《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

白泉社漫画で一番 贅沢なのは空想の学園設備ではなく、恋に気づくまでの膨大なページ数。

S・A(スペシャル・エー) 3 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ まき)
S・A(スペシャル・エー)
第03巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

八尋から「彗君は君のことが好き」といわれた光。それ以来なぜかギクシャクして彗と上手く話せない事態に…。そんな折、SA内で夏休みの旅行先を決める勝負がスタート!! そこで負けたら、光は彗に八尋の言葉をいう羽目に…!?

簡潔完結感想文

  • 夏休みの旅行先を賭けてSA同士が勝負する。ようやく7人が動き出した。
  • ワイハで夏休み。別荘には魔物が住んでる再放送。子供に懐かれるのは光⁉
  • ようやく始まる個人回。学力はあるけど全員 幼稚なだけのSAメンバー。

てにおいてスペシャルなヒーローとヒロインが描ければ それでいい 3巻。

残念ながら読んでも読んでも面白い部分が、私には見つけられない。
SA組という学校内のエリート7人を用意しても十全に機能してないし、
序盤から恋愛を持ち込んだことで、話の幅が狭くなってしまっている。

主な内容が2パターンであるのもウンザリする。
ヒーロー、もしくはヒロインをどれだけ格好良く描けるかに重点を置いており、
その結果、結末や話の流れが『3巻』の段階で既視感がある。
というか本書は『1巻』で全てを描き切っているような気がする。
『1巻』の内容に少々アレンジを加えた構成の話が続くばかり。

まずは主人公の光(ひかり)が、終生のライバル・滝島(たきしま)に勝負を挑み、
負けた方が勝った方の言うことを聞く、という勝負に負け、
罰ゲームが実行されるまでが一連の流れのヒーロー最強回。

もしくは、光が第三者に不当な扱いを受けても屈することなく、
逆に光の優しさが相手に改心を促す ヒロイン最強回。
(この場合、滝島は、光に気づかれない範囲でサポートに徹している)。

どちらのパターンでも滝島の行動は 常に光を最優先にしており、
そんなイケメンの姿に読者は恍惚感を覚える。
また光も 常に努力し続ける姿と、相手に発する真っ直ぐな言葉が読者の胸を打つ。

…のだろうが、ここまで主人公たち最高!という雰囲気が続くと辟易する。

白泉社らしい大人数の大騒ぎのためのSAと思いきや、結局2人きりの物語であるのが残念。
他のSAメンバーが「いらない子」と感じられるぐらいに機能していない。
小学校時代からの幼なじみメンバーなのに一体感がまるで感じられない。


頭は『2巻』から議題に上がっていた夏休みの旅行。
その行き先を賭けて勝負。
なんで似たような賭け勝負の話しか しないのだろうか。
結果が分かっている勝負を何回も見せられても困る。

けれど今回はSAメンバーが7人での競争なので少し見所がある。
それぞれのキャラも ようやく前に出てきた感じがする。

ただ光が、自分と滝島のハンデの差に何の疑問も持たないことが変だ。
このハンデは考案した明(あきら)の、光と滝島の間には越えられない壁があるという客観的な意見を反映してのことだろう。
だが どんな勝負でも滝島に勝ちたいのなら、彼と自分のハンデは同等でなくてはいけないのに、
そこに疑問を持つことなく勝負が始まっていく。
滝島へのライバル意識は物語の今巻なのに、細かい配慮がないのがモヤモヤするなぁ。
この回はヒーロー最強回ですね。

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性差や体力差 関係なく正々堂々の勝負を好む光が、こんなハンデの差を許容するとは思えないんだけど…。

休みの旅行の行き先はハワイ。
これは1話目の賭けの勝者の滝島が思考を停止して、光のためだけに選んだ行き先。

出発前に、光は『2巻』で知り合った八尋(やひろ)に
「滝島は光のこと好きだ」と言われたことを、滝島に伝えられてスッキリしている。
だが逆に滝島は、そう言われても即座に否定する光の鈍感さにストレスを溜めている。

一方で滝島のストレスが自分の鈍感だということに気づかないで、
彼の不機嫌を治すために光も尽力する。

そうして天真爛漫な精神年齢6歳児の光の無邪気な笑顔に滝島は諦念と共に安心を覚える。
先の長い戦いになりそうだ。
これはヒロイン最強回。


ワイ2日目は、影の薄い竜(りゅう)の父親の会社の大得意先の子息・千歳(ちとせ・9歳・男性)と「家族ごっこ」をすることになった7人の話。

それぞれに配役が言い渡される中、光は犬の役。
しかも千歳は光のことを貧乏人扱いする。
光はワガママを言って私立校に通わせてもらっている大工の娘の光だが、
SA組であるために、これまで学校内で差別的な扱いをされた描写はなかった。
だが、今回、学校という楽園を出て、常夏の楽園で差別される。

別荘に招かれざる客がいて、それでSAが疲弊するというのは、
『1巻』の滝島のイトコ・凪(なぎ)の回でも同じ構図だった。
なんで たった3巻の間に こんな似た話ばっかりになるのだろうか…。
(それを作者が自分で気づいていて安心したけど)

結末も凪の回と似たようなもの。
光を邪険にしていた人が、光の優しさに改心していくヒロイン最強回。

何やら滝島と明は、千歳の秘密を察したようだが、上流階級の交流は光には分かり得ない。

千歳の素性が分かるのはラストシーン。
彼の名字が伏されていたのには理由があった。
そして名前・言動や髪色など千歳のあちこちにヒントは隠されていた。

ただこうなると、凪の話に加えて、滝島の弟の話とも被るんだよなー…。


にやら滝島と明と過去の因縁がありそうな八尋(やひろ)。
滝島たちには聞きづらいことなので、光は八尋に直接 問うのだが…、という3話目。

捕らわれた光を迎えに来たのは滝島と宙。
八尋はもともと幼稚舎で彼らと一緒だったが、学園側から追放されたらしい。

そして八尋と滝島の会話から、八尋の行動は全て明が自分に会いにくるよう仕組んだことであると判明する。
光は滝島ではなく、明を誘う取引材料であった。

一方で光は、八尋が誰に固執しているのかを自力で解き明かす。
光は自分のこと以外には明晰なようだ。

そして自分に出来ることを自分で出来る範囲でやる、ヒロイン奮闘回となる。
自分のこととなると短絡的なのに、他人事だと適度な距離感と仁義を守るのが光という人。
6歳児の時とのギャップが魅力なのかもしれないが、2つの人格の齟齬を感じる。

こうして光は自分の味方を増やしていくものと思われる。
ヒロインの行動は必ず新キャラの心を打つらしい。

滝島は八尋と直接対決で負けるようなことはないだろうが、
八尋が光を操って、恋愛のあれこれを色々吹き込むことには毎回、振り回されてしまうのは面白い。
ハワイ回は3泊ほどで終了。


学期。
『1巻』1話に登場した学年8位の男子生徒がSAに挑戦状を叩きつける。
それを受けたのは光だが、勝負をするのは竜という訳の分からない構図。

毎度のことながら、光が挑発されて、面倒事が巻き起こる展開に辟易。
彼女の沸点は低すぎる。
今回の相手はそれを含めて光に勝負を挑んだみたい。
れでいて競争相手は別の人を指名するというのも変な話。

光は物語の始まりとして作品としては便利な存在なんだろうけど、段々その行動に苛立ってくる。
今回は光がどうしようも出来なくなったことを滝島が守るヒーロー最強回ですね。

SA内の最下位である竜も、一般生徒とは雲泥の差があることを思い知らせて終わる。
どこまでもSAという特別な人たちを装飾したいみたい。

そして今回もテストで勝負をして、光が滝島に負けて言うことを聞くいつものパターンに続く。


けの内容、光の一日を滝島に捧げる、が実行される前に、
滝島が海外に行ってくれたお陰で、宙(ただし)の個人回が始まる。
『3巻』の最終話にして ようやくSAメンバーの個人回となりました。

宙が光に頼んだのは彼女役。
彼は母親である理事長が言った言葉を回避するために、光を利用する。

宙は こんな命知らずの お願いを光に出来たのは滝島が海外にいるからか。
滝島が日本に居たら、即刻 息の根を止められていたことでしょう(笑)
有能すぎて海外の仕事をすることで、先に光の一日が宙に奪われてしまうというのが皮肉。

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鬼の居ぬ間に偽装交際。話にバリエーションが無いのは最強である滝島が原因だろう…。

ただ、この回の光の行動も6歳児らしくなくて違和感ばかり。
まず、宙を助けるためとはいっても嘘に加担するのも光が嫌いそうなこと。
そして母親に宙の彼女であることを証明しろと言われ、自分からキスをしようとするのも、
6歳児だから逆に簡単にしようとするのかもしれないが、
ここまで無知なヒロインの姿は誰も望んでいないだろう。

光が正論を振りかざさないので、ヒーロー・ヒロイン最強回のどちらにも当てはまらない。
個人回が作品のマンネリを救うかもしれない。

だが、光を鈍感でいさせることが物語の延命方法なんだろうけど、
その匙加減を間違えると、読者の共感を奪いかねない諸刃の刃である。
私は早くも、光のことが嫌いになりかけている。

その中では宙の存在が、光の中で滝島の特別性を浮き上がらせる、という点は面白かった。

宙の嘘は母親に全てバレており、それが後の災厄に繋がる。
滝島の方も一呼吸おいて、光の一日を貰い受けることになる。

長編化にあたって、話の繋ぎ方はとてもスムーズ。
あとは話のクオリティが上がってくれたり、バリエーションが増えてくれるといいのだが…。