感じられた。

私は恋愛以外の奇妙な関係性が成立していく過程が好きだった。
なのでヒーロー・理久(りく)よりも、千秋や白岡(しらおか)が活躍している場面に嬉しくなった。

彼らがいなければ少女漫画の最終盤の お約束「ヒーローのトラウマ」は解消されなかったかもしれない。
ヒロインとニコイチでトラウマ≒家庭問題に切り込む展開にならなかったのが本書の大きな特徴だろう。

天はヒロインだけど、出しゃばり過ぎないのが良い。
まぁ男性の物語に入り込む余地がなかった、とも言えるのですが…。
何とか別方向から物語に関われて良かった。


ロインの天が物語の中心から外れたように、
物語の始まりの下宿も いつの間にか完全に脇役と化したのが残念。

後半で大いに泣かされた本書だが、
不満があるとすれば、意味があるようで よく分からなかった書名と、
下宿生活や下宿人たちとの交流の描写不足である。

最終回で何とか空気になりかけた下宿設定に戻したのが唯一の救いだった。

ヒロイン・天(てん)は下宿に入ることによって、時間の余裕が生まれ、
高校生活や下宿生活が豊かになるはずが、恋愛方面でしか世界が広がらなかったのが残念。

部活動に励むとか、親友の あげは と夜な夜な語らうとか、
恋愛沙汰の男性陣を抜いて下宿人との交流の様子の描写が まるでない。
そこに ちょっとした選民意識を感じる。

千秋(ちあき)が高校で自分を慕うクラスメイトの男子生徒に冷たいままで、
理久(りく)にばかりベッタリするのも、何か納得がいかない。
千秋の成長として、彼とも上手く付き合うような描写が欲しかったところ。

作者が描きたかったのは後半の水原(みずはら)家の物語で、
下宿はただ物語の導入と、半同居ライフのドキドキに必要な設定でしかなかった。
最初から最後まで、ここが青春の場所なのだ、という感じで下宿を中心に据えて欲しかったなぁ。

前述の通り、後半はヒロインの天まで存在感が薄い。
天は親友を放っておいて、女性1人が4人のイケメン男性に囲まれるという、
いかにも少女漫画ヒロインらしい立ち位置を獲得しているものの、
イケメンたちの彼女に対しての好意は最小限に とどまる。

本書で最も好意を浴びるのは、理久なのである。
最も不幸で、最も人から愛されるヒロイン的立ち位置は彼に奪われた、と言える。
天は彼を慕う多くの人物の中の一人。
その中で唯一の理久の恋愛対象になる人物に過ぎない。

下宿とは逆に、中盤から理久が物語の中心に据えられていくのが本書の面白いところ。
勿論、作者は最初から それを想定している。
再読すると、理久の位置が どんどん外から内へスライドしていくのが良く分かる。

本書には まさか その立ち位置に納まるとは、という展開が何度もあった。
そういう変化を巨視的な視点で見られるのが、再読の楽しみとなる。

「良い本は何度 読んでも楽しい」 by.best_lilium という浅い名言を私から贈りたい。


頭は引き続き温泉旅行回。

下世話な話ですが、ここで重要なのは、最後の恋愛イベント・性行為があったかどうか。
私は あった と思います。

その根拠は経過時間。
0時過ぎに天は理久に呼び出され、誰もいない部屋に呼び出される。
そこから直接的な描写はないのですが、
この部屋から理久が本来の部屋に戻ったのは5時というのがキーポイントではないか。

この5時間余り、恋人同士の何もしなかったということは ないだろう。
ここにはテレビゲームもトランプもUNOも ないのである。

そして心理面からも性行為に及ぶのが自然だと思う。

以前、鈴との和解で「まっさら」になる前から2人は 事に及ぼうとしていた。
その時はトラウマ(を知られたこと)がネックになったが、もう それは解消された。
完全無敵となった2人がしない理由が無い。

ということで ここを私の研究「少女漫画分析」における性行為の地点と致します。

この翌朝、天が理久と顔を合わせる場面が描かれていたら、
天が分かりやすい反応をしてくれたのでは、と想像しますが、
実際には その場面はなく、夜が明けたら もう全員が集合済みの場面となった。


岡と下宿管理人の蘭(らん)は元の鞘に収まるどころか、一足飛びに結婚に至る。
蘭は、下宿のすぐ裏の借家に白岡と住む予定。

こうなると下宿は夜間、管理人がいない状態となり、風紀が乱れるのでは、と心配になる。
ただでさえ男女混合の下宿は女性側のリスクが高いのに、
夜間は管理人が不在となれば親御さんも躊躇するのではないか。
下宿が潰れる危機である。

鈴は独占欲の塊だから、白岡の結婚も ちょっと嫌。
そんな鈴の態度に白岡は感動。
白岡が千秋化していないか(笑)
本書は男性同士の愛情や思い遣りが厚いなぁ。

そんな鈴も すっかり くま が取れ、笑顔も子供の頃に戻っている。
その様子に、弟の理久は満足感を覚える。

彼ら兄弟が本当の笑顔を取り戻すために本書はあったのかもしれない。

この旅行で写真を撮っているのが、思い出の更新という感じで好きだ。
兄弟それぞれが大事に持っていた子供の頃の写真から間は空いたが、
これからは何枚でも自分たちの写る写真が増えていく。
もう彼ら兄弟が笑っているだけで、こちらは泣けてくる。

隣で本物の笑顔でいられること、これを人は幸せと呼ぶのだろう。2人の思い出は また作れる。

終話は そこから8年後ぐらいの未来の視点から、本編の1年ちょっと後を振り返るという やや こんがらがる構成。

高校を出た彼らが もう一度 下宿に集まるためには、
この二段階の構成が必要だったのだろう。苦肉の策に見えるが。
特に この地が地元でもない千秋にラストシーンを任せるには、彼が戻ってくる理由が必要だったのだろう。

まず、語られるのは1つ年上の鈴が大学生に入った夏。
(多分、天と理久は高校3年生)

水原兄弟と天は、兄弟の両親への お墓参りで再会する。
鈴は地元を離れ、都会で大学生活を送っている。
蘭は妊娠中。

ここで鈴は、1年以上前の和解のあの日、自分の天邪鬼を正してくれた天に改めてお礼を言う。
初対面で「ブーーーース」と言い放った、あの鈴が…、と思うと それだけで感動。
天も すっかり鈴の呼び方は「鈴兄(れいにい)」で固定されている。

不良が更生すると褒められる風潮は嫌ですが、鈴の成長が一番 分かりやすく、やっぱり褒めてあげたい。

この時、天と理久は、結婚を約束する。
これでまた水原の名前を持つ人が増えるんですね。
鈴からの感謝は2人の交際を認める、という未来の当主からの お赦しにも思える。

そして ここが墓前なのがいいですね。
きっと ご両親も聞いている。
そして墓前での報告は絶対に果たされます(報告は白岡だけど)。

この墓地は『8巻』で兄弟がケンカした場所でもある。
だけど今は助け合っている兄弟を見られて ご両親も安堵しているのではないか。

鈴は本当に天の義兄になるんですね。
『11巻』の鈴の名場面をモジるのなら「2人の お兄ちゃんに… なりたい!」というところか。


地からの移動はバス。
その中で天と理久は語らう。

思えば最初の告白も、交際の提案も、このバスの中だった。

「……何? あんた 私の事 好きなの?」と天(岩状態)が聞いた『1巻』のラストは、
理久が天に「…本当 天って 俺のこと 好きだよね」という言葉で永遠となる。
(どうせなら ちゃんと漢字を揃えて欲しかったが)

2人を乗せたバスは、明るい光の中を進んでいく。
(バス以外の景色が全くないので、昇天しているようにも見えるが)


こから7年余りが経過し、現在の彼らは25歳前後か。
家の中をリノベーションした下宿の披露会が企画され、関係者たちが集まる。

白岡の子供・ひなぎく(7歳)は鈴に夢中。
千秋は、名言カフェをオープンし、テレビ取材されるほどの大盛況という近況が語られる。

鈴が撮った写真の中に あげは が写っている。
その隣にいるのは恋人だろうか。
この写真が あげは の最後の出演である。
なぜ番外編にいないのか…。

彼らが下宿に辿り着く前に、物語は終わる。
この続きは「番外編シリーズ③」…となる。

この終わり方は本編としてはネバーエンディングな感じで良い。


「番外編シリーズ①」…
20歳になった天と理久の話。
別の県の大学に進学し、2か月ぶりに会える日。
本編より ちょっとだけ大人になった2人の関係が描かれる。
内容的に何かある訳ではないので、
小ネタ的に挿まれる20歳前後の彼らや周囲の変化が一番の読みどころ。

「番外編シリーズ②」…
26歳で社長として働く鈴。
モテているが気づかない恋愛鈍感の鈴、という話。
鈴は格好良くなりましたね。
おでこ広そうだけど(笑)

「番外編シリーズ③ 「それからのそれから」」…
本編最終回の その続きで、25歳前後の彼らの様子。

折角 久々に下宿が舞台となったのに、募集したキャラを登場させるノルマ消化に必死で、
下宿人たちとの再会が おざなりなのが残念。
まぁ彼らだけが下宿人じゃないので仕方ないですが。

葵(あおい)と有人(ゆうと)も登場。
何と交際しているらしい。
葵が高校3年生のクリスマスに、有人が最後だからと張り切っていたのは伏線だったのか。
でも温情でくっつけた内輪感がありあり。

この時点で天と理久は結婚済みで夫婦である。
しばらく工事中だったこともあり、現在、天の部屋だった場所には入居者がいない。
下宿も休業状態なので、夫婦は初めて天の部屋に入る。
最初から最後までルールを守りきった理久が良いですね。
まぁ、初対面から手を握ったり、頬にキスをしたりと強引なところがない訳ではないが。

鈴はグイグイ系の女性に押し切られそうな気がしてならない。
交際20年で結婚した父と母のように、白岡の娘と出会って20年後に結婚するのも良いかも。
白岡が身内になるし、義父になるし一石二鳥である。
近しいところでくっつくのは少女漫画的には正義である。


そして千秋は理久の姉・蛍(ほたる)と交際間際。
蛍の初登場時から、名言によってフラグは立っていましたもんね。

理久の実母を巡る一件の後、千秋が大学生になってから彼らは再会した。
蛍は市立図書館で司書として働いている。
彼らに共通点は多い。

千秋との会話で蛍の人生も垣間見られる。
母子家庭で、貧しかったが、図書館の本を読み、知識をつけ、学力をつけることで彼女は自分の道を切り拓いてきた。
そういう強さが また千秋を惹きつける。

あと大事なのは遺伝子だろう。
千秋は この姉弟の遺伝子にめっぽう弱いのだ。

ちなみに空気に等しい1歳年下の下宿人・琉(りゅう)とは生徒と家庭教師という間柄という新事実も発覚する。

蛍は母を不幸にした父 ≒ 男という存在を毛嫌いしている。

天が「抱きしめられるより 抱きしめたい」なら、
蛍は「(男の人に)だまされるくらいなら …だましてやりたい」という主義。

思わぬ再会から約6年間、千秋のアタックは続いていく。

これは千秋にとっては「もう 恋なんてと思った 高校の頃」以来の恋愛感情らしい。
ということは実は千秋は天への失恋に深く傷ついていたのかな。
どんどん理久への愛を強めていって、キャラ変していったように見えたけど、
それは彼なりの処世術や、痛みを忘れる手法だったのかもしれない。

失恋から蛍との再会も3年ぐらい経過してるし、千秋の新たな恋が明らかになるのも番外編なので、
本編での天への気持ちは偽物ではないので、これでいいのではないか。

蛍ならば読者からも祝福される関係性だし。
何といっても蛍は遺伝子と、理久との関係性において最強の逸材だもの。

だって、千秋と蛍がゴールインすれば、理久に もう一人お兄さん(義兄)が出来るのだから。
これで理久にとって「兄」は鈴・白岡・天の兄、そして千秋の4人となる。
この時点で、天と結婚済みなので天の兄は本当に義兄となった。

理久にとって千秋は親友 兼 同じ年の義兄かぁ。
これは千秋にとって最強のポジションではないか。

最後まで良いところを奪っていく千秋である。