《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

作品はZ世代が乗っ取りますので、Y世代の人は作品外へ退避するか、死んでください☆

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末次 由紀(すえつぐ ゆき)
Only Youー翔べない翼ー( ーとべないつばさー)
第07巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

もう誰も傷つけず、もう誰も失わずに、守りたい“未来”があるんだ──。「こころと生きていく。」そんな真の願いを打ち砕くように、健二の強力な暗示に操られた優の超能力がこころを狙う!健二は何を待っているのか?そして、真は……!?悲しみに凍える間に祈る、宿命のトゥルー・ロマンス、第7章!

簡潔完結感想文

  • 家族を守るパパ(20歳)の奮闘。親子で7人の命を奪ってますが何か問題でも?
  • 自死できない自分を殺してくれる存在を育成するために生きる、という目標。
  • ヒロインへの過保護が酷い。彼女の清らかさ維持のために全労力が注がれる。

み返すと結構 面白く感じるので総合評価を+1した 7巻。

初読時は、若い2人が好き勝手にやっている印象ばかりが残って、
あまり好きな作品ではなかったが、
読み返してみると、かなり巧みに物語は作られていた。

再読時でも、漫画表現や文章でもっと上手に伝えられる部分があるのでは、と
分かりづらい部分があるのは確かだが、
それ以上に構成がしっかりしていることも読んで取れた。

中でもヒーロー・国見(くにみ)と、彼の叔父の関係は特筆に値する。
まさか自死できない国見一族の体質が このように話に影響してくるとは思わなかった。
また叔父が国見の能力を高めたがっていた理由にも説明がつくところが凄い。

後半は連載が延長されるので急遽こしらえた物語だと侮(あなど)っていたが、
最初から ちゃんと考えて人を配置していることを ようやく理解した。

ただし、上述の内容と重なるが、この面白さや残酷な比較などを、
もっともっと上手く漫画に落とし込めることが出来れば良かったのにと思う。
同じ内容でも誰か別の上手い作家さんが描いたら、より読者に衝撃や感動を与えることが出来たのでは、と思ってしまうのだ。

面白さが十分に伝わらないことが残念だと思うぐらい内容は かなり良い。


見の叔父は、自分が手懐ける子ども・優(ゆう)にマインドコントロールをかけた。
「こころ の子どもを殺せ」。

ヒロイン・こころ ではなく、その子どもを狙いに定めるのには訳がある。
それは分かるが、嫌な展開だと眉をしかめざるを得ない。

国見の叔父の暗示が上手くいくのは、0から1を起こさせるのではなく、
優の中に少なからずある自分の存在を脅かす者への攻撃性を増幅したのだろう。


この頃の こころ は、国見の叔父がかつて言った「国見が叔父を殺す」という予言にとらわれていた。
そのことが食後のスキンシップで国見に伝わる。

国見にとっては初耳の情報。
これは超能力者が触れても その個人の持つ全部の情報は伝わらないことを意味するのだろうか。
まぁ 一個人の持つ情報が一気に流れ込んできたら、情報処理が追いつかなくて脳が壊れてしまう。
その人が その時 一番 心に占める思考が伝わる仕組みなんだろうか。

だが国見は叔父を殺す理由はないと断言する。
彼は彼なりに叔父を信じているから。
これまでも叔父は相談に乗ってくれたし、国見を応援してくれたから。

だが、それは叔父が国見の情報、端的に言えば弱みを理解しているということでもある。


品自体は冷徹に叔父の死の準備を整えていく。

叔父の娘、国見のイトコにあたるサラは海外留学を視野に入れているらしい。
そんな娘の選択を父親として応援する。
これはサラが父と暮らさなくても、自分の道を歩いていくことを示しているのだろう。

そして国見の生活も、叔父がいなくても
能力者だから「一生 研究団体にサポートしてもらえ」ることが語られる。
また これは国見が一般的な職業に就かなくても収入を得る機会があるということだ。
でも超能力が無くなった途端、必要とされなくなり、貯金で生きていくということでもある。
新米パパ・国見は、ずっと一家4人を支えられるのだろうか…。

超能力の研究自体も自分が主導するのではなくチームとしての活動するように手配している。

このどれもが、彼が視た未来視を彼が信じているから出来る行動だろう。

そして、安全な「緑」のオーラの超能力の持ち主である国見は過去、
そのオーラを危険な「赤」に変え、人を殺している…(『1巻』ラスト)。
彼の頭を怒りでいっぱいに出来れば、彼は倫理の壁を越えるだろう…。

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叔父が優を怖がらないのは手駒にするため。恐怖心がないから、優も接近を許すという循環。

にゆく環境を整えた叔父は、タバコを暗示の合図とし、
優に こころ の お腹の子 殺害の実行を促す。

その直前、暗示の外にいた優が、こころ を慰めたこと、
慰めようと思おう心を持てたこととのコントラストが残酷だ。

だが優が実行した際、国見は優のオーラの色が赤くなっていることに気づき、
優の超能力によって階段から落ちた こころ をテレポートで受け止めて 事なきを得る。

そのことで体調を崩す国見。
どうやらテレポートは距離にかかわらず、身体を疲弊させるらしい。
今回なんて その移動距離は5メートルぐらいだろう。

こころ を守るために常に超能力を使用している状態が続き、
その上 イレギュラーな力の放出があると、限界がくるみたい。

今回は優の危険な兆候を見て、能力を発動させたが、
こころ は無茶をしないでと泣き叫ぶ。
「階段から落ちるくらい たいしたことじゃないよ 死んじゃったりしないよ」
自分を大事にしないで無理をしても うれしくない、という。

守る側も守られる側も神経をすり減らす生活は長続きしないのではないか。


の会話の中で、国見は優の こころ への力の発動の真の目的に思い当たる。
それが国見の心を暗くする。

一方で、こころ は自分の子が優に良い影響を与えることだけを考えて明るく生きている。
「自分を怖がらない 自分より弱い生き物に生まれて初めて会う」、
それが優に変革をもたらすのではないか、と。

ただ、優は何の害意も見せなかった鳥を撃ち殺してるんだけどなぁ…。
それに彼が幼稚園児5人を殺したという事実を加味していない。
この漫画の善なる者の代表としてプラス思考なのは良いが、楽観的すぎてバカに見える。

作中で久しぶりに こころ の父親が話題に上る。
妊娠がきっかけになったか、近々 あいさつに行く予定らしい。
子供を引き取り、新しい命を育む、推定21歳の娘が そんな人生を歩むことを どう思うのか。
もう父親は作品から排除され、中に入れないので、反対する手段も封じられているけど。


の襲撃は一度では終わらなかった。
1人で優を迎えに行った こころ に、優が能力を発動させてしまう。

1回目は分かりやすく国見の叔父の暗示行動があったけど、2回目は それがない。
まるで優自身の行動に見えてしまって、気持ちが暗くなる。

注意を受けてもヒールで走るのを止めて欲しいと思っていたが、
これは新しいの命を預かることに自覚が足りない表現で、
そして こころ が優に疑いの目を向けない理由になる。
出血したのも優の能力でなく、自分が思い切り走ったことが原因だと思っている。

これは こころ と優の関係を美しいものに保つために必要なのだろうか。
作品の聖母である こころ に人を疑うことなど させたくないのだろう。


そうして全ては水面下で行われ、男たちの世界となる。
国見の心労が増えていくばかりである。

国見は寝ている優の首を絞める。
ここで国見が躊躇したのは彼の甘さだろうか。
でも私には、国見が こころ に背けなかっただけのようにも読める。
優を殺害することは決して こころ のためにならない。
それは彼女の望む世界ではないから出来なかっただけではないか。
こころ だけが清らかで、彼女だけが正しい世界が出来上がっていて、少し気持ち悪い

国見に、なぜ子どもを攻撃するかと問われ、優は国見の叔父に命令されたことを告げた。


命の日は、叔父の妻の命日だった。

叔父の妻は、夫の未来視によって、出産と引き換えに自分が死ぬことを恐れなかった。
わかっていたのに 止められなかった、それが叔父の悔恨となる。

国見の叔父と甥は、1人の女性のためにだけ生きることを誓ったという共通点があった。

それなのに国見は こころ も、そして子供も手に入れようとしている。
優という不確定の要素も国見の能力があれば問題を生じさせないことが出来る。

自分が得られなかった未来を得られることへの強烈な嫉妬、憎しみ。
これが犯行の動機だろう。
そして かつての自分が切願した能力を、国見が否定し続けていたことが憎しみを増幅させた。

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自分の中の自分が見せる未来に従うしかなかった叔父の絶望が、国見を巻き込んだ計画を立てさせる。

だから国見を苦しめ、そして 彼の怒りを利用して自分の目的を果たそうとする。

妻の死後、ずっと体質的に自死できないことが叔父を苦悩から解放してくれなかった。
だから死ねる手段を講じた。
これは緩慢な自殺とも言える。

叔父は国見を怒らせて殺意を向けさせ、自分の防御能力を超えた力でねじ伏せられることを願っている。

きっと叔父が、国見が最強の能力者になることを願っていたのは、
元能力者の自分を圧倒する力を持たないと殺してくれない、と思ってのことか。

そして優を利用したのは、叔父が優に共鳴していたからだろう。
こころ と国見の子は血縁も愛情も、優が欲しいものを最初から何もかも持って生まれる。
それは叔父が国見に感じていた羨望や嫉妬と近いもの。
その負の共感があるから、叔父は優を選んだのだし、優も彼に従ったと言える。


叔父は国見に、こころ か優、どちらかを選べ、と言っていたが、
本当に国見が選ぶべきは、こころ か叔父か なのだろう。

だから、自分が死ねば優への暗示が解ける、と叔父は国見に明かした。
大切な人を守るためなら国見は きっと何でもやってくれる、と信じて。

この時の国見の能力の発動は本人の意思とは関係ないように見えるが、どうなんだろう。
超能力で感知する こころ の危機が、無意識的に この状況を打開させたのか。

といっても、今回の こころ の苦しみは、優が原因ではない。
自然な妊婦のリスクである。

国見が叔父を殺すことで状況が好転することは、ない。
その皮肉な現実に震える。


ころ は その日、国見に黙って優と2人で遊園地に行っていた。
テレビで紹介された映像を見て思いついたことだが、
そこで ふれあえる という猫の映像が流れていた時から嫌な予感がしていた。

なぜなら猫は優が意味もなく殺しまわった動物だから…。

こころ も その事実を知りながら、よくも連れていける。
嫌なことばかりを考えていたら優の幸せを奪ってしまうのは分かるが、
彼女の清らかさを守るために、彼女が能天気に映る。

こころ と出会ってから、優が人を殺さないのは ご都合主義だろう。
これもまた こころ の清らかさを守るためでしかない。
優が人を殺したのは出会う前で、聖母との出会いの後に大きな罪は犯さないように仕組まれている。

こころ が遊園地で、ある子供に母に間違えられ、
その子と こころが交流しているだけで、優は猫を握る手に力が入るほど黒い気持ちに包まれた。

ただし、猫を殺した事実はないみたい。
思わせぶりな描写だったが、次の2人の場面では何事もなく過ごしている。
これも こころ の目前で嫌なものを見せないという忖度か
『5巻』では優は こころの前で動物を殺しているが)

この行動にも国見の叔父の暗示はあるかもしれないが、これは優自身の心が起こすことでもある。
ますます養子(優)と実子の難しい関係に明るい未来が見えなくなる。

最終回まで あと3回だというのに、まだ この段階である。
優を作品に、そして家族に組み込んだことで、物語が まとまらない印象を受ける。

新しくパパになる国見も人を2人も殺している。
その大きすぎるマイナスが、読者から明るい気持ちを奪うばかり。

さて、未来視の叔父が死亡し、『8巻』からは誰も見たことのない未来へと突入する。
この曇天を吹き飛ばすようなエンディングがあるのか、それを確かめたいと思う。