《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

SAを脅かす存在なのに、物語に必要なくなると海外に追放される最強ライバルの悲哀。

S・A(スペシャル・エー) 17 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ まき)
S・A(スペシャル・エー)
第17巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

テスト期間が終了し、夏のレクリエーションに向けて団結を高めるS・Aメンバー。ところが、父の仕事の都合で九州へ転校することになってしまった光は、彗やみんなにそのことを言えずに──!? 本当に光は行ってしまうのか!? 大人気ラブコメ、ついに感動の最終巻!!

簡潔完結感想文

  • ヒーロー(の祖父)のトラウマを解消するクライマックス。雪解けは突然に。
  • いきなりの転校危機の最終回。連載当初から恋の大一番の勝敗は決めていた。
  • えっ、お前が転校するのかよ⁉ SAを永遠にするため邪魔者は徹底的に排除。

題の処理の仕方が雑に感じる 最終17巻。

なかなか良い最終巻&最終回だった。
そう思う一方で、キャラや作者の成長を感じられない内容だった。
そして全ての問題が唐突に終わった/始まった感じが否めない。

あれだけラスボスとして序盤から存在感を示していた滝島(たきしま)の祖父は、
いつのまにか滝島の手のひらで言うことを聞いて、雑魚キャラと化していた。
祖父はあれだけの権力者だったのに、いつの間にか滝島の方が強くなっているのが よく分からない。

結末には何の文句はない。
けれど何巻も引っ張った過程に見合うような盛り上がりがないのが残念。
クライマックス中のクライマックスなんだから、もっと大仰に演出して話を盛り上げればいいのに。
作者は常に冷静でいようとするところがある。
今回も、キスも告白も、もっと派手な演出で良かったのにと思わずにはいられない。

そして最終回も良い話なんだけど、全てに納得がいくような流れではない。
何よりも ここにきて光の転校という分かりやすい別離を持ってきたのは安直さを感じる。

転校を巡る問題は、随分前から作者が用意していた最終回の内容なのではないか。
その前の流れと繋がりを感じられず、いつでも残り4回で幕を下ろせる準備をしていたような気がする。
作者が用意したものは悪くはないのだが、もっともっと作品の集大成を見せて欲しかった。
最終回まで手垢のついた いつも通りの話の流れで特別感が まるでない。

そもそも転校という内容が本書に そぐわない。
漫画における転校や卒業は その前にどれだけ思い出を詰め込めたかが感動の鍵になるが、学校の思い出自体が無いのだ。

本書では学校を舞台にした話の方が圧倒的に少ない。
休暇の度に学校外、しかも複数回は海外で集合しているんだから、
同じ学校にいなくても結構な確率で会える気がしてしまう。

光とSAとの別れも、彼らの仲が深まったり青春のきらめきを感じる場面が少なかったので あまり胸に迫らない。
何しろ、その前の話でSAがそれぞれ別の道に進み始めて、一致団結することが減ったという話なんだもの。

なぜ本書の内容と一番 相性の悪い転校問題を最後に持ち出したことに不満が残る。


して最も不満が残るのは常盤(ときわ)の扱い。
成績などを総合した上位7人だけがなれるSA。
そこに既存のメンバー以外で最も近づいた男性が常盤だった

彼は二位の光(ひかり)を超え、あの滝島と同率一位になった存在で、
これによってSAの中から1人追放されるのが決定的になっていた。

もしかしたら光の転校騒動は、光が犠牲になることで他のSAメンバーの脱落を防げるという意味もあったかもしれない。
SAの下位メンバーを救うには誰かがいなくならなくてはならない。
だが作品が選んだ人間は、常盤。
美容師の夢を進む彼がロンドンへと留学することで、SAの既得権は全て守られた。

私は ここに憤慨した。
常盤に関する扱いは何もかも酷い。

確かに『16巻』で彼が出場したコンテストの「優勝者にはロンドンのサロンでの研修費が出される」とある。
が、2年生になって転校してきた彼が美容師になるには、
この学校で一位をとる条件が親から出されていたはず。

だが彼が一位になった描写があるのは一学期の中間考査だけ。
てっきりSAメンバーが決定する年度末の順位で一位になるのが目標なのかと思っていのに。
この学校で1回でも同率とはいえ一位になったから、親から許可が出たということなのか。
説明不足すぎて、読者が補完するしかない。

大病院の次男、急な転校、一人暮らし、病弱な妹とか設定だけ出した割に、
常盤が本当にSAを脅かす存在になった途端、雑に解決している。

何より光を巡る滝島との三角関係も成立する前に消滅させられてしまった。
全てにおいて常盤を使って作者は何を描こうとしたのかが分からない。

ハッキリ言って常盤は いなくてもいい人ですよね。
常盤が出てくる話は読まなくても全く問題がない。
これは渡辺あゆ さん『L♥DK』の玲苑(れおん)編を想起させる。

物語に召喚しても、一定の役割を終えたら、作者の都合で物語から出て行ってもらう、
いかにも白泉社の追加キャラといった悲運を常盤には感じる。


女漫画のクライマックスは、ヒーロー側のトラウマの解消が定番ですが、
本書の場合は、ヒーロー・滝島の母と祖父のトラウマの解消となる。

2人の交際(その後の結婚も含め)を反対しているのが祖父なので、
この父娘喧嘩を収めることが、2人の未来にも繋がるという算段だろう。

どうやら事の起こったのは当時 父娘が住んでいたオーストラリアらしい。
滝島は父娘2人を彼の地に同行させようとするが、母が拒否。

行くのを渋る祖父には光が賭けをすることで動かす。
「オーストラリアへ行って(祖父の)気持ちが変わらなかったら すっぱり滝島から離れてやる」

またも賭けで人を誘導してますね…。
なんだよ「離れてやる」って。どこから目線の言葉なのか。
本書のデフォルトの構成なんだろうけど、最後まで良い気分になれない仕組みだ。

ただし ここでの光の行動は滝島を心から信頼しているこそ、自分が一番 望まないことでもベットできるのだろう。
(別れを賭けの対象にする行為がやっぱりダメだと思うが)。

そんな光の態度を見て、祖父は娘と同行することを決める。

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ビッグディールを成立させるには自分に不利な条件でも提示し、相手に こちらの要求を呑ませるのがコツ。

島が提案するのは、オーストラリアにある祖母の墓参り。
だが、それは祖父の、妻の死に関するトラウマを引き起こすものだった。
狼狽する祖父だが滝島は気にせず目的地に向かう。

お墓には最期に妻が夫へ向けたメッセージが込められており、それを見た祖父の中から妻への悔恨は消えていく。
墓に隠されたストーリーを知った娘は父を許し、そして祖父も光を認める。

…呆気ない。
これだけ長期間 引っ張った話なのに、あっさりと氷解した。
お話としては良い話で、矛盾はない。
だが読者が望むぐらいのドラマ性には足りないと言わざるを得ない。

墓の秘密や祖父の遺言はオーストラリアの高齢の男性執事が全てを知っていて、
滝島が問い合わせると簡単に答えを教えてくれたみたいだが、
なぜ彼が父娘の諍いを知りながら黙っていたのかが謎です。
祖母の願いを遺志を知っている彼が早めに仲介すれば無駄な時間は流れなかったのではないか。


きなイベントとイベントを結ぶ中休み回は明(あきら)の話。

今回は明がグレる話。
これはSAが料理担当の明の気持ちを考えないことから端を発しているが、
もっといえば、SAがそれぞれの道に進み始めていることへの寂しさからグレていた。
著しい変化のあるSAをどう受け止めるか。
SAの絆が再発見される回となる。

が、SAは もうこの時点で形骸化していると言える。
次の話での光は、それを必死で守らなくてもいいような気がするが…。


して最終話へと繋がる最後の話。
それが光の転校危機。

大工の父に引っ越しというのも唐突だし、
光はともかく、3年生の兄は進路など今から考えなければならないことが多くて、
彼の方が答えを保留しそうな気がするが、兄は ついていくと即答する。
そうやって家族思いの光から拒否権を奪う空気を作り出しているんだろうけど不自然である。

なぜ唐突に転校かといえば、考えられるのは、滝島のロンドン転校事件との対称性でしょう。
あの時、光が滝島を失う恐怖を感じたように、今度は滝島側が味わう番なのだろう。
だが、同じにしたのなら あの時の光の経験を活かすべきだった。

家族と一緒に転校することを自分で決めた光だが、周囲に気を遣ってSA内で言い出せない。
光って大事なことは言わないウジウジした性格してますよね。
他人に対しては お節介で遠慮がないのに、自分のことだけは未だに成長がない。
またしても滝島を困らせてから、滝島に光からの別れによる愛を失う恐怖を味わわせてから正直に話す。

光もロンドン行きの件を思い出して、
「隠される方がキツイって分かってた筈なのに」と思うぐらいなら、
どんなことでも隠し事をしないという2人の関係の成長を見せて欲しかった。
本当に色々な意味で進歩のない漫画ですよね。
ここまでの16巻の間に恋愛・友情面で何を育んできたのだろうかと虚しさすら感じる。

最終回まで、いつも通りのテンプレ展開で本当に作者の引き出しの無さが露わになった。
光の心配よりも、まず また こんな話かという方向に怒りが湧く。
こういうディスコミュニケーションで、滝島に余計な心配をかける描写を最後まで描いても しょうがないだろうに。

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最終回付近まで光が成長しない描写があることに疑問が生じる。しかも既視感満載の展開だし。

の学校最後のイベントとなるかもしれないのが「SAの文化祭」。
滝島はある計画をもって、この夏のレクリエーションの準備を始める。

本番当日は、東京ドーム並みのテントに、本来7着しか存在しないはずのSA専用制服を何千着と用意する。
どこから金が出ているのかとか、他校生から入場料は取るのかとか色々と疑問が出てくるが考えてはいけない。
それが白泉社読者の姿勢だろう。

全員SAの制服というのは、その後の展開に必要なんだろうけど、
これは最終回ぐらい作品内の特権階級制度を廃止して、全ての世界が一つに繋がるってことでもあるのかな。
まぁ SAなんて制度のお陰で本書の世界は いつまでも狭いままだったとも言えるが…。


テントの中はSAメンバー各人のブースになっており、それぞれ出し物が用意されている。

光は各ブースで次の行き先を指示されたらい回しになる。
行く先々で これまで登場したキャラたちとの同窓会となり、そして別れの挨拶となる。
(結構 重要なキャラだった蒼(あおい)の扱いが、1回きりのキャラと同じぐらいなのが可哀想)

自分のブースに戻った光を待っていたのはSAからの挑戦状。

そこで腕相撲勝負を申し込まれ、
「俺達と戦って俺達が勝ったら転校は考え直して」、
「俺達が負けたら気持ちよく光を送り出す」という 最後まで賭けが言い渡される。

最後まで勝負を徹底して統一するのは悪くない展開です。

この対戦の順番は、光に負けそうな順なのか、思い出の薄い順なのかSAの順位とは違う並び順である。
芽(めぐみ)や純(じゅん)の光との思い出は本当に薄い。
17巻やってきて思い出が それかよ、という感じ。

続いて竜(りゅう)・宙(ただし)と続く。
この2人からは ちゃんと思い入れを感じる。

そして明(あきら)は もちろん心から悲しんでいる。
普段は泣かない明の涙はグッときますね。
というか、本書は女性の落涙率が他の少女漫画と比較しても かなり低いと思われる。

そして滝島。
彼との最後の勝負が行く末を決める。
最終バトルは腕相撲ではなく、滝島が光に似せた1000人の女性の中から本物を見つけ出すというもの。

勝負の途中で、SAや八尋は、この勝負で光の行動を縛ることは出来ないと話している。
これは「餞別みたいなモン」らしい。
最後ぐらい、賭けで人の行動を縛ったり、強制するのではなく、楽しんで滝島と勝負して欲しいという願いを込めたイベントか。

光の父親もまた、自分が口を挿めば光はその通りに行動するだろうが、
「光が決めたことには口を出さねえ」という姿勢を見せる。
といっても光は流されるままに、家族の空気を読んだだけで、きっちりと決断したとは思えないが。


島は光を探しながら、これまでの光との思い出を走馬灯のように思い出していた。

その中で滝島が光に恋に落ちた瞬間が語られる。
これは これまで1コマだけ挿入されていた場面だが、きちんと語られるのは初めて(のはず)。

最後の最後に この場面を持っていくのは良いですね。

そして滝島側の気持ちの表明も素晴らしい。
ずっと勝てない光に どうして滝島は関わり続けるのか。
それは勝負ではない、勝負の外での光への好意であり敬意であったのか。

恋愛は惚れた方が負けというのは以前 光が信念としていたことだが、
その意味では10年以上も前から滝島は負けていたのだ。
そして滝島は永遠に負け続けるのだろう。
滝島からしてみれば勝負に勝って試合に負ける、といった感じだろうか。
光は、滝島の中で永遠に一位に君臨している。


この勝負は、文化祭の企画の一つなんだろうけど、
結局、主催者側のSAが招待客を無視して内輪で盛り上がっているだけに見えてしまうのが残念。
本書は最後までSAを礼賛するための舞台でしかないように思えてしまう。

やはり『ホスト部』と違って、SAには真のホスピタリティなど持ち合わせていない。
このイベント、この学校 楽しいそう、とはあまり思えない。
そこが転校騒動の冷めた目にも繋がっていく。


『14巻』で2年生になったばかりなのに、あっという間に2年生が終わる。
3年生に突入しなかったのは、進路の問題などが出てきて、
学校生活が純粋に楽しめなくなってしあうからだろう。
3年生以降を描いて失敗した作品、いっぱいありますもんね…。

常盤は上記の通り。
出る杭は打たれる、でSA外の生徒なのに目立ったから追放。

フィンは女性として生きることを親から許されたらしい。
生まれたであろう弟がいるとはいえ、弟がもう少し大きくなるまで秘密にしていた方が国のためだと思うが…。

そういえば芽は覚醒したが、純のバイオリンは音波攻撃のままなのか。
17歳でまともに楽器が弾けない人が音楽家になれる気がしない。
純の将来が一番心配だ。

滝島と光は仲良く勝負中。
結局、光は精神年齢6歳児から何の成長もしないまま(させてもらえないまま)でしたね。

先輩後輩を無視した実力主義の中にいるとはいえ、
こんな感じでは人間関係で やがて摩擦を起こすと思われる。

小学校からの一貫校で、モラトリアムの温室の中で育った悪い見本みたいだ…。
何か 最後にすごい悪口で終わっているけど、許してね。