南 マキ(みなみ まき)
S・A(スペシャル・エー)
第11巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
ついに日本へやって来た彗の祖父と光の直接対決!! 一方的に告げられた彗のロンドン行きに納得できない光は再び祖父に会うことに—。両想いの光と彗にトラブル発生!! 彗と2人で歩く美女とは一体!? 読切「食の都」も収録!!
簡潔完結感想文
- オーストラリアでデート&勝負後にラスボス出現。2人の会話はどちらも不快。
- 恋する乙女たちは占いに頼る。努力して獲得した石でもないのに渡す厚顔無恥。
- ラスボス対策に2人はそれぞれ東奔西走。光は単独じゃ何もできないのだろうか。
恋する乙女たちの間違った行動が続く 11巻。
『11巻』中盤からの3編は、
ヒロインの光(ひかり)、明(あきら)、芽(めぐみ)のSA3人娘の恋愛の努力が描かれている。
1.好きな人に飽きられないための自己改革、
2.ヤキモチを妬かせたいための茶番、
3.大切な人に貴重な物を贈るための計画と三人三様の(間違った)努力である。
1は光の話で、これは交際直後に光がやったことの再放送に近い。
1つ前の『10巻』でやったことを もう繰り返すとはネタ切れが深刻なのかと心配になる。
もしかしたら大いなるマンネリの後の急転直下のラストシーンを狙ったのかもしれない。
確かに滝島ほどの頭脳があれば、光のような女性を騙すのは簡単でしょう。
一途な男だと思われたヒーローが実は二股男だったとしたら、作品の中も外も阿鼻叫喚だろう。
2は明の話で、この中では一番 乙女心を感じる内容。
大まかな流れは最初から察せられる展開である。
ただ、ヤキモチを妬かせたい宙(ただし)が ちゃんとヒーローになっているのが珍しい。
宙は この作戦における細かい違和感をしっかり観察しているし、
人間的な器の大きさを感じる。
そして問題は3である。
これは どう読めばいいのか謎の一編。
続けて読んでいると、作者のキャラの動かし方に疑問が出ることがあるのですが、今回は その中でも最大かもしれない疑問がある。
それが芽の性格の悪さである。
この話、「幸せ石」を見つけるカウントダウンイベントに参加しようと芽が光を誘うことから始まる。
なんでも その石を持っていると願いが叶うと巷で有名らしい。
普段の光なら、そんなスピリチュアルな石よりも現実の努力をしろ、といいそうだが、
明の時と同じく、芽も光を頼って話を持ち掛け、単純な光は頼られたことに嬉しくなり芽の手足となって動くことになる。
どうしても恋する乙女たちは願を掛けたいのだろう。
占いでもスピ石だろうがなんだろうが、自分の幸福な状況を作り出したいのだ。
だが問題は、意思を巡って体力勝負、時には暴力事件にまで発展しそうな このイベントに、
芽が積極的に参加する意思がないということだ。
彼女が欲しいのはスピ石。
その結果だけ。
自分の力で石をゲットする気は最初からない。
光は便利に使われているだけで、そこに友情など無い。
芽にとって大事なのは無限の体力を持つゴリラ女という光の特性だけ。
ここが大変、気に食わない。
このイベントには、いつものSA+桜(さくら)と八尋(やひろ)もイベントに参加していた。
八尋こそが、芽が石を渡したい想い人である。
そして いつも通り、滝島が光の行動を先回りし、今回はライバルが多数いるから共同戦線となる。
賭けや戦いの中でしか生き生きとできない彼らは少年漫画の登場人物のようである。
滝島級に強い八尋も石をゲットして、願いを込めて芽に渡す。
そこへ光が獲得した石が芽の元に届き、
「いつか八尋が大切にしたいと思った子にあげてね」と八尋に渡す。
ここで自分の願いを願わないのがギリギリセーフだが、
やっぱり芽は何もしていない。
途中で芽が持っている唯一の武力(歌)を行使しようと思ったが、それは八尋に制止された。
他者の幸せを願ったり、自分でも動こうとする意思を見せたことが芽の強さの表れとしたのかもしれないが、
それでも やっぱり光を便利に利用するために口だけの友情で丸め込んだようにしか見えない。
私には とてもじゃないけど この話を良い話だとは思えない。
芽の株が下がっただけ。
ここは是非 八尋に「これは君が努力して獲得した物かい?」と、
スピ石を芽に付き返して欲しかったところ。
良い話風にまとめようとして大失敗してはいないだろうか。
上述の通り、本書は よくよく考えると筋の通らない話が多いのが気になる。
こういう点も作品に対してモヤモヤが残る点になっていく。
そして男性に対して女性の強さを描けていないのも気になる。
女性は占いに頼るほど弱く、男性はいつも彼女たちを先回りして守るという役割が固定化している。
少女漫画だからある程度仕方ないが、
逆ハーレム状態ではなくて、男女がほぼ同数のSAならではの、
女性が格好いい話も盛り込んでも良かったのではないか。
冒頭はオーストラリアでのマラソン対決。
滝島は光を祖父の手から守るために心を砕き、
光は滝島が剣呑な雰囲気を出していることを察して、いつも通りに振る舞う。
こういう関係性が2人の交際の形になっていくのでしょうか。
また祖父という共通の敵が登場して、2人の結束が強まるのだろうか。
だが、滝島の思惑とは裏腹に、滝島の祖父が光を標的にして動き出す。
滝島の祖父が顔出しで登場。
どうやら祖父は全力をもって滝島を春にロンドンで学ばせることにしたらしい。
これはタイムリミットが春ということなんでしょうか。
『11巻』内では年が明けている。
残された時間は3ヶ月ほどとなってしまうのか…。
それにしても高慢な祖父と、敬語を知らない6歳児の会話は聞くに堪えない。
作者の中で光は江戸っ子っぽいつもりなんでしょうが、
私が滝島の祖父なら、年長の人に向かって「ちゃんと説明しやがれ!!」というその一点だけでも光を好きにならない。
祖父に会わないように、と滝島に言われたから、祖父とのことは全て秘密。
だが あちらから会ってきたのなら、滝島に相談してことに対処すればいいのに。
光の言われたことを表面的にしか理解しない感じが好きではない。
広い意味でこれも鈍感設定なんだろうけど、要は頭が良くない。
滝島に代わって八尋が登場するのは、光1人だと何もできないからだろう。
精神年齢は6歳、社会的コネも全くない。
猪突猛進しか出来ないから、そんな人にはお守りが必要とばかりに八尋が顔を出す。
つくづく女性を無能に描き過ぎている気がしてならない。
この話は光が祖父と再会する過程や、祖父の来日理由が分かる流れが雑ですね。
いきなり祖父が錯乱してビックリした。
接点が無さすぎる2人の接点を無理矢理作ったのだろう。
祖父に隙を見せ、借りを作るためとはいえ、変なタイミングである。
ここで八尋が光に関わるのは、光が明にとって大事な人だから。
八尋に明に対する未練があるとは思わないが、
三つ子の魂百まで、身に付いた習性はなかなか抜けないのだろう。
きっと八尋は明が幸せに暮らせるように動き続けるに違いない。
光は祖父を通じて滝島の行動を変更することを嫌がる。
直接的な要望を通すことなく、祖父の考えを転向させるのが光の最終目標らしい。
光のことだから何かを計画したりはしないだろう。
これからも祖父と直接的な対話の中で、ヒロインの能力を発揮して、
彼の頑なな心を溶かしていくと思われる。
光と祖父の交流が続くため、作品の巻数が まだ必要となるみたい。
一方で、滝島が祖父への対抗策を考えているっぽい描写がある。
こちらはヒーローの能力を発揮して、浮気をしているみたいだが…。
「食の都」…
美味しいものを食べる時に野生が剥き出しになる都(みやこ)。
そんな彼女の姿を認めてくれたのは街の洋食店の拓海(たくみ)シェフだった。
作者自身も恋愛描写よりも食に興味があるような気がするから、
登場人物たちが生き生きしているように見える。
喜ばせたくて間違えてしまうこと、
仲直りの方法、そして何を食べるかに意味があるというラストが良い。
失礼なことを言えばSAよりも本書の続編が読みたいぐらい。