末次 由紀（すえつぐ ゆき）
Only Youー翔べない翼ー（ ーとべないつばさー）
第05巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
わたしを愛してくれたように、あなたの未来を愛してほしい――。真（シン）との未来のため「危険と破壊（赤いオーラ）」の超能力者・優（ユウ）に近づくこころ。それを理解できず不安と憤りを抱え、彼女を見守る真。が、そのとき優の赤い閃光がこころに襲いかかった……！果てしない夜を照らす永遠のトゥルー・ロマンス、第5章！
簡潔完結感想文
- ヒロインの問題行動。非暴力の聖女を貫くためには これしかなかったんや。
- この世界で最も完璧に近い男性を従わせる完璧なヒロイン。承認欲求 高まる。
- 安定した収入を確保したので結婚します！ 母親が徹底して排除される物語。
少女漫画版『NIGHT HEAD』だと思うと全てがしっくりくる 5巻。
男性ヒーローで超能力を持つ能力者の苦悩する姿を描き、
その上で、その彼を包み込む聖女としてヒロインを配置する。
少女漫画読者は特別な男性に弱い。
学校の王子様、教室で唯一異色の教師、芸能人、そして超能力者。
そんな彼らに見初められるヒロインに自分を重ねて物語に陶酔する。
『4巻』でヒーロー・国見（くにみ）は、自分より強い能力者がいることを知った。
だが彼は愛する者を守るために、今回、能力のリミッターを外した。
そうすることで作品内で最強・万能の存在に返り咲き、彼の価値は再び最高の輝きを見せる。
国見はヒロイン・こころ のために生き、こころ もまた国見のためだけに生きる。
この男女の恋愛に加え、特別な彼を支える（というか もはや尻に敷く）ことで、
ヒロインが作中世界で最強の存在となっていく。
超能力モノでありながら、少女漫画的な構図が見え隠れするのが面白い。
ただ『5巻』で、2人の関係は究極形に達してしまったため、もはや新たな恋愛要素はない。
サスペンス重視の展開は、これまでの読者に どう受け取られるのか。
恋愛は 滅茶苦茶でついていけない部分もあったが、波乱万丈で情報量が多かった。
物語が後半戦に入った『5巻』以降は、内容が薄まってきた印象を受ける。
本書でも主に一枚絵のイラストでトレース疑惑が出たらしいが（確かに どれも構図が広告っぽい）、
超能力者の苦悩や、子供の能力者の暴走など、
『NIGHT HEAD』との類似性の指摘は出なかったのだろうか。
同じ1990年代の作品なので少なからず影響は受けていそうな雰囲気を感じる。
といっても私は『NIGHT HEAD』に詳しくないので、かなりの部分を想像で物を言っていますが。
街を彷徨（さまよ）う、ついでに犬猫を殺して歩く 子供・優（ゆう）。
彼がそうするのは「なんとなく」
意味もないし、殺意もない。
現実感のない世界を優は ずっと生きているから、死ぬということが分からない。
国見は優と こころ の接点を無くそうとするが、こころ は見捨てられない。
それでは国見が能力に向き合うのを止めてしまうから。
そのためなら危険を冒すし、「死んだっていい」と言い出す。
本当に こころ の思慮の浅さ、言葉の軽さにはウンザリする。
国見は こころがいるから、この世界にいる意義を見出す。
こころ は国見が能力を制御すれば、普通に生きられる道を見つけられると思う。
お互いを大事にしているからの自己犠牲なのは分かるが。
優が唯一 執着するのが、母親。
母だけは優を怖がらなかった。
だが彼女は心臓の外科手術を受けるために渡米している。
優が ぬいぐるみ をいつも手にしているのは、母がくれた物だから。
優は再び こころ の姿を求めて外に出る。
こころ を見つけた優は、彼女と並んで座る。
だが距離を縮めようと語らう最中に、優が鳥を撃ち落とす。
無邪気に残酷な優に自分に何ができるか思案する こころ。
自分はママになっちゃいけない。
そう直感した こころ は、抱きしめるのではなく、優に痛みや悲しみを教えようとした。
その手段が、優が母から贈られた ぬいぐるみを引き裂くことだった。
「ぬいぐるみ は直せても 生き物は直らない」
「傷つけられたら痛いし 死んだら生き返らないの」
そのことを こころ は力説するが、優は彼女を超能力で切りつける…。
うん、そうなるよね。
これは こころ の行動が意味不明。
何といっても ぬいぐるみ は、渡米した母の身代わりとして優が大事にしている物。
それを破壊することは、母を傷つけることに等しい。
物は直せるという こころ の持論だが、思い出を引き裂かれた心は 誰が直してくれるというのだ。
少なくとも それが母から贈られた物だと知っている こころ は、人の絆を引き裂くような真似はしてはいけない。
全くもって意味が不明だが、
これは優のママになっちゃいけない という こころ の直感が、
母的存在の物を破壊させたのだろうか。
怖い。
こころ が優と同じぐらいサイコパスに思える。
この場面で こころ が優に直接的な痛みを与えないのは、こころ を聖女で い続けさせるためなのかな。
これまでも非暴力を貫いてきた こころ。
自分に害意を向けてきたサラに対しても、話せば友だちになれると信じ、
実際 その後、サラと友情関係を結ぶことを達成している。
サラが自分の行動を反省する姿を見せたら、忘れちゃったよ、と聖女らしい対応を見せるぐらい。
この場面で こころ が優を叩いてしまうと、彼女も暴力を肯定してしまう。
だから間接的に痛みを分からせるしかなかったか。
苦肉の策とはいえ、ぬいぐるみ の引き裂きは、全てにおいて あまり賢い選択ではなかった。
こころ の危機を察知した国見は二度目のテレポートをして彼女のそばに現れる。
その直前まで自分より強い能力者である優の放つエネルギーに、こころ の気配を絶たれていたが、
危機の察知と、居場所の特定が瞬時に なされている。
彼女の命の危機を感知して、爆発的に能力が強くなったのか。
そういうことの合理的な説明はない。
かつて国見は彼女を傷つけられると、ぶちギレちゃって殺人まで犯した男である。
優に対しても憎悪のエネルギーで圧倒し、吹き飛ばす。
その後、大学病院に再度テレポートし、こころ は緊急治療、
国見自身はエネルギーを使い果たし衰弱する。
だが命の危険がある こころ に対して、国見は這うように治療室に現れ、そして また限界を突破する。
こころ の手を握り、懸命に治療を施そうとする国見。
その光景は、国見の叔父に娘のサラを出産して命を落とした妻の手を握る自分を思い出させた。
自分が未来視ではなく、「緑」の超能力が使えれば、妻を失わずに済んだ、そういう後悔が見せる過去視だろうか。
また一つ壁を越えた国見は、こころ の回復を見極めた後、優の居る部屋に現れる。
自分に徹底的に向けられる憎悪に初めて恐怖を覚える優。
キレた国見は容赦がない。
優の座っていた椅子を優ごと蹴飛ばし、首を絞める。
キレッキレの国見は、優と能力が互角になり、互いの能力が相殺される。
そして ただの人間同士では、身体のアドバンテージは国見にある。
国見は、こころ への優の能力発動を正しいという。
こころ を溺愛する国見を持っても、彼女の行動はフォロー出来ないということか…。
そのこともあって、国見は今回、容赦をする。
ただし、2回目はない、今度は おまえ が血まみれになるぞ、と極道みたいな警告を残すが。
ただ容赦して命は奪わないが、容赦なく優を なぐった。
もしかしたら こころ が ぬいぐるみ を破壊したことで、国見に優への情けが生まれたのかもしれない。
その意味では、彼女の悪手は、国見のキレを鈍らせ、優の命を救ったとも言えるのか。
目覚めた こころ の傍らに立ち、国見は こころ に白旗をあげる。
「もう好きにしたらいい いつだって おれは 君の思うとおりになるから」
「もう自分の能力（ちから）から逃げない」と誓う。
こころ の絶対王政が約束されました。
私利私欲もなく、純白な心一つで、作品世界を統べる存在になる。
圧倒的なヒロイン像ですね。
しかし この研究所も、幼稚園児5人を殺害した優を、
2度も野に放つような失態をしているが、これが最高のセキュリティなのだろうか。
そして軟禁状態にしているとはいえ、
人口密度の高い街中に優を置くのも変である。
万が一を考え、人へのリスクを低くするのが妥当ではないか。
どうやら国見の叔父の研究室から出るケガ人は、叔父の同期の医者がもみ消しているらしい。
これまで何人もケガ人が出ているらしいが、
これが こころ の周辺の人間（サラなど）のことなのか、別なのかは判別がつかない
国見の覚醒は、叔父の目的でもあった。
叔父は国見が どこまで高みに到達できるか、それが見たい。
そのための鍵が こころ であって、叔父が彼女や優に優しいのは、自分の目的の遂行のためである。
どうやら さらに良質の能力者となった国見には研究所から報酬が出るという。
それを国見は了承し、契約が結ばれる。
そうして収入を得る道が出来たからなのか、国見は こころ に結婚を提案する。
今回の騒動の後、国見は自分の能力に向き合い、
そして優は自分を自分の能力で傷つけることで、痛みを覚え、そして国見を恐怖することを覚えた。
こころ は優の ぬいぐるみ を縫い直し、彼に返そうとする。
超能力を持つ子供の存在は国見に、自分のトラウマを思い出させる、
母に愛されなかった記憶、崩壊する家族、
その自分の歴史が繰り返されることを彼は恐れている。
そして何より こころ を大切にする国見は、こころが子供を愛せないことを恐れる。
だが、こころは どんな子であっても愛せる、守れると涙ながらに訴える。
これまで恋愛で朝令暮改を繰り返したことは、すっかり お忘れになられているらしい。
2人は未来像を一致させた。そして結婚へ…。
両親の存在は都合よく排除されているので、2人に反対する者は誰もいない。
きっとこのために、親たちは遠方や黄泉の国に送られたのだ。
何て残酷で、何て自分勝手な若者たちだろうか（作者を含め）。
結婚は、相手の全てを受け入れること。
初めてではないが、3年ぶりだと思われる性交渉が示唆される。
収入の確保、明るい家族計画、
今回の結婚は衝動的な面だけじゃなく、割と現実的な問題をクリアしているのが おかしい。
国見も優と交流をし始める。
こころ を傷つけた恨みもあるし、
子供に慣れない部分もあるから、ぶっきらぼうだが、彼なりに言葉を交わす。
だが全てが好転し始めたと思われた時、
優の母親が移植手術の甲斐なくでなくなってしまう。
ほんと 作者は身内を何人死なせば気が済むのか。
なんだか作品のために無邪気に殺しているように見えてしまう。
目的はヒロインが聖女から聖母になるためである。
そのために あらゆる母を死なせ、作品世界から遠ざける。
母は この世界に一人しか必要ない。
