《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

人を殺し、身内を死なせ、自分も死のうとする。こういうのが ドラマチックって言うの?

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末次 由紀(すえつぐ ゆき)
Only Youー翔べない翼ー( ーとべないつばさー)
第03巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

2人、もう1度見つめ合えたら、哀しい夜の魔法は解ける、そう信じてた――。あれほど焦がれ、まち続けた真(シン)との再会。けれど彼の冷たい眼差しは、こころの胸を不安にさせて……。なぜ真は戻ってきたのか?切なさと迷いと、告げられぬ想いを閉じこめた運命のトゥルー・ロマンス。第3章!

簡潔完結感想文

  • 唐突な死。枕元に立ったのは死神だったのか。2人だけの楽園を作る準備が始まる。
  • 少女たちが自分の不満や絶望を表明する方法は自殺未遂。これが泣ける要素なの?
  • 再交際から2か月弱で別れるカップル。長編化の弊害が出始め、世界は歪んでいく。

引きをはかる物語を、力づくで公演を延長していく 3巻。

作者が後の巻で、当初は長くても3巻の話、と書いていたのが念頭にあることもあって、
『3巻』の中盤からの物語を強引に続けているように見えて仕方がない。

今回、とある人物が自殺未遂をするのですが、
これは作品においても「わたしを見て!」と自分に注目を集めさせようとする手段のように思えた。

朝令暮改、ではないが、同じ巻の中でも登場人物の言うことが すぐに変わることに違和感を持つ。
これによって登場人物たちがフラフラしているだけの優柔不断な人物に見えてしまった。
当初の構想よりも長く物語を延命させようとするがあまり、キャラの整合性が失われていく。

『3巻』では本来ヒーローであるはずの国見(くにみ)が二股男にしか見えなかった。
2年前、妻に黙って単身赴任へと出発した夫は、人恋しさに現地で愛人を見つける。
妻が彼の住むマンションに現れても、愛人を庇うばかり。
それでも自分を想ってくれる妻の愛情を知り、夫は改心を誓う。
だが そのことを知った愛人が…。

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冷たい仕打ちをすることが、彼女を守ること というのは分かるのだが、故意に傷つけるのはなぁ…。

大体そんな話である。
こうして妻は悲劇のヒロインであり続ける。

でも大事なものを すぐに手放そうとする彼らを見ていると、
それが本当に大事なものなのか疑いたくなってしまう。
特に2年前に唐突に恋人が失踪し、絶望を味わったヒロインが、
再会を果たし、再び想いを重ねたにもかかわらず、それをすぐに撤回しようとする姿勢は疑問を持たざるを得ない。

ヒロインを穢れのない聖女でいさせ続けるようとするから、物語が変に歪んでいく…。


2年ぶりの国見との再会。
だが国見がかけてくれた言葉は僅か。
事故で病院に入院中の母親のもとに、毎日のように通うことを勧めるだけ。

こころ は動揺し、彼の存在が どれほど自分にとって大きいか思い知らされる。

そんな状態で大学受験に臨む。
しかも国見のことだけではなく、
両親が事故に遭ってからというもの、慣れない自活をする必要性もある。

その受験会場で出会ったのは、国見のマンションに住もうとしている男性。
彼は国見 健二(けんじ)、国見の名を持つ叔父さんであった。

彼は こころ にとって空白の国見の2年間を語る。
国見は戻らないつもりで こころ の住む街を出て、叔父の住む静岡にいたらしい。

だが 今回、なぜ彼は また街に現れたか。
そこに思い当たった こころ は、彼の忠告通り、母に会いに行く。


け込むように入った病室で元気そうな母の姿を見て安堵する こころ。
病院の出口まで見送ってくれる母は、
こころ の視力が回復して娘の世界が広がることが寂しかった時もあったが、
だれよりも やさしく育ってくれた自慢の娘と言ってくれた。

2年前、国見と知り合って以降、巻き込まれた事件や事故があり、
その後の国見の失踪で登校拒否など母娘に出来てしまった距離は解消される。

…そして それが母の遺言となった。

国見は事故後、昏睡する母を目覚めさせてくれた。
だが その時に彼は こころ の母の死期を悟っていたのだろう。
彼の能力にも限界があり、こころ たち母娘に最後の時間を与えるのが精一杯だったのだろうか。
確かに彼の能力は治癒というよりも肩代わりという部分もある。
脳の病気に対して能力の発動はリスクが大きすぎたのか。


の葬儀の際も こころ は涙ひとつ見せない。
これは彼女が2年間で心の壁を作れるようになったからだろうか。

けれど葬儀会場に顔を見せた国見の言葉で、彼女の壁は崩壊する。
ここは良い場面なんだろうけど、こころ が国見にマインドコントロールされているみたいで不気味である。
ここから しばらく国見に対面すると必ず泣いている気がする。

そして母の死も、悲劇のヒロインの演出のためだけにあるようで不快だ。
どうにも こころ と国見が2人で生きていく世界を構築するために、
彼らを縛るものは物語の外に追いやっているだけに思える。

それは遠方に転勤を希望した父親も同じ。
妻との思い出に溢れている自宅に住みたくない、という理由は よく分かる。
だが 彼もまた、親として こころ の行動を縛ることのないように排除されているだけだ。

彼らが自由気ままに生きるためには、他の者は邪魔でしかないのだ。

超能力という この世界で特別な力を持つ希少性の高いヒーローに必要とされるヒロイン。
これが読者の自己承認欲求に繋がるのだろう。

国見たちは超能力を持つことに悩みながら、
結局、社会と適切な関係を構築することなく、関係者たちだけの狭い世界で生きる。
能力を持つ悲哀を描いているようで、
自分たちの楽園を作り、その住人は選民思想的に選り好みされるのだ。


び国見と関わっていく気持ちを固めた こころ だったが、
国見の家の前で出会ったのは、いつか国見と一緒にいた女性。

その女性に超能力らしきもので攻撃され、握りしめていた国見のマンションの鍵を落とす。
後からやって来た国見は、女性に攻撃を中止させるが、こころが落とした鍵は その女性に渡してしまう。
そして ここへはくるな、と こころ に非情な指示を出すのだった…。

相当のショックを受けるものの どうにか学校に登校する こころ。
(受験後の3年生なのだから学校に来る必要性は低いと思うが)
だが、学校に現れたのは サラと呼ばれていた国見が共に生きることを決めた女性。
サラの勝ち誇ったような表情を見た時、こころ は屋上に向かって走る。

屋上の柵に一直線に走ったところを見ると、死ぬつもりだったのか。
直前で親を亡くしているのに自死を選ぼうとする。
見たくない現実に直面したから死のうとする。
恋愛脳が極まっていますね。
親のことや、自分に光を与えてくれた亡くなった角膜提供者のことも全く頭にないのでしょう。

『1巻』で普通に生きようとしていた彼女の姿は もうない。
なんで こんなことに なってしまったのか。


通に生きられない国見一族にとって、一緒にいられる人は限られている。

サラは こころ への悪意を隠そうとしない。
自分にとっても国見が世界で ただひとり の人間だと訴える。

こころが街中で出会った国見の叔父。
彼は超能力の研究者だった。

そして彼から見ても甥の国見は才能のカタマリ。
だが、国見は「だれより大きな翼をもちながら 翔(と)ぼうとしない鳥」だと彼は指摘する。
これが本書の副題「翔べない翼」の由来ですかね。
完読しても全く副題の意味が分からないですが。

能力を最大限活用するのが国見の幸せだという叔父に対し、
こころ は「国見くんの幸せは ずっと一緒にいられる だれかを見つけること」
一緒に暮らせる人がいるなら、それが 国見の幸せだという。

この考えが こころ の『3巻』ラストの行動に繋がるのだろう。


見を強く思う こころ は、自然と2年前に彼とデートをした動物園に足が向く。
彼を忘れる生き方も考える こころ の前に、国見が姿を現す。

そこで国見は、かつての自分のように こころ の周囲に動物たちが集まっているのを目にする。
身を切る覚悟で離れた彼女なのに、自分から移った能力が消えていないことに驚愕する。

こころ は国見に触れようとする。
触れることで国見の気持ちが ほんとに昔と おなじじゃないんなら
ちゃんとあきらめる、能力も捨てる、そして ちゃんと ほかの人を選べるように がんばる、と涙ながらに訴える。

そうして触れた国見の手。
そこからは こころ に会いたかった彼の切なる想いが伝わってきた。

超能力者ならではの すれ違いの解消ですね。
2人の間に嘘は存在できない。

んー、ここで物語を閉じても良かったかもしれないですね。
これ以降の不幸のための不幸ばかりが続く展開を見なくても済んだ。
そして登場人物たちの直情的な言動を見なくて済んだ。

ここからの展開は私には理解できない部分が多すぎる。


ずっと国見の行動が全く理解できない。

姿を消すことを決めながら、こころ と身体を重ねたり、
いとこ のサラを利用しながら、一方的に彼女に決別を宣言したり。
優柔不断でズルい男にしか見えない。
全てにおいて覚悟が甘い。

再び こころ を選んでからは、都合の良い言葉ばかりを並べている。
「絶対 守るから 二度と離さないから」。

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自分勝手な国見の行動にも文句ひとつ言わずに肯定的に捉える こころ。国見はそれに甘えてるだけでは?

国見の心変わりが サラに こころ への憎しみを抱かせた。
サラは学校で こころ への悪意を超能力に乗せる。

サラは昇降口のガラスを割る。
破片が こころ に向かって飛んでいくように。

しかし、こころ は国見の力によって無傷。
破片は こころ を避けた。
これもまた国見の「守る力」か。
国見が こころ の危機を察知しなくてもオートマチックに発動する能力らしい。


のサラの所業に対して国見は頭に血が上り、一方的に叱責することしか考えていない。
他方で こころ は、国見を取った側として、サラの悲しみに共感している。
話してわかってもらう、それが彼女の解決法。

サラには、今回後輩を巻き込んでしまったから、攻撃するなら わたし ひとりのときにしてって伝えたいらしい。

神の如き慈悲の心だ。
こうやってヒロインだけを聖なるものとする世界が始まる。

こころ はサラと友だちになれると思う。
その足掛かりとして料理を振る舞うことにする。
だが その頃、サラは刃物で手首を切って自殺しようとしていた…。

何かと言えば自殺しようとするのは本書の悪癖だ。
1巻の内に2回も違う女性がそれぞれに死のうとしている。

母の死よりも好きな人の言葉一つで死を望む。
平気で人を傷つけたのに絶望したら死を望む。

自殺未遂は悲しみの表現なのだろう。
死ぬほど辛いこと、その表現の最高峰が作者にとって自殺なのだろう。

でも私は直情的に死を選ぶ登場人物たちも、
それを一種の美しさとして描く作者も好きにはなれない。


見はサラに対する、これまでの自分の態度を反省してくれるだろうか。
自分の甘えやワガママが彼女を傷つけたことを。

超能力は関係なしに、国見の態度は出会った2人の女性に寄り掛かり、
その関係をズルズルと二股状態になって、その解決を上手に出来ないダメ男に見える。

だが、こころが国見のそばに いちゃいけないのかもしれない、と心の片隅で思う時、国見はそれを否定する。
「頼むからそんなふうに思わないでくれ あきらめないでくれ
 生きてる限り まだ チャンスはある」

なんて前向きな言葉なのか。
これが2年間の成長なの?
でも、国見だって簡単に あきらめようとしたではないか。
説得力がまるでない。

どちらかが後ろ向きになれば、どちらかが励ます。
美しい関係だが、その時々で真逆のことをいう彼らに一貫性が感じられない。

そして こころ は、2年前に自分が絶望するほど悲しかったことを、今度は相手に仕掛ける。


れだけ恋い慕っていた国見と2年ぶりに再会したばかりだというのに、別れを選ぶ。

これは『2巻』で国見がした行動そのものだ。
どちらも自分勝手な行動にしか思えない。
中途半端な相手への思い遣りが、自分も相手も傷つけることを学んでいないのか。

友だちになれるとニコニコ語っていたのに、彼女の自殺未遂の後には遠慮する。
恋愛には勝者と敗者がいて、勝者は敗者の分まで精一杯 幸せになる努力をしなければならないのに、
彼女はそれを放棄し、自分が好きな人を敗者のもとに送り出す。
敗者にとって これ以上の屈辱はない。
それに これだと自殺未遂をすれば、自分のワガママは許される、という間違った解釈を生む。

「サラさんの所へいっても わたしのこと忘れないでね」という言葉は完全に余計な一言だ。

絶望するほどの別れと、2年ぶりの再会。
そこからの再びの別れ。

ここの流れが理解できないし、どうにも急遽こしらえた としか思えない。
せめて再会と別れを同じ巻でやらないでほしい。
展開が早いと褒めたいところだが、早すぎて登場人物たちの思考についていけない。

国見から拒絶されたら自殺を考えるほど絶望したのに、今度は他者のために身を引く?
その場その場で考えが変わり過ぎではないか。
悲劇のヒロインの行動としては100点。
こうやってドラマチックに生きることが こころ に課せられた運命なのだろう。


その直前の国見もまた全部捨てて、なんにも関係ない所へ 2人だけで いこうとする。
サラが自殺未遂までしているというのに、何も学んでないんでしょうか、この男は。

大袈裟な台詞を言ったすぐ後に、
それを裏切る行動をキャラクタが取るから白ける気持ちが強くなるばかりである。