《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

独りぼっちの女性を放っておけないヒーローこそ、巻き込まれ型の健気なヒロイン。

彼はトモダチ 完全版(6) (フラワーコミックスα)
吉岡 李々子(よしおか りりこ)
彼はトモダチ(かれはトモダチ)
第06巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★★(4点)
 

水野を選んだときに封印したはずの佐々本への想い…。どんなに打ち消しても打ち消しても募る想いに、もうこれ以上気持ちを偽ることはできないと気づいたヒヨリ。ようやく自分に素直になれたヒヨリは、ついに水野に別れを告げて――!?ゼロから始まるスクール・ラブ連載、旅立ちの第6巻。

簡潔完結感想文

  • 連載が続けば続くほど、キャラ・作品・作者への好感度は下がっていくばかり…。
  • 彼の引越し、不在だった親の帰宅と存在感、全部に意味がある伏線だが唐突すぎ。
  • 作者は佐々本 大好きすぎ? 本書のヒロインは佐々本で、水野は最悪な比較対象。

ソみたいだろ、高校1年生なんだぜ これで、の 6巻。

作中時間で1年半が経過し、高校1年生の彼らの日々は大きく変化する…。

ハイ、誰も望んでいません。
中学3年生の淡い恋を描いた『1巻』を返してよ。
こんな内容を読みたくて読者は応援していたんじゃないのに…。

ドロドロの三角関係が受けたから、それを蒸発させるまで煮込んだ結果が これか。
このまま煮込み続け火事になって大炎上する事態も辞さないのだろうか。

初めて長期連載を任された新人作家でも簡単に作品をドラマチックにする禁断の手法に手をつけたとしか思えません。
そして、それもこれもヒーロー・佐々本(ささもと)を輝かせるための演出にしか思えない…。


っと ヒロインはヒヨリだと思っていましたが、
ここにきてヒロインは佐々本っだということが決定づけられました。

作者が佐々本を大好きすぎて、どうすれば彼の恋が苦悩に満ちるかを試した結果、こんな事態になってしまったのではないか。

そう考えると、カノジョではないけれど傷ついている
琴音(ことね)やヒヨリを放っておけない佐々本の性格はヒロインに相応しいものに思える。

佐々本はヒヨリに出会ってからというもの、彼女への愛は揺るがないが、
運命の歯車は噛み合わず、今は別の男性のカノジョとなったヒヨリを遠くから見つめる。
そんな健気なところもヒロインっぽい。
その人に相応しい人になるために努力を惜しまない姿勢が男ヒロインの成長に繋がる。

作者の中では、佐々本に損な役回りをさせることが目的になっていないか。
今回の佐々本は、ある罪を自分から被ることで周囲の苦しみを少しでも軽減しようとしている。
あぁ なんたる自己犠牲の精神だろうか。

でも そうなるまでの展開が滅茶苦茶で、全くカタルシスがない。
いよいよ三角関係の3人が三者三様に自己中心的な人物にしか見えない。
高校1年生にして彼女のために全てを引き受ける佐々本にも狂気を感じる。

そして何より佐々本を聖属性にするために、水野(みずの)が闇に堕とされすぎ。
本物のヘタレであった水野と対比することで、佐々本の価値が上がるようになっており、
このことで、ヒヨリも水野も佐々本の装飾品だったような不快感を覚える。

その意味では色々とバランスが崩壊している作品である。


者が描きたいことは分かる。
よく読めば、かなり考えられて人物が配置されているし、起こる出来事には過去の反射である。
…が、いかんせん表層上の物語が胸糞が悪すぎて、その筆力を素直に褒められない。

本書では 幾つもの相似形が見え隠れしている。
それは主に中2の時の、琴音・佐々本・水野の関係性と、
現在高校1年生のヒヨリ・佐々本・水野の関係性との相似である。

ずっと男性2人を放そうとしなかった琴音と、今回のヒヨリは似ているし、
1人の女性を巡る、水野の被害者面と、佐々本が晴らそうとしない汚名の被り方も似ている。

そして違和感のない展開のために家庭環境を色々と用意しているのも分かる。

例えばヒヨリの両親。
父親の単身赴任先に母がずっと世話をし続けて不在だったから、ヒヨリには自由が与えられていた。
だが、子供一人では抱えきれない事態になる直前に母は作品に召喚され、
そして いきなり母親としての権威を振りかざす。

作者が敢えて親という存在を排除し、その後に呼び戻していることは分かるが、
急に存在感を出してきたことへの戸惑いと、有無を言わさぬ態度に嫌悪感が倍増するだけだった。

また佐々本の急な引っ越しも、この巻のラストの すれ違いのために用意されたものだろう。
でも、色々と理由付けてはいるが、すれ違って欲しいがための引っ越しをしているのが丸わかりで必然性に欠ける。

話の流れに合理的な説明が出来るように先手は打っているものの、
それが直前すぎるから違和感ばかりが残る。

作者自身は真面目な人なんだろうけど、決して器用ではないから話の手触りが無骨になる。


品は相変わらず、印象的な日をメインに据える。
今回は、物語の分岐点となる江の島デートの2日目の続きから。

佐々本は引っ越しを予定していた。
学校はそのままだが、現在の自宅から1時間ほど離れた祖父の家で暮らすという。

これは寄り添い続けた琴音と物理的な距離を置くことで、彼女との依存関係から脱却を目指すのだろう。
もう互いに間違わないようにするのが目的か。
そうして潔白になることが、ヒヨリとの復縁の準備でもあろう。

その決意は琴音にも伝わり、寂しいはずの彼女だが いたずらに男性と肌を重ねたりしない。

まぁ 主な目的は上述の通り、佐々本の居場所をヒヨリが知らないという すれ違いのためなのだが。

その日以降の、クリスマスやら年始やらイベントごとは1ページにまとめられる。
本書において重要なのは恋愛イベントではなく波乱なのである。


間は流れ3学期に突入。

水野はヒヨリを自分に縛るために、首筋にキスマークを数多く残す。
まさに これは水野によるマーキングであろう。
ヒヨリが裏切らないようにと、他の男性(主に佐々本)への牽制のために。

それを年末から自宅に戻っているヒヨリの母親に見つかり、ようやく本書に親の監視という不自由が加えられる。
これまで好き放題やってきましたからね。

水野とラブラブなヒヨリだが、
佐々本との愛の結晶ともいえるアヒルのアクセサリーが戻ってきて、
自分の本心から逃避し続ける事への限界を痛感した。

そうして、ヒヨリは自分自身が今度は「ズルくて最低」だと罵倒した琴音の立場にいる事を気づかされる。
今なら水野の手も、佐々本の手も離したくなかった琴音の気持ちが分かる。

机に並べた、2つのアクセサリー。
1つは佐々本のアヒル、1つは水野の手作り。
2人の男性から贈られた愛の結晶。
その どちらをヒヨリは選ぶのか…。

掲載時期が重なる南波あつこ さん『スプラウト』でも相手を罵った言葉が自分に跳ね返っていたなぁ…。

身の卑怯を自覚したヒヨリは水野に別れを切り出す。

自分が佐々本を忘れられないことを正直に話すヒヨリ。
だが水野は それでいいと許容する振りをしてヒヨリに自由を与えない。
思い通りにならないと怒鳴るのも恒例の水野の幼稚さである。

それ以後も水野は別れを受け入れないし、会話もしようとしない。

この時期に別れることは水野の面子に関わるのだろう。
というのも水野は あの江の島での一泊で、佐々本とヒヨリが一線を越えたと思っている。
その肉体関係があって、ヒヨリは自分から佐々本へと乗り換えるつもりだ、という意識がある。

これは中2の頃の、佐々本と琴音の間にあった事の相似形。
あの時も水野は裏切られた、という被害者意識だけが残っている。
だから今回も、間男・佐々本にヒヨリを奪われる事が男の沽券に関わるのだろう。

彼と一度こじれると仲直りが難しいのは経験済み。
精神的に疲弊していく…。

ただしヒヨリも水野と別れたからといって佐々本と再交際するのはムシがいいと思っている。
身辺整理をして、偽りのない自分でいたい、という彼女の気持ちなのだろう。
これは佐々本の引越しに対しての決意と似ている気がする。


語は膠着状態から一気に動く。
体調を崩したヒヨリは病院へと運ばれたからだ。

そのヒヨリが運ばれた病院に勤務する自分の親が、
自分とヒヨリの関係を再確認してきたことを不審に思った佐々本は、とある推論に辿り着く。
それを確かめるため、佐々本は水野を伴って病院へ向かう。

佐々本の推理を聞いて激しく動揺する水野。
水野は佐々本を廊下に残し、ヒヨリの居る病室に入る。

ヒヨリから事情を聞く水野だったが、かねてからの疑念があったため、
彼女の体調や事情を聞く前に、前提条件から疑う一言で、現実から目を背けようとした。

その言葉のナイフは、ヒヨリを大きく傷つけけた。
そうしてヒヨリは「たった1人の味方」を失う。

だからヒヨリは水野を切り捨て、この問題に単独で立ち向かう決意をした。

帰って、というヒヨリの絶望の言葉を聞き、水野は本当に帰ってしまう。
これは水野が いよいよ自分は裏切られた、と思ったからかもしれない。
彼だけが被害者面をして中2の頃から何も変わっていない。


されたのは、一人ぼっちのヒヨリ。

だから佐々本は彼女の味方であろうとした。
今回もまた、中2の時の琴音の時と同じように、
人聞きの悪い醜聞から女性を守るために、佐々本は敢えて汚名を被る。

佐々本の行動はご立派。
だけど青臭い。
決して正しいとは思えない。

さて ヒヨリには、この騒動の直前、昨年末から戻って来た母親がいる。
物語の展開に必要だったから、呼び戻された人である。
これまで疑問に思っていた各親の放任主義にも意味があったことが分かるが、
こういう形で それぞれの親の存在感を出して欲しくはなかったなぁ。

佐々本の行動から、母はヒヨリの彼氏を佐々本だと誤解し、彼への面会を禁止する。

親としてはもっともな意見だが、
戻ってきて即、高圧的な言動になって好きになれない。
全体的に、本書の登場人物は相手が傷ついていることに無遠慮である。
そういう事が積み重なって、何だか優しくない世界が完成していく。


うして家庭内でもヒヨリの味方は誰もいない。
大きなショックの中にいるヒヨリだが、療養中に一層 自罰的な思考になってしまった。

佐々本は味方になるために奔走するが、ヒヨリの母からは出入り禁止にされる。
果たして自分が「代理人」になったことが正しかったかどうか疑問が残る。

何とか、母の不在中にヒヨリの家に乗り込んだ佐々本だが、
これまでの不信感からヒヨリは佐々本を信用しきれない。
他の女性を選んだくせに自分のために行動する佐々本の優しさが残酷だと叫ぶ。

だが彼への怒りを爆発させることで、ヒヨリは塞ぎ込みから脱却するのであった。

カノジョでもない人に優しくしてしまう、それが佐々本の長所であり短所。
困っている人を放っておけないヒロイン属性が由来の性格だろうか。

自分の決断も他人のせいにするメンヘラ化がとまらないヒヨリ。登場人物、全員 地雷!

うして回復の兆しを見せるヒヨリの心だが、佐々本と会う機会を奪われる。

それが急な転校である。
両親が醜聞が広がる前に逃げるように父親の単身赴任先にヒヨリを転校させようとしていた。

ヒヨリの出発は明日。
出発前に、どうにか佐々本に別れだけでも告げようとするヒヨリだが、
もう佐々本は、以前 訪れた事のある自宅にはおらず、ヒヨリは街中を歩きまわるしかなかった。

ヒヨリは既に携帯電話は解約しているし、佐々本は引っ越しているからこそドラマが生まれる。
…のだが、そのためだけに佐々本は引っ越ししていると思うとゲンナリする。
佐々本の自宅は変わっていて、家族とも面識があるんだから、
走り回るより、彼の家族から連絡してもらえば?と思う。

つくづく携帯電話が仕事をしない漫画である。
あと、ヒヨリは こんなに走り回って身体に障らないかが心配。


来、水野が負うべき事態の後始末は全て佐々本のものとなる。

佐々本との嘘偽りのない会話で、いよいよ水野は滑稽になっていく。
水野は自分が気にしていた江の島での一夜の真相を知る。
結局、何もなかったのに、自分が疑心暗鬼に憑りつかれたから、全てを疑ってしまった。
そして その気持ちがヒヨリを傷つけたことを遅まきながら知る。

もしかしたら江の島での翌朝の水野からの性行為には、佐々本への対抗心があったのかもしれない。
だから避妊をせず、彼女を征服することで、佐々本の痕跡を全て消そうとしたのだろう。
それは年末年始におけるキスマークも同じ。
全ては佐々本への牽制である。

相手のことをスキと言いながら、彼が守りたかったのは自尊心ではないか。
間違え続けることで いよいよ佐々本から殴られた水野だが、
これによって被害者面の仮面も剥がれ落ちればいいのだけれど…。