《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

学校内で特別なSA組だが、その地位によって他生徒と交流できなくなりSAは孤立する。

S・A(スペシャル・エー) 4 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ まき)
S・A(スペシャル・エー)
第04巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

宙と光のデートを知って、逆上した彗に拉致された光だが、彗が突然の高熱でダウン! 光が看病することになり、二人の仲は急接近!? 一方、宙の母親=理事長からの命令で、普通の高校に3日間通うことになったSAメンバーは…。

簡潔完結感想文

  • 滝島 倒れる。告白よりも両想いよりも、更には相手が恋心に気づく前にキス。
  • 庶民の学校に3日間の短期留学。あれ、これ別の白泉社漫画の『4巻』で見た。
  • 大企業の子息あるある。高校生にしてお見合い。新キャラは誰かの「つがい」。

1日デート権を邪魔され続ける 4巻。

私が本書を楽しめない理由が、本書には学園生活がない、という点である。

まず『1巻』の感想で書いた通り、
1話の時点で登場人物の関係性が出来上がっていることが大きな欠点。
それに加えて主人公たちの「SA組」という設定が、学園内における他生徒との身分の差を作り、
それにより他生徒との交流が失われてしまっている。

作者の狙い通り、この学校において7人の特別な生徒なのだが、
同時に、彼ら7人だけが孤独な生徒となってしまった。

SAを雲の上の殿上人にしたかったのだろうが、そうしたら遊び相手もいない温室に引きこもるだけの7人になった。

これでは話は広がらないし、学校イベントもない退屈な日々が続く。
だから作中でよく出掛けて、別荘や海外に行くのだろう。
この設定の時点で、彼らが学園内で他生徒と対等な関係を作ることは放棄されてしまった。
こうして舞台は常に学園の外となる。

新キャラも学園の外にいる者だけ。
私は もっとハチャメチャな学園生活と友情と恋が読みたいのに、学校という舞台が真っ先に死んだ。

色々な価値観の人と交流し、時にぶつかったりする様子が見たいのに、
彼らは似たような人と似たような環境で過ごすだけ。

この作品には青春の匂いが、まるでしない。


分の身を守るためにウソ彼女をでっち上げるため、
偽装交際で光(ひかり)を利用した宙(ただし)。
そんな宙の暴挙から光を奪還し、以前 約束した光との一日を過ごすはずが滝島(たきしま)は倒れる。

いわゆる風邪回ですね。
これまでは光が滝島に勝つために頑張り過ぎて体調を崩していたが、今回は逆となる。

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告白する前の完全な片想いなのに、自分の思い通りにならないからストレスを溜める滝島もどうかと思う。

滝島主観で、更に彼が弱っているから色々と本音が漏れているのが面白い。
そして滝島は体調が悪いのに眠って起きたら、もう光が帰る時間になってしまうから、無理して起きている。
バカですね。
『4巻』のテーマは、男性の いじらしい努力ではないでしょうか。

いつまでも鈍感で自分にストレスを与え続ける光に対し、滝島はキスをしてストレス解消をする。
積年の恨みと、そして積年の想いを込めたキスだろう。

まさか光が恋心に気づく前に、やや あっさり目にキスイベントが終わった。
予測不可能だから当時の読者は盛り上がっただろう。
でも ちょっと唐突過ぎて、キスの無駄遣いじゃないだろうか。

キスにも精神年齢6歳児の光は大騒ぎするだけ。
よくいるヒロインのように泣いたり傷ついたりもしないかわりに、キスが恋の合図にもならない。
キスは もうちょっと効果的に使って欲しかったなぁ…。

あと、滝島に関しても光に具体的なことを言わないのに分かれ、という態度は疑問だ。
プライドが邪魔してるのでしょうか。
鈍感だなんだと、自分の思い通りにならない現実に怒る前に、自分が勇気を出すのが先ではないか。


が母親である理事長を怒らせたことで始まる、SAメンバーの他の学校への3日間の留学。
1日デート権やら宙の暴挙の結果やら『3巻』から引き継がれる展開が多い。

3巻の留学という展開に、既視感があると思ったら福山リョウコさん『モノクロ少年少女』でした。

2作品は、偶然にも同じ『4巻』で、3日間の留学をしている。
そして その学校で幼少期のトラウマが顔を出す、という所まで同じ。
しかも学校側から罰として強制的に送還させられるという理由まで同じ。

本書の『4巻』は2005年8月発売で、『モノクロ』が2010年8月なので、
真似しているとしたら『モノクロ』の方ですが。
これは5年も経過していると読者も入れ替わっているから同じネタを使ってしまおうという編集者のアイデアだったりして…。

まぁ、少女漫画の3巻で三角関係が よく始まるように、
マンネリになり始めた4巻で舞台を変えてみようという作家共通の心理なのでしょう。

そして一般の学校にSAを入れることで、読者が慣れ始めたSAメンバーの価値を再評価する意味もあるだろう。
経済的に能力的に劣る庶民の中にSAを入れて輝かせる、というのは悪趣味ではあるが。


の回は明(あきら)の個人回となる。
明と、彼女と因縁があり仲違いしている幼なじみの八尋(やひろ・男性)との過去がついに明らかになる。

でも なんで本書の題材って、過去にさかのぼるのでしょうか。
内輪の感じから脱していない。
もっと人と人が新しい関係を構築する様子が見たい。

光はマイペース、明はトラウマで、新しいクラスに馴染めない。
遂には2人に敵意が向けられる。

そうして周囲と上手く馴染めないで悪意まで向けられる明を助けるのは男性たち。

宙は攻撃的な言葉にヘコみそうな明をフォローするし、
明の過去を知る滝島が、彼女に奮起を促して、無事に他生徒との交流を果たさせる。
ここから明と宙の恋愛フラグが立ち始める。


が滝島と知り合う前、幼稚園の頃は明は滝島と八尋といつも遊んでいた。
八尋は独占欲から明の自由を奪った。
多分、本書で最大の財力と、そして明を支配しようと彼女の交友関係まで縛った。

そんな中、八尋が海外の学校でいない時に出会った女友達がいた。
だが八尋は、その子の父親の職を奪うと脅して明から その子を遠ざけようとした。
その時の涙を止めてくれたのが光。
だから、明は光を溺愛している。
そして八尋を恨んでいる。

そして今回も、その子によく似た生徒・唯(ゆい)は自分から離れて行ってしまった。
そのことに落ち込む明を元気づけてくれたのは またも宙。
宙こそ明にとって自分を助けてくれるヒーロー。

だが唯に謝ろうとした明が見たのは、唯の前に立つ八尋の姿。
その構図に過去がフラッシュバックして明は八尋に敵意を向ける。

だが八尋は常に明を悲しみから守るために動いていた。
そうして彼女が笑っていられるような環境を整えていた。
その為なら自分が誤解されて、明の怒りや憎しみを浴びても良いと思っている八尋。

良い話なのだが、自分の世界の外側の人々、
庶民や資産力に劣る人々の根性が曲がっているような描き方が気になる。
これにより また一流の人以外は入れない世界観が形成されてしまっている。


には本当のことを話さずにいる八尋に、明の不信は強まるばかり。
そのこんがらがった関係を正すのは宙。

単純明快な論理が物事を進める。
今回は宙がヒーローで、そして役割的には光と同じである。
(光は男言葉を使うので、まるで光の台詞みたいだ。顔も似てるし)

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正論で啖呵を切ると口調が似てしまうのか、光の言葉にしか思えない。

そして滝島と八尋は性格的にそっくりなことも分かる。
難儀な恋をしている。
成人していたら お互い酒を飲み交わす仲になっていたかも。

八尋は自分が明にとって影のヒーローであることを明かさない。
その分、滝島よりも辛い立場にあると言える。

この先、明が自分が常に八尋に守られていたことを理解し、
宙と八尋の2人の間で揺れ動くヒロイン的展開を期待したい。
けど、それは明が過去に友人に恵まれていなかったことを知ることでもあるから、可能性が低いか。

明回と見せかけて八尋への評価が反転する話となりました。


んな話を挿んで、ようやく滝島と光のデート回。
だが折角のデートなのに滝島の方が上の空。
恋愛以外は勘の鋭いところもある光が察すると、滝島は父親の追っ手を迎撃していた。

その理由は、お見合いを勧められたから逃亡しているかららしい。

それに対する光のリアクションは滝島が望んだようなものではなく、それも大切な縁だから行け、というもの。
だが言葉ではそういう光の手は滝島の行動を制していた…。
キスの効能もあって、少しずつ、ほんの少しずつ事態は動いている。


そこへ向こうからやってくるのは新キャラ・牛窪 桜(うしくぼ さくら)。
彼女こそ滝島の見合い相手。
そして、当然の如く他校の生徒である(八尋と同じ)。

桜は、滝島個人は気に入っていないが、家のために滝島家との結婚は受け入れている。

その桜に頼まれて、光は滝島の異性の好みを聞き出そうとする。
またも滝島のストレスを溜めるような所業である。

だが桜が とある人を見染めて事態は急転直下に収束する。
この話どころか、この巻で目立ってない人をオチに使われても、よく分からない。
もうちょっと丁寧な振りを用意しても良かったのではないか。

そして完読すると、続々と現れる新キャラは そのほとんどがSAの「つがい」でしかない。
このカップリングが作者が本書でいちばん熱を入れていることではないか。

SAメンバーに幸せになって欲しいのだろうが、一層 内輪での話となっていく…。