末次 由紀(すえつぐ ゆき)
Only Youー翔べない翼ー( ーとべないつばさー)
第02巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
「ずっと、そばにいる……。」つなぎ合った心の縁(ふち)から、哀しみがこぼれた──。こころを襲い傷つけた男を、怒りに暴走した「力」で殺してしまった真(シン)。消えることのない罪の烙印に、そして運命のうねりに、追いつめられていく2人の想いは……。愛しさが胸を打つトゥルー・ロマンス、第2章!
簡潔完結感想文
- 悪い噂の絶えない男子生徒と つるむようになってから、あの娘は変わった。
- 心も身体も触れ合うと君に辛い思いをさせるから。少女漫画の男性は身勝手。
- 絶対正義のヒロインに暴力を振るった母に不幸が。1級ホラー作品の始まり。
好きな女性のためを思って男性は独断で行動する 2巻。
波乱の『2巻』です。
起承転結で言えば、承と転が描かれている。
大きく展開を見せる物語から目を離せないし、
物語をどう結ぶのかのヒントがたくさん蒔かれている。
繰り返しになるが当初の予定通りに全3巻の物語で終わっていれば、
非常にスッキリした話になったと予想される。
だが連載が好評を博したため、全8巻まで話は続いた。
3巻で終わっていては、基本 5巻以上の少女漫画しか読まない私が手に取った可能性は低い。
しかし8巻まで続いたことで、ゴールを先延ばしにし何が描きたいのか曖昧になった。
本書が間違いなく面白かったのは この『2巻』までだろう。
これ以降は、作者自身も この漫画の持つエネルギーをコントロールできなくなっていく。
物語は「トゥルー・ロマンス」から、次々に人が不幸になっていくホラーへと変貌していく。
本書は超能力モノである。
能力の持ち主はヒロイン・こころ ではなく、ヒーローの国見(くにみ)。
こころ は超能力によって苦悩する国見を支えられる唯一の女性として描かれる。
それが彼らの恋の運命性を演出する。
この立場が やや特殊のように思われる。
少女漫画においては、ヒロインが能力を持っていることの方が多いからだ。
しかし支えるヒロインには海より広い心が必要となる。
なぜなら『2巻』でヒーローは、人を殺したと告白したからだ。
その事件のキッカケは、こころ が暴行未遂に遭ったことから始まる。
その犯人を憎む国見は自分の能力で犯人を捜し、そして警察に突き出そうとしていた。
だが国見が 暴行未遂犯に怒りに任せて超能力を暴発させてしまった。
自分のしたことに向き合わないで放置し逃避し、彼女のもとにやって来るヒーロー。
だが、その日以降 こころ は国見に会っていない。
夏休み であったこともあり、こころ は九州で静養していたからだ。
学校に登校してこない国見を心配した料理部の顧問が、
国見が夏休み中に何度か警察に呼ばれたことを教え、
こころ に一人暮らしのマンションに訪ねるように促す。
この顧問、何でも生徒任せにする性格なのかしら。
こころ が暴行されかけた日も、この顧問が国見に用事を頼み、
そのせいで国見が こころ を家まで送れなかったから起こった事件と言える。
この暴行がなければ国見も犯人と関わることもなかったのに。
彼らは この顧問によって運命を狂わされたといってもいい。
国見は だだっ広いマンションに一人で暮らしている。
この部屋は3LDKらしいが間取りが全くイメージできない。
ついでに外観より内部空間が広いような気がしてならない。
なんと この家は賃貸ではなく分譲。
しかも国見自身の名義で彼の所有物だという。
国見の父は既に亡くなっており(妹に続いて2人目の死者)、母は再婚して遠方にいる。
国見の母は夫の「遺産分けがすんで すぐ不動産成金と結婚するといいだ」したらしい。
国見は、「ひとりで暮らせる部屋をくれたら 再婚を認める」といってこの自宅を獲得したという。
話からする母はろくでもない人物みたいだが(最後まで一度も出てこない)、
国見も 母の急所を突いて、新しい義父から欲しい物をせびっている。
親子そろって打算的という印象が拭えない。
それきり母親とは縁が切れた。
能力が発現した頃、国見は周囲の気持ちが頭の中に聞こえてきた。
それで母が自分を邪魔に思っていることを知った。
母は息子と2人きりで暮らすことを回避するために再婚を急いだのかもしれない。
国見にとって このマンションは傷ついた自分の慰謝料だったのだろうか。
どうやら父方は資産家で、国見が獲得した遺産は1億とちょっとあるから、国見の生活は保障されている。
住居と現金があるから国見は天涯孤独なれど、社会から隔絶しても生きていけることになる。
この設定は後々にも重要な点である。
国見の超能力を開花させたのは妹の死で、
国見の悠々自適な生活をさせるためには父を死なせ、母を悪役にさせた。
こうやって容赦なく身内を消し去って主役カップルを特別にしていくのが本書の手段だ。
この世界には作者が選んだ人間しかいらないと言わんばかりである。
そういう了見の狭さが私は苦手である。
1人暮らしなのに、6人は座れる大きなテーブルを部屋に置いている国見。
こころ は「いつか あのテーブルが 毎日いっぱいになる日がくるよ」と国見を元気づける。
国見は気休めだと一蹴するが、本書は結果的に その目標に向かって進むことになる。
そのために2人は大変 数奇な運命に巻き込まれなくてはならないのだが…。
夏休みが明けても国見は熱を出して、部屋の中で苦しそうに眠っていた。
苦しそうにしながらも、触るな、と身体で こころを拒絶する国見の態度で こころ は泣いて看病を申し出る。
早くもこの時点で作品内の設定では、こころ にとっては国見が絶対的存在になっている。
あっという間に恋愛脳で泣き虫になる こころ の変化、話のもっていき方が強引で ついていけない。
国見を看病するために こころ は一度 家に帰ってから、国見の家に行こうとする。
その際、母親に行き先を告げ、国見が一人暮らししているのも馬鹿正直に伝えてしまう。
国見の家に行くことを制止しようとする母。
母は娘が一人暮らしの男性宅に行くことよりも、
娘が巻き込まれた事件に関わる国見を危険視していた。
なぜなら その犯人は死亡していたから。
ここで作品内で初めて人死にが出る。
そして ここから呪われたように死が連鎖していきます。
やはり本書はホラー漫画ではないか。
おれが殺したんだ、国見は告白する。
国見は自分が力の暴走が原因で あの男を殺したことを知っている。
けれど目撃者がおり、男に触れもしなかったという証言が、彼の無実を証明してしまった。
殺人を犯した、けれど、だれも罰してくれない。
いっそ逮捕されれば罪を償う機会が与えられたが、
ただ殺したという感覚だけが残ってしまう。
これが彼の不幸だろう。
その苦悩が、身体に影響を及ぼし、熱を出させたのではないか。
他人の思考が流れ込んでくる今の状態のままでは、
人との接触を断って、ひとりで生きてくしかないという絶望に打ちひしがれる国見。
そんな国見をそっと包むこむのは こころ。
こころ は言葉を使わず思念で国見に伝える。じぶんのせいだと。
しかし国見もまた君のためなら とんな悪にでもなる、と確かに思った。
(中島 みゆきさんの歌詞を拝借したのかしら)
こころ は罰も苦しみも一緒に受けようと申し出る。
そして一緒に生きよう、と。
いきなり殺人の罰を分かち合う関係になってしまった。
重い。
2人の関係は究極的な所に至り、そして抽象的な言葉だけで繋がれる。
彼らは自分たちが受ける罰が何か具体的に示さない。
綺麗な言葉ばかりを並べて、自分たちをドラマチックに演出するばかりである。
その日、こころ は国見の家から帰るのが遅くなってしまい、帰宅早々、母に叱責を受ける。
いきなり頬をぶったのが、母の罪だろうか。
作品内の神というべきヒロインを打擲することなど許されるはずもなく…。
頬を母の手が打ったことで、こころ は母の内心を読み取ってしまう。
これは国見の能力のはずだが…、という新展開は確かに面白い。
にしても、こころ って、視力を失っていた期間が長くて、それだけ家族との関係も濃密なはずなのに、
もう すっかり普通の高校生で、母の心配を全く分かろうとしないのが気になる。
しかも恋愛脳っぽくて、彼氏を妄信してるのが残念の極み。
『1巻』で こころ の失明に関する展開は終わったから、
もう作者の中でなかったことになっているような気がしてならない。
こういうところも作品世界が薄っぺらいところだ。
どうやら国見の能力が伝播しているらしい。
しかも超能力研究者の国見の叔父の仮説によると、心身の距離が近いほど能力は大きく伝播する。
国見が こころ に触れて楽になるのは、自分の能力を こころ に渡していたから。
まだ1年生の2学期だが、こころ は個人面談で進路を決める。
彼女の希望は保母さん。
お子さまにはモテるらしい。
これまでに そんな描写はなく、失明期間もあるので、
彼女が どこで子供と触れあってどこで自信をつけたのか不明である。
子供が好きという こころに対して、国見はほかの道を提案する。
お母さんとか。
これは当初は3巻ぐらいで終わらす予定だった作者が、この時点でゴールと定めたことなのかな。
全3巻の物語なら、国見との子供をすぐに宿すつもりだったのではないか。
『2巻』のラストの展開は同じで、次の巻で話をまとめることも出来るだろう。
だが国見は 父親にはならないと決めているようだ。
子どもに能力が発現することを恐れている。
それに対して こころ は、あきらめないで、どんなに苦しくても絶対2人で幸せになるの、と泣いて訴える。
いつか 私が国見くんの子供を産むから、とも。
互いに互いを全肯定して、そして世界を否定していくのか。
全体的に思想が極端なんですよね。
社会の中で生きようとしないのが気になる。
それにしても どうして本書の人間は嫌なことばかりを考えているのだろうか。
負の感情の方が読み取りやすいのだろうか。
中にはユニークな考えをしてる人だっているだろうに。
こころ に一部が移った能力を消すには、物理的に離れることが解決法らしい。
だから国見は もう会わない、と告げる。
別離を拒絶する こころ に、国見は対処法を伝授する。
壁を作って心を閉じれば自分を守れる。
実際に国見に触れても 気持ちがきこえないのは、彼が壁を作っているから。
んー? 人に触れると どうしても心が流れてきてしまうと言ってたのは国見じゃなかったっけ?
だから、人から触れられるのをあれほど嫌がっていたのに。
それとも能力者同士で壁があれば聞こえないって話なの?
超能力に関して設定が大雑把で、あまり魅かれる題材に感じられない。
こころは学校を3日休んで、他者との壁を作ろうとするが上手くいかない。
これは こころ が実際に国見の苦悩や、彼の歩いてきた茨の道を知る機会となる。
覚悟をもって学校に行ったが、教室内は心の声で満たされてしまう。
教室から逃げ出す こころ に、国見が退学届を出したという情報が舞い込む。
(授業中なはずなのに伝えに来た生徒は、どうやって情報を知ったのか謎である)
国見を探す こころ は屋上で彼を見つける。
(その日の天気は雨のち晴れで、屋上は まだ濡れている気がするが、横たわる国見。謎。)
そうして2人はデートに出掛ける。
傍から見れば、悪い噂の絶えない男子生徒と関わってからというもの、
女子生徒の帰宅は遅くなるし、危険に巻き込まれるし、
挙句 その男子と学校を抜け出す、という悪い道に引きずられている典型である。
しかし これは最後のデートだった。
なぜなら一瞬でも こころが「国見くんと離れたら楽になるのかな」と思ってしまったから。
2人の間に隠し事はできない。
「じゃあ またな」と口にする国見だったが、その心は「さよなら」を告げていた。
気持ちが漏れるのは国見に壁を作れるほどの心の余裕がなかったからなのかな。
その本心を知ってしまった こころは
「わたし全部捨てるから 連れてって」
彼らは普通の恋愛は出来ないとはいえ、こういう言葉を使っちゃうところが 好きになれない。
刹那的に生きるばかりで、自分の周囲を大切にしていない。
その夜、2人は身体を重ねる。
私なら性行為中の心なんて読まれたくないですが、
そこに何の問題はないみたいだ。
そして国見は この時点で次の日の計画を立てているのが自然だと思うが、
そういうことは、この時 一番深く触れているはずの こころ には伝わらない。
ここは国見の心の防御が崩れた日の、最も素顔を晒す場面なのに、
彼はしっかり壁を作っていたとでもいうのか?
朝チュンで目を覚ますと、部屋に国見の姿はどこにもなかった。
彼の行動は相手のためでもあるが、身勝手ですよね。
結局、相手と苦悩を分かち合うことなど諦めているのだ。
なら どうして身体を重ねたのか。
まさか欲望を優先したわけでもあるまい。
こころ は ある程度は別れを覚悟していたのだろうか。
していないのなら、また視力を失いかねないほどの精神的ショックだと思うのだけど。
そういうことには なっていない。
また外泊に対する親からの叱責は描かれません。
もし3巻で物語が終わっていたら、
この日に、こころは新しい命を宿すことになるのかな。
そうなったら両親は悲嘆にくれるだろう。
彼氏が出来た途端、非行に走って、妊娠。
しかも男の方は、行方をくらますんだから。
客観的に考えると国見は、割と酷い男だと思います。
それから2年後。3年生になった こころ。
1年生で早くも進路を決めた話が出たのは、空白の2年を予定していたからだろう。
2年間で大人びた こころ。
なんだか『ちはやふる』の千早ちゃんを想起させる顔をしている。
作者の画力が上がったのかな。
国見が出て行ってから、こころ はショックでそれ以降の2学期は学校に行けなかったらしい。
だが それ以降は学校に登校し、学力も信じられないほど向上している様子。
もしかして これは国見と同様の、神経のコントロールによるものなのかな。
そう、2年経って、物理的に離れても、
国見から移った能力は いまも身体に残っている。
「わたしが そう望んだから」、らしい。
うーーーん、国見の行動を全て無に帰す結末。
後天的な能力も意思次第で保持できるのか?
超能力がますます分からなくなる。
悲しみの中にいるけれど平穏だった2年間は突然 終わりを迎える。
しかし両親が旅行先で事故に遭ったという…。
こころ が失明した3歳の頃のバス事故でも母は同乗していただろうし、大きな交通事故も2回目。
こころ が両親の事故にも動揺や涙を見せないのは、
強くならないと国見が戻ってこないという信念からだった。
親戚縁者(母の妹)が病院に来るまで こころは院内で座っていた。
なんと 3日目にしてようやく顔を出す叔母。
九州から伊豆は遠いとは思うが、
明治時代に汽車を乗り継いでくるんじゃないんだから、3日かかるのは どうかと思う。
嫌がらせか?
もしくは 国見が暴行未遂犯を見つけるために要した時間と同じにしたのか?
母の意識が戻らない危険性があることを知り、動揺した こころは、国見の名を呼ぶ。
両親の事故には涙一つ見せないのに、彼のことになると、涙腺は壊れてしまうらしい。
そういう人です。恋愛脳。
母の意識は戻った。
その前に病院に現れたのは国見らしき男性。
意識のない中で、それを察知した母は、娘にそのことを話す。
そして2年前に反対したことを後悔し、娘に自由に生きて好きなことを好きなだけして幸せになることを望む。
これではまるで…。
母の回復を見届けた こころ は久しぶりに、国見のマンションを訪れる。
だが鍵を使わずとも扉は開いていた。
中にいたのは、国見ではない男性。
これから この男性がここに住む予定だという。
国見の帰る場所を奪われると思い、動揺し涙を流す こころ の前に国見が…。
ちなみに「作者のひとこと」の欄で年賀状用のイラストが載っているのですが、それが1998年の寅年のもの。
現在が2022年の寅年なので、干支は2周、24年も経過している。
古い作品だとは思っていたが、同じ干支を突きつけられて、発表からの年月の長さに驚いた。
ヒロイン像が古かったり、物語の展開が大味なのも時代によるものも大きいか。