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神は沈黙せず(上) (角川文庫)

神は沈黙せず(上) (角川文庫)

神は沈黙せず(下) (角川文庫)

神は沈黙せず(下) (角川文庫)

幼い頃に理不尽な災害で両親を失って以来、家族で信仰していた神に不信感を抱くようになった和久優歌。やがてフリーライターとして活動を始めた彼女はUFOカルトへ潜入取材中、空からボルトの雨が降るという超常現象に遭遇する。しかしこれは、「神」の意図をめぐる世界的混乱の序章に過ぎなかった―。UFO、ボルターガイスト、超能力など超常現象の持つ意味を大胆に検証、圧倒的情報量を誇る一大エンタテインメント。

「サールの悪魔」この謎めいた言葉を残し、優歌の兄・良輔が失踪した。彼はコンピュータ上で人工生命進化を研究するうち、「神」の実在に理論的に到達。さらにその意図に気づき、恐怖に駆られたのだ。折しも世界各地では、もはや科学では説明できない現象が頻発。良輔の行方を追ううち、優歌もまた「神」の正体に戦慄する―。膨大な量の超常現象を子細に検討、科学的・合理的に存在しうる「神」の姿を描き出した本格長編SF小説


もしかしたら人生初のSF本かもしれない。テレビや映画などの映像媒体では幾度も見ているけれど、本媒体として読むのは初めてかも。この小説、上下二段の500ページ余りを遅読の私が2,3日で読んでしまったから面白いことは私が保証します。少々、結論が急ぎ足ではあるけれども、恐怖と緊張、その気持ちと裏腹な興奮感。UFOや超常現象の先にはとんでもな結末が待ってますよ。
分かってはいましたが、本編は怖がりな私には、なんとも嫌な展開の連続。UFO・異星人・幽霊他、超常現象のオンパレードである。しかし、ただ単に並べるだけではなく報告例を全て信じろというよりは、客観的に虚実の選択をしている。超常現象を盲目的に信じるよりも、選別しても「実」のモノも残ると言っているのである。だからこそ、怖い。世には不思議なこともあると認められることになってしまう…。これらの検証は後々の「ある真実」を導き出すの伏線になっている。前段階が少々長くも感じられるけど、読んだ方が膝をパシッと打てる。
小説としての感想は、主人公をはじめ登場人物の性格がよく分からなかった。主人公はいつの間にかに強気な女性へと変貌しているし、その兄の性格も最後まで掴みづらい。そして加古沢のサイトは果たして人気が出るものか、と疑問に思った。現在も個々の価値や感覚は分散しているのだから、彼を英雄視するという「ミーム(作中の語で思想遺伝子みたいな感じ)」はこれからは生まれない気がしたんだけど…。また近未来の話なのに結局、話の基点が現在であるのが見え隠れする点も残念だった(高望みではあるが)。近未来というよりも今現在の世界が内包している問題の解説をしているだけにも思われたりもした。「無」から「有」を作るのは難しいだろうが、設定として隅々まで構築して欲しかったかも。
なんて、面白かったのに注文つけるのは、この結論を信じたくない心理が働いているだけなのかもしれない。ただ風呂敷を広げすぎたのは事実。もっと早くストレートに結論を達してもいいと思った。「モノを疑え」と説いておきながら、(多少の反論はしてるものの)結論には一直線だった事が一番残念だった。
長くなりましたが、最後にネタバレ的な感想を。
(ネタバレ:反転→)マトリックス」を見る前ならかなり驚いたかも。それでも既視感はありますが…。結末にヒューマニズムを持ってくるのはSFの必然なのか? 人間が人間存在を否定する事は出来ないというのが壮大な結論だったりして…。(←)

神は沈黙せずかみはちんもくせず   読了日:2004年08月12日