杉山 美和子(すぎやま みわこ)
花にけだもの ~ヰタ セクスアリス~(はなにけだもの)
第11巻評価:★☆(3点)
総合評価:★★(4点)
けだもの男子達が今「オトコ」に開花する。
280万部を突破し、映像化も大人気を博した「花にけだもの」がちょっと大人になって、帰ってきた!
豹、竜生、千隼がそれぞれの「愛」「初体験」について赤裸々に語る。
「この人がいい この人以外もう何もいらないって 細胞レベルで思った」(BY 竜生)
「全部 俺のせいでいい 地獄に落ちるのは俺一人でいいから どうか俺に流されて」(BY 千隼)
「俺が抱きたいと思う女はただのひとりもいなかった 君以外をのぞいては」(BY 豹)
それぞれの「秘密の性的衝撃」をご覧あれ!
簡潔完結感想文
- 簡潔に言えば下品。高校生たちの精一杯の恋愛が、大人の欲望で汚された。
- 周囲がどんなに彼らの価値を高めても、自分で性事情を話す時点で安っぽい。
- 相変わらず女王は久実。政界(推測)・芸能界の若手ホープを手玉に取る。
本編完結の『10巻』発売から5年余りを経て出た 11巻。
『花にけだもの』の男性メインキャラの3人の性事情を描いた作者の趣味丸出しの巻。
彼らの初体験事情など 流石に少女誌では描けない「性」を、媒体を移して描き上げたらしい。
性にまつわる話を描きたい作者と、読みたい読者の需給が一致しているから出版されるのだろうが、
個人的意見としては総じて下品な作品である。
リアルタイム読者が5年間で成長したからといって、
こういう欲望にまみれた作品を読みたいわけではなかろう。
各話の導入部で、彼らは初体験などの自らの性事情をインタビュー形式で答えているが、
一体、彼らは誰に向かって話しているのだろうか。
設定からして謎である。
私にはセクシー男優(綺麗な言い方)の自己紹介映像にしか見えない(想像)。
行為中の描写は もはや成人向け漫画。
少女漫画を愛する読者が こういう内容を読みたいか甚だ疑問。
美しい性愛を描いて残すよりも、描かない方が美しかったのではないかと思う。
やっぱりシャワーや汗、涙に濡れる様子を描きたかっただけではないかと邪推してしまう。
作者の好みなのか本書の半分は、当て馬キャラの千隼(ちはや)が占める。
正ヒーローである豹(ひょう)は全体の1/4で、竜生(たつき)と同じ扱いである。
本書で千隼は、暴れたら女性を力づくで乱暴に抱いてやる、というイカレたキャラに堕ちました。
作者や出版社的には未遂だからOKなのでしょうか。
この内容で、千隼 切なすぎ~、と言う人の気が知れません。
この内容を描いた作者の気も知れません。
連載終了から5年以上経過しているが、作者は作品の雰囲気を しっかりと保てている。
良くも悪くも、変わらない選民思想を感じるし、自分のキャラが大好きだということが伝わってきた。
そして相変わらず男性キャラの価値の高め方が安直。
そのために出てくる女性たち(モブ)の頭の悪さも相変わらず。
無闇に男性たちの価値を高めているだけでなく、
間接的に描きたいのは、選ばれし男たちに選ばれるヒロインの久実(くみ)だろう。
久実を愛する者にとって他の女性は遊びや代替として性行為をするだけの存在で、
久実こそが たった一人の至高の存在なのである。
5年のブランクがあり、作者の作画も変化したのは当然だが、絵が大雑把になったと思う箇所もあった。
特に目が変わっていて、丁寧なバランスで配置されていた目が、
大きくなって顔から繊細さを奪い、更に線が直線的になっていたのが残念。
繊細な画力まで無くなったら、作者に何が残るというのだ。
「Case1:竜生」…
高校卒業から1か月。遠距離恋愛となった竜生とカンナの初体験物語。
竜生の顔が一番、本編と違う気がする。
高校では訳あり生徒の雰囲気を出していたカンナだが、
大学では女神として崇められている。
はぁ、カンナまで崇拝の対象になってしまったか…。
お話の展開上、竜生をヒーローにしなきゃいけないのだろうが、
カンナに近づく男を豹変させるという安直な展開に幻滅。
また竜生は初めてだが、カンナは違う、という都合の悪いことは割愛する。
「Case2:千隼」…
高校卒業後も まだ久実のことを想い続ける千隼。
実の姉たちが弟の性器を触ろうとしている時点で気持ち悪い。
少年・青年漫画で逆の描写をやれば声高に性暴力と訴えるくせに。
久実を想いながらも他の女性を抱く千隼と、
久実を忘れて他の女性と交際する千隼、
千隼ファンのためにも(作者自身のためにも)後者は選べなかったか。
それに久実を作品における絶対女王にするためには、
千隼が久実への想いを断ち切るなど許されないことなのだろう。
久し振りの久実は童顔が悪化しているように見える。
それでいて下着は値が張りそうな凝ったものをチラ見せしてくる。
「Case3:千隼REFRAIN」…
久実が熱を出したため、1人暮らしの彼女の部屋に上がる千隼。
千載一遇のチャンスに彼の「けだもの」が目を覚ます…。
千隼の頭を冷やさせたのは久実の異常。
彼女は千隼の暴力に手を丸めて耐えていた。
その手から血が流れ出ているのと、彼女の大量の汗に気づき千隼は我に返る。
にしても 久実、汗かき過ぎ。
というか汗のレベルじゃない。
何が何でもキャラをビショビショにしたいみたいですね、作者は。
翌朝、高熱で昨夜の記憶がないという久実に、千隼は何もなかったと嘘をつく。
だが久実は、自分の傷だらけの手に「秘密」を隠す。
初めて久実が大人に見えた瞬間です。
他人の過ちさえも許す久実は、今まさに女神となった。
「Case4:豹」…
これまで男娼のように身体を差し出してきた豹。
女性を虜にする彼が選んだ永遠の一人とは…。
豹を史上最強の男性にするための演出が酷い。
女優もアイドルも周囲の客も品がない。
この作品に熱中する読者は、自分も同じく下品な側にいることが嫌にならないのだろうか。
本編でずっと謎だった久実の家族の話が呆気なく語られる。
どうやら父は海外勤務らしい。
だから母を亡くした後の久実はオバさんの家で居候していたみたいだ。
こんな大事な裏設定を番外編の1ページで語らせるとは…。
実は この日の豹は久実との結婚前夜。
高校卒業から どれくらいの年月が経っているのだろうか。
久実は少し大人っぽくなったが、豹から変化は窺えない。
私は こんな性事情じゃなくて、
結婚式に集まった面々の幸せそうな顔とか、
彼らの現在とか そういう普通のことが知りたかったなぁ…。