師走 ゆき(しわす ゆき)
高嶺と花(たかねとはな)
第13巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★☆(7点)
花の大切さに気づいた高嶺からの突然の告白―― しかし戸惑いを隠せない花は高嶺から逃走中…それぞれに思い悩む2人…。そんな中遂に、高嶺VSおかモンのバトル勃発!? 花をかけた男の戦いの行方は…? そして遂に高嶺と花のすれ違う想いに決着が…!? 恋の行方が見逃せない13巻☆
簡潔完結感想文
- 両想い、の前にライバル関係を清算する儀式。全員に祝福される環境が整う。
- 入院以来、俺様病に罹っていた高嶺が やっと自分の言葉で花に想いを伝える。
- 沖縄旅行は教師と生徒の秘密の恋愛のように他の人の目を逃れてドキドキ!
リビング中央にある階段を上がると、そこは またリビングだった、の 13巻。
ヒロイン・花(はな)たち野々村(ののむら)家が、
高嶺(たかね)と同居している この豪邸には一つの疑問があった。
それがリビングと階段の配置。
1階の野々村家のリビングの中に階段があって、
階段の上には高嶺のリビングに通じている構造に ずっと違和感があった。
でも今回やっと その訳が分かったような気がした。
そして その構造が話に影響することとなった。
この配置によって、高嶺が主に過ごすリビングは、常に外界(1階)に晒されている状況が出来る。
四方を壁に囲まれておらず、そこは部屋ではないから、
密室にならず、花と高嶺が2人でいても健全な空気が流れる仕組みになっているようだ。
そういえば高嶺が酔い潰れてしまい、
その様子を見に高嶺の寝室に花が入って様子を窺った時(『10巻』の鼻キス事件)、
珍しく花の母親が高嶺の領域である2階に上がり、寝室のドアをノックしていた。
この行動は年頃の娘が男性の「部屋」にずっと滞在していることを心配する親心だろう。
この家の2階は高嶺のテリトリーではあるが、
2階でもリビングは、野々村家にとっても共有スペースに近い感覚なのかもしれない。
勿論、両親たちが勝手に上がるようなことはしないだろうが、
リビングは娘が一人で上がっても安心できる範囲という認識と考えられる。
『12巻』収録の、黒く光る「G」との戦いも2階リビング部分での番外編で、
高嶺が深夜に花を2階に呼び出したことに疑問を感じた。
だが それもリビングでの出来事で、野々村家としては問題視するような事ではないのかも。
実際、その時は声を聞きつけた花の姉・縁(ゆかり)も無遠慮に2階に来てるし。
変な構造の家だと思ったが、
2階のリビングは家族は不介入の領域かつ、健全に2人きりになれるスペースとして用意されていた。
そして今回は この2階のリビングで、ドラマが起こる…!
序盤は前巻から続くドラマの下準備。
友人・ニコラの女性に対するアプローチ法を間違って模倣する高嶺に、
ニコラは、言葉はプレゼント、という新たな極意を伝授する(『12巻』)。
そして花も、高嶺の高校時代からの友人かつ恋のライバルである りの に甘える特訓を受ける。
お互いに素直になることが、この恋の打開策だと友人たちは考えたのだろう。
そして現在、研修医である医者の卵の りの は、花の憂鬱は「マリッジブルー」だと診断する。
これは とても良い解釈ですね。
私が少し疑問に感じていた花の頑なすぎる態度も、
決して戻ることの出来ない人生を左右する一大事に足を踏み入れる怖さがあると考えれば合点がいく。
花の悩みの内容が少し年齢が高いのではと思ったのも、結婚を意識する年代の女性の悩みという共通点があるからか。
高嶺は学校帰りのおかモンを捕まえ、
花の誘拐劇の解決のお礼として、回転寿司に連れて行く。
そこから急遽 始まる大食い対決。
お互いに負けたくないという気持ちが、いつしか勝負形式となっていた。
きっとグルメ高嶺からしてみれば、回転寿司の寿司など「死んでる」認定をしたいところだろう。
だが今回 大事なのは味ではなく勝敗。
これは男の意地の張り合いなので次々に回転寿司を食す2人。
結果は、意地で競り勝った高嶺の勝利。
その意地を見届けた おかモンは、高嶺の想いの深さを知り、
自分から食べ終わったことを宣言して、その勝負の幕を引く。
りの も おかモン も、恨みっこなしに手を引くことが暗示された。
こうして恋のライバルたちは良き協力者に転生することで、恨みや悲しみは物語から消滅していく。
一方で高嶺も おかモン にどれだけ嫌われても嫌いになりきれない。
花が おかモン のことを大切に思っているから。
大事な人の大事な人は、高嶺にとってもそうであるから。
自分の恋に決着をつけた おかモン は最後に高嶺にリークした花と自分との交際情報がフェイクであることを告げる。
それに激怒する高嶺。
高嶺は、おかモン が花に告白した時の結果もミスリードされた(『10巻』)ので、
これで騙されるのは2回目である。
からかい甲斐があるから、高校生たちにイジられるのだろう。
それもまた高嶺の人望の一つではないか…。
ライバルは撤退し、自分の気持ちは整理できた。
そうして、いよいよその時がやって来る。
この日は十五夜。
2人の恋心も、望月の 欠けたることもなしと思へば、といったところか。
(でも十五夜 ≠ 満月なんでしたっけ?)
2人は、月を見ながら語り合う。
意地も意地悪も浄化するような月明かりの下、
花も高嶺も素直な言葉を相手に届ける。
(そういえば高嶺や二コラを加え男女6人の修学旅行をした『4巻』でも、
満月の月明かりに照らされた海岸で、花は高嶺への特別な想いが芽生えてましたね)
特に高嶺は、御曹司でも俺様でもない、自分の等身大の言葉を初めて紡ぐ。
病室で精神がハイ状態の一方的に押しつけるような俺様の言葉ではなく、
不器用ながらも相手を包み込む様な高嶺の言葉。
そんな心からの言葉だから花の心にもスッと染み込む。
高嶺の言葉によって満たされた花の心は、涙に変わって溢れ出す。
それは ずっとずっと聞きたかった本当の言葉だから。
喜びと安心感で高嶺の胸に飛び込む花。
その行動に感激するが、何とか理性で行動を抑制する高嶺。
この場面は、今後 何回読んでも感動する気がします。
こうして長く続く駆け引きは終焉した。
誘拐劇のような大事件の後ではなく、一段落して気持ちを整理してから、というのが本書らしいですね。
両想いの前にライバルが手を引く描写があることで、
2人の両想いを後から知って悲しむ者がいない構成も良いですね。
心の底からカタルシスを味わえるように計算され尽くしている。
その後は不慣れな2人の交際の様子が続く。
久々のお出掛けをしたい花だが、
高嶺は その前に交際の宣言を野々村家の人間にするべきだ、という方針を打ち出す。
それは2人が白昼堂々と胸を張って並んで歩くために必要な通過儀礼でもある。
どこまでも正しくあろうとする高嶺の姿が頼もしい。
また、恋のライバルともいえなくない、姉・縁の存在も整理しておきたいのだろう。
そうして父親と話し合う機会を設けた花。
だが その夜、父は帰宅を拒否し、以前に住んでいた家の前で溜息をついていた。
これは父が交際を認めたくない現実逃避かと思ったが、どうやら父の悩みは違う。
実は、昨夜の2人の会話は家族全員と身辺警護のSPが階下、というか階段に潜んで盗み聞きしていた。
娘の態度で話の内容を類推したのかと思いきや、
実際にやり取りを聞くことで認めざるを得ない気持ちが湧いてきたという。
父の悩みは、交際を認める流れをどう演出するか、というだけ。
これが、この家の構造を利用した展開であった。
予想外の展開を読者にお届けして、話は早く進み、父との修羅場も回避できると一石三鳥の働きをしている。
変な構造の家にも意味があったんですね。
ただ問題は、父は高嶺を受け入れられないことである。
高嶺は父からの好感度を得ようと努力していたが、
父は「フツーにムリ!! こわい!!」と泣き出すほどに彼を恐れている。
常識外の生物を受け入れるのには若い人の柔軟性が必要なのかもしれない。
そうして最大の難関である父の承諾を得てから始まる家族会議。
姉の縁も一応はライバル枠の人間。
だが彼女も すっかり高嶺に見切りをつけ、新しい金持ちとの出会いを期待する。
これでライバルは全員 恋の戦闘継続の意思を見せないことになったかな。
男女交際について、最後に引き締めたのは母。
母は高嶺に節度あるお付き合いを願う。
まぁ高嶺の場合、学生の内は、と強い自戒で以後 数年 決して手を出さないのではないか、という心配の方が強い。
そうして始まる男女交際編。
初デートはハイキング。
慣れない靴で靴擦れを起こしたり、服装に気合を入れる王道ヒロイン・高嶺が笑える。
山に入ったら遭難という少女漫画の お約束も そこそこ守られる。
そして降って湧いた家族総出の沖縄旅行。
花は この旅行で爪痕を残したいらしい。
旅行中にキスの一つぐらいしたい、なんて男子みたいな欲望だ。
本当に本書は花がヒーローで、高嶺がヒロインですね。
だが今回はツアー旅行なので、他の客との交流がある。
旅行中は 野々村一家と その婿という設定。
もちろん高嶺は姉の結婚相手として振る舞わなければならない。
もしかして家族会議やハイキングに姉が出てきたのは、
高嶺への下心が全くない、という証明のためか。
でないと、花が余計なことに心を砕かなければならないですからね。
といっても対外的な目があるから、姉以上に高嶺にくっつけない花。
これは、秘密で交際している教師と生徒が人前で近づけない状況に似ている。
自由時間に秘密裏に脱出するのも、まるで修学旅行の教師との一幕だ。
他の生徒の目をかいくぐるように、他のツアー客の目から逃れることで胸キュンシーンも作れる。
両想いになって、かつてないほど いかにもな少女漫画っぽい展開が見られるようになった。
自分の子供のような体型に悩む花を、
何も知らないはずの高嶺がフォローしてくれるのも良い場面。
…ただし、高嶺は幼児体型が好きなロリコン説が払拭できないのが怖いところですが。
もう こうなるとロリコン疑惑を晴らすためだけに、元カノ 出てこい、と思ってしまう。
花は悲しむだろうし、高嶺のクリーンな経歴(笑)に傷がついてしまうかもしれないが、
ロリコンヒーローという疑いの目で もう高嶺を見たくない…。