《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

精神年齢6歳児のヒロインには三角関係は理解できないので 成立する前に消滅させる。

S・A(スペシャル・エー) 16 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ まき)
S・A(スペシャル・エー)
第16巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★★(4点)
 

彗のために庵に近付かないと誓った光。しかしなりゆきで庵がテストで1位を取ったら望みをひとつ叶えると約束してしまうのだが…!? 光は彗を喜ばそうとこっそりプロポーズするも、それが予期せぬ大騒動に発展してしまい!?

簡潔完結感想文

  • 恋愛クライマックス。当て馬で浮かび上がるのは交際が成熟してないこと。
  • 純粋無垢なヒロインを守るために、男性同士が暗闘し、そして無言で退却。
  • ボスキャラかと思われた じーさんが気の弱い中高年に豹変。盛り上がらない!

負 勝負という割には、八百長試合しかやらない 16巻。

本書の特徴は何といっても勝負であろう。
俺が一位になったら××して下さいね、というのがヒーロー・滝島(たきしま)の常套手段。
万年 二位のヒロイン・光(ひかり)も勝負や賭けが大好きで、
その特性を知った者たちに 良い様に行動を操られる(後半はアホらしく思う)。

しかし本書で行われる勝負は全てが健全で綺麗なものばかり。
血で血を洗う抗争や、敗者の涙などなく、全てが後腐れないように操作されている。

特に作品と作者は光を汚さない。
そもそもがヒーロー・滝島が あらゆる穢れから彼女を守ろうとするし、
そして作者も、光を純粋無垢な人間として存在できるように周辺環境を整えてしまう。

その結果 何が起きるか。
それは作品内に悲しむ人がいない理想の世界が出来上がる。

…が、それはよくあるディストピアの始まりでもある。
まるで あらかじめ決められた人としか恋が出来ないような不自由な世界が そこに生まれた。

滝島や光に好意を抱いた者たちは、
その好意を伝える手段を奪われ、黙って物語から退場を余儀なくされる。
そして滝島や光、特に光は、誰かが自分に好意を抱いたことすら認識しないまま、
想いが伝わらない悲しみを理解することなく、生温い世界で生き続ける。

それが本書から人間ドラマの深みを奪っていく。
光は いつまで経っても6歳児程度の悩みしか抱えない。

終盤に、今更ながら用意した三角関係も、光は感知することなく消失していく。
こうやって光を「箱入り娘」として育てた結果、薄っぺらい楽園が出来上がっていった。
最初は 学園のトップのSAが使う快適な温室の世界を楽しんでいた読者たちも、
やがて一年中 一定の温度のこの世界を物足りなく感じるだろう。

中盤以降、世界をもっと拡張できたら本書の評価も今より上がっていただろう。
どうやったら世界が広がるか、作品をより良く出来るか考えるべきだった。
しかし最後のチャンスとなった三角関係でも、結局 同じことを繰り返した作者。
これだけ連載が続いた この時期に目覚ましい成長を感じられず残念である。


角関係の一角を担う常盤(ときわ)が in したり out したりするのも謎ですね。
脇キャラの恋愛を先に清算した『15巻』は丸々番外編で、
『16巻』になって やっと本題に戻って来た。

美容師志望の常盤にヘアアレンジコンテストのモデルを頼まれる光。

光は、彼女の常盤への接近を快く思わない滝島の嫉妬の意味を理解していないし、
そして常盤からの好意も理解していない。
精神年齢6歳児は最後まで、このキャラを通すらしい。
もう諦めたけど、天然キャラも いい加減にしろよ、と思う。
光を最後まで成長させなかったのは悪手だと思う。

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もう そのキャラは キツイって…。滝島を通じて恋を知った後なのだから 変化が欲しかった。

女性は純粋無垢で、その無自覚の裏で 男性同士は熱い火花を燃やすというのが女性読者を喜ばすのだろうけど、
じゃあ、なぜ ここにきて三角関係を持ち出したのか、という意義すらも失わせる。

そして この回は光がずっと登場しているが、未だに顔が安定しない。
メイクした光が いつもより見劣りするって どういうことよ⁉
新人作家さんを読む楽しみは、色々な殻を破っていくところを見られる点なのに、作者に関しては…。


盤は滝島から一位の座を奪って、光に自分の望みを叶えてもらおうとする。
なぜ本書は順位でしか物事を決められないのか。

光だって勿論 負ける気はないのだろうけど、
こうなってくると光が、ただ強い男が好き、ランク付けに屈服する人物になってしまう。
光に人の内面を見て 評価する能力があるのかすら怪しい。

そして光は、相変わらず明後日の方向に努力を続けるし、
滝島はそんな彼女の問題を知りながら、光とはコミュニケーションを取らない。
2人にそもそも、2人で手を取り合って生きていく気がないから交際も無意味になる。
本書としては通常営業なのだが、最後の恋愛問題まで一切の成長や成熟が見られない展開で悲しい。
ずっと同じことを繰り返す光と滝島にも、そして成長を描けない作者にも怒りが込み上げてくる。


コンテストでは審査委員として滝島が社長代理として参加していた。
そのことで周囲の参加者は、コネを使うことを揶揄するが、
滝島が それを言下に否定し、常盤の実力を認める発言をする。
そのことが常盤に滝島という人物をしるキッカケとなったのだろう。
でも滝島ってアート方面の審美眼があるようには見えないが。

いつからか滝島の親友ポジション、恋の相談役に竜(りゅう)が収まっている。
竜って、中盤以降にめきめきと便利キャラになっていきましたね。
SAの中で最初の頃に比べて人格が成長したと感じるのは竜ぐらいじゃないでしょうか。


を巡る男たちは勝負をする。
コンテストの日に光が常盤のもとに来るか、来ないか。

だが滝島は その勝負で光の自由を縛ることが彼女を苦しめることだと分かり、
彼女に行動の自由を許す。
この辺は『14巻』で常盤に近づくなと言えなかったのと同じ展開だ。
2人はそれぞれ、相手を縛ることをしたくないから、直接的な願望を言わない。
作者が2人の関係を描く時に、ここぞとばかりに出す手法だが2人合わせて通算4回目ぐらいなので見飽きた。
そんなことより、2人がしっかりと話し合う様子を描いて欲しかった。

滝島の行動に彼の愛の大きさを見た常盤は静かに身を引く。
アリサといい、滝島・光に好意を持つ人は告白する前に身を引くのが運命なのか。
これも本書の宝である光の世界を守るための脇役の悲哀であろう。

しかし終盤で波乱を起こそうとして、何も起こさないのは肩透かしだった。
次の話に上手に繋がる訳でもなく、常盤の登場は意味のないターンだったと言い切れてしまう。

唯一、興味があるとすれば常盤の登場でSAから脱落者が出るかどうかだけ。
まぁ 何だかんだ理由をつけて何も起きないんでしょうね。
もう期待するを放棄しました。


うして光は自覚しないまま三角関係が終了したら、
なぜだか婚約という流れになり、そして その先に滝島の祖父が待ち受けていた。

自分で言い出したことだが、正式な婚約として話が進み戸惑う光。
遂には各界のトップが集まるパーティーとなりTVで全国中継されるという。
(一介の高校生の婚約を誰がみるというのだ…)

後悔を見せ始めるバカな光を察して、滝島がフォローを入れる という いつものパターン。
6歳児にはちゃんと謝らせるとか間違いを認めさせた方がいいと思うが、
こうやって滝島は光の成長すら止めてしまう。


婚約騒動が終息したと思いきや、滝島の祖父が反対を表明しにわざわざ やってきた。
だが今回は文句だけ言って、アッサリと引き下がる祖父。

その頃、滝島の母親の誕生日が近く、彼女が帰国する。
滝島の母親は折り合いの悪いらしい祖父にも一応、
用意できる訳ないプレゼントをリクエストして挑戦状を叩きつけていた。

まったく、こういう人を試すことでしか人の価値を証明できない血族ですね。


こで光は、以前 滝島の祖父から貰っていた電話番号を使い、
彼とデートすることで、祖父からすれば娘のプレゼントの購入を進めさせる計画を立てた。
いかにもヒロイン特有のお節介ですね。

しかし滝島母の要求は、単独行動では誰も証明できないものもあるが、祖父の律義さを見越してのことだろうか。

ここで祖父が光の言うことを聞くのは、光に貸しがあるからだろう。
勝負や賭けでしか人を動かすことが出来ない滝島一族。
逆に、人に動かされるのも勝負や賭け。
冷たい世界で生きている一族だなぁ…。

だが全てを達成した後、祖父は、これが光が自分に恩を売るための茶番だと言い出す。
そうして自分を籠絡しようという光に敵意を剥き出しにしてきた。

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少女漫画ヒロインの お節介は必ず人の心を動かす。ラスボスも戦わずして懐柔されて盛り上がらない。

が、光が どこまでも純真無垢な6歳児であることを祖父は知り、彼女の評価を改める。
そして そんな光を陰から見つめているのは滝島だった。

滝島は祖父と直接話すが、祖父は 今日の行動によって
一層 光に対しての警戒を増してしまったらしい。
どうやら滝島の母と祖父の間に確執があるらしいが…。


光、そして滝島も、各々プレゼントを時間を割いて用意して当日を迎える。
当日、光の用意した通りの格好で会場に現れる祖父。

だが そんな祖父に滝島の母は反発する。
その反発を収めるキッカケになりそうなのが、滝島が用意したプレゼント。
ここは光と滝島が珍しく同じ目的に向かって動いている。
反発や競争だけじゃなくて、こうやって2人で何かを生み出すシーンをもっと見たかった。
作品には まだまだ無限の可能性はあったはずなのに、同じことを繰り返すばかりの内容でバリエーションに欠けた。


しかもボスキャラだったはずの祖父が いつの間にかに弱気な中高年の男性になっていて、
以前からの滝島を屈服させるような圧倒的な力関係も なくなっている。
今までは何だったんだと思わざるを得ない。

祖父といい、常盤といい
盛り上げなければならない場面で、作者が自分から その機先を制するような行動に出るのが残念である。
思い返せば物語を上手くコントロールできていないのか、
キスも告白も両想いも、ここぞ という場面ではない時に済ませる傾向がある。
中盤と終盤に、読者を巻きこむような波を作り出せたら良かったと思う。