《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ハッピーエンドの気配を察し、次々と送られる超能力者の刺客。…いや それ少年漫画のパターン!

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末次 由紀(すえつぐ ゆき)
Only Youー翔べない翼ー( ーとべないつばさー)
第04巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

止まらないよ。声も心も血のように溢れて、あなたを呼んでいる──。暖かく、かけがえのない光に満ちた真(シン)とこころの想い。でも、その想いの強さが誰かを傷つけてしまうのなら……。真に別れを告げたこころは!?逃れられない運命に、2人の明日さえ見えない。哀しみのトゥルー・ロマンス、第4章!

簡潔完結感想文

  • 情緒不安定なヒロイン。急に号泣したり電車内で暴れだしたり、挙句 勝手に同棲。
  • 同棲したが寝室は別々。超能力を別にすれば倦怠期や すれ違いのカップルそのもの。
  • 妻が夫に内緒で若い男に会いに行く不倫モノ、とも読める。人物の配置は面白い。

学の お金は親に出させて、親に事後承諾で同棲を開始する 4巻。

主人公カップルは相変わらず未熟で、自分本位の考え方であることが端々から伝わる。
ただし、この『4巻』で別れる別れないを繰り返していた彼らの小競り合いは終わり、
物語は新しいステージへと動き出す。

これによってテーマが主人公たちの痴話喧嘩から、
彼らが大きな力に巻き込まれる物語へ移行するので、
見ていられないような幼稚な行動は収まり、サスペンス度が増した。

扱う内容が恋愛ではなくなったことが、
果たして読者にとって嬉しいことなのかは微妙なところ。

手に負えないモンスターを相手にし始めたのは、
主人公たちも、作者・作品にとっても同じこと。
ここからは壮大な物語をコントロールし切れない部分が多くなっていく。

一方で再読時に初めて気がついたのは人の配置が巧みさ。
全てが上手くかみ合えば かなり面白い作品になったのではないだろうか。


学受験日の両親の事故から1か月半余りで、
文字通り二転三転した恋愛は ようやく落ち着きを見せる。

国見(くにみ)しかいないサラのために、国見と別れる道を選んだヒロイン・こころ。
張り裂けそうな心で、大阪に転勤することが決まっていた父に同行を懇願する。
既に大学も決まっていたというのに、恋愛が上手くいかないから全てを投げ出す恋愛脳。

しかし その決意は1週間程度で撤回される。
なんとも情緒が不安定な子だ。

幸運なことに(それを見越して)父が大学の入学手続きのキャンセルを後回しにしていたので、
こころ は父と離れても 問題なく大学に通える。

大阪に発つ前に母のお墓に参る親子。
こころ が こちらに居た方が、父も何かと変える理由が出来て墓参りも出来そうですね。
(父もまた、物語から一度 排除されたら一切 登場しませんが。これ以降は ただのATMです)

こころ は出発までの間に、入院中のサラの病室を訪ねていた。
『3巻』あたりから病院のシーンが出ない巻はないのではないか。

攻撃的な対応を見せる サラに こころ は別れを告げる。
意味の分からないサラに触れて、自分の真意を一瞬で伝える。
いわゆる「かくかくしかじか」がなくて便利ですね。

サラは初めて こころ に触れて心を読んだことで、彼女の温かさを実感した。
聖女の力は無敵です。

こころ に触れてサラは こころ を応援する気持ちが芽生える。
それは国見から離れ、サラが普通の人間との交流を始めようということでもある。

また これはサラの物語からのフェードアウトを意味する。
これ以降、脇役も脇役に追いやられる。
サラと こころ の男性後輩・中館(なかだて)の話などサイドストーリーで扱えば面白そうなのに。
徹底的に主役にしか興味を示さないのが、本書の世界の狭さに繋がっている。

サラは自分たちが孤独なのは、能力だけじゃなく自分たち以外の人から逃げているから、と気づく。

そうしてサラは こころ のライバルではなく友だちになれる未来を描く。
だから、国見の背中を押し、こころ と生きることを願う。

その人に触れれば、嘘や すれ違いも瞬時に解消する。
超能力者の問題解決能力は高く、そして心変わりが早い。


ラに背中を押され、駅に急ぐ国見。

ここは まるで最終回のような展開である。
物語に明確なゴールがない作品だから、いつでも連載を終了できる(特に前半)。

というか ここで終わっても美しい結末だったのではないか。
特に この巻から登場する、モンスターが登場する前に、
物語を閉じていれば、疑いようのないハッピーエンドで終われたのに。

新幹線に乗車してから、国見を あきらめて しまった自分を悔いる こころ。
自分から別れを切り出して、こんなに早く後悔するとは。
女心と秋の空、でしょうか。春だけど。

こうやって気持ちが揺れ続けることでドラマが生まれますが、
その一方で読者の信用を無くすばかりである。

座席に座る前に踵を返し、新幹線から降りようとする こころ。
父の前で暴れて、男の名前を泣き叫ぶ。

国見は駅構内を駆け、こころ のもとに急ぐのだが…。

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こういう時に被害者ぶった言動をする こころ が好きになれない。全部 自分の選択だろうが。

情にも こころ が下車する前にドアは閉まり、
国見が階段を駆け上がって見た光景は、駅から離れて行く電車だった。
(新幹線の外観に1990年代の作品という時代を感じる)

ドアを叩き、国見の名前を泣き叫ぶ こころ。
その声が国見の頭に届くと、彼は彼女のもとにテレポーテーションする。

そうして当惑する こころ の父親に説明も無しに、彼は娘を さらって消えた。
そして、これが父娘の今生の別れとなるのだった(作品内では)。

これによって、それぞれに片親は死に別れ、片親を遠方に飛ばすことで、2人だけの世界が完成した。
そうなると、2人で一緒に暮らすだけ。

親元で暮らす中高生なら、高校卒業してすぐに、
好きな人と2人で暮らせるなんて、と夢を見るだろうが、
こころ も国見も自分勝手に生きすぎではないか、と疑問に思う部分も大きい。

しかも国見は収入も目的もなしに生きているのだから。
(叔父の研究の協力金ぐらいあるのだろうか?)


こまでの恋の障害、彼らの心の動き に不自然なところはない。
ないのだが、この1か月半余りで、
再会して、拒絶して、でも諦められなくて、再交際をして、
舌の根の乾かぬ内に別れを切り出すという展開には唖然とするばかりだった。

雑誌掲載のリアルタイムでは作者も読者も現実時間が1か月経過しているから、
毎回、事態が二転三転しても それほど意識しないのだろう。
しかし続けて読むと かなり無茶苦茶である。

そして そんなジェットコースター展開のために、
不必要に相手を言葉で傷つけたり、交際を阻止するために自殺未遂という手段が使われたりするのも辟易する。

一生懸命、物語を考えている痕跡は認められるが、やはり未熟さが目立っている。


の許可なく彼氏との同棲を始めた こころだが、
親に金を出させてキャンパスライフも満喫する。
(どうやら父の怒りは1か月で消えたらしい。国見も頭を下げるべきだ)

超能力を研究する国見の叔父との対話で、
国見は自分の能力が一層強くなったことを話す。
それと同時に自分を守る能力も高くなったという。

意図しない限り誰かに触れても気持ちは流れ込んでこない。
これって彼が望んだ「普通」に近くなったってことなのかな。

ただ国見は より完璧な能力の抑え込みを願っているらしい。
そうして 働いて、養って、父親になりたい、というのが彼の切なる願い。
叔父たちの研究に協力するのも「普通」の獲得のためなのだ。


叔父との会話で、超能力には赤・黄・緑の3色のオーラがあることが示される。
国見は治療や安定の緑。サラは不安定の黄色。そして赤は危険と破壊のオーラだという。

連載開始前後に参考資料を読みこんだらしい作者が、
連載が長期化になって、様々な知識を披露し始めたようだ。

叔父自身が かつて持っていた能力は通常の超能力とは根本的に違う 未来視、予知能力だった。
このことを叔父は こころ に話す。
そして叔父が最後に見た未来のことも。

それは国見がまだ2歳での超能力者でもない頃に、
彼を見て「わたしは いつか この子に殺される」と感じたのだという。

予知というより予感の気もするが、不吉な予言が本書を貫いた。


の時、国見は叔父に超能力者の子どもを持つことについても相談している。

というのも国見は同棲して1か月、こころ と部屋を別にして寝ている。
同じ部屋に寝ても、性行為をしても妊娠しないようにする手段はあると思うが、
国見の中では全てが直結してるらしく、彼女自体を遠ざけている。

こころ は いつか国見の子を産むことを願っていたが、
国見は自分の子は超能力を宿す可能性があり、それを恐れていた。


供の話が続いてから、危険な「赤」の超能力を持つ柴田 優(しばた ゆう)との出会いがある。
この話の流れ方は上手いですね。

国見の叔父は優に催眠術を施しているらしい(彼の能力は喪失してるから超能力ではないだろう)。
指の音一つで、彼の行動をある程度コントロールできている。

なんと優は その「赤」のオーラで、
ペット20匹、そして幼稚園児5人を殺害した疑いが持たれている。

さらっと残酷なことを書いている。
これまでも人の死が多かった本書ですが、無邪気に人を殺す者まで現れた。
本書自体がどす黒いオーラに包まれだして困惑するばかり。
果たして読者は こういう話が読みたかったのだろうか。

そして優は いつか こころ たちが設けるかもしれない彼らの子どもの一つの可能性である。

国見の叔父は こころ に優の遊び相手になってほしいと要請する。
叔父がなぜ相手に こころ を選んだのか、それは国見という超能力者のそばにいる彼女自身が、
「普通の人間の能力者の間を歩く存在」だからであった。

こころ がそれを承諾するのは、未来の予行演習であり、
国見と生きることを決めた日に どんな超能力からも逃げないと誓ったからだった。
あれっ、そんなこと誓ったっけ?
なんだか抱えきれない荷物を抱えようとしてはいないか心配になる。

そして優に内心の恐怖心を見抜かれ、彼の能力によってガラス越しでありながら手に傷を負う。

優は こころ の聖女の力が及ばない相手なのか。
それとも 彼をも懐柔することが完璧な聖女への道なのか、

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怖いよ…。悲劇のヒロイン劇場に辟易していたが、ホラーサスペンスを読みたいわけでもない。

と交流をし始めたことを、こころ は国見に話せない。
これが交際が継続する中での、初めての隠し事になる。

こころ が害意を受けて手に傷を負った時、国見は能力の抑制が上達して、
他者の手を握れるようになったと無邪気に喜んでいた。
手という共通のモチーフがありながら、対照的な体験の配置が上手い。

国見が こころ に触れないようにしていることが、
超能力者を相手に嘘をつき通せることになるという部分も巧みだ。

国見は自分の不安や考えていることを こころ に話さないので、
事実だけを見ると、同棲した瞬間、彼女に興味を失くす、男の身勝手のようにも思えますが…。
そして こころ の方は、彼氏に黙って、他の若い男に会いに行く女性そのものである。

実際に国見に落ち度がある点も面白い構造だ。
確かに国見は触れなくても、こころ に関心を持って、
注意深く生きていれば、彼女の変化に気づいていただろう。
その意味では本当に、女性として恋人として興味を失くしていたと言える。
交際後の男女のすれ違いを、特殊な環境下にも関わらず成立させているの点は素直に感心する。


れぞれの嘘や振る舞いが2人に亀裂を生む。
仲直りしようにも、国見が こころ に触れると、別の男の顔(優)が彼の脳裏に浮かぶ。
これは、蛇に睨まれた蛙ではないが、優が国見の上位存在であることを意味していた。

本来、こころ には常時、国見の守る能力が働いている。
実際、飛んでくるガラス片から彼女を守った実績もある(『3巻』)
しかし優を前にしては、その防御が通じない。
彼女の手の傷はその証拠。

じっくり読めば、なかなか計算された配置である。

が、それを読者がどの程度 読み取れるだろうか。
それを分かりやすく見せるという部分では至らない部分がある。
もうちょっと親切でも良い。

そして国見が、優のそばにいる時の こころ の気配が感じ取れないのは、
優が国見の能力を圧倒しているから。

ここも面白いですね。
今まで圧倒的だったヒーローに、より強い者が現れる。
大切な人を守るためには、ヒーローが嫌悪している能力を全て開放するしかないのか…。
この葛藤や配置は、少年漫画のようである。

そして、こころ と優の出会いも、国見の能力を最大限に引き出すための叔父の策略である。
全ての黒幕は、叔父ということになるだろう。
それが、国見が叔父を殺す未来の要因なのか。


とっても怪しい叔父ですが、一方で すれ違う若い2人の話を聞くのも叔父その人なのである。
彼もまた超能力者と普通の人間の間を歩く人なのだ。

それぞれが叔父に相手に話せないことを話して考えをまとめている。
それは叔父が2人の思考を全て握っていることを意味するのだが。

国見から歩み寄りを見せたこともあり、2人は仲直り。
しかし直後に 優が研究所から逃亡したという連絡が来て…。