《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

高嶺は御曹司ヒーローなのに、上位存在の権力者に翻弄される庶民ヒロインの立ち位置。

高嶺と花 8 (花とゆめコミックス)
師走 ゆき(しわす ゆき)
高嶺と花(たかねとはな)
第08巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

会長に財産を没収され没落した高嶺を支える中で高嶺への恋心を自覚した花。迎えたバレンタインにチョコを用意したものの…?一方、高嶺は花の支えの甲斐あって順調に復活!仕事でも成果を上げ始める。そんな中、野々村家を訪れ、すき焼きを共にした高嶺に、父が「花とのお見合いを何時まで続けるつもりなのか?」と問うとほろ酔いの高嶺は、意味深な回答を!!?

簡潔完結感想文

  • 食卓を囲むシリーズ継続中。チョコに鍋、ハンバーガー店で楽しく温かい食事。
  • 能ある高嶺は爪を隠さない。たった3ヶ月余で業績を改善し、生活水準も改善。
  • キスはしたけど、好き我慢選手権は開催中。春が来て、飽きが来る前に新展開。

嶺(たかね)の没落後のご挨拶回りが続く 8巻。

『6巻』で急に没落御曹司になっても お見合い相手・花(はな)の助力で立ち直り始め、
『7巻』では これまで通りに戻りつつあった高嶺。

少しだけ謙虚になって人の世というものを学びつつある高嶺が、
改めて これまでの友人・知人、お世話になった人に会うターンが続く。
ちょっとした同窓会気分である。
彼が没落したことで これだけの人が心配しているんだぞ、という良い話なのだが、
その人たちと没落・高嶺を会わせる(今回は それぞれに食卓を囲んでいる)内容で1話を作っている。
こうするとネタに困らないのだろうが、段々 飽きてくる。
高嶺の没落を知った彼らが 1話の中で次々に高嶺のアパートに押しかけてくれば それで済む話。
季節ネタなどを絡めて飽きさせない工夫も見られるが、残念ながら飽きる。
没落という革命が早くも終わり、変わらない日常(マンネリ)が 作品を包み込んでいた。

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花のショミン飯。没落して自炊し始めて、料理に一家言もってしまい嫌味な高嶺さん。

それは恋愛面に関しても同じ。
高嶺の没落後に、ようやく花が自分の恋心を認め、彼に陥落していることを自覚した。
これまで何でもなかったようなことにまで、いちいちドキドキしている花は可愛い。

…が、読者からしてみれば1話から分かりきっていたことに自覚が上乗せされただけ。
自分が陥落していることを高嶺に気取らせない、という目的が出来ただけで、同じことが繰り返される。

他の白泉社漫画のように「ついに認めたかぁ…」という感慨はなく、
「やっと認めたかぁ…」という徒労を感じてしまった。
大いなるマンネリは白泉社漫画の素晴らしい特色だとは思うけど、
いかんせん本書は恋愛問題から始まっているから、それを遠ざけ続けることに無理がある。


かし読者の飽きをいち早く察知できるのが作者の最大の長所。
この巻のラストで再び物語は大きく動こうとしている。

没落からの復活という激動の展開も、このためにあったといっても過言ではない。
高嶺が知人たちと食卓を囲んでいたのは、そのための時間稼ぎだったと言える。
作中での3ヶ月余、これだけの時間があれば千尋の谷に落とされた獅子は這い上がってくる。

そして高嶺が完全復活するとどうなるか、それはデジャヴの始まりの合図。
もはや懐かしさすら感じる展開に一度は顔を輝かせ、
そして またもや繰り返されるマンネリの予感に顔を曇らせだろう。

しかし働くところ、住むところを祖父にコントロールされていることで次の展開が起きる。

金持ちや権力者に振り回されるのが白泉社漫画のヒロインだが、
本書においては 御曹司ヒーローまでも更に上位存在の権力者に振り回されている。
高嶺には金持ちの道楽に意のままに操られる庶民の悲哀すら感じる。

革命の後に再革命が起きて、今度は庶民とインテリが同じ立場になろうとしている。
飽きたと思ったのに、やっぱり目が離せない。
本書の緩急は本当に自在だ。


述の通り、前半は没落した高嶺が お世話になった人々に再会するだけ。

主に高嶺の没落は食に関する問題が大きなウエイトを占めている。
狭い部屋に文句を言うことは少ないが、安価な材料を用いた食事には文句が絶えない。

花を週3で連れ回す お見合いの延長も毎度レストランなど飲食店が多かったが、
これは高嶺自身が実は食道楽であることと関係あるのかもしれない。
食事と買い物以外に女性を喜ばせるアイデアを思いつかないだけかと思っていた(笑)


この巻の中盤から花が積極的に、しかし高嶺には内密に動き出す。
惚れたことを隠し通しながら、惚れさせる。
それが彼女が自分に課した命題。
でも、その命題が邪魔をして、自分の目を曇らせているようにも思う。
彼に弱みを見せないという警戒心が、高嶺の変化を見逃しているのではないか。

読者に分かるような高嶺の微妙な気持ちの変化(喜びや照れ)を花はスルーし続ける。
なんだかんだで花も自分を最優先にしていて、高嶺のことは二の次になっている気もする。
2人とも自分本位だから、この恋愛は先に進まないのではないか。


んなこんなで花は高校2年生に進学。
これで長かった花の16歳も解放される機会がやってきた。
なんせ昨年の4月頃に既に16歳であったのに、1年以上16歳を継続しているだもの。
といっても花が17歳になるのは随分先だが…。

高嶺は1月の松が明けた頃に没落したにもかかわらず、
たった3ヶ月で現在の会社で前代未聞の成果を上げ、個室に秘書に社用車付きの役員待遇となっていた。

基本給に加えて成果給も出ているので、暮らしは目に見えて豊かになっていく。
強大な権力によって没収された物を次々に奪還して、庶民レベルの高嶺は もういない。

その身は高級スーツに身をまとい、その手にはバラの花束を抱え、車を花の学校の前に乗りつける。
それは1年前の、お見合い初期の再来であった。
(といっても車は社用車で、高級外車はまだ取り戻せてないらしい)

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置かれた場所で大輪の花を咲かせてしまうのが高嶺という人。自尊心が満たされたから薔薇を背負う。

そこから 花のコスプレも、レストランでも会食など、
かつてテンプレ展開が繰り広げられるが、もう懐かしい気持ちでいっぱい。

そこに当たり前にあった物をありがたがる、
そんな気持ちは高嶺だけでなく読者も同じであった。


者は懐かしい展開の後に新しい展開を用意する。

高嶺の祖父であり鷹羽(たかば)グループの会長の差し金で、花の一家は豪邸へ引っ越すことが決まった。

同じ頃、収入が格段に上がった高嶺は、
住む必要のないアパートを出て、新居に引っ越すことが決まっていた。

この2つの事柄は偶然の一致などではなく…。
ここまで読んで次の巻を読まない人はいないだろう、という素晴らしい引きで終わる。
エリート街道を走っていた高嶺なのに、いつの間にかジェットコースターのような人生である。